9 / 34
一章 〜全ての始まり〜
九話 『本性』
しおりを挟む
「………ねえ、石田さん」
「何?鈴木くん…」
婚約パーティーから数時間後、二人は父親から用意されたホテルの部屋に二人きりでいた。
その間特に会話らしい会話もなく、気づけばお互いがお互いに警戒していた。
そんな中、先に口を開いたのは春人の方だった。
「俺たち、婚約者になったけど……突然こんなこと言われても困るよね?」
「そ、そうだよね……いきなり結婚とか言われても実感湧かないし……」
本当そうだよねぇ、と言いながら苦笑いをする春人。カナと同じ気持ちでいることに少し安堵した。
当たり前だが、春人もカナと同様に今回のことについては困惑しており、どうすれば良いのか分からず途方に暮れていたのだ。ということは、カナのやることはただ一つ。
「私達の婚約を取り消してもらいましょう!すぐに!」
「え?寧ろいいじゃん。これで」
「……は?」
思いも寄らぬ言葉が返ってきて思わず声が出た。そして淡々と春人はこう言った。
「確かに困惑はしたけど、婚約は別に良くない?破棄する理由もないんだしさ。本気で君が俺のことを相手にするとは思えないし。そして俺もそう。俺はまだ沢山の女を抱きたいので」
先までのイケメンオーラはどこへ行ったのかと思うほどゲスい発言である。カナが茫然としていると
「だからさー、俺、まだ結婚したく無いんだよね、責任とかも面倒だし。あんたのこと抱いてやってもいいけど」
と、春人は悪びれた様子もなく言い放った。その態度にカチンと来た。まさか彼がこんな男だと思わなかったからだ。
それよりも――、
「ね、ねぇ、先、私のことを……だ、抱くって言ったわよね……?」
「え?ああ、うん。あんたが望むなら抱いてやってもいいよ?」
「………最低」
カナは心の底から失望した。カナにとって抱いて欲しい人は透だけであり透以外には抱いて欲しくないと思っていると、春人はさらっとこう言った。
「あー、何?お前処女?まぁ、無理もないか。お嬢様だし」
「…そ、そうだけど……わ、悪い!?」
「悪くはないよ。別にいいんじゃねー?でも、ささっと卒業しなよー。売れ残りになったら目も当てられないぜ?」
「なっ……!!あんたそんな感じなの!?」
「うん。そうだよ。学校のときは猫被ってたけど、本当の俺はこれだよ?」
悪びれもなく、それが当然のように言う春人に、カナは呆れて物も言えなかった。この男は見た目こそ良いものの中身はクズそのものなのだと理解した。
それならば、尚更このまま結婚するのは嫌だった。自分が愛していない相手と結婚するなんて絶対に嫌だと思った。
最初はカナと同じ境遇だと思っていた春人が実は違ったことに落胆しつつ、カナは春人を睨みつけながら、
「……先、結婚したくないって言った癖にこの婚約は破棄しなくていいんじゃないってどういうこと?それにさっき言ってたことと矛盾してるよね?」
と言うと、春人はあっけらかんとした表情を浮かべて
「だってさー、考えてみてよ。俺達はまだ学生の身だ。今すぐ結婚できるわけでもないしー、そもそもこれ愛のない政略結婚だろ?なら、お互い浮気しても文句言えないじゃん?」
「そ、そうだけど……だからって浮気は駄目でしょう!!」
「え?なんで?」
春人はきょとんとして首を傾げる。本当に分からないという顔をしていて、それが余計に腹立たしかった。
「なんでって……」
「浮気が駄目ってそれって愛し合ってる者同士だけの話だろう?俺らは違うんだし問題なくない?それとも何?お前は俺のこと好きになったのか?」
「それは絶対にないわ。安心しなさい」
カナはきっぱりと否定した。実際そう。この男にトキメキなんて一度も感じたことはない。
本性を知る前も、「親切な人だな……」と思ったことはあれど、恋心を抱いたことなど一度たりともなかったし、本性を知ってしまった後なら尚更だ。
「でしょ?そういうことだから、俺のすることは変わらないし。後は適当に仮面夫婦演じてるだけでいいのなら楽じゃね?」
春人は淡々と言い放つ。その顔には迷いなど一切なかったから思わずカナは頷いてしまった。
「何?鈴木くん…」
婚約パーティーから数時間後、二人は父親から用意されたホテルの部屋に二人きりでいた。
その間特に会話らしい会話もなく、気づけばお互いがお互いに警戒していた。
