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一章 〜全ての始まり〜
一話 『始まり』
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「お前は石田家の後継ぎだ。だから相応しい振る舞いをしろ」
父にそう言われた日から…少女は石田家の道具になった。後を継ぐためのただの道具。望まれたのはただそれだけのことであり、そこに意思など関係ないと悟ったのは幼いときだった。
「カナ様。透様が来ました」
そんなことを思っていると、メイドはカナに声をかけた。……透というのはカナの従兄弟だ。カナの唯一の理解者であり、カナの初恋の人。それは今もそうであり、カナにとっての心の支えと言っても過言ではない。
「カナ。いい子にしてたか?」
そう思っていると、扉の向こうからそんな声が聞こえてくる。カナは勢いよく扉を開けて透に抱きつき、こう言った。
「…前の学校の時も友達居なかったのに……新しい学校で友達出来るのかな…石田家の社長令嬢だと知ったら皆避けないかな……?」
……中学の頃から、友達など居なかった。皆、自分が『石田家の子供』だと知ると、皆離れていく。
だけど、いじめなどは決してなかった。もし、『石田家の子供』に傷一つでも付けたというのなら、それは……死を覚悟することと同じなのだから……それはカナにとって寂しいことであった。例え、傷つけられても。話し相手が欲しかったというのに……
「大丈夫だよ。あそこは、僕の通っていた学校だし、なんなら、僕の知り合いもいる。その人にお願いしてみるよ。僕も」
そう言って透は優しくカナの頭を撫でた。それに顔が赤くなってゆくのを感じながら、カナは透に勢いよくこういった。
「私、小さい頃に言ってた奴まだ覚えてるからね!結婚するんだから!」
カナのその言葉に透は苦笑いをした。きっと透にとってのカナは妹だ。だから小さいとき『私大きくなったらお兄ちゃんと結婚する!』という言葉もまじめに受け取ってくれなかったのであろう。
だけど、日に日に愛情が大きくなっていく。透はカナのことを妹でしか見ていないけど、カナはもうとっくに……
「カナと5歳も離れてるんだよ?カナにはもっと相応しい相手がいるよ」
「……愛に歳は関係ないよ。それに私のことを理解してくれる人なんてお兄ちゃん以外にいないよ……お兄ちゃんの知り合いだって」
……会うのが怖いのだから、という言葉は、喉につっかえたように言えない。カナにとって、透以外とは会うのは死ぬより嫌なこと。
だけど、他ならぬ透が『学校に行ってほしい』と望んでいるのならかなは行くという選択肢以外残っていなかった。それぐらい……大切だから。
「……大丈夫だよ。俺の知り合いは優しい人ばっかさ。俺には勿体ないほど、ね」
「……」
「あ、茜から電話だ。少しだけ待っててね」
そう言って透はこの場から離れていく。茜……たまに透から聞く言葉だ。カナはその言葉がたまらなく嫌だった。だって、透が自分の為じゃなくてその人の為に時間を作ってしまうから
「(……でも、それは我儘だとそれは一番よく知っている)」
だから、我慢している。……我慢するのは慣れっこだから。でも……
「(たまには甘えたくなるんです)」
父親に甘えたいとは思わない。透にさえ甘えられればそれでいい、とカナはそう思った
「…お待たせカナ。じゃあ、遊ぼうか。今日はどのゲームする?あ、今日はとっておきの…」
「お兄ちゃん」
カナは透の会話を遮り、ギュッと透を抱きしめた。それに、透はびっくりした。無理もない。だってカナがこんなに甘えてくれたのは久しぶりだからだ。だから、透はそっと優しくカナに問いかける。
「どうしたんだい?」
「私だって……甘えたい時ぐらいあるよ……ねぇ、お兄ちゃん今だけでいい。今だけでいいから…頭を撫でて……」
カナがそう言うと、透はびっくりしながらも頭を撫でた。カナはとても嬉しそうに透にこう言った。
「明日……怖かったけど…お兄ちゃんが撫でてくれたから頑張れそう」
「そっか。良かったよ」
そう言って透は満面の笑みを浮かべた。
△▼△▼
学校に着いたカナは先の出来事を思い出し、またため息を吐いた。
時間は意地悪だ。楽しい時間はあっという間なのにこういう苦痛な時間はゆっくりと進む。さじ加減というのは分かっているのだがどうしても憎むことしか出来なかった。
「大丈夫?石田さん」
「先生」
成宮茜。担任の先生だ。茜に初めて出会ったとき、カナは酷く嫉妬した。何故なら透がカナにさえ見せない表情をして笑うから。
でも、彼女のことは嫌いではなかった。むしろ、透の次にはカナに良くしてくれて、自らカナの担任に立候補してくれたのだ。
それを聞いたとき、カナはとても驚いた。だって『石田家の子ども』というだけで先生達からは担任したくない、と思っていたに違いない。だからこの立候補は他の先生達からしたら渡りに船だった筈だ。
だからきっと、彼女はいい先生でありいい女性なのだ。……自分なんかより、よっぽど彼の隣が相応しい……と、カナが一瞬思ってしまったほどに。
「(でも……)」
負けたくない、とも思った。敵わないのなら。彼女が相応しいと思うなら。彼女を目指せばいい。
そしていつか……自分が…と、そこまで考えていたとき、茜は口を開いた。
