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一章 〜全ての始まり〜
九話 『本性』
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「………ねえ、石田さん」
「何?鈴木くん…」
婚約パーティーから数時間後、二人は父親から用意されたホテルの部屋に二人きりでいた。
その間特に会話らしい会話もなく、気づけばお互いがお互いに警戒していた。
そんな中、先に口を開いたのは春人の方だった。
「俺たち、婚約者になったけど……突然こんなこと言われても困るよね?」
「そ、そうだよね……いきなり結婚とか言われても実感湧かないし……」
本当そうだよねぇ、と言いながら苦笑いをする春人。カナと同じ気持ちでいることに少し安堵した。
当たり前だが、春人もカナと同様に今回のことについては困惑しており、どうすれば良いのか分からず途方に暮れていたのだ。ということは、カナのやることはただ一つ。
「私達の婚約を取り消してもらいましょう!すぐに!」
「え?寧ろいいじゃん。これで」
「……は?」
思いも寄らぬ言葉が返ってきて思わず声が出た。そして淡々と春人はこう言った。
「確かに困惑はしたけど、婚約は別に良くない?破棄する理由もないんだしさ。本気で君が俺のことを相手にするとは思えないし。そして俺もそう。俺はまだ沢山の女を抱きたいので」
先までのイケメンオーラはどこへ行ったのかと思うほどゲスい発言である。カナが茫然としていると
「だからさー、俺、まだ結婚したく無いんだよね、責任とかも面倒だし。あんたのこと抱いてやってもいいけど」
と、春人は悪びれた様子もなく言い放った。その態度にカチンと来た。まさか彼がこんな男だと思わなかったからだ。
それよりも――、
「ね、ねぇ、先、私のことを……だ、抱くって言ったわよね……?」
「え?ああ、うん。あんたが望むなら抱いてやってもいいよ?」
「………最低」
カナは心の底から失望した。カナにとって抱いて欲しい人は透だけであり透以外には抱いて欲しくないと思っていると、春人はさらっとこう言った。
「あー、何?お前処女?まぁ、無理もないか。お嬢様だし」
「…そ、そうだけど……わ、悪い!?」
「悪くはないよ。別にいいんじゃねー?でも、ささっと卒業しなよー。売れ残りになったら目も当てられないぜ?」
「なっ……!!あんたそんな感じなの!?」
「うん。そうだよ。学校のときは猫被ってたけど、本当の俺はこれだよ?」
悪びれもなく、それが当然のように言う春人に、カナは呆れて物も言えなかった。この男は見た目こそ良いものの中身はクズそのものなのだと理解した。
それならば、尚更このまま結婚するのは嫌だった。自分が愛していない相手と結婚するなんて絶対に嫌だと思った。
最初はカナと同じ境遇だと思っていた春人が実は違ったことに落胆しつつ、カナは春人を睨みつけながら、
「……先、結婚したくないって言った癖にこの婚約は破棄しなくていいんじゃないってどういうこと?それにさっき言ってたことと矛盾してるよね?」
と言うと、春人はあっけらかんとした表情を浮かべて
「だってさー、考えてみてよ。俺達はまだ学生の身だ。今すぐ結婚できるわけでもないしー、そもそもこれ愛のない政略結婚だろ?なら、お互い浮気しても文句言えないじゃん?」
「そ、そうだけど……だからって浮気は駄目でしょう!!」
「え?なんで?」
春人はきょとんとして首を傾げる。本当に分からないという顔をしていて、それが余計に腹立たしかった。
「なんでって……」
「浮気が駄目ってそれって愛し合ってる者同士だけの話だろう?俺らは違うんだし問題なくない?それとも何?お前は俺のこと好きになったのか?」
「それは絶対にないわ。安心しなさい」
カナはきっぱりと否定した。実際そう。この男にトキメキなんて一度も感じたことはない。
本性を知る前も、「親切な人だな……」と思ったことはあれど、恋心を抱いたことなど一度たりともなかったし、本性を知ってしまった後なら尚更だ。
「でしょ?そういうことだから、俺のすることは変わらないし。後は適当に仮面夫婦演じてるだけでいいのなら楽じゃね?」
