当て馬ポジションに転生してしまった件について

かんな

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二章 〜アメリカ編〜

二十八話 『延長』

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結局、あの後二人がどうなったのかは知らない。
ただ、一つ言えるのは、シャーロットがアベル様の態度を露骨に変えたことぐらいだ。どれぐらい変えたかと言うとーー


「おはようございます。アベル様」


「ああ、おはよう。シャーロット」


普通に挨拶を交わすようになっていた。シャーロットとアベル様と出会って1週間ぐらいしか接していないが、それでも二人の仲が深まったように感じる。……昨日のあれで何があったのだろう。


「……ったく、やっと素直になった」


「あ……玲奈様……」


そこに現れたのは玲奈様。彼女は二人を見て疲れたように笑った。


「シャーロットって本当はアベル様のこと好きだったのよ」


「え!?そうなんですか?」


初耳だ。え?あんなに嫌がってたのに!?あれ全部演技!?嘘でしょ!?


「……私がそれを聞いたのもこの前、なんだけどね」


「ああ……例の……」


……シャーロットが自分のことを卑怯者だと言ってたことが分かった。これは確かに……卑怯者だ。


「…本当卑怯者よね。シャーロットって!」


玲奈様はそう呟いているけど怒ってはいないようだ。むしろ……嬉しそうだ。
その時、私の頭にとある疑問が浮かぶ。
何故、二人はこんなにも仲良くなったのだろうか。何故シャーロットはーー


「……シャーロットって何故アベル様を避けてたのでしょう?身分の差とか……?」


「それも理由の一つではあると思うわ。でも一番は……」


「一番は?」


玲奈様は一瞬言いづらそうにしていたが、やがて意を決したようにこう言った。


「……自分の気持ちに気づいたことと、それに対してアベルさんファンに色々言われたこと、らしいわ」


「な、なるほど。それにしてもシャーロットって演技上手いですね」


だってあの場面も本当は……ときめいていたわけでしょう?何かもう凄すぎて何も言えない。


「そうね。それを知ったとき、バカバカしくなったわ」


「そういえば何処で知ったんですか?」


「アベルさんファンからよ……」


玲奈様はげんなりしながらそう言った。きっと苦労してたんだろうな…


「本当大変だったわよ。アベルさんのファンを宥めるの。……もうあんな思いは懲り懲りね」


「お疲れさまです……」


私はそう言って労う。そしてふと思った。


「そういえば私後三日すれば日本に帰るんですよねぇ……二週間なんてあっという間ですよね……」 


「……そうね。寂しいけどしょうがないかぁ」


そう言って、玲奈様が惜しむようにそう言った直後、


「残念だけど、まだ帰れないの」


「……え?」


聞き覚えのある声が聞こえてきた。 


「久しぶり、玲奈に透華さん」


「か、華鈴様?!」


「ね、姉さん!?」


そこにはなんと、華鈴様がいたのだ。私は思わず駆け寄る。


「どうしてここにいるんですか?!」


「……ちょっとトラブルがあってね」


そう言う華鈴様には、いつもの余裕がなかった。顔には疲労の色が見える。一体何があったのだろうか……?


「トラブルって……この前電話で話していたこと?」


玲奈様も心配しているのか、不安げに聞いてくる。すると、華鈴様は疲れたようにこう言った。


「ええ、そう。伊集院くんの件。」


「へ?伊集院様?」


何故ここに王子の名前が……?訳がわからず混乱する私達を他所に、華鈴様は淡々と説明を始めた。


何でも、先日、お兄様と野球対決をして、負けたのが悔しかったのか、また勝負しろ!と言ってきたらしい。そしてそれをノリノリに受けるお兄様……しかし、それがまずかった。


「二回目も、三回目も負けて……その度に『もう一回!』って言われ続けたのよね。先生」


「まだ先生とか言ってるの?早く素直になりなよー?将来義妹になるかもしれない子が目の前にいるのにさぁ」


「……私は別に華鈴様の義妹になっても全然構いませんが」


「ち、ちょっと待って!何故そんな話になるの?」


顔を顔を赤くして、慌てる華鈴様…可愛いなぁ……


「いいじゃん!外堀を埋めるのは大事だよ?」


玲奈様が楽しげに笑っている。本当に仲が良い姉妹だ。


「と、とゆうか……透華さんは何で知ってるの……?私そんなに分かりやすいかしら?」


「いえ、玲奈様に教えて貰いました」


「……は?勝手に透華さんに話した?」


華鈴様が責めるような目で見るのを、玲奈様は涼しい顔で受け流す。空気が一変した……しばらく無言が続く。


だが、やがて諦めたようにため息をついたところで私は思った疑問を、華鈴様にぶつける。 

 
「あの……伊集院様と私が帰れない原因って関係あるんですか?」


「……別に透華さんが嫌じゃないというのなら別に帰ってもいいと思うけど、先生と伊集院くんは一応ライバルなのよ?それで透華さんが、帰ってきたら……多分、透華さん絡まられると思うけど……」


