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一章 〜全ての始まり〜

十三話『手作りプレゼント』

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やってきました。王子の家。広いしデカイ。うちのところも、大きい方だと思っていたけどこれを見た後じゃ城ヶ崎家ってちっぽけな家なんだろうな……と思うぐらいには規模が大きすぎる。


「(今からここで作るの?……不安になってきた……)」


今から作るのはクッキーだ。私はあまり料理をしてこなかったから昨日練習したのだがこれが意外と難しい。一応、メイド達が手伝ってくれたこともありなんとかなったが不安でしかない。とゆうか、香織様は料理上手という描写があったが王子にはそういう描写がないからそういう意味でも不安なのだが大丈夫なのだろうか?


「(これは香織様頼みになるな……)」


とため息を吐きながらチャイムを鳴らすと、誰かが走ってくる音が聞こえてきた。思わずびくりと身を縮こませるけど……


「いらっしゃい!透華ちゃん!」


香織様がその正体だった。あれだけ走ってきたにも関わらず息を切らしていないどころか余裕な笑みを浮かべている香織様とそのちょっと後ろで息を切らす王子。


「香織はこの癖直せ……」


「えー?いいじゃない!」


こんな弱ったところ香織様の前でしかきっと見せないだろうな。今王子のファンクラブのみんながいたら今のギャップにやられてるかも。と呑気なことを考えていた。そんなことを思っていると、


「……ささっと作って早く帰れ」


ボソッと王子は私だけに聞こえる声でそう言ってきた。……言われなくてもそうするよーだ!と私は心の中でぐちぐち文句を言った。……声に出して言ったら私王子に殺されると思うし、と思いながら、持参してきたエプロンを付けた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


何倍もことが上手く進んだ。あれだけ心配していたクッキーも王子と香織様がテキパキとやってくれた。そして私と言えば皿洗いをしていただけ。これでは王子をとやかく言える筋合いではない。

「後は型抜きだけだな」


「そうね!」


二人はとても楽しそうだし、これ私がいる意味あるのだろうか?てゆうかこの二人私の存在忘れてない?私、そんなに影が薄い……?今ならこっそり帰ってもバレなさそうだ。いや、帰らないけど。


「透華ちゃんも型抜きしよー」


そんなネガティブな想像をしていると香織様が親切に声をかけてくれた。陰キャラにも声かけてくれるとか香織様ってばマジ天使。


「は、はい!」


きょどって変な声を出し、王子に訝しな目で見られたが私は気にしないことにして香織様の横に立った。


「5mmの厚さで……」


そう言って香織様は慎重に型抜きをしている一方で王子は何も考えてなさそうに型抜きをしている。こういうのはやはり性格に出るのだろうか?王子はフィーリングでやっているけど、香織様は真面目な人だし。


「…出来た」


「あ、私も出来ました……」


「え……!?早いよ!ちょっと待って!」


そう言った私達に焦ったのか後半はかなり雑な手つきで型抜きを終えていた。


「よーし、出来た!最後の方雑だったけど悠真くんなら許してくれる……よね?」


「ええ、お兄様は美味しければそれでいい人なので」


紳士で真面目なお兄様だが食については無関心だ。美味しければそれでいい、というスタンスだから形についてはどうでもいいだろう。


「………なぁ、香織。その悠真くんとかゆう奴好きなの?」


そんなことを思っていると、怖い顔をしながら王子はとんでもないことを言い出した。な、何で今このタイミングなの?!


「え……?」


ほらーー!王子が突然そんなこと言うから香織様赤面してるじゃん!絶対にオーブンでクッキーを焼くの忘れてる!な、なら私が……!


「そ、そりゃあ……好き……だよ?」


唐突な爆弾発言に、私は落としそうになった。王子の顔も更に険しくなってるし。


「あ、と、友達としてよ?」


「あ、そ、そうですよねー!」


危ねぇー!あまりにもガチなトーンで言うものだからビックリしたし、本当に香織様お兄様のこと好きなのかと思ってビビった……。


「……好きじゃないのなら何でーー」


うん、まぁ、気持ちは分かるよ?小さい頃からずーっと香織様のこと一途に思い続けてるし、ストレートに思いをぶつけてたもんね。だけど肝心の香織様は凄く鈍いし、年齢差的な問題もあって中々本気にしてもらえなくて…そしてその想いは高校生になっても変わらず、一途に思い続けている中、美穂ちゃんと出会う……というのがざっくりした話の流れだ。


「そ、そんなことより!焼けたわよ!」

そんなことを思っていると、焼けたらしい。結局、香織様が入れてくれたのか……落とさなくてよかった…


「後は飾り付けして終わりね!」


そう言って香織様は無理矢理この話を終わらせた。
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