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二話 『相談』
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私――桜田菜乃花は人生で一番悩んでいた。それは、雪村先輩と深川先輩のどちらを選ぶか、ということだ。
そもそも、あの二人は雲の上の存在で私とは住む世界が違う人なのだ。それなのに、私が選ぶとか……おこがましいにも程がある。
多分、今の私は側から見たら凄く贅沢な人に見えるだろう。
でも、仕方が無いのだ。
だってあの二人には、私が持っていないものを全て持っているのだから。
そんな人達から告白されたら誰だって悩むし困る。
かと言って断ったらその後の部活の雰囲気は最悪なものになるかもしれない。
そうなった場合、私はどうすればいいのだろうか……?辞めればいいだけの話だが、あれだけ楽しい時間を過ごせた場所を手放すのは惜しいし……
私はどうすべきなのか、誰かに相談したいのだが、生憎、友達と呼べる存在がいない。
「今日が金曜日でよかったなぁ……」
明日から休みなので、ゆっくり考えることができる。いや、逆に不利?
そんなことを思っていると、扉がノックされる音が聞こえた。
そして、ドアノブが回され、扉が開く。
そこにいたのは――。
「ねぇねぇ!菜乃花。聞いて聞いて!」
興奮気味に話しかけてきたのは私の姉である――桜田華恋だった。姉は全てにおいて完璧な人だと思う。
容姿端麗で成績優秀でスポーツ万能で。そして、誰に対しても優しい。やはり、完璧超人は余裕があるからみんなに優しくできるのかな……と思っている。
私には全く無いものだ。
でも、姉は一つ欠点があった。それは重度のシスコンだということだ。私なんかに構う暇があれば彼氏の一人や二人作れば良いものを……と思うが、そう簡単にいかないのが姉の恋愛事情らしい。
「私が書いた小説がねー!書籍化するんだー!」
「へぇ、おめでとう」
これで三作目だ。初めは喜んだし、嬉しかったけど今はもう慣れてしまった。いや、慣れることでもないんだけどさ。書籍化するのは凄いと素直に思うし、お姉ちゃんが喜ぶ気持ちも分かるし。
ただ――。
「……菜乃花、何かあった……?」
心配そうな表情をしてこちらを見つめてくるお姉ちゃんは誤魔化せないし、お姉ちゃんが私のために心配そうな表情をするのは止めて欲しい。だって、その顔を見たら何も言えなくなるから。
でも、いつまでも黙っているわけにはいかなかったので私は口を開いた。
「先輩二人に告白された!?しかも同時に……!?やっと、菜乃花のかわいさが世間に知れ渡ったんだね!!」
「違うよっ!!それに可愛くないし……」
「いやいや、可愛いって!菜乃花は世界一かわいい妹だよ!」
お姉ちゃんは私の頭を撫でながら褒めてくれる。もう……お姉ちゃんの方が何百倍も可愛いのに。
「でもさ……二人同時か……うーん、いっそのこと二人とも付き合えば?そしたら解決じゃない?」
「な、何言ってるのお姉ちゃん……!?そんなの無理に決まってるじゃん!浮気なんてダメだし……」
「もう、真面目だなぁ……菜乃花は。なら断ればいいじゃない。それで気まずくなったとしても期待させちゃいけないんだよ。後々、後悔しないためにも……ね?」
お姉ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。確かにそうだ。期待はさせたくない。何で先輩達が私なんかを好きになったのか分からないけど……期待させるのは申し訳ないし。
「さーてと、そろそろ打ち合わせの時間だから行ってくるね!」
「あ、うん。頑張ってきてね」
私は玄関に向かうお姉ちゃんの背中を見送りながら、私はそう呟いた。
すると、突然お姉ちゃんが立ち止まり振り向くと満面の笑みを浮かべて、
「どっちを選んでもお姉ちゃんは何にも言わないけど、菜乃花が後悔しないようにしてね!」
「……ありがとう。お姉ちゃん」
本当にこの人は何でもお見通しなんだな……こういうところが叶わない。私は桜田華恋には絶対に勝てないし、勝つつもりもない。
だって、こんなに素敵な人の妹になれただけで幸せ者なのだし。これ以上目指すのは――、
『菜乃花って本当華恋先輩の妹とは思えないよねー』
『オーラが違うのよ、オーラが!』
嫌な事を思い出した。姉目当ての人が私に媚びを売ってくることが多々あるのだ。そして私はそれを自分が人気者だと思い上がっていた時期があった。あれは黒歴史だ。出来るなら消し去りたい。
でも、今はそんなことはどうでもいい。それよりも二人のことを考えよう――と私はベットに潜り込んだ。
△▼△▼
二日かけた。考える時間も充分にあったし、考えすぎて知恵熱が出るくらい悩んだ。
結論から言うと――決められなかった。だって、どっちかを選んだら残った方が傷ついてしまうかもしれないし、二人が悲しんでしまうかもと思ったからだ。
「はぁ……」
今日は月曜日なので部活がある。雪村先輩と深川先輩に会わなくちゃいけない。正直なところ――会いたくはない。
