【完結】婚約破棄されたから静かに過ごしたかったけど無理でした -番外編-

かんな

文字の大きさ
上 下
40 / 69

『ジールとローズの話⑨』

しおりを挟む

「――え?」


ジール様は驚いたような顔をしている。……それはそうだろう。いきなり、こんなことを言われたら驚くに決まっている。


けど、一度溢れたものを止める方法はなかった。私はジール様が好きだという自分の気持ちに嘘はつけなかったから。だから、溢れ出てくる気持ちを言葉にして伝えるしかないと思った。
……そして、私はそのまま言葉を続ける。
この気持ちを伝えるのは今しかないと思ったから。


「どうして……?ローズさんは俺のこと憎かったはずじゃ?今はなくとも、昔は俺のことを憎んでいただろう?そんな相手を好きになれるものなのかい?」


と、ジール様が言った。……確かにそうだ。憎かったのは事実だし、あの頃の私ならきっとジール様のことを好きになるなんてことはなかった。
でも、今は……違う。私はもう自分の気持ちに嘘はつけなかった。だから……
私は答える。自分の気持ちを隠さなかったから。


「ええ。学生時代は憎かったです。私が常に一位なのに周りにはジール様ばかり。私の周りには誰もいませんでした。私が一位なのに……」


憎しみ、嫉妬、憧れ……それら全てをこの一言に込めて私は言葉にする。
……そうだ。本当に昔はジール様が羨ましかったんだ。だから、妬ましくて憎くてしょうがなかった。私が一位なのに周りからは誰も見てくれなくて……悔しくてしょうがなかった。


だから努力した。努力して努力して努力して……そして、私は一位になった。けども、それでも周りは私を遠ざけた。一位になっても、一位になっても……私の周りには誰もいなかった。


一位というのは孤独。一位というのは孤高。それを私は嫌という程知った。だから、ジール様が羨ましくてしょうがなかった。二位だけども、ジール様の周りには常に人がいるから。
それが羨ましくて憎かった。そして、憎しみが憧れに変わっていき……いつしか恋心になっていたんだと私は思う。


学生時代はただ憎いだけだったのに、今はただただジール様のことが好き。
……思えば、学生時代から私はジール様のことが好きだったのかもしれない。でも、その頃の私はプライドが高すぎて素直になれなくて……その恋心を自覚できなかった。

自覚してなかったというか認めたくなかったんだ。だって、敵視していたジール様に恋心があるなんて認めるのが嫌だったから。
でも、もう私は自分の気持ちに嘘はつけなかったから。だから、素直にこの気持ちを言うしかなかったんだ。


「好きです。大好きです」


ジール様のことを考えてられいない告白をしているのは申し訳ないことをしていると心の底から思う。でも、もう私は自分の気持ちを偽れないから。

「……」


「……」

告白の返事を待つ。……拒絶しないで欲しいと思うのは我儘だと分かっている。でも、拒絶しないで欲しい。拒絶されたら立ち直れる気がしないから。
だって、私はジール様のことが好きで好きでたまらないのだから。

でも――。


「………ごめん」


と、ジール様は言う。……そこには困惑と……悲しみがあった。
……拒絶されるかもしれない、という予想はしていた。でも、実際に言われるとやっぱりショックだった。
でも、これは当然の結果で仕方ないことで……ジール様が謝ることではない。


「いえ。謝らないでください。こんな一方的な告白をしたのは私なんですから」


故に、涙を流す資格なんて私にはないのだから。だから、私は無理に笑う。
……それが私に出来る唯一のことだと思ったのだから。


「……いや、そういう意味じゃなくて。告白自体は嬉しかったし……俺だって、君のことが好きだよ」


「え」


その言葉に私は耳を疑った。……だって、ジール様は私のことなんて好きじゃないと思っていたから。故に、驚きの言葉しか出てこなかった。


「……でも、俺は君に釣り合わない。俺には誰かを愛する資格も愛される資格もないんだよ」


と、ジール様は言う。……それはまるで自分に自信がないような言い方。……正直意味は分からないけども、ジール様が何かしらのトラウマを抱えているのは確かなのだろう。
……まあ、それはどうでもいい。とりあえず言えることは――


「釣り合わないとかそんなのどうでもいいです。誰かに愛される資格とかどうでもいいです。私がジール様を好きな気持ちに嘘偽りはないんですから。そんなの資格なんていらないです」


キッパリと私は言う。……私の気持ちに嘘偽りはないから。
ジール様が好きだという気持ちに間違いはない。そんなことで否定される筋合いはないのだ。


「私が嫌いだというのなら諦めもつくのですが……そんな理由で私の告白を断らないでください。ジール様のことが大好きなのですから」


「……ごめん」


と、ジール様は言う。……その声のトーンからして反省はしていて、そして私を傷つけたことを後悔しているということが伝わってくる。
……だから私は言った。
ジール様が自分のしたことを後悔し、反省しているのならば……私が言うべきことは一つしかないから。
それは――


私はジール様に近づき、そしてそのまま抱きしめた。……それはまるで子供をあやすかのように。優しく包み込むように。
そして言うのだ。私の気持ちを――
と、その時だった。いきなり、私の唇は塞がれたのだった。……それはジール様の唇で。


突然のことで混乱した。……けども、同時に私は幸福感に包まれた。
だって、好きな人にキスされているのだから。


「俺も君のことが好きだ」


と、ジール様が言った。……その言葉が嘘ではないことはすぐに分かった。だって、ジール様の目は真剣で本気だったから。


「こんなやつを愛してくれるの?ローズさんは。俺、本当は嫉妬深くて重い男だよ?」


と、ジール様が言う。……私はそれを聞いて思わず笑ってしまった。


「同じです。だからよろしくお願いします」


即答。気持ちが同じなのに、遠慮する……とかそんな考えは持ち合わせていないし。


「………本当に付き合って後悔しないのなら……」


「ええ。後悔はしません。とゆうか、キスしたんだから責任とってください」


そう、キスしたんだから責任をとって欲しい。……私のファーストキスを奪ったのだから。


「だからジール様に拒否権なんてありません。……というより、拒否なんてしたら怒ります」


「そう、だよな。……うん。分かった」


と、ジール様は言った。……もう逃がさないよ。なんて思いながら私は微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。 本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...