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『クラウス・フォンタナーの話①』
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俺の名前はクラウス・フォンタナー。俺はフォンタナー家ではめちゃくちゃ疎まれている。でもそれは仕方ないことなんだ。
俺は家族に愛されずに育ったから。
特に義母にはとても嫌われていた。
母は俺が4歳の時に亡くなった。病気だった。母のことを本気で愛していた父は俺を引き取ってはくれた。
だけども、引き取ってくれたのも、母のため。愛する母が産んだ俺を邪険にするわけにもいかなかった。ただそれだけのことだった。故に、俺の扱いは使用人以下。
俺はただ、その家に住まわせてもらっているという認識で生きてきた。
父は基本仕事で忙しく、家にいることも少なかったため、その間はいつも一人。使用人からも腫れ物のように扱われ、幼少期はほとんど一人で過ごしていた。
弟も義母も俺のことをバカにするように見てきてたし。使用人からは気持ち悪いと陰口を言われ、罵られ。
俺は誰からも愛してもらえず育った。
そしてその時に悟ったのだ。人は皆平等じゃないということを。
この世は決められた身分制度がある。貴族や王族などの上流階級の人間は生まれながらにして富を持ち、地位を持っている。対して平民はその日暮らしの生活をしているような人間が多い。
だから俺はきっと恵まれている。愛は貰えないけど、最低限の衣食住は与えてもらえる。それだけで幸福なことなのだ。
そう思って生きていたある日のこと。
俺に婚約者ができた。婚約者の名前はマリー・アルメイダ。とても美しい女性だ。彼女のことを初めて見た時、まるで女神のような美しさだと心の底から思った。そしてマリーも、俺に優しかったしいつも笑顔で接してくれた。
そんな彼女と婚約できたことは幸せ以外の何者でもなかった。
周りにどれだけ嫌われていようと、蔑ろにされようと、マリーさえいればそれでいいと思った。
「俺、マリーのこと好きだ」
「ふふっ。私もですわよ。クラウス様」
マリーと一緒にいる時間は楽しかった。ずっとこんな時間が続けば良いと思っていた。
だけど、俺はまだ知らなかった。マリーの〝本当〟の姿を……
△▼△▼
――時は流れ。マリーと俺は王立魔法学園に通うことになった。その間に色々とあった。俺が女装に目覚めてしまったり、女装仲間を見つけたり、マリーと出掛けたり……どれもこれも、かけがいのない思い出だ。
両親にも弟にも愛されてなかった俺だが、今となってはもうどうでもいいと思っている。だって、俺にはマリーがいるんだからな! マリーとならどんな困難も乗り越えられる気がする……否、絶対に二人で乗り越える!!
そう思っていた。今思うと、バカみたいだ。だって……マリーは俺のことなんて何とも思っていなかったのだから。そう気づいたのは、三年生になったある日のことだった。
最近、マリーに避けられている気がするのだ。話しかけても素っ気ないし、一緒にいてもすぐにどこかに行ってしまう。最初はたまたま用事があって忙しいのかと思っていた。だけども、あまりにも続くのでおかしいと思い始めた。
そしてそれは……
「ごめんなさい。クラウス様。貴方と婚約破棄したいのです」
「え……」
マリーの口から出た、衝撃的な言葉に、俺は思わず呆然とした。
な、なんで……どうしてなんだ!! 俺はずっとマリーのことが大好きだった。マリーも俺のことを好きだと言ってくれた。だから俺達はずっと一緒にいれると思ったのに!! なのに!なんでいきなり婚約破棄なんて言い出すんだよ!?そんなの、そんなの嫌に決まってるだろ!