「じゃあ、私入るから、じゃあ来てー、って言ったら来てね?」
茜が言った言葉に、カナは頷いた。
父にそう言われた日から…少女は石田家の道具になった。後を継ぐためのただの道具。望まれたのはただそれだけのことであり、そこに意思など関係ないと悟ったのは幼いときだった。
「カナ様。透様が来ました」
そんなことを思っていると、メイドはカナに声をかけた。……透というのはカナの従兄弟だ。カナの唯一の理解者であり、カナの初恋の人。それは今もそうであり、カナにとっての心の支えと言っても過言ではない。
「カナ。いい子にしてたか?」
そう思っていると、扉の向こうからそんな声が聞こえてくる。カナは勢いよく扉を開けて透に抱きつき、こう言った。
「…前の学校の時も友達居なかったのに……新しい学校で友達出来るのかな…石田家の社長令嬢だと知ったら皆避けないかな……?」
……中学の頃から、友達など居なかった。皆、自分が『石田家の子供』だと知ると、皆離れていく。
だけど、いじめなどは決してなかった。もし、『石田家の子供』に傷一つでも付けたというのなら、それは……死を覚悟することと同じなのだから……それはカナにとって寂しいことであった。例え、傷つけられても。話し相手が欲しかったというのに……
「大丈夫だよ。あそこは、僕の通っていた学校だし、なんなら、僕の知り合いもいる。その人にお願いしてみるよ。僕も」
そう言って透は優しくカナの頭を撫でた。それに顔が赤くなってゆくのを感じながら、カナは透に勢いよくこういった。
「私、小さい頃に言ってた奴まだ覚えてるからね!結婚するんだから!」
カナのその言葉に透は苦笑いをした。きっと透にとってのカナは妹だ。だから小さいとき『私大きくなったらお兄ちゃんと結婚する!』という言葉もまじめに受け取ってくれなかったのであろう。
だけど、日に日に愛情が大きくなっていく。透はカナのことを妹でしか見ていないけど、カナはもうとっくに……
「カナと5歳も離れてるんだよ?カナにはもっと相応しい相手がいるよ」
「……愛に歳は関係ないよ。それに私のことを理解してくれる人なんてお兄ちゃん以外にいないよ……お兄ちゃんの知り合いだって」
……会うのが怖いのだから、という言葉は、喉につっかえたように言えない。カナにとって、透以外とは会うのは死ぬより嫌なこと。
だけど、他ならぬ透が『学校に行ってほしい』と望んでいるのならかなは行くという選択肢以外残っていなかった。それぐらい……大切だから。
「……大丈夫だよ。俺の知り合いは優しい人ばっかさ。俺には勿体ないほど、ね」
「……」
「あ、茜から電話だ。少しだけ待っててね」
そう言って透はこの場から離れていく。茜……たまに透から聞く言葉だ。カナはその言葉がたまらなく嫌だった。だって、透が自分の為じゃなくてその人の為に時間を作ってしまうから
「(……でも、それは我儘だとそれは一番よく知っている)」
だから、我慢している。……我慢するのは慣れっこだから。でも……
「(たまには甘えたくなるんです)」
父親に甘えたいとは思わない。透にさえ甘えられればそれでいい、とカナはそう思った
「…お待たせカナ。じゃあ、遊ぼうか。今日はどのゲームする?あ、今日はとっておきの…」
「お兄ちゃん」
カナは透の会話を遮り、ギュッと透を抱きしめた。それに、透はびっくりした。無理もない。だってカナがこんなに甘えてくれたのは久しぶりだからだ。だから、透はそっと優しくカナに問いかける。
「どうしたんだい?」
「私だって……甘えたい時ぐらいあるよ……ねぇ、お兄ちゃん今だけでいい。今だけでいいから…頭を撫でて……」
カナがそう言うと、透はびっくりしながらも頭を撫でた。カナはとても嬉しそうに透にこう言った。
「明日……怖かったけど…お兄ちゃんが撫でてくれたから頑張れそう」
「そっか。良かったよ」
そう言って透は満面の笑みを浮かべた。
△▼△▼
学校に着いたカナは先の出来事を思い出し、またため息を吐いた。
時間は意地悪だ。楽しい時間はあっという間なのにこういう苦痛な時間はゆっくりと進む。さじ加減というのは分かっているのだがどうしても憎むことしか出来なかった。
「大丈夫?石田さん」
「先生」
成宮茜。担任の先生だ。茜に初めて出会ったとき、カナは酷く嫉妬した。何故なら透がカナにさえ見せない表情をして笑うから。
でも、彼女のことは嫌いではなかった。むしろ、透の次にはカナに良くしてくれて、自らカナの担任に立候補してくれたのだ。
それを聞いたとき、カナはとても驚いた。だって『石田家の子ども』というだけで先生達からは担任したくない、と思っていたに違いない。だからこの立候補は他の先生達からしたら渡りに船だった筈だ。
だからきっと、彼女はいい先生でありいい女性なのだ。……自分なんかより、よっぽど彼の隣が相応しい……と、カナが一瞬思ってしまったほどに。
「(でも……)」
負けたくない、とも思った。敵わないのなら。彼女が相応しいと思うなら。彼女を目指せばいい。
そしていつか……自分が…と、そこまで考えていたとき、茜は口を開いた。
「じゃあ、私入るから、じゃあ来てー、って言ったら来てね?」
茜が言った言葉に、カナは頷いた。
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