当て馬ポジションに転生してしまった件について

かんな

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一章 〜全ての始まり〜

十六話 『お出かけ』

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「ね、ねぇ、お兄様。一体何処に行ってるの?」


翌日の午前に、私は車に乗せられていた。行き先は一切伝えられてないし、本当にどこに行くのか分からない。


「………行けば分かるよ」


いや、行けば分かると言われましても……と、言ってもお兄様の顔が凄く疲れたような表情をしている。


………もしかして私何かやらかした?まさか小学生時代にお兄様の名前を使った散々使ったツケが今ここで……?


「ごめんなさい……」


気づけば、私はお兄様に対して謝っていた。突然の謝罪にお兄様はびっくりしたように『急にどうかした?透華』と心配そうに聞いてくれた。ああ、やっぱりお兄様は優しい人だ。だから……私はぐっと込めて謝った。


「お兄様の名前を使って……その好き勝手してたから……ごめんなさい……」


「………」


沈黙が痛い。そもそも、私がして来たことは最低だ。『城ヶ崎悠真』という後ろ盾があるからなんでも出来た。何かやらかしても『まぁ、でも悠真くんの妹さんだし』で済まされた。それを私も利用してた。だからーー


「透華……」


お兄様の顔が見れない。そもそも、私には見る資格なんてない。だから俯いてしまう。するとお兄様が口を開いた。


「透華……もしかして何か勘違いしてる?」


「………え?」


突然の言葉に私は理解ができなかった。だけど、お兄様は笑いながらこう言った。


「透華が俺の名前を使って色々やっているのなんて知ってたよ」


「えええ……?!」


なら、何故そんな疲れた顔を!?


「透華さ、そのせいで俺の評判が悪くなるって言ってたけど違うよ?本当は俺も安心してたんだよ」


「へ?」


安心!?お兄様の評判を悪くするのが!?ええ……お兄様ってもしかして……ドMなのか……?


「…………今変なことを考えてない?」


「か、考えてませんよ!」


顔に出てたのか……?いや、でも評判を悪くしていた張本人を目の前に安心したなんて冗談でも言わないし……いっそのこと殴ってくれた方が気持ちは楽だった。


「安心したのはさ、俺に群がる人達が近寄らなくなったことだよ。評判悪くなっても……一部の人はわかってくれるからそれだけで充分なんだよ。だから安心してたってこと」


「………」


言葉が出ない。そもそもこれはお兄様人徳あってのことだ。前々からそう思っていたがお兄様はやはり強者だ。そんなことを思っていると車が止まった。


「あ……着いた。多分、あいつも居るはずだよ」


「あいつ?」


あいつって誰?とゆうか話に夢中になっていたせいで何処に行っているのとか全く把握していなかった。車から出るとそこには……


「……あれ?城ヶ崎さん?」


「え?さ、西園寺様!?」


何故西園寺がここにいるんだ……?状況がよくわからない私なのだが、それは西園寺も同じみたいでーー


「あの、悠真先輩。どうしてここが待ち合わせだったですか?」


「特に意味はないよ。さぁ、西園寺もささっと乗って!」


そう言ってお兄様は西園寺を乗るように促すが、西園寺が戸惑っている。無理もない。だって急にそんなこと言われたら、誰だって戸惑うだろう。


「西園寺?大丈夫?」


「………すみません。やっぱり悠真先輩は卑怯な人だなって再確認しただけです」


サラッと毒を吐いた!?にしてもお兄様が卑怯だと?シンプルになんで?


「ああ……俺もそう思うよ」


お兄様まで認めた……?卑怯って何が?!それに状況がまーったく分からないよ!誰か私に分かるように説明しろ!


「お兄様。これは?」


「あー、もうちょっとで分かるから」


「この状況で説明しない悠真先輩って本当に卑怯ですよね?」


「これに関しては西園寺様に同意せざるおえません。さぁ、逃げ場なんてないのですから私達に説明してください!」


西園寺と私が畳かけるようにそう言ったせいで逃げ場を無したお兄様は困った顔になった。困った顔すらカッコいい……これは卑怯だわ


「……昨日のことを説明しようと思って。本当は透華だけに説明しようと思ったんだけど、西園寺も聞いて来たからついでに連れて行こうかなっと。勿論、本人の許可は取ってあるよ?」


「昨日のこと……?たしかにそれは気になりますけど……何でこんなところに……?」 


わざわざここまで来て説明する必要性はあるのだろうか?それに本人の許可ということは華鈴様のこと何だろうけど……


「あの白鷺さんが許可とったの?本当に?城ヶ崎さんはともかく僕にも?」


「……私は西園寺様より私に真実を教えてくれる華鈴様の方が信じられません」


そこなのだ。私は華鈴様に酷いことを言った女だ。そんな女に真相を教えるの?仮に私にそう言われたのを忘れていたとしても、だ。何故自分に教えてくれるのか。不思議でしょうがない。


「………それは俺にも分からない。そのことに関しては本人に聞いてほしい」


そうお兄様が言った直後、車が止まる音がする。車を降りるとそこにはーー


「ここが……華鈴様の……家」


……城ヶ崎家なんて比じゃない程に広い。さ、流石理事長の孫……それに確か華鈴様のお父様は警察官だし、お母様は元ヤンキーという噂だ。


「あーー!貴方が透華ちゃん!?」 


そんなことを思っていると元気な声が聞こえてきた。……声だけ聞いたら華鈴様だ。だけど華鈴様は私のことを『透華ちゃん』とは言わない。つまりーー


「それに悠真お兄ちゃんに………あ、君が噂の西園寺くん?」


「噂になってるの?僕」


苦笑いをする西園寺。……容姿と声は完璧に華鈴様だ。この子は……一体……?


