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『カトリーヌ・エルノーの話③』
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王宮の一室に移動した私たち。
部屋の中に入ると、そこはまるで会議室のような部屋だった。机と椅子が置かれており、窓際にソファーが置かれている。……なんだか緊張して来た。
エール様は私の向かい側の席に座ると、
「ねぇ、カトリーヌちゃん。私がいなくても平気?寂しくない?」
「え……急にどうしたんですか?」
「だってぇ~?私たち結構一緒にいたじゃない?今更上司が変わって大丈夫かなぁって」
エール様は不安そうな表情で私を見つめる。まぁ、私は人見知りだし、知らない人と話すのは苦手だけれど……。でも、
「大丈夫です。確かに寂しいですけど、エール様の将来を邪魔するようなことはしたくないですから……」
そう言うと、エール様は少し驚いたような顔をして、すぐに笑顔になった。そして私の頭を撫でながら言った。
「……そう……なら、結婚しちゃおっかなぁ……王太子嫌いじゃないし。カトリーヌちゃんが大丈夫なら行き遅れとかしたくないしね!」
「……行き遅れ……そうですよね……」
社交界に生きていくためには、やはり結婚相手を見つける必要があるし、貴族の娘として生まれた以上それは避けられないことだし。私だって、早く結婚したいと思うし。
「フールには感謝しないとねぇ。私もそろそろ結婚したかったし。フールに会ったらエール・バイエルは感謝しています!って伝えておいてね」
そう言ってエール様は去っていく。……確か、この仕事をした後は好きに過ごしていいって言っていたよね。……なら、家に帰ろうと……
「(何というか……どっと疲れたし……)」
たかが、一時間ぐらいしか経ってない上に資料を渡しただけなのに……何故こんなに疲れたのだろうか……運動不足なのだろうか?そんなことを考えながら私は王宮を後にしようとすると――。
「………おや。カトリーヌ嬢ではありませんか」
聞き覚えのある声がして、私は思わず振り返るとそこには――。
「あ……ジール様……!」
なんと、ジール様と遭遇してしまった。私が驚きの声を上げると、ジール様は微笑みを浮かべて、
「お久しぶりです。元気にしていましたか?」
「元気にしていましたわよ。ジール様」
「おー。何だ何だ!この子、ジールとどんな関係?」
私がそう言うのと同時に後ろにいたチャラ男が現れて、興味津々と言った様子で私とジール様を見ている。何だこのチャラとした茶髪男……。
「スティブーン。彼女は私の知人だからな?だからナンパはするんじゃねーぞ、俺の友人に怒られるからな」
「ええー!?何も言ってねーじゃん、第一、今は仕事中だし」
「あ……そうですわね。お邪魔しましたわ。それでは失礼しますね」
私はそう言って去っていく。そうだよね……ジール様たちは仕事中なわけだし、私が邪魔をしたら駄目だよね……
「……ああ。ではまた機会に会おう」
そう言ってジール様たちは去っていったのを見届けながら……
「……帰ろう……」
明日は仕事休みだし、家でゆっくり過ごそう。そう思いながら私は家路についたのであった。
△▼△▼
――あれから数ヶ月が経った。エール様は結婚し、魔法省を辞めて結婚していった。
あのときの幸せそうな顔を今でも思い出すことができる。私はそれを心の底で祝福し、そして羨ましく思った。だけども、私はきっと幸せな結婚なんて出来ないのだろうなと諦めていた。だって私には愛してくれる人がいないし……
〝婚約破棄〟騒動で私は腫れ物扱いだし、こんな私を貰ってくれる物好きなんて金目当て以外いないだろう……とそう思っていたのだが……
「おんぎゃあ、おんぎゃあーー」
まさか自分が赤ちゃんを産むとは思わなかった。それも義務感で産んだ子供ではなく、ちゃんと愛のある子供を産むとは思ってなかったし。
「……よしよし」
ミルクを与えながら私はため息を吐く。私は今子育てに奮闘中だ。最初は大変だったけど、今はもう慣れたし。
「……本当、クラウス様に感謝ね……」
私はぽつりと呟いた。そう、私が結婚した相手は、クラウス・ファンタナー様である。私の夫であり、この子の父親でもある。クラウス様はとてもいい人で、とても優しくしてくれた。
学生時代から私のこと好きになっていたらしいけども……
「(未だに、分からないわ。絶対に王立魔法学園にいた頃はクラウス様は私のことを女にすら見ていなかったはずなのに)」
一体いつの間に?……と今でもそう思っているし、何ならどうしてこうなったのか分からない。ただ、今幸せだし……別に気にしないでもいいかと思うことにした。
それに……そんなこと気にしている暇なんてないし、私にも色々とやらないといけないことがあるのだ。
まずはこの子――アルと名付けられた我が子をどうするかということ。
アルはまだ生まれて間もない赤ちゃんだ。これから成長するにつれて魔力も強くなっていくだろう。どうかこの子は……まともな人生を送って欲しいものだ。
婚約破棄なんてされず賢く、そして逞しく育って欲しいものだと思う。そして普通に結婚し、幸せになってほしい。そのためには私は頑張らないといけないし。
「(他人に流されたばかりの人生だったけども……この子には、自分で道を選んでもらいたい……!)」
それが私の願い。だから私はアルのことを必死に育てていくつもりだ。クラウス様が結婚した理由なんて今じゃどうでもいいし、この子が元気に生まれてくれただけで十分だと思えるくらい嬉しいことだから。