「私はもう〝真実の愛〟を見つけました。だから……貴方とは結婚できません」
「〝真実の愛〟だと……?」
俺とは……真実の愛ではないと……そう言いたいの?確かにマリーと俺は仲睦まじい関係ではなかったかもしれない。だけども……俺達は愛し合ってたじゃないか!! それなのになんで……どうしてそんなことを言うんだよ!そう思っていると、
「お前がクラウス・フォンタナーか」
ジロリ……と睨みつけるような視線を向けてきたのは、マリーの隣にいた男性。金髪碧眼の美しい顔立ちの男性だった。
この男は確か……レオナルド・オルコット殿下。この国の第一王子だ。
「そ、そうですけど……殿下こそ、なぜこんなところに……」
ここでいる時点でわかっていたこと。でも、それでも俺は聞かずにいられなかった。現実逃避と言われようとも、認めたくはなかった。
しかし、現実は無情で残酷だ。
マリーは俺のことなんか見向きもせず、レオナルド殿下の元へ駆け寄った。
「マリーは俺の女になったんだ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべて、マリーの肩を抱くレオナルド殿下。そしてマリーも、
「はい……私はレオナルド様の妻になるのです」
うっとりとした顔で殿下にすり寄った。その仕草はとても愛らしくて、可憐で……だがしかし、今は憎悪しか感じなかった。
「……そうか。わかった。婚約破棄を受け入れよう」
本当は受け入れたくなどない。でも、俺はこの場にいたくなかっのだ。だから……受け入れるしかなかった。
そして、俺とマリーの婚約は破棄された。
△▼△▼
「(……最悪)」
フラフラとした足取りで、学院を彷徨っている。
何がいけなかったのだろうか……どこで間違えたんだろうか…?
わからない。わからないよ……。
俺はただマリーのことが好きで、愛されたくて、幸せになりたかっただけなのに……どうしてこうなってしまったの?
誰か……教えてくれよ……!そう思っていると、
「マリー様。クラウス様と婚約破棄したって本当なんですか?」
そんな声が聞こえてきた。そんな声が聞こえ、思わず、透明魔法をかけて、聞き耳を立てる。別に透明魔法を掛けたのだから普通に聞いても良かったのに。だけども、何だか怖くなって、つい隠れてしまった。
「ええ。言ってしまうと何ですけど、うざかったのです。レオナルド殿下に事情を話したら、レオナルド殿下の婚約者も悪女だったので、まとめて制裁しようってなって。それでクラウス様との婚約は破棄しましたわ」
……会話は入ってこない。ただひたすらに、マリーの冷たい声だけが脳内に響いた。
あぁ……そうか。そうだったんだ。俺の思いは何一つマリーに届いてなかったんだ。
それを知った瞬間、何かが崩れ落ちたような気がした。そして俺はマリーが去っていくのと同時に、その場から離れたのだった。
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ごめんなさい。間違えて消してしまったので再投稿です
俺は家族に愛されずに育ったから。
特に義母にはとても嫌われていた。
母は俺が4歳の時に亡くなった。病気だった。母のことを本気で愛していた父は俺を引き取ってはくれた。
だけども、引き取ってくれたのも、母のため。愛する母が産んだ俺を邪険にするわけにもいかなかった。ただそれだけのことだった。故に、俺の扱いは使用人以下。
俺はただ、その家に住まわせてもらっているという認識で生きてきた。
父は基本仕事で忙しく、家にいることも少なかったため、その間はいつも一人。使用人からも腫れ物のように扱われ、幼少期はほとんど一人で過ごしていた。
弟も義母も俺のことをバカにするように見てきてたし。使用人からは気持ち悪いと陰口を言われ、罵られ。
俺は誰からも愛してもらえず育った。
そしてその時に悟ったのだ。人は皆平等じゃないということを。
この世は決められた身分制度がある。貴族や王族などの上流階級の人間は生まれながらにして富を持ち、地位を持っている。対して平民はその日暮らしの生活をしているような人間が多い。
だから俺はきっと恵まれている。愛は貰えないけど、最低限の衣食住は与えてもらえる。それだけで幸福なことなのだ。
そう思って生きていたある日のこと。
俺に婚約者ができた。婚約者の名前はマリー・アルメイダ。とても美しい女性だ。彼女のことを初めて見た時、まるで女神のような美しさだと心の底から思った。そしてマリーも、俺に優しかったしいつも笑顔で接してくれた。
そんな彼女と婚約できたことは幸せ以外の何者でもなかった。
周りにどれだけ嫌われていようと、蔑ろにされようと、マリーさえいればそれでいいと思った。
「俺、マリーのこと好きだ」
「ふふっ。私もですわよ。クラウス様」
マリーと一緒にいる時間は楽しかった。ずっとこんな時間が続けば良いと思っていた。
だけど、俺はまだ知らなかった。マリーの〝本当〟の姿を……
△▼△▼
――時は流れ。マリーと俺は王立魔法学園に通うことになった。その間に色々とあった。俺が女装に目覚めてしまったり、女装仲間を見つけたり、マリーと出掛けたり……どれもこれも、かけがいのない思い出だ。
両親にも弟にも愛されてなかった俺だが、今となってはもうどうでもいいと思っている。だって、俺にはマリーがいるんだからな! マリーとならどんな困難も乗り越えられる気がする……否、絶対に二人で乗り越える!!
