君は誰の手に?

かんな

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『泳ぎ』

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「ほーら。菜乃花。大丈夫だから!水は怖くないからね?」


お姉ちゃんはそう言って両手を繋いでくれたけど……。やっぱり怖いものは怖い。


「ほ、ほら!菜乃花ちゃん!私も一緒だよ!」


美咲さんが手を差し伸べてくれる。二人から手を繋がれている私は恐る恐るプールに入ろうとするが――、


「ああ!やっぱり無理ーーーっ!」


私はそう言いながらここから逃げ出した。……何故私がプールに来ているのかというと、それは数週間前に遡る――。



△▼△▼


『ねぇ、来週の日曜日ぐらいに、海に行かない?海』


家で小説を書いていると、真白先輩がLINEでそう言ってきた。海……か。……私には海にトラウマがある。泳げなくて、溺れてしまって死にかけた事があるのだ。


あのときはお姉ちゃんに助けてもらえたから良かったものの、もし誰もいなかったらと想像するとゾッとする。


だから海はトラウマなのだ。でも、せっかく誘ってくれてるんだもんなぁ……。断っちゃうのも申し訳ないし……


「…私は」


ふっと見ると、私以外は全員『行く』という返事をしていた。……どうしようかな。海に行くってことは水着になるんだよな……私、水着なんて持ってないんだよなぁ。中学の時はプールは全部見学で乗り切ったからスクール水着すらない。


いや、流石にみんなで行くのにスクール水着はないよな……。買いに行ってもいいんだけどお金がないし……いや、断れば良いのか。


『菜乃花ちゃんは来る??』


真白先輩からのメッセージだ。………めっちゃくちゃ圧を感じるわーー!こ……いや、断ればいいんだけど。いや、でも……


結局、断りきれずに海に行くことになってしまった。



△▼△▼


そして今、お姉ちゃんに泳ぎを教わっている。お姉ちゃん曰く、私は水を怖がってるだけで、別に運動神経が悪いわけじゃないらしい。


いや、でも……やはり、水は怖い。何度やっても足がつく感覚がないのだ。あとちょっとで頭まで沈んでしまうんじゃないかと思うほど深い気がする。


「いやー……やっぱり菜乃花ちゃん、水怖いんだね。私が真美に言っておこうか?」


美咲さんが心配そうな顔で言う。……確かにそうだ。このままじゃ迷惑をかけてしまうかもしれない。それに、お姉ちゃんにも負担がかかるだろうし……。


「…でもでも……!私は菜乃花に泳いでもらいたいわ!だって、泳げるようになった方が楽しいもの!」


………お姉ちゃん、優しいなぁ。その優しさに甘えてしまいそうになる……完璧なお姉ちゃんと、駄目駄目な妹……。この差は何なんだろうか。
そんなことを考えているうちに、もう1時間くらい経っていたようだ。


「でも……菜乃花ちゃんは無理しない方がいいんじゃ……」


美咲さんの言う通りだと思う。だけど……やっぱり泳げるようになりたい気持ちもある。そして何より――。


「い、いいえ!大丈夫です!!頑張ります!!」


その後、二時間の時間を費やし、やっとのことで多少は泳げるようになっていた。



△▼△▼


後はみんなで海を楽しむだけだと思っていたのだが……そう上手くはいかなかった。だって――、


「熱ね。今日はゆっくり休みなさい」


お姉ちゃんはそう言ってリンゴの皮を剥いている。……朝起きたら体が怠くて頭が痛かったのだ。肝心な日にこんなことになっちゃうなんて最悪だ。せっかく海に行けると思って楽しみにしてたのに……。


「菜乃花は頑張り屋だからね~。疲れが出ちゃったんだよきっと~」


そう言ってお姉ちゃんは私の頭を撫でてくれた。その手はとても温かかったけど……少し震えていたような気もした。
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