「玲奈ちゃん……昨日は気付けなくてごめんね」


「うふふ。天才と呼ばれた悠真お兄ちゃんを騙せるなんて私も腕を上げたわー!」


「それは嫌味だよ」


玲奈ちゃん?誰!?漫画だと出てないよね!?本当に誰だよ!


「どうして西園寺くんと透華さんがいるわけ?」


困惑していると、後ろから声が聞こえてくる。うん……こっちだ。こっちが華鈴様だ。


「……説明してくれる?」


「姉さんってばそんな怖い顔しないでよー」


ね、姉さん……と、言うことはーー


「華鈴様の妹さん……?」


「そうでーす。初めまして!私の名前は白鷺玲奈、13歳です!」


「じ、13歳……?」


私達と同い年……!?私が驚いていると、玲奈と名乗った女の子が私の身体を舐め回すように見つめてこう言った。


「にしても透華ちゃん、いい身体してるよねー?特に胸!うちの家はみーんな胸が大きくないから羨ましいなー」


まぁ、透華が唯一誇れる点だからね。本編でもこの身体を使って王子を誘惑しようとしていたし。……結果釣れたのは身体目当ての男ばっかなのだけど。


「……って!今はそんなことより……!どうして昨日華鈴様に変装していたのですか?それにお兄様たちとの関係は……?」


「…単純に好奇心だよ、悠真お兄ちゃんが誕生日パーティーするらしいからお姉ちゃんの為に人肌脱ごうかなーって。後、私たちと悠真お兄ちゃんの関係は家庭教師だよー」


か、家庭教師………!?そうか!確かにお兄様、家庭教師をやるとか言ってたな、今点と点が繋がったぜ!


「誰も頼んでないし余計なお世話なのよ。この前の男子のことも」


「男子のことってひょっとして…」


あの廊下事件。西園寺が凄く不機嫌になっていたあれのことだろうか?確かに結局あれはなんだったのだろう?とは思ってたけど華鈴様も周りすら追及しないから完全に忘れていた。


「監視役を頼んでたんだろ?」


「ピンポーン!正解ー!どうして西園寺くん分かったのー?」


「秘密」


買収したんだろうなぁ……基本的に西園寺は目的の為なら何でもする。ましてや、今回は好きな人なことな上男子だ。そりゃあ、焦るし、買収するよね……


「まぁ、大体検討はつくから別にいいけどさ」


「そんなことよりさ、本件は何なの?」


「……あー、それ?昨日のこと特別に2人には教えようと思って!」


「……昨日のことですよね?でも、あれならもうわかりましたけど……」


だって昨日の華鈴様になりすましていたのはもしかしてなくても玲奈様だろう。ちょっと混乱していたとはいえ、流石にそれぐらいは分かる。だけど玲奈様は笑いながらこう言った。


「違うよー。そっちじゃなくてさーー」


途端にごほんと玲奈様は咳をしてそして喉に手を当てた。………何をする気なんだろう?と思いながら私は玲奈様を見る。玲奈様は変わらぬ表情で笑いながら私の頬に手を添えてこう言った。


「透華。綺麗だね?」


「………え」


「恥ずかしがってる顔も本当に素敵だよ。透華」


「ええ……?」


な、何これ!こ、これ………お兄様の声じゃん…!?多分お兄様が一生言わない言葉。実の兄だとわかっているのにクラクラしてしまった。


「透華は自慢の妹だよ」


「じ、自慢……!お兄様~~!」


思わずお兄様と言ってしまった。だって声が完璧にお兄様なんだもん!!言いたくなるでしょ?これは……!


「ふふ。やっぱり他人の声を真似るっておもしろーい!」


「…凄いね。もしかして昨日のアレも白鷺さんの声真似してたの?」


「うん!私の地声はもうすこーし高いよ?まぁ、姉さんは双子の妹だから容姿も完璧に真似れるんだよ?黙ってたらどっちか分かんないでしょう?」


双子だったのか……サラッと言ったけどもまぁ納得。だって本当にそっくりだもん。何で本編に出てなかったんだ……?いや、私が記憶する限りの範囲だけだからもしかしたら出てたかもしれないけども。


「…ちょっと。玲奈」


そんなことを思っていると、声が聞こえてきた。振り返ると、厳しそうな女の人が立っていた。眼鏡をかけていかにもスパルタのような雰囲気を醸し出している。


「お母様!」


「お、お母様!?」


華鈴様と玲奈様のお母様!?納得……厳しそうだけど凄く美人だもん。


「あなたはもしかして透華さん?」


「へ?え……は、はい!そ、そうです」


私がそう言うと、華鈴様のお母様はにっこりと笑った。先までのスパルタな雰囲気は一気に消え去っていた。


「貴方のお陰で華鈴が前を向いてくれたの。とても感謝しているわ」


「へ……?」


しかし、そう言われた言葉の意味は全く持って意味が分からなかった。
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