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一話 『始まり』
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私の名前は桜田華恋。今年で社会人二年目になる二十四歳だ。昔は小説家でちょっと名を馳せたこともあったのだが、今はもうそんなことはないただの一般人だ。彼氏も、昔付き合っていたが別れたし。
妹は彼女がいて、しかも結婚するらしい。まぁ、あの彼女さんならお似合いだろうなと素直に思う。
そして何より、妹……菜乃花が羨ましいのだと思う。だって、私が好きな人に告白されて付き合うことができたのだから……
そのせいで苦しんだこともあったらしいけど、今は幸せそうで本当に良かったと思う。
菜乃花は自分のこと〝平凡〟とか言っていたけれど、全然違う。私と違ってとても可愛くて愛想もいい。それに料理もできるし、掃除洗濯なんでもござれだ。
両親は海外出張中で家にはいないことが多く、実質家事全般を1人でこなしている。……そして私も小説のことでいっぱいいっぱいだったからか、家事が壊滅的にできないのだ。
きっと一人暮らしを始めたらすぐに部屋が汚くなるに違いない。…ため息を吐くのと同時に
「……華恋さん、おはようございまーす!」
そんな元気な声が聞こえてきた。振り返るとそこには……
「あら。拓海くん!おはよう」
神崎拓海くん。近所に住む同い年の男の子だ。今年で高一になったばかりの男の子で私はこの子のことを弟のようだと思っている。
「華恋さん、今日もお仕事頑張ってね!!」
「ありがとう。頑張るよ~。拓海くんも学校頑張ってねー」
私はそう言って拓海くんの頭を撫でた。すると彼は嬉しそうな顔でニコッと笑う。……ほんっと可愛いわね。癒されるわ。
「で、では、僕はここで!行ってきます!!」
「はい、行ってらっしゃい~」
私は手を振って彼を見送りながらも、私も会社に向かった。
△▼△▼
私の勤め先は小さな会社。従業員も少ないし、社長さんも気さくでいい人なのだが、給料は安い。だけど、生活していけない程度ではないから文句はないけど。
「桜田さん。今日の書類確認お願いします」
そして今日も私は仕事をこなす。……あぁ、早く帰って本を読みたいな。なんて毎日のように思っている。仕事なんてしなくても生きていけたらどんなに楽なんだろうか? でも、現実問題そんなことはできないわけだし……。
そんなことを考えながら仕事をしていると、
「先輩ー。休み時間ですよー?」
……後輩の子が話しかけてきた。
彼女は入社した時からずっと一緒の子だ。私より二つ下の後輩……名前は美奈ちゃんだ。美奈ちゃんはとても気が利く良い子だ。
サラサラとした黒髪ロングヘア。大きな瞳はパッチリしていて二重だ。肌も綺麗でスタイルも良い。この会社の〝お姫様〟と呼ばれている存在なのだ。
小説や漫画ならこういう子は性格が悪いってことが多いんだけど、彼女は良い子で気配りがとても上手く、周りから慕われている。……ほんと、私なんかと大違いだ。
「先輩ー?聞いてますぅ?」
ぼーっとしていた私に気づいたのか、美奈ちゃんが私の顔を覗き込んでくる。……近っ!ちょっとドキドキするからやめて欲しいんだけどなぁ。
私は慌てて返事をしながら、
「ああ、ごめん、ごめん。ぼーっとしてた。」
そう言って苦笑いをした。すると美奈ちゃんは小さくため息を吐きながらも、
「もうー。先輩ってば。仕事に一生懸命なのはいいですけど、ちゃんと休憩時間には休憩してくださいね?先輩は真面目だからつい色々頑張っちゃうと思いますけど、適度に休んでくださいね?」
「うん、ありがとう。今日はちょっと疲れちゃったから、早めに帰ろうかな。」
