【完結】お嬢様は納得できない!

かんな

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一章 〜全ての始まり〜

四話 『恋心』

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学校はカナにとって窮屈で、退屈な場所だ。周りは『石田家の子供』として見てカナのことを特別扱いする。


それが嫌だった。自分が欲しいのはこんなものじゃない。
ただ、普通の人として扱って欲しかっただけなのに。でも、今は、


「あ、おはよう、カナちゃん!」


「あ、おはよう、奈緒ちゃん」


今では友達もいる。親友というわけではないかもしれないが、仲良くしてくれる人がいる。


カナにとってはそれだけで十分嬉しくて、心が温かくなっていた。それが初めてできた友達である彼女だから余計にそう思えた。


カナと奈緒は同じクラスで出席番号も近く、席も隣同士ということもあり、自然と話すようになった。


彼女といると楽しくて、毎日が幸せだと感じられた。
しかし、今日は違った。憂鬱で、辛かった。


それは昨日の夜、父親に言われたことが原因だ。
婚約が決まったことは勿論ショックだったし、勝手に決めるなんて酷いとは思ったし、その思いはまだ消えていない。


権利があるのなら今すぐ父親をボコボコにしてやりたいくらいだ。
だけど、一番辛いのは……自分の思いを否定されたことだ。


(……お兄ちゃんの気持ちを……私は知っている)


透はカナを恋愛対象としては見てくれないし見ようとしない。カナがどれだけ透を想っても、透はカナのことを女として意識することは無いだろう。
だが、それでも――。


「カナちゃん!ぼーっとしちゃってどうしたの?具合悪いの?」


奈緒は心配そうな顔をしながらカナに問いかけた。
それに気づいたカナは慌てて首を横に振った。


……少し考え事をしていたせいで変な態度を取ってしまったようだ。
カナは無理矢理口角を上げて笑顔を作った。


「そう?無理は禁物よ?まぁ、何かあったらいつでも私に相談してね!」


「うん……ありがとう」


彼女の優しさは本当に嬉しい。
自分なんかにも優しくしてくれて、元気づけてくれて……まるで太陽のようで、眩しい。


「……おはよう、石田さんに鈴宮さん。ごめんだけど鈴宮さん、そこどいてくれない?そこ俺の席だし」


突然、カナ達の前に姿を現したのは春人だ。笑顔は優しく、声音も穏やかなのだが、その瞳にはどこか冷たく鋭い光が宿っていた。


「え……?ああ、ごめん。気付かなかったわ」


奈緒はすぐに立ち上がり、春人の席から離れた。


「別に謝る必要はないよ。ただどいて欲しいだけだし」


そう言いながら春人は自分の席に座った。その様子はとても不機嫌そうに見えて、カナと奈緒は二人揃って首を傾げたのと同時に、


「ねぇ、奈緒!今日は部活あるって!」


大声でそんなことを言った少女。茶髪の髪をポニーテールにし、雪のように白い肌をしている。


「そう、ありがとうね?春香」


奈緒はそう言いながら少女の頭を撫でた。少女は嬉しそうに幸せいっぱいな顔をしている。まるで世界の悪を知らないような笑顔で。


こっちも釣られて笑ってしまいそうだ。そんなことをカナが思っていると、目があった。慌ててカナは少女から目を逸らしたが少女は駆け足でカナの元へと駆け出していく。


「貴方転校生だよね?私の名前は鈴木春香。ところで私に何か用?」


純粋無垢な目にカナは言葉に言葉に詰まった。特に用などなく、目が合っただけなのだが……と、思っていると奈々が口を挟んだ。


「春香がうるさかったからそっち見てただけに決まってるでしょ?私だってあれだけうるさくされたらそっち見るよ?」


「ええー?そんなにうるさくしたー?」


「してた」


わざとらしく表情をする春香に苦笑いをしながらそう言う奈緒。それにつられるように、カナも苦笑いを浮かべた。


この子は天真爛漫な性格をしていて、感情表現が豊かだ。きっと誰からも好かれるタイプなんだろうな、と思う。
そうこうしているうちにホームルームが始まり、


「あっ!ヤバッ!奈緒!また部活で!」


そう言ったのと同時に春香と名乗った少女はすごいスピードで廊下を走っていった。


「は、早い……!」


「あいつ運動神経だけはいいからなぁ」


呆れたようにため息を吐きながら奈緒も席に座わるのを見届けるとカナは何となく隣の席を見た。


(……顔怖っ!)


そこには眉間にシワを寄せ、鬼のような形相をした春人がいた。
そしてすぐに視線に気付いたのか春人はいつも通りの笑みをカナに向けた。


「ん?どうかしたのかな?僕の顔に何かついてるのかい?」


「いや、なんでもないです……」


カナはそう言って俯いた。そういえば春香も、春人も同じ鈴木という名前だ。
双子だったりするのだろうか?でも、鈴木という名前は全国にごまんといる。苗字が同じというだけで双子の可能性は低いだろう。


カナは不思議に思いながらも、それ以上考えることをやめ、先生の話に集中した。
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