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『ジール・カンタレラの話④』
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あの後のことは知らない。でも、クラウスとカトリーヌ嬢の距離が縮まっているのではなく、逆に遠のいていた。
だが、そんなことは僕に知ったことではない。それに……
「ジール様。今よろしいでしょうか?」
ローズ・デイルが話しかけてきたので、そちらに視線を向ける。
ローズ・デイルはいつものように無表情で、何を考えているかわからない。
「……何でしょうか?ローズさん」
思えばローズ・デイルとまともに話したことは一度もなかった。いつも無表情で何を考えているのかわからないし、僕に対して何も言ってこないし、僕も話したくなかったので、話す機会なんてなかったし。
「私と勝負して頂けませんか?そろそろ卒業するわけですし」
え……?今なんと言った?この人。
思わず僕はポカンとした顔になってしまう。だっていきなり勝負を申し込まれたら誰でも驚くだろう。
それにローズ・デイルは僕に興味なんてないと思っていた。いつも涼しい顔して僕を圧倒的な差を魅せつけてくる上に僕に対して興味なさそうだったから。
だから正直驚いた。
「(こいつ……何を考えてるんだ?)」
無表情なせいもあって、考えが全く読めない……だが、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「……わかった。やろう」
僕は承諾した。ローズ・デイルが何を考えていようと関係ない。だってローズ・デイルがどう思っていようが関係ない。
ただ僕の全力をぶつけられる相手を見つけたから。
理由なんてそれだけで充分だ……と、俺はそう思ったから。
△▼△▼
勝負の内容はシンプルに剣の打ち合いをするだけ。互いに木刀を持ち、構え合う。
「始め!」
審判役の生徒が声を上げると同時にローズ・デイルが動く。
一気に距離を詰めてきて鋭い一撃を放ってきた。
速い! その速さに一瞬驚きつつも、僕はそれを受け止めて反撃に転じる。
隙がない。
完璧な防御をしているローズ・デイルに対し、僕は少し焦りを感じた。
だけど、ここで諦めたら今までやってきたことが無駄になる。
「……っ!」
「ジール様。頑張ってください~!」
応援の声が聞こえてくる。応援は今は邪魔なので無視しながら、僕は攻撃を続けた。ローズ・デイルも同じように攻撃をしてくる。
激しい攻防が続いた。互いの実力はほぼ互角と言っていいほど拮抗している。
そして、それは唐突に終わりを迎えた。
「あ、あのもう止めましょうよ……!」
審判役の生徒の言葉でピタッと動きを止める。気付けばもう夕方になっていた。
勝負に夢中になっていて気付かなかったが、かなりの時間戦っていたようだ。
「……もう夕方ですし、引き分けにしませんか……?」
審判役は疲れたような声で提案してきた。確かにこれ以上続けても決着がつくとは思えない。……仕方ないか。
そう思いながら僕は木刀を下ろした。すると、ローズ・デイルも同時に木刀を下げる。
彼女は無表情のまま僕を見た。
「ジール様、ありがとうございました。また機会があったら勝負しましょう」
それだけ言うと、彼女は去っていった。
ローズ・デイルが去った後、僕はその場に座り込んだ。そして、空を見上げる。綺麗な夕焼け空だ。
「はぁ……疲れた……」
正直かなりギリギリだったと思う。あの速さは異常だし、攻撃も正確で隙がない。本当に強かったな……と改めて思った。後もう少ししたら負けていたかもしれない。
だけど、それ以上に楽しかった。全力で戦える相手と出会えたことが嬉しかったから。
だから僕は思わず笑みを浮かべてしまうのだった……。
だが、そんなことは僕に知ったことではない。それに……
「ジール様。今よろしいでしょうか?」
ローズ・デイルが話しかけてきたので、そちらに視線を向ける。
ローズ・デイルはいつものように無表情で、何を考えているかわからない。
「……何でしょうか?ローズさん」
思えばローズ・デイルとまともに話したことは一度もなかった。いつも無表情で何を考えているのかわからないし、僕に対して何も言ってこないし、僕も話したくなかったので、話す機会なんてなかったし。
「私と勝負して頂けませんか?そろそろ卒業するわけですし」
え……?今なんと言った?この人。
思わず僕はポカンとした顔になってしまう。だっていきなり勝負を申し込まれたら誰でも驚くだろう。
それにローズ・デイルは僕に興味なんてないと思っていた。いつも涼しい顔して僕を圧倒的な差を魅せつけてくる上に僕に対して興味なさそうだったから。
だから正直驚いた。
「(こいつ……何を考えてるんだ?)」
無表情なせいもあって、考えが全く読めない……だが、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「……わかった。やろう」
僕は承諾した。ローズ・デイルが何を考えていようと関係ない。だってローズ・デイルがどう思っていようが関係ない。
ただ僕の全力をぶつけられる相手を見つけたから。
理由なんてそれだけで充分だ……と、俺はそう思ったから。
△▼△▼
勝負の内容はシンプルに剣の打ち合いをするだけ。互いに木刀を持ち、構え合う。
「始め!」
審判役の生徒が声を上げると同時にローズ・デイルが動く。
一気に距離を詰めてきて鋭い一撃を放ってきた。
速い! その速さに一瞬驚きつつも、僕はそれを受け止めて反撃に転じる。
隙がない。
完璧な防御をしているローズ・デイルに対し、僕は少し焦りを感じた。
だけど、ここで諦めたら今までやってきたことが無駄になる。
「……っ!」
「ジール様。頑張ってください~!」
応援の声が聞こえてくる。応援は今は邪魔なので無視しながら、僕は攻撃を続けた。ローズ・デイルも同じように攻撃をしてくる。
激しい攻防が続いた。互いの実力はほぼ互角と言っていいほど拮抗している。
そして、それは唐突に終わりを迎えた。
「あ、あのもう止めましょうよ……!」
審判役の生徒の言葉でピタッと動きを止める。気付けばもう夕方になっていた。
勝負に夢中になっていて気付かなかったが、かなりの時間戦っていたようだ。
「……もう夕方ですし、引き分けにしませんか……?」
審判役は疲れたような声で提案してきた。確かにこれ以上続けても決着がつくとは思えない。……仕方ないか。
そう思いながら僕は木刀を下ろした。すると、ローズ・デイルも同時に木刀を下げる。
彼女は無表情のまま僕を見た。
「ジール様、ありがとうございました。また機会があったら勝負しましょう」
それだけ言うと、彼女は去っていった。
ローズ・デイルが去った後、僕はその場に座り込んだ。そして、空を見上げる。綺麗な夕焼け空だ。
「はぁ……疲れた……」
正直かなりギリギリだったと思う。あの速さは異常だし、攻撃も正確で隙がない。本当に強かったな……と改めて思った。後もう少ししたら負けていたかもしれない。
だけど、それ以上に楽しかった。全力で戦える相手と出会えたことが嬉しかったから。
だから僕は思わず笑みを浮かべてしまうのだった……。
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