そう思っていた。今思うと、バカみたいだ。だって……マリーは俺のことなんて何とも思っていなかったのだから。そう気づいたのは、三年生になったある日のことだった。
最近、マリーに避けられている気がするのだ。話しかけても素っ気ないし、一緒にいてもすぐにどこかに行ってしまう。最初はたまたま用事があって忙しいのかと思っていた。だけども、あまりにも続くのでおかしいと思い始めた。
そしてそれは……
「ごめんなさい。クラウス様。貴方と婚約破棄したいのです」
「え……」
マリーの口から出た、衝撃的な言葉に、俺は思わず呆然とした。
な、なんで……どうしてなんだ!! 俺はずっとマリーのことが大好きだった。マリーも俺のことを好きだと言ってくれた。だから俺達はずっと一緒にいれると思ったのに!! なのに!なんでいきなり婚約破棄なんて言い出すんだよ!?そんなの、そんなの嫌に決まってるだろ!
「私はもう〝真実の愛〟を見つけました。だから……貴方とは結婚できません」
「〝真実の愛〟だと……?」
俺とは……真実の愛ではないと……そう言いたいの?確かにマリーと俺は仲睦まじい関係ではなかったかもしれない。だけども……俺達は愛し合ってたじゃないか!! それなのになんで……どうしてそんなことを言うんだよ!そう思っていると、
「お前がクラウス・フォンタナーか」
ジロリ……と睨みつけるような視線を向けてきたのは、マリーの隣にいた男性。金髪碧眼の美しい顔立ちの男性だった。
この男は確か……レオナルド・オルコット殿下。この国の第一王子だ。
「そ、そうですけど……殿下こそ、なぜこんなところに……」
ここでいる時点でわかっていたこと。でも、それでも俺は聞かずにいられなかった。現実逃避と言われようとも、認めたくはなかった。
しかし、現実は無情で残酷だ。
マリーは俺のことなんか見向きもせず、レオナルド殿下の元へ駆け寄った。
「マリーは俺の女になったんだ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべて、マリーの肩を抱くレオナルド殿下。そしてマリーも、
「はい……私はレオナルド様の妻になるのです」
うっとりとした顔で殿下にすり寄った。その仕草はとても愛らしくて、可憐で……だがしかし、今は憎悪しか感じなかった。
「……そうか。わかった。婚約破棄を受け入れよう」
本当は受け入れたくなどない。でも、俺はこの場にいたくなかっのだ。だから……受け入れるしかなかった。
そして、俺とマリーの婚約は破棄された。
△▼△▼
「(……最悪)」
フラフラとした足取りで、学院を彷徨っている。
何がいけなかったのだろうか……どこで間違えたんだろうか…?
わからない。わからないよ……。
俺はただマリーのことが好きで、愛されたくて、幸せになりたかっただけなのに……どうしてこうなってしまったの?
誰か……教えてくれよ……!そう思っていると、
「マリー様。クラウス様と婚約破棄したって本当なんですか?」
そんな声が聞こえてきた。そんな声が聞こえ、思わず、透明魔法をかけて、聞き耳を立てる。別に透明魔法を掛けたのだから普通に聞いても良かったのに。だけども、何だか怖くなって、つい隠れてしまった。
「ええ。言ってしまうと何ですけど、うざかったのです。レオナルド殿下に事情を話したら、レオナルド殿下の婚約者も悪女だったので、まとめて制裁しようってなって。それでクラウス様との婚約は破棄しましたわ」
……会話は入ってこない。ただひたすらに、マリーの冷たい声だけが脳内に響いた。
あぁ……そうか。そうだったんだ。俺の思いは何一つマリーに届いてなかったんだ。
それを知った瞬間、何かが崩れ落ちたような気がした。そして俺はマリーが去っていくのと同時に、その場から離れたのだった。
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