【完結】婚約破棄されたから静かに過ごしたかったけど無理でした -番外編-

かんな

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『私と貴方の恋の物語②』

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そして、レオナルド様とマリー様は婚約破棄をした。私が務めたのはカメラマンだ。仕事は至ってシンプルで、ただ二人の写真を取り続けるだけ。
二人というのは、マリー様と仕掛け人のジール様のことだ。


ジール様は所謂、浮気役だ。マリー様に惚れたふりをして、マリー様を口説く。そして、レオナルド様をどうでもよく思わせて、ジール様に夢中にさせる作戦だ。


その作戦が上手くいったようで、マリー様はすっかりジール様に夢中だ。
写真に写るマリー様はキラキラとした笑顔を浮かべていた。……まるで本当にジール様に恋をしているような表情だ。


……とゆうか、しているのだろう。まぁ、ジール様はかっこいいし。演技だと知っていても、ジール様がマリー様に恋しているのでは?と錯覚するのも無理ないだろう。


優しく、それでいて、甘いジール様の演技に私も騙されかけた。マリー様でなくとも、あんなイケメンに口説かれたら、落ちない女性はいないだろう。


写真のマリー様はとても幸せそうだ。……だけど、その幸せは長く続かない。だって、ジール様はレオナルド様の婚約者であるマリー様を口説いたのだから。


例え、これが演技だとしても。でも、それをマリー様は知らない。演技だと知らないから、マリー様の心はどんどんとジール様に傾いていく。
だけど、この恋は実らない。だってそれは仕組まれたことだから。


そう思うと、性格は悪いが、バカみたい、と笑えてしまう。……本当にバカみたいだ。
……まぁ、私はマリー様がどんな思いをしても、それは自業自得だと思うのだけど。


そんなことを思いながら私はまたカメラを撮っていた最中――。


「よー。カトリーヌ・エルノー!調子はどうだ?」


ワクワク、と効果音が付きそうなほど、無邪気な顔で私を覗き込んできたのは、クラウス様だった。子供のような無邪気な表情に、思わず私は笑いそうになる。
だけど、なんとか堪えて、私はレンズ越しにクラウス様を見た。


「……順調ですよ。クラウス様」


「そうか!それは良かった。……だけど、マリーは可哀想だなぁ」


クラウス様はマリー様の名を出した後、哀れみの視線を写真に向けた。そんなクラウス様の言葉に私は首をかしげる。


「……可哀想、ですか」


「そうだ。可哀想だろ?マリーは可哀想で側から見たら憐れな恋をしている訳だし?」


そう言ったけども、彼の言葉は笑みを含んでいた。その笑みはザマァみろ、と物語っていた。
……マリー様が憐れな恋をしている、か。それはそうかもしれないけど……もっと言い方というものが……いや、被害者なわけだし、別に言い過ぎではないか。


「……しかし、お前、上手いね。写真を撮るの。……お前、カメラマンだっけ?」


「いいえ。カメラマンではありません。しかし、将来そんな仕事をするのもいいな、とは思います」


私がそう言うとクラウス様はふーんと相槌を打った後、ふと意地悪げに笑った。そして、私に顔を近づけて言ったのだ。


「盗撮の才能があるよね。お前」


「……人聞き悪いです」


ジロリと睨みつける私に対し、涼しい顔をスルーしながら、クラウス様はこう言った。


「ま、そんなことより……」


そう言いながら写真を見つめるクラウス様。その笑みは悪戯を思いついた子供のような微笑みだ。


「……何ですか。その笑みは……」


「んー、別に?それより、お前ってさ……将来の夢とかあるの?ほら、昨日は慰謝料を貰ったらその後どうする?て聞いただろ?だから、将来の夢も聞きたくて」


ああ……そういや、昨日、そんなこと話したな。……しかし、将来の夢、ねぇ……。
将来何をやりたいか?と言われたら答えは色々ある。だけども、結局の所、答えなんか決まっているのだ。それは……


「魔法省です。魔法省で働きたいです」


「へぇ……魔法省?あそこって試験厳しいだろ?成績優秀だけじゃあそこは通れねーよ?」


その言葉は最もだと思う。魔法省は難関だ。試験だけではなく、実技もある。採用基準が高いし、一筋縄ではいかないだろう。
……だけど、魔法省で働いてみたいと私は思うのだ。


「勿論です。……でも、合格できるように努力はします」
「ふーん……ま、頑張れー」

適当な応援を受けながら、私はレンズ越しの写真を見つめる。……写真の中のマリー様は本当に幸せそうに見える。
その笑みが偽物だなんて、マリー様自身が知ったらどうなるのだろうか?そんなことを考えていると、クラウス様が口を開いた。


「本当に――バカだなぁ」


と、マリー様の写真を見て、クラウス様はそう呟いた。
……それは本当にバカにしているような口調ではなく、むしろ、その逆で――。
まるで哀れむような声だった。……でも、私はそんな声など聞こえない振りをして、写真を撮り続けたのだった。
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