春人は淡々と言い放つ。その顔には迷いなど一切なかったから思わずカナは頷いてしまった。
「何?鈴木くん…」
婚約パーティーから数時間後、二人は父親から用意されたホテルの部屋に二人きりでいた。
その間特に会話らしい会話もなく、気づけばお互いがお互いに警戒していた。
そんな中、先に口を開いたのは春人の方だった。
「俺たち、婚約者になったけど……突然こんなこと言われても困るよね?」
「そ、そうだよね……いきなり結婚とか言われても実感湧かないし……」
本当そうだよねぇ、と言いながら苦笑いをする春人。カナと同じ気持ちでいることに少し安堵した。
当たり前だが、春人もカナと同様に今回のことについては困惑しており、どうすれば良いのか分からず途方に暮れていたのだ。ということは、カナのやることはただ一つ。
「私達の婚約を取り消してもらいましょう!すぐに!」
「え?寧ろいいじゃん。これで」
「……は?」
思いも寄らぬ言葉が返ってきて思わず声が出た。そして淡々と春人はこう言った。
「確かに困惑はしたけど、婚約は別に良くない?破棄する理由もないんだしさ。本気で君が俺のことを相手にするとは思えないし。そして俺もそう。俺はまだ沢山の女を抱きたいので」
先までのイケメンオーラはどこへ行ったのかと思うほどゲスい発言である。カナが茫然としていると
「だからさー、俺、まだ結婚したく無いんだよね、責任とかも面倒だし。あんたのこと抱いてやってもいいけど」
と、春人は悪びれた様子もなく言い放った。その態度にカチンと来た。まさか彼がこんな男だと思わなかったからだ。
それよりも――、
「ね、ねぇ、先、私のことを……だ、抱くって言ったわよね……?」
「え?ああ、うん。あんたが望むなら抱いてやってもいいよ?」
「………最低」
カナは心の底から失望した。カナにとって抱いて欲しい人は透だけであり透以外には抱いて欲しくないと思っていると、春人はさらっとこう言った。
「あー、何?お前処女?まぁ、無理もないか。お嬢様だし」
「…そ、そうだけど……わ、悪い!?」
「悪くはないよ。別にいいんじゃねー?でも、ささっと卒業しなよー。売れ残りになったら目も当てられないぜ?」
「なっ……!!あんたそんな感じなの!?」
「うん。そうだよ。学校のときは猫被ってたけど、本当の俺はこれだよ?」
悪びれもなく、それが当然のように言う春人に、カナは呆れて物も言えなかった。この男は見た目こそ良いものの中身はクズそのものなのだと理解した。
それならば、尚更このまま結婚するのは嫌だった。自分が愛していない相手と結婚するなんて絶対に嫌だと思った。
最初はカナと同じ境遇だと思っていた春人が実は違ったことに落胆しつつ、カナは春人を睨みつけながら、
「……先、結婚したくないって言った癖にこの婚約は破棄しなくていいんじゃないってどういうこと?それにさっき言ってたことと矛盾してるよね?」
と言うと、春人はあっけらかんとした表情を浮かべて
「だってさー、考えてみてよ。俺達はまだ学生の身だ。今すぐ結婚できるわけでもないしー、そもそもこれ愛のない政略結婚だろ?なら、お互い浮気しても文句言えないじゃん?」
「そ、そうだけど……だからって浮気は駄目でしょう!!」
「え?なんで?」
春人はきょとんとして首を傾げる。本当に分からないという顔をしていて、それが余計に腹立たしかった。
「なんでって……」
「浮気が駄目ってそれって愛し合ってる者同士だけの話だろう?俺らは違うんだし問題なくない?それとも何?お前は俺のこと好きになったのか?」
「それは絶対にないわ。安心しなさい」
カナはきっぱりと否定した。実際そう。この男にトキメキなんて一度も感じたことはない。
本性を知る前も、「親切な人だな……」と思ったことはあれど、恋心を抱いたことなど一度たりともなかったし、本性を知ってしまった後なら尚更だ。
「でしょ?そういうことだから、俺のすることは変わらないし。後は適当に仮面夫婦演じてるだけでいいのなら楽じゃね?」
春人は淡々と言い放つ。その顔には迷いなど一切なかったから思わずカナは頷いてしまった。
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