「はい、そうしてください!先輩はいつも頑張りすぎです。……でも先輩のそういうところ、私は尊敬しますよ?」
美奈ちゃんはそう言って微笑んだ。……なんかちょっと恥ずかしいな。私は照れ笑いしながら、美奈ちゃんとお昼を食べた。
△▼△▼
仕事が終わり、帰る途中。私はコンビニによってアイスを買って、家に帰ろうとしていた。
……今日は早く帰れたから、本でも読もうかな?あ、そういえば新しい本をこの前買ったんだった。
私はウキウキしながら家に向かって歩いていた途中――。
「あ、華恋さん。今帰りですか?」
「あら。拓海くん。そうね、今帰りよ」
嬉しそうに話しかけてくる男の子――拓実くんに笑顔で返事をする。
「そうですか。僕も今帰りなんですよ」
彼はにこにこ笑いながら話しかけてきた。……なんか子犬みたいで可愛いなぁ。撫でたくなるわ。
「そっか。拓海くんは部活入ってるものねぇ。お疲れ様」
「はい。ありがとうございます」
……ん?なんか元気なくない?気のせいか……?私はチラッと彼の様子を伺う。すると、彼は少し悲しげな顔をしていた。……どうしたんだろう?元気がないような気がするんだけど……。
「華恋さん、あの……」
「あーー!拓海ー!こんなところいたー!」
拓海くんの後ろから聞こえた声。拓海くんと同じ制服の女の子が走ってくるのが見えた。
拓海くんと同じ学校の制服だ。髪をポニーテールにして、活発そうな子だなと思った。彼女は少し息を切らせながら私達の前に立つと、
「もー!探したんだからね?部活が終わったらささっと帰るし」
……顔を赤くし、満更でもなさそうな表情。これは……あれだな。
「(恋する乙女の表情だ)」
……うん、間違いないな。この女の子は拓海くんのことが好きなんだなと思った。だとしたら、邪魔しちゃいけないなと思い、私は……
「あー。じゃあ、私はこれで……」
邪魔者はささっと立ち去るに限る。そう思い、立ち去った。
「あ……」
拓海くんが小さく声を出した気がするけど、聞こえないふりをして私はその場を後にした。
妹は彼女がいて、しかも結婚するらしい。まぁ、あの彼女さんならお似合いだろうなと素直に思う。
そして何より、妹……菜乃花が羨ましいのだと思う。だって、私が好きな人に告白されて付き合うことができたのだから……
そのせいで苦しんだこともあったらしいけど、今は幸せそうで本当に良かったと思う。
菜乃花は自分のこと〝平凡〟とか言っていたけれど、全然違う。私と違ってとても可愛くて愛想もいい。それに料理もできるし、掃除洗濯なんでもござれだ。
両親は海外出張中で家にはいないことが多く、実質家事全般を1人でこなしている。……そして私も小説のことでいっぱいいっぱいだったからか、家事が壊滅的にできないのだ。
きっと一人暮らしを始めたらすぐに部屋が汚くなるに違いない。…ため息を吐くのと同時に
「……華恋さん、おはようございまーす!」
そんな元気な声が聞こえてきた。振り返るとそこには……
「あら。拓海くん!おはよう」
神崎拓海くん。近所に住む同い年の男の子だ。今年で高一になったばかりの男の子で私はこの子のことを弟のようだと思っている。
「華恋さん、今日もお仕事頑張ってね!!」
「ありがとう。頑張るよ~。拓海くんも学校頑張ってねー」
私はそう言って拓海くんの頭を撫でた。すると彼は嬉しそうな顔でニコッと笑う。……ほんっと可愛いわね。癒されるわ。
「で、では、僕はここで!行ってきます!!」
「はい、行ってらっしゃい~」
私は手を振って彼を見送りながらも、私も会社に向かった。
△▼△▼
私の勤め先は小さな会社。従業員も少ないし、社長さんも気さくでいい人なのだが、給料は安い。だけど、生活していけない程度ではないから文句はないけど。