「……だから、お願い。貴方は……」
私みたいにならないでね……と、強くそう思った。
部屋の中に入ると、そこはまるで会議室のような部屋だった。机と椅子が置かれており、窓際にソファーが置かれている。……なんだか緊張して来た。
エール様は私の向かい側の席に座ると、
「ねぇ、カトリーヌちゃん。私がいなくても平気?寂しくない?」
「え……急にどうしたんですか?」
「だってぇ~?私たち結構一緒にいたじゃない?今更上司が変わって大丈夫かなぁって」
エール様は不安そうな表情で私を見つめる。まぁ、私は人見知りだし、知らない人と話すのは苦手だけれど……。でも、
「大丈夫です。確かに寂しいですけど、エール様の将来を邪魔するようなことはしたくないですから……」
そう言うと、エール様は少し驚いたような顔をして、すぐに笑顔になった。そして私の頭を撫でながら言った。
「……そう……なら、結婚しちゃおっかなぁ……王太子嫌いじゃないし。カトリーヌちゃんが大丈夫なら行き遅れとかしたくないしね!」
「……行き遅れ……そうですよね……」
社交界に生きていくためには、やはり結婚相手を見つける必要があるし、貴族の娘として生まれた以上それは避けられないことだし。私だって、早く結婚したいと思うし。
「フールには感謝しないとねぇ。私もそろそろ結婚したかったし。フールに会ったらエール・バイエルは感謝しています!って伝えておいてね」
そう言ってエール様は去っていく。……確か、この仕事をした後は好きに過ごしていいって言っていたよね。……なら、家に帰ろうと……
「(何というか……どっと疲れたし……)」
たかが、一時間ぐらいしか経ってない上に資料を渡しただけなのに……何故こんなに疲れたのだろうか……運動不足なのだろうか?そんなことを考えながら私は王宮を後にしようとすると――。
「………おや。カトリーヌ嬢ではありませんか」
聞き覚えのある声がして、私は思わず振り返るとそこには――。
「あ……ジール様……!」
なんと、ジール様と遭遇してしまった。私が驚きの声を上げると、ジール様は微笑みを浮かべて、
「お久しぶりです。元気にしていましたか?」
「元気にしていましたわよ。ジール様」
「おー。何だ何だ!この子、ジールとどんな関係?」
私がそう言うのと同時に後ろにいたチャラ男が現れて、興味津々と言った様子で私とジール様を見ている。何だこのチャラとした茶髪男……。
「スティブーン。彼女は私の知人だからな?だからナンパはするんじゃねーぞ、俺の友人に怒られるからな」
「ええー!?何も言ってねーじゃん、第一、今は仕事中だし」
「あ……そうですわね。お邪魔しましたわ。それでは失礼しますね」
私はそう言って去っていく。そうだよね……ジール様たちは仕事中なわけだし、私が邪魔をしたら駄目だよね……
「……ああ。ではまた機会に会おう」
そう言ってジール様たちは去っていったのを見届けながら……
「……帰ろう……」
明日は仕事休みだし、家でゆっくり過ごそう。そう思いながら私は家路についたのであった。
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あのときの幸せそうな顔を今でも思い出すことができる。私はそれを心の底で祝福し、そして羨ましく思った。だけども、私はきっと幸せな結婚なんて出来ないのだろうなと諦めていた。だって私には愛してくれる人がいないし……
〝婚約破棄〟騒動で私は腫れ物扱いだし、こんな私を貰ってくれる物好きなんて金目当て以外いないだろう……とそう思っていたのだが……
「おんぎゃあ、おんぎゃあーー」
まさか自分が赤ちゃんを産むとは思わなかった。それも義務感で産んだ子供ではなく、ちゃんと愛のある子供を産むとは思ってなかったし。
「……よしよし」
ミルクを与えながら私はため息を吐く。私は今子育てに奮闘中だ。最初は大変だったけど、今はもう慣れたし。
「……本当、クラウス様に感謝ね……」
私はぽつりと呟いた。そう、私が結婚した相手は、クラウス・ファンタナー様である。私の夫であり、この子の父親でもある。クラウス様はとてもいい人で、とても優しくしてくれた。
学生時代から私のこと好きになっていたらしいけども……
「(未だに、分からないわ。絶対に王立魔法学園にいた頃はクラウス様は私のことを女にすら見ていなかったはずなのに)」
一体いつの間に?……と今でもそう思っているし、何ならどうしてこうなったのか分からない。ただ、今幸せだし……別に気にしないでもいいかと思うことにした。
それに……そんなこと気にしている暇なんてないし、私にも色々とやらないといけないことがあるのだ。
まずはこの子――アルと名付けられた我が子をどうするかということ。
アルはまだ生まれて間もない赤ちゃんだ。これから成長するにつれて魔力も強くなっていくだろう。どうかこの子は……まともな人生を送って欲しいものだ。
婚約破棄なんてされず賢く、そして逞しく育って欲しいものだと思う。そして普通に結婚し、幸せになってほしい。そのためには私は頑張らないといけないし。
「(他人に流されたばかりの人生だったけども……この子には、自分で道を選んでもらいたい……!)」
それが私の願い。だから私はアルのことを必死に育てていくつもりだ。クラウス様が結婚した理由なんて今じゃどうでもいいし、この子が元気に生まれてくれただけで十分だと思えるくらい嬉しいことだから。
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