【完結】婚約破棄されたから静かに過ごしたかったけど無理でした -番外編-

かんな

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『ジールとローズの話⑧』

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時間が止まるというのはまさにこういうことを言うのだろう。ピタリ、と私の体は石になったように動かなくなった。だってあまりにも予想不可能だったから。
嫉妬?ジール様が?私に?……なんで?


訳が分からない。だって、ジール・カンタレラは人気者。周りに人がたくさんいて、友人もたくさんいる。そんな人が私に嫉妬?ありえない。
私はジール様の言葉を疑った。だって、普段の彼を見ていれば……私とは住む世界が違う人だということは分かるから。


「ローズさんが来る前までは、僕が常に一位で僕の前には誰もいないと思っていたし、周りのことも見下してたんだよ。僕は天才だと、神童だと……なんでもできると思っていたんだ」


「……」


「けど、ローズさんが現れてから、僕は一位じゃなくなった。初めての二位。初めて誰かに負けたんだ。屈辱だったよ。一位じゃなかったことにね。だから、心の中で敵視してた。けど、ローズさんは興味なさそうにしていたから…悔しかったんだ。眼中に入ってないみたいで」


彼の語る言葉がどれも衝撃的すぎて、私は混乱している。
ジール様が私に嫉妬していたの?あんなに興味がなさそうにしていたのに?私のことなんて眼中になかったんじゃなくて、敵視していたの? 

そんなこと、信じられるわけがない。


「だから、僕もローズさんの真似をして、ローズさんに興味がないように振る舞ったんだ」


淡々と。彼は語り続ける。
彼が嘘をついているとは到底思えない。それは、彼の態度を見ていればわかることだ。だから、これは本当なのだろう。
でも……それでも信じられない。だって、私はジール様のことを敵視していたのに。


敵視しているのは私だけだと思っていた。ジール様は私のことなんて眼中に入れてないと、そう思っていた。だけど、違った。彼は彼で私のことを敵視していたんだ。そのことに、少し嬉しくなる。
けども……


「でも、その……ジール様は、周りに沢山の人に囲まれていて……私なんて眼中にないと思っていたので……。まさか、ジール様が私にそんなことを……?」


ジール様は人気者で、いつも周りには人がいて。二位であることにも、無頓着で興味がなさそうにしているから。
だから、私はジール様に嫉妬していたのに。ジール様も私のことを敵視していたなんて……。


「あんなの振る舞ってただけだ。本当は虚無感しかなかったし、嫉妬で気が狂いそうだった。…でも、表に出したらカッコ悪いだろう?だから、いつもと変わらないように振る舞ってただけさ」


さらりと、彼はそう言った。……私と同じだった。
私も嫉妬している、だなんて知られたらダサいと思ったから必死に隠していた。だから、いつもと変わらないようにしていただけ。
……なんだ。私たち、似た者同士だったんだ。
そう理解した瞬間、私は思わず笑ってしまった。


「笑うだろ?僕も、自分の行動が馬鹿らしくなったよ」


「いえ……私も同じでしたから。私もジール様のことを嫉妬してましたし、敵視もしてたので」


私がそう言うと、彼は少し驚いたような顔をした。まるで、信じられないというような顔をしていた。そして、


「そうだった……のかい?それは……」


ジール様は何かを言いかけている。だけども、何を言うのか。私にはよく分からなかった。
すると、ジール様は首を横に振って……


「……同じだったんだね」

と、笑った。
私はそれに対して頷く。同じだった……ということを改めて理解して、少し気恥ずかしくなる。だって……嫉妬していた話は学生時代限定だしこうやって言うのはなんだか気恥ずかしい。


「……でも、今は嫉妬していませんよ?だって、今も嫉妬していたら色々と……やばいでしょう?」


学生時代は子供だったからともかく、今はもう大人。流石にそこまで引きずっていたら色々とヤバいやつだし、大人として恥ずかしいだろう。
だから、私はもう嫉妬していない。ジール様に対しての感情は尊敬や憧れ……と、思っていたのだけども――。


「(あの一件で……恋だと自覚してしまったし)」


ラーメン屋で恋心を自覚するというなんともムードのない状況だったが……それでも、私は恋心を自覚してしまった。
それはまるで、魔法のように一瞬で……気づいたらもう後戻りできないところにいた。


「……好き」


無意識に溢れ出た。この言葉を言ったらもう戻れないのは自覚していたのに。けども、我慢できなかった。溢れ出てきたものが止まらなかった。


「私、ジール様のことが好きです」


……もう後戻りできない言葉を私はジール様に言っていた。
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