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『ジール・カンタレラとローズ・カンタレラのその後の話①』

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俺――ジール・カンタレラは、特別な存在だ、と幼少期は、信じて疑わなかった。なにをやらせても完璧にこなせたし、どんな大人でも一目で気に入ってくれる魅力的な容姿をしていたし、どんな状況でもたいていのことは打開できた。


故に、俺は調子に乗った。
俺は特別で、なんでもできて当たり前で、だからどんな失敗も許されると。調子に乗っていた。少なくとも、中学生までは……そう思っていた。今思えば、青臭いガキの浅はかな思考だ。


そんなわけはない。俺は特別なんかではないし、なんでもできるわけでもない。
それを思い知ったのは、王立魔法学園で初めて来た入学テスト。


内容は筆記テストと実技テストの二つ。筆記テストは、それなりに勉強すれば誰でも点が取れる問題だ。
だが、実技テストは違う。魔法に関する知識や技術は一朝一夕で身につくものではなく、その点数は努力の証と言い換えてもいいだろう。


勿論、目標はどっちも一位を取ることだ。そのために俺は、入学前から必死に勉強してきた。そう、勉強し続けてきたのだ。


故に、今回も筆記テストも実技テストも、満点はとれなかったものの、それなりにいい点数で合格して見せると息巻いていたのだが……。
俺は一位ではなかった。


僅差で、二位だった。そして――一位は、


「(ローズ・デイル……)」


俺は特別で、なんでもできて当たり前で、努力すればすぐに、一位になれる…と…そう思っていたのに……!


「(ローズ・デイル!名前覚えたからな!)」


今思えば、ガキの癇癪以外の何物でもない。
しかし、当時の俺にとっては、それはどうしようもないほどの屈辱だった。


△▼△▼


――結局、あの後、ローズ・デイルには一度も勝てなかった。筆記テストにも、実技テストにも。そして――。


「好きです。ジール様」


――そして恋愛でも、俺はローズ・デイルに敗北したのだ。最早、彼女に勝つ要素は、何一つとして残っていなかった。


でも、それでいいのかもしれない。ローズ・デイルに勝てる存在など、存在するはずもないのだから。
彼女に比べれば俺なんて凡百の一人にすぎない。この身は、彼女の引き立て役に過ぎないのだ。


と、思っていたのに。


「………私も嫉妬していました。ジール様に」


まさかの、ローズ・デイルも俺に嫉妬していた……ことに驚いた。だってそうだろう?だって手に届かないと思っていた相手が自分に嫉妬するだなんて……可笑しな話だとそう思うのだが。


「……好きです。ジール様。」


恋焦がれるような、視線が理解ができなかった。だって、ライバル視していた相手が自分のことを好きとか……いや、好きだからこそライバル視していたのか……? わからない。


わからないから――俺は、ただローズ・デイルの言葉を反芻することしかできなかった。


△▼△▼


――どうして、こうなったのだろう。


「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も……愛し、敬い、慰め合い…その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

教会の神父様の言葉に、隣のローズが頷く。ローズはウェデングドレスを着ている。ローズの美貌と合わさって、まるで絵画を切り取ったかのように神々しく見える。


そう思いながら、俺は……

「誓います。」


――と言った。……そう。俺は今、教会で結婚式を挙げていた。
隣にいるのは、ローズ・デイル。俺の恋人で……そして今日から妻になる人だ。


「(ど、どうして……こうなったんだ?)」


それは三日前に遡る――。
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