「……」


……絶対に面倒くさい。私は考えることをやめた。
その後、華鈴様の話によると、お兄様は本当に忙しかったらしく、あまり構ってもらえなかったらしい。…それはつまりーー、


「お兄様……忙しいですよね」


「そうなのよ……」


華鈴様は疲れたように呟いた。
お兄様は現在中学ニ年生である。白鷺学園はエスカレーター式だから受験はないが、それでも生徒会としての仕事はあるし、野球部の練習もしている。確かに大変そうだ。
 

「……でも伊集院様はどうしてそこまでして勝負したいのでしょうか?……香織様のことで賭けていた、というのは知ってますけど……」 


そう、一番の謎はそこである。王子だってここの時期が大変だというのは分かっているだろうし、第一……


「……九条先輩止めないの?」


玲奈様が私を言いたいことを代わりに言ってくれた。そう、私も気になっていた。王子とお兄様なんのことだし、自分が関わっていることを止めない……という選択肢を香織様がする筈などない。 


「止められても聞かなかったわ。それに……先生も乗り気だし。……九条先輩とかそういうの関係なく、野球が好きだから……っていう理由で。だから九条先輩も止められない」


……本当にお兄様と王子は相当野球が好きなようだ。……それはともかく……。


「……私、もう少しここにいようかしら……伊集院様に絡まれたくないし……」


「そうね……そうした方がいいと思うわ」


私の言葉に、玲奈様が同意する。


「……そして私もこっちに来ることにしたの」


「……え?」


私は思わず聞き返した。え?今なんて?


「私も来週からここ……聖フローラ学園に通うことになったの」


「……えぇ!?」


私達は驚きの声を上げた。
え?え?華鈴様がここに来るの?!


「そんなこと電話で話してなかったじゃん。急にどうして……それに…悠真お兄ちゃんとも離れちゃうことになるんだよ?」


玲奈様が心配げに聞く。確かにそうだ。お兄様と離れ離れはさみしいだろうな……好きな人なわけだし。


「……そうね。でも……それ以上に、西園寺くんがうざい」


華鈴様はきっぱりと言い切った。あー……うん。なるほど……まぁ、西園寺は華鈴様のことが好きだもんね……


「……うざいって……どんなことされたの?」


玲奈様は首を傾げながらそういうと、華鈴様は思いっきり眉間にシワを寄せてこう言った。

…… 華鈴様が言うには、授業中や休み時間にも、何故か華鈴様の席に来て話しかけてくるのだと言う。しかも、お兄様と話している時も邪魔してくる時もあるらしい。


「………そっか…」


玲奈様は同情するような表情を浮かべる。それは私も同じだ。原作では華鈴様と西園寺は結果的に付き合うのだが、今の時点ではただの友達にしか過ぎない。……もし、本当に万が一華鈴様とお兄様が結ばれるようなことがあったら、どうなってしまうのだろうか……


「(……やばい映像しか思い浮かばないなぁ……)」 


正直言って、王子より西園寺の方が厄介だと思う。王子も西園寺も頭もいいけど冷静に対処出来るのは、おそらく西園寺だ。王子は感情で動くタイプだし。


「……とりあえず……姉さんは暫くこっちにいるのよね?」


「そういうことになるわね……」


「……でも、西園寺様のことですし色々理由つけてここに来そうですけどねぇ」


私がボソッと言った言葉に華鈴様は顔を歪めるがそれだけだ。私の意見を否定しない。……否定出来ないんだろうなぁ。まぁ、西園寺が相手じゃ仕方がない。


「その考えを否定出来ないなんてやっぱり面白い人だわ、西園寺くんって」


玲奈様は面白そうにそういった。完全に他人事だ。先までお兄様と華鈴様の仲を心配していたは思えない態度である。


「……まぁ、いつ帰るか分かんないけどよろしくね」


そう言って、華鈴様は笑った。
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