そんな中、先に口を開いたのは春人の方だった。
「俺たち、婚約者になったけど……突然こんなこと言われても困るよね?」
「そ、そうだよね……いきなり結婚とか言われても実感湧かないし……」
本当そうだよねぇ、と言いながら苦笑いをする春人。カナと同じ気持ちでいることに少し安堵した。
当たり前だが、春人もカナと同様に今回のことについては困惑しており、どうすれば良いのか分からず途方に暮れていたのだ。ということは、カナのやることはただ一つ。
「私達の婚約を取り消してもらいましょう!すぐに!」
「え?寧ろいいじゃん。これで」
「……は?」
思いも寄らぬ言葉が返ってきて思わず声が出た。そして淡々と春人はこう言った。
「確かに困惑はしたけど、婚約は別に良くない?破棄する理由もないんだしさ。本気で君が俺のことを相手にするとは思えないし。そして俺もそう。俺はまだ沢山の女を抱きたいので」
先までのイケメンオーラはどこへ行ったのかと思うほどゲスい発言である。カナが茫然としていると
「だからさー、俺、まだ結婚したく無いんだよね、責任とかも面倒だし。あんたのこと抱いてやってもいいけど」
と、春人は悪びれた様子もなく言い放った。その態度にカチンと来た。まさか彼がこんな男だと思わなかったからだ。
それよりも――、
「ね、ねぇ、先、私のことを……だ、抱くって言ったわよね……?」
「え?ああ、うん。あんたが望むなら抱いてやってもいいよ?」
「………最低」
カナは心の底から失望した。カナにとって抱いて欲しい人は透だけであり透以外には抱いて欲しくないと思っていると、春人はさらっとこう言った。
「あー、何?お前処女?まぁ、無理もないか。お嬢様だし」
「…そ、そうだけど……わ、悪い!?」
「悪くはないよ。別にいいんじゃねー?でも、ささっと卒業しなよー。売れ残りになったら目も当てられないぜ?」
「なっ……!!あんたそんな感じなの!?」
「うん。そうだよ。学校のときは猫被ってたけど、本当の俺はこれだよ?」
悪びれもなく、それが当然のように言う春人に、カナは呆れて物も言えなかった。この男は見た目こそ良いものの中身はクズそのものなのだと理解した。
それならば、尚更このまま結婚するのは嫌だった。自分が愛していない相手と結婚するなんて絶対に嫌だと思った。
最初はカナと同じ境遇だと思っていた春人が実は違ったことに落胆しつつ、カナは春人を睨みつけながら、
「……先、結婚したくないって言った癖にこの婚約は破棄しなくていいんじゃないってどういうこと?それにさっき言ってたことと矛盾してるよね?」
と言うと、春人はあっけらかんとした表情を浮かべて
「だってさー、考えてみてよ。俺達はまだ学生の身だ。今すぐ結婚できるわけでもないしー、そもそもこれ愛のない政略結婚だろ?なら、お互い浮気しても文句言えないじゃん?」
「そ、そうだけど……だからって浮気は駄目でしょう!!」
「え?なんで?」
春人はきょとんとして首を傾げる。本当に分からないという顔をしていて、それが余計に腹立たしかった。
「なんでって……」
「浮気が駄目ってそれって愛し合ってる者同士だけの話だろう?俺らは違うんだし問題なくない?それとも何?お前は俺のこと好きになったのか?」
「それは絶対にないわ。安心しなさい」
カナはきっぱりと否定した。実際そう。この男にトキメキなんて一度も感じたことはない。
本性を知る前も、「親切な人だな……」と思ったことはあれど、恋心を抱いたことなど一度たりともなかったし、本性を知ってしまった後なら尚更だ。
「でしょ?そういうことだから、俺のすることは変わらないし。後は適当に仮面夫婦演じてるだけでいいのなら楽じゃね?」
春人は淡々と言い放つ。その顔には迷いなど一切なかったから思わずカナは頷いてしまった。
1
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
【完結】野蛮な辺境の令嬢ですので。
❄️冬は つとめて
恋愛
その日は国王主催の舞踏会で、アルテミスは兄のエスコートで会場入りをした。兄が離れたその隙に、とんでもない事が起こるとは彼女は思いもよらなかった。
それは、婚約破棄&女の戦い?
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる