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『ジールとローズの話④』
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――胸が痛い、というのはまさにこういうことを言うのだと思う。私の心の中がズキズキと悲鳴を上げていた。
「ローズー?」
スティブーンの声が聞こえてくるけども、とてもじゃないけれど返事をする気にはなれなかった。
「全く、素直になったら?ローズ」
「……素直に?何を言ってるの?」
スティブーンが心配そうな顔で私の顔を覗き込む。いつもヘラヘラした笑顔ではなく、真面目な顔だ。
「だから、好きなんでしょう?ジールのこと。ささっと素直になれよー。見てるこっちだって、じれったくて仕方ない」
ため息を吐き、私はスティブーンから顔を逸らした。……だけど、彼の言葉は胸に突き刺さり、私の心をかき乱す。
……好きになんてなってない。ライバルだとは思っているけれど。
でも、最近変だ。彼に見つめられると、胸が痛い。彼が他の人と楽しそうに喋っていると、胸が痛い。嫌だ、という気持ちが溢れてくる。最初はライバルとして取られるのが嫌だと思っていた。
それはそれで子供っぽい理由だ、と思ったがそれで胸の痛みを正当化しようとしていたのだ。……そのときは。だけども、今は違う。
嫉妬だ。これはただの嫉妬なのだ。……そして、この感情を……
「何で……」
ズキンズキンと胸の痛みはどんどん増していく。……痛い。
胸が苦しい。……あの人に好きだと言われたい。
あの声で好きだと言って欲しい。……あの手で、触れて欲しい。
あの人に抱きしめられたい。……あの胸に飛び込んでみたい。
いろんな気持ちが溢れて止まらない。自分の中にこんな感情が眠っていたなんて、知らなかったし知りたくもなかった。
今更気付いてしまったこの感情に、私は戸惑う。
「……恋だろ。それは」
スティブーンの言葉に、否定が出来ない。違う、と言えない。だって違うと言ったら、自分に嘘を付くことになる。
「…私……」
恋をした……と私はゆっくりと呟いた。
私は恋をしたんだ。気づかなかった。否、気づかないフリをしていたのだ。……だって、彼とはライバルなのだ。だから……私はこの気持ちを知るべきではなかった。
……でも、知ってしまった。もう、戻れないのだ。……知ってしまったら、もう戻れないのだ。
恋をしてしまった私は、これからどうするべきなのだろう。
彼を見て、微笑んでみたいのに……彼を見ると胸が痛く、そして苦しくなってしまう。
この気持ちが恋だというのなら……
「こんな嫌な気持ちが恋なの?ずっと痛いのが恋なの?だとしたら……知りたくなかった」
本当に知りたくなかった。胸がドキドキして、ワクワクして……楽しくなるのが恋だと思っていた。なのに、現実は違う。苦しいだけだ。辛いだけだ。
もしこれが恋だというのなら……恋なんてしたくなかった。
彼の顔を見て話すのが恥ずかしい。彼の顔を見るだけでドキドキするから、彼の顔をまともに見れなくなった。
「……恋というのはそういうものさ。俺も経験したことあるわー」
「……それは嘘でしょう?あんたはいつも女を侍らせてるんだから」
「酷い言われよう……でも、本当だよ?恋って辛いし、苦しい。……でもさ、それも含めて恋だと思わない?楽しいことも嬉しいことも悲しいことも全部含めて恋なんだと思うなー」
「ああ。そうじゃ。坊ちゃんの言う通りじゃ。恋は楽しいことばかりではない。恋には辛いこともあれば、悲しいこともある。……だがな、その全てが恋なんじゃ」
唐突に横に現れた店主が、何故か腕を組んで頷く。……その言葉に私は頷くことしかできなかった。
「ローズー?」
スティブーンの声が聞こえてくるけども、とてもじゃないけれど返事をする気にはなれなかった。
「全く、素直になったら?ローズ」
「……素直に?何を言ってるの?」
スティブーンが心配そうな顔で私の顔を覗き込む。いつもヘラヘラした笑顔ではなく、真面目な顔だ。
「だから、好きなんでしょう?ジールのこと。ささっと素直になれよー。見てるこっちだって、じれったくて仕方ない」
ため息を吐き、私はスティブーンから顔を逸らした。……だけど、彼の言葉は胸に突き刺さり、私の心をかき乱す。
……好きになんてなってない。ライバルだとは思っているけれど。
でも、最近変だ。彼に見つめられると、胸が痛い。彼が他の人と楽しそうに喋っていると、胸が痛い。嫌だ、という気持ちが溢れてくる。最初はライバルとして取られるのが嫌だと思っていた。
それはそれで子供っぽい理由だ、と思ったがそれで胸の痛みを正当化しようとしていたのだ。……そのときは。だけども、今は違う。
嫉妬だ。これはただの嫉妬なのだ。……そして、この感情を……
「何で……」
ズキンズキンと胸の痛みはどんどん増していく。……痛い。
胸が苦しい。……あの人に好きだと言われたい。
あの声で好きだと言って欲しい。……あの手で、触れて欲しい。
あの人に抱きしめられたい。……あの胸に飛び込んでみたい。
いろんな気持ちが溢れて止まらない。自分の中にこんな感情が眠っていたなんて、知らなかったし知りたくもなかった。
今更気付いてしまったこの感情に、私は戸惑う。
「……恋だろ。それは」
スティブーンの言葉に、否定が出来ない。違う、と言えない。だって違うと言ったら、自分に嘘を付くことになる。
「…私……」
恋をした……と私はゆっくりと呟いた。
私は恋をしたんだ。気づかなかった。否、気づかないフリをしていたのだ。……だって、彼とはライバルなのだ。だから……私はこの気持ちを知るべきではなかった。
……でも、知ってしまった。もう、戻れないのだ。……知ってしまったら、もう戻れないのだ。
恋をしてしまった私は、これからどうするべきなのだろう。
彼を見て、微笑んでみたいのに……彼を見ると胸が痛く、そして苦しくなってしまう。
この気持ちが恋だというのなら……
「こんな嫌な気持ちが恋なの?ずっと痛いのが恋なの?だとしたら……知りたくなかった」
本当に知りたくなかった。胸がドキドキして、ワクワクして……楽しくなるのが恋だと思っていた。なのに、現実は違う。苦しいだけだ。辛いだけだ。
もしこれが恋だというのなら……恋なんてしたくなかった。
彼の顔を見て話すのが恥ずかしい。彼の顔を見るだけでドキドキするから、彼の顔をまともに見れなくなった。
「……恋というのはそういうものさ。俺も経験したことあるわー」
「……それは嘘でしょう?あんたはいつも女を侍らせてるんだから」
「酷い言われよう……でも、本当だよ?恋って辛いし、苦しい。……でもさ、それも含めて恋だと思わない?楽しいことも嬉しいことも悲しいことも全部含めて恋なんだと思うなー」
「ああ。そうじゃ。坊ちゃんの言う通りじゃ。恋は楽しいことばかりではない。恋には辛いこともあれば、悲しいこともある。……だがな、その全てが恋なんじゃ」
唐突に横に現れた店主が、何故か腕を組んで頷く。……その言葉に私は頷くことしかできなかった。
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