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『ジョン・オルコットの話③』

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――そして数ヶ月が経った。季節は初夏。学園生活にも慣れてきた頃だ。
空は橙色に染まり、夕日が眩しく、馬車の窓から差し込む。


まるで空から絵の具が垂れ流されているような、そんな美しい夕焼けだった。
そんな空間の中――突然マークが口を開いた。


「そういえば……マリー・アルメイダとレオナルド様、婚約破棄をしたそうですよ」


淡々とそう告げるマークに、俺は思わず目を見開いてしまった。
……だってあまりにも急すぎるからだ。
数ヶ月前まであんなに仲睦まじくしていたのに……どうして急に婚約破棄なんかを。


と、いう混乱と……早くね?という気持ちが混雑し、思わず変な顔になってしまう。
それを横目で見たマークが、淡々とした口調でこう続けた。


「……婚約破棄するのが早くね、という顔をしていますね?私はわかっていましたよ。あの二人が……早々に別れることは」


淡々とそういったマーク。俺はその言葉に苦笑いを零しながら、


「…でも、兄は本気の恋だと言っていたし……女遊びが激しいとはいえ、今回は本気だったんじゃ……」


「レオナルド様が、本気で恋をしていた?ふふ……面白い冗談ですね」


俺の言葉を遮るように、マークはそう答えた。俺はその物言いに、思わず眉間に皺を寄せながら、


「冗談じゃなくてマジだよ。だって、あんなに仲睦まじくしていたし……今回は本気だとそう思っていたし…」


「……意外とジョン様ってブラコンですよね……あんなヤツを庇うなんて…」


同情するような目を向けてくるマークだが、俺は口を尖らすしかない。


「……別に庇ったつもりなんてねーぜ。ただ俺は信用したかっただけさ。兄を」


あんなに酷いことを言われた人でも俺は信用したい――と、言うのは、変なことだとは思うが、純粋に兄の才能には尊敬しているし。だからあの表情を見て、俺は確信したのだ。


――これは本気の目だ、と。


ただそれだけの、直感の話である。結果的に外してしまったわけだが……


「……そうですか……やはり、ジョン様はブラコンですよ」


淡々とそう言ったマーク。それは呆れたような視線だ。その視線に、俺はまた目を背けながら、


「(俺ってブラコンなの?……そんなことないと思うけど……)」


だって、俺は兄に馬鹿にされている。それは事実であり、俺は兄に対して尊敬の念はあれど、情は持ち合わせていない。
勉学も、武術も……全て兄の方が上であり、俺はいつも比べられる。
だから俺は兄が嫌いだ。大嫌いだ。


……だけども、武術は参考には出来る。剣を振るう姿は、誰よりも美しいと思うし、憧れている。ただそれだけの話である。


――だから、俺はブラコンではない。


と、それだけ言うと、マークは……


「ま、そういうことにしておきますか」


と、マークにしては珍しい含み笑いを浮かべていた。その態度に俺はまた唇を尖らせるが……これ以上、言葉を重ねればさらにからかわれるだけだろう。
そう判断した俺は、溜息をつきながら窓の外を眺めながら、


「(マークが従者ってことたまに忘れるな……)」


公の場では敬語を使いそこら辺は弁えているマーク。
だが、俺の前では少しばかり気が抜けて、本性が漏れている気がする。
それは、信頼されているからなのか……それともただ単に舐められているのか……


恐らく、どっちも。俺はマークに舐められているけども、同時に信用されている……と、そう思う。……多分。だが、それでいい。俺はマークを従者として信頼しているし。


……ただ、それだけの関係でいい。それだけでいいのだ。そう思っていると馬車が止まる。どうやら家についたらしい。
マークが馬車を降り、俺もそれに続くように馬車から降りる。そしていつものように俺は家に入ったのだった――。
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