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八話 『困惑』
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翌日、会社に行くと早速私の席には書類が山積みされていた。
その日は午前中から午後にかけて、私は忙しかった。電話の応対に追っかけられ、書類を処理し、机上を整理し、課長や係長から質問され、その度に説明して、また仕事に取りかかった。
忙しいけども、佐藤先輩のことを考える余裕がないのはいいのかもしれない。私はそんなふうにも思ったりした。
「桜田ー、お疲れー」
佐藤先輩の声がした。ビクッと肩を動かして振り向くと、いつの間にか背後に立っていた。
私は慌てて挨拶をした。
「お、おはよう……ございます……先輩……あの。昨日は……」
「………ごめん、昨日は。…でも、俺本気の告白だから真剣に考えてほしいんだ」
有無を言わさぬ迫力でそう言われて、私は何も言えなくなった。
△▼△▼
「佐藤先輩は私のお弁当を食べてもらうの!」
「はぁー!?佐藤先輩は私のお弁当を……!」
バチバチと火花を散らす女子社員二人を前に私はずっと考え事をしている。佐藤先輩との告白の返事をどうすればいいのかということをずっと考えている。
「…あ、あの!佐藤先輩って今彼女いますか!?」
不意に、隣のデスクに座っている女性社員が立ち上がり、佐藤先輩にそう聞いていた。みんな、『急に何を言っているの!?』という視線を彼女に向けている。
しかし彼女は全く気にしていないようで、目をキラキラさせながら答えを待っている一方で……
「貴方、急に何言ってるの?」
佐藤先輩のファンクラブ会長でもある先輩が怖い顔をしながらそう言っているが、ソワソワしているのは隠しきれていないようだ。
この場面で胃が痛いのはきっと私だけだろう。
大半は、佐藤先輩が何を言うのかワクワクしながら聞いているだけだ。
「いないよ。……今はね」
――その言葉を聞いた瞬間、みんな騒めく。そりゃそうだ。だって、この口ぶりだとまるですぐにでも彼女ができるみたいな言い方だし……。そしてそれはつまり私はもう逃げられないということだ。
「今はねってことは………!すぐにでも彼女ができるんですか?!」
「おそらく、ね」
キャアァァァ!!という黄色い声が上がる中、私はただ呆然としていた。
こんな状況で一体どうやって断ればいいのだろうか。そもそも、断ったところで諦めてくれるような人なのだろうか。頭の中でシミュレーションをしていたことが全て無駄になっていく感じがして更に頭が痛くなった。
△▼△▼
折角、菜乃花に相談したのに……結局こうなる運命だったのかな。
「はぁ……運、なさすぎ」
何で、あんなこと聞いたんだ、あの女は……!クソが……!! 苛立ちを抑えつつ、私は家に帰ってから考えることにしようと思ってたこと。
「あ……」
「え……た、拓海くん……?ど、どうしてここに……」
拓海くんが目の前にいる。何だか、オドオドしている。一体どうしたというのだろう?
「………っ。華恋さん……あの、ごめんなさい」
「へ……?ど、どうして謝るの……?」
どうして……謝られたのだろう。拓海くんには悪いところなんてないはず。……どうしてそんなことを言ったの?理由が全くわからなくて、私は首を傾げることしか出来なかった。
「今から言うことで華恋さんのことさらに傷つけると思う。でも、僕は……この気持ちを抑えたくない」
……嫌な予感がした。何か、胸がざわつくような……そんな嫌な感じの。
私はゴクリと息を飲んだ。心臓がバクバクしているのがわかるくらい、緊張していたし動揺もしていた。何を言われるのか、見当もつかなくて。
「………ぼ、僕華恋さんのこと好きです!!」
大声で、そして顔を真っ赤にしながら言う拓海くんに対して、
「え?」
と、困惑することしかできなかった。
その日は午前中から午後にかけて、私は忙しかった。電話の応対に追っかけられ、書類を処理し、机上を整理し、課長や係長から質問され、その度に説明して、また仕事に取りかかった。
忙しいけども、佐藤先輩のことを考える余裕がないのはいいのかもしれない。私はそんなふうにも思ったりした。
「桜田ー、お疲れー」
佐藤先輩の声がした。ビクッと肩を動かして振り向くと、いつの間にか背後に立っていた。
私は慌てて挨拶をした。
「お、おはよう……ございます……先輩……あの。昨日は……」
「………ごめん、昨日は。…でも、俺本気の告白だから真剣に考えてほしいんだ」
有無を言わさぬ迫力でそう言われて、私は何も言えなくなった。
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「佐藤先輩は私のお弁当を食べてもらうの!」
「はぁー!?佐藤先輩は私のお弁当を……!」
バチバチと火花を散らす女子社員二人を前に私はずっと考え事をしている。佐藤先輩との告白の返事をどうすればいいのかということをずっと考えている。
「…あ、あの!佐藤先輩って今彼女いますか!?」
不意に、隣のデスクに座っている女性社員が立ち上がり、佐藤先輩にそう聞いていた。みんな、『急に何を言っているの!?』という視線を彼女に向けている。
しかし彼女は全く気にしていないようで、目をキラキラさせながら答えを待っている一方で……
「貴方、急に何言ってるの?」
佐藤先輩のファンクラブ会長でもある先輩が怖い顔をしながらそう言っているが、ソワソワしているのは隠しきれていないようだ。
この場面で胃が痛いのはきっと私だけだろう。
大半は、佐藤先輩が何を言うのかワクワクしながら聞いているだけだ。
「いないよ。……今はね」
――その言葉を聞いた瞬間、みんな騒めく。そりゃそうだ。だって、この口ぶりだとまるですぐにでも彼女ができるみたいな言い方だし……。そしてそれはつまり私はもう逃げられないということだ。
「今はねってことは………!すぐにでも彼女ができるんですか?!」
「おそらく、ね」
キャアァァァ!!という黄色い声が上がる中、私はただ呆然としていた。
こんな状況で一体どうやって断ればいいのだろうか。そもそも、断ったところで諦めてくれるような人なのだろうか。頭の中でシミュレーションをしていたことが全て無駄になっていく感じがして更に頭が痛くなった。
△▼△▼
折角、菜乃花に相談したのに……結局こうなる運命だったのかな。
「はぁ……運、なさすぎ」
何で、あんなこと聞いたんだ、あの女は……!クソが……!! 苛立ちを抑えつつ、私は家に帰ってから考えることにしようと思ってたこと。
「あ……」
「え……た、拓海くん……?ど、どうしてここに……」
拓海くんが目の前にいる。何だか、オドオドしている。一体どうしたというのだろう?
「………っ。華恋さん……あの、ごめんなさい」
「へ……?ど、どうして謝るの……?」
どうして……謝られたのだろう。拓海くんには悪いところなんてないはず。……どうしてそんなことを言ったの?理由が全くわからなくて、私は首を傾げることしか出来なかった。
「今から言うことで華恋さんのことさらに傷つけると思う。でも、僕は……この気持ちを抑えたくない」
……嫌な予感がした。何か、胸がざわつくような……そんな嫌な感じの。
私はゴクリと息を飲んだ。心臓がバクバクしているのがわかるくらい、緊張していたし動揺もしていた。何を言われるのか、見当もつかなくて。
「………ぼ、僕華恋さんのこと好きです!!」
大声で、そして顔を真っ赤にしながら言う拓海くんに対して、
「え?」
と、困惑することしかできなかった。
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