上 下
18 / 34
三章 〜それぞれの一日〜

十八話 『成宮茜は分からない』

しおりを挟む
成宮茜は困惑していた。ただ、パーティ会場で立ち尽くすことしか出来ず、頭の中では先程の出来事がぐるぐると回っていた。


本来ならカナは春人と婚約者となり、今頃は拍手喝采の祝福を受けていた筈なのだ。だが、実際は春人とカナは婚約破棄をしてそのままカナは透と婚約した。


「……どうして」


成宮茜には分からない。何故カナが婚約を破棄して透を選んだのか。そして、春人の真意が分からなかった。


カナと春人は自分の教え子であり、大切な生徒だと思っていた。だからこそ、カナが婚約を破棄すると聞いてショックを受けたし、何とか説得して考え直して欲しいとも思った。


しかし、春人すらその婚約破棄を受け入れ、カナも透との婚約を発表した。その事実が茜の胸を張り巡らせていた。
その時、会場に居た一人の男が近付いて来た。


「茜様……」


「こ、光輝くん……」


そこには光輝の姿があった。
光輝は茜の元までやって来ると深々と頭を下げた。
そして、ゆっくりと口を開いた。


「たいへん申し訳ございません!お嬢様のこと、止められませんでした……!」


「そ!そんな、謝らなくても……!」


今回のことは光輝は無関係だと茜は思っているし、何よりあの状況でカナを止めるのも至難の業だろうと思った。
それでも、光輝は顔を上げようとしなかった。


「謝りますよ!だって茜様……透様のこと好きなんでしょう?」


「えっ!?な、なんでそれを……」


光輝の言葉に思わず動揺してしまう。確かに透への気持ちがある。
それは自分でも気付いていた。
でも、今まではそれを表に出さぬようにしてきたつもりだ。


「何でって……そんなの、茜様を見てたら分かりますよ。茜様がいつも透様を見てることぐらい……」


光輝からそう言われてしまうともう何も言えなかった。
自分の態度は傍から見たらバレバレだったらしい。
そう思うと恥ずかしくなってきた。


「でも、そんな透様も今じゃお嬢様の婚約者になってしまわれました……周りが肯定するかはともかく……茜様はどうなさるつもりなんですか。このままずっと黙ったままなんですか?それとも……行動に移すんですか?」


「わ、私は……」 


分からない。これは失恋と言っていいのか自分が何をすべきなのか、何をしたいのか。全く分からなくなっていた。


「……茜様はどうしたいんですか?透様と恋仲になりたく無いんですか!?」


「へ!?」


突然の言葉に思わず素っ頓狂な声を出してしまったが、光輝は構わずこう言った。


「お嬢様も幸せになってほしいですが貴方にも幸せになってほしい。だから……お願いします」


深く頭を下げられてしまった。光輝としては本当に本心で言っているんだろうと思う。故に――。


「わ、分かったわ……!私二人のところに……!」


「よろしくお願いします。茜様。二人はお嬢様の家に行かれました」


そんな光輝の言葉を聞きながら茜は駆け出した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。

❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。 それは、婚約破棄&女の戦い?

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【1/1取り下げ予定】妹なのに氷属性のお義兄様からなぜか溺愛されてます(旧題 本当の妹だと言われても、お義兄様は渡したくありません!)

gacchi
恋愛
事情があって公爵家に養女として引き取られたシルフィーネ。生まれが子爵家ということで見下されることも多いが、公爵家には優しく迎え入れられている。特に義兄のジルバードがいるから公爵令嬢にふさわしくなろうと頑張ってこれた。学園に入学する日、お義兄様と一緒に馬車から降りると、実の妹だというミーナがあらわれた。「初めまして!お兄様!」その日からジルバードに大事にされるのは本当の妹の私のはずだ、どうして私の邪魔をするのと、何もしていないのにミーナに責められることになるのだが…。電子書籍化のため、1/1取り下げ予定です。1/2エンジェライト文庫より電子書籍化します。

処理中です...