「桜田さん。今日の書類確認お願いします」
そして今日も私は仕事をこなす。……あぁ、早く帰って本を読みたいな。なんて毎日のように思っている。仕事なんてしなくても生きていけたらどんなに楽なんだろうか? でも、現実問題そんなことはできないわけだし……。
そんなことを考えながら仕事をしていると、
「先輩ー。休み時間ですよー?」
……後輩の子が話しかけてきた。
彼女は入社した時からずっと一緒の子だ。私より二つ下の後輩……名前は美奈ちゃんだ。美奈ちゃんはとても気が利く良い子だ。
サラサラとした黒髪ロングヘア。大きな瞳はパッチリしていて二重だ。肌も綺麗でスタイルも良い。この会社の〝お姫様〟と呼ばれている存在なのだ。
小説や漫画ならこういう子は性格が悪いってことが多いんだけど、彼女は良い子で気配りがとても上手く、周りから慕われている。……ほんと、私なんかと大違いだ。
「先輩ー?聞いてますぅ?」
ぼーっとしていた私に気づいたのか、美奈ちゃんが私の顔を覗き込んでくる。……近っ!ちょっとドキドキするからやめて欲しいんだけどなぁ。
私は慌てて返事をしながら、
「ああ、ごめん、ごめん。ぼーっとしてた。」
そう言って苦笑いをした。すると美奈ちゃんは小さくため息を吐きながらも、
「もうー。先輩ってば。仕事に一生懸命なのはいいですけど、ちゃんと休憩時間には休憩してくださいね?先輩は真面目だからつい色々頑張っちゃうと思いますけど、適度に休んでくださいね?」
「うん、ありがとう。今日はちょっと疲れちゃったから、早めに帰ろうかな。」
「はい、そうしてください!先輩はいつも頑張りすぎです。……でも先輩のそういうところ、私は尊敬しますよ?」
美奈ちゃんはそう言って微笑んだ。……なんかちょっと恥ずかしいな。私は照れ笑いしながら、美奈ちゃんとお昼を食べた。
△▼△▼
仕事が終わり、帰る途中。私はコンビニによってアイスを買って、家に帰ろうとしていた。
……今日は早く帰れたから、本でも読もうかな?あ、そういえば新しい本をこの前買ったんだった。
私はウキウキしながら家に向かって歩いていた途中――。
「あ、華恋さん。今帰りですか?」
「あら。拓海くん。そうね、今帰りよ」
嬉しそうに話しかけてくる男の子――拓実くんに笑顔で返事をする。
「そうですか。僕も今帰りなんですよ」
彼はにこにこ笑いながら話しかけてきた。……なんか子犬みたいで可愛いなぁ。撫でたくなるわ。
「そっか。拓海くんは部活入ってるものねぇ。お疲れ様」
「はい。ありがとうございます」
……ん?なんか元気なくない?気のせいか……?私はチラッと彼の様子を伺う。すると、彼は少し悲しげな顔をしていた。……どうしたんだろう?元気がないような気がするんだけど……。
「華恋さん、あの……」
「あーー!拓海ー!こんなところいたー!」
拓海くんの後ろから聞こえた声。拓海くんと同じ制服の女の子が走ってくるのが見えた。
拓海くんと同じ学校の制服だ。髪をポニーテールにして、活発そうな子だなと思った。彼女は少し息を切らせながら私達の前に立つと、
「もー!探したんだからね?部活が終わったらささっと帰るし」
……顔を赤くし、満更でもなさそうな表情。これは……あれだな。
「(恋する乙女の表情だ)」
……うん、間違いないな。この女の子は拓海くんのことが好きなんだなと思った。だとしたら、邪魔しちゃいけないなと思い、私は……
「あー。じゃあ、私はこれで……」
邪魔者はささっと立ち去るに限る。そう思い、立ち去った。
「あ……」
拓海くんが小さく声を出した気がするけど、聞こえないふりをして私はその場を後にした。
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