「どうしようかな……とりあえず、いつも通りに接しないとね。でも、もし何か言われたら……?」
そんな不安を抱えながらも私は学校へと向かうと……
「あら、おはよう、菜乃花ちゃん」
「おはよう、菜乃花」
早速、雪村先輩と深川先輩に遭遇した。
二人共、笑顔だ。でも、どこかぎこちなくて……それが私のせいだと思うと心が痛む。
だから、私も精一杯の笑顔を作って挨拶をした。
「お、おはようございます……えーっと私もういき……」
「返事。待ってるから。すぐ……とは勿論、言えないだろうから、ゆっくりでいいから」
そう言って二人は立ち去ってしまった。
返事。それはつまり……。
「告白の答えかぁ……。やっぱり、早く決めなきゃだよね」
二人を傷つけないためにも。でも、私はどうしても選べない。二人とも好きだし。どうすればやんわりと断れるだろうか。
うぅん、悩むなぁ……と考えていると、いつの間にか教室についてしまった。
私は深呼吸をして扉を開けた。
そもそも、あの二人は雲の上の存在で私とは住む世界が違う人なのだ。それなのに、私が選ぶとか……おこがましいにも程がある。
多分、今の私は側から見たら凄く贅沢な人に見えるだろう。
でも、仕方が無いのだ。
だってあの二人には、私が持っていないものを全て持っているのだから。
そんな人達から告白されたら誰だって悩むし困る。
かと言って断ったらその後の部活の雰囲気は最悪なものになるかもしれない。
そうなった場合、私はどうすればいいのだろうか……?辞めればいいだけの話だが、あれだけ楽しい時間を過ごせた場所を手放すのは惜しいし……
私はどうすべきなのか、誰かに相談したいのだが、生憎、友達と呼べる存在がいない。
「今日が金曜日でよかったなぁ……」
明日から休みなので、ゆっくり考えることができる。いや、逆に不利?
そんなことを思っていると、扉がノックされる音が聞こえた。
そして、ドアノブが回され、扉が開く。
そこにいたのは――。
「ねぇねぇ!菜乃花。聞いて聞いて!」
興奮気味に話しかけてきたのは私の姉である――桜田華恋だった。姉は全てにおいて完璧な人だと思う。
容姿端麗で成績優秀でスポーツ万能で。そして、誰に対しても優しい。やはり、完璧超人は余裕があるからみんなに優しくできるのかな……と思っている。
私には全く無いものだ。
でも、姉は一つ欠点があった。それは重度のシスコンだということだ。私なんかに構う暇があれば彼氏の一人や二人作れば良いものを……と思うが、そう簡単にいかないのが姉の恋愛事情らしい。
「私が書いた小説がねー!書籍化するんだー!」
「へぇ、おめでとう」
これで三作目だ。初めは喜んだし、嬉しかったけど今はもう慣れてしまった。いや、慣れることでもないんだけどさ。書籍化するのは凄いと素直に思うし、お姉ちゃんが喜ぶ気持ちも分かるし。
ただ――。
「……菜乃花、何かあった……?」
心配そうな表情をしてこちらを見つめてくるお姉ちゃんは誤魔化せないし、お姉ちゃんが私のために心配そうな表情をするのは止めて欲しい。だって、その顔を見たら何も言えなくなるから。
でも、いつまでも黙っているわけにはいかなかったので私は口を開いた。
「先輩二人に告白された!?しかも同時に……!?やっと、菜乃花のかわいさが世間に知れ渡ったんだね!!」
「違うよっ!!それに可愛くないし……」
「いやいや、可愛いって!菜乃花は世界一かわいい妹だよ!」
お姉ちゃんは私の頭を撫でながら褒めてくれる。もう……お姉ちゃんの方が何百倍も可愛いのに。
「でもさ……二人同時か……うーん、いっそのこと二人とも付き合えば?そしたら解決じゃない?」
「な、何言ってるのお姉ちゃん……!?そんなの無理に決まってるじゃん!浮気なんてダメだし……」
「もう、真面目だなぁ……菜乃花は。なら断ればいいじゃない。それで気まずくなったとしても期待させちゃいけないんだよ。後々、後悔しないためにも……ね?」
お姉ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。確かにそうだ。期待はさせたくない。何で先輩達が私なんかを好きになったのか分からないけど……期待させるのは申し訳ないし。
「さーてと、そろそろ打ち合わせの時間だから行ってくるね!」
「あ、うん。頑張ってきてね」
私は玄関に向かうお姉ちゃんの背中を見送りながら、私はそう呟いた。
すると、突然お姉ちゃんが立ち止まり振り向くと満面の笑みを浮かべて、
「どっちを選んでもお姉ちゃんは何にも言わないけど、菜乃花が後悔しないようにしてね!」
「……ありがとう。お姉ちゃん」
本当にこの人は何でもお見通しなんだな……こういうところが叶わない。私は桜田華恋には絶対に勝てないし、勝つつもりもない。
だって、こんなに素敵な人の妹になれただけで幸せ者なのだし。これ以上目指すのは――、
『菜乃花って本当華恋先輩の妹とは思えないよねー』
『オーラが違うのよ、オーラが!』
嫌な事を思い出した。姉目当ての人が私に媚びを売ってくることが多々あるのだ。そして私はそれを自分が人気者だと思い上がっていた時期があった。あれは黒歴史だ。出来るなら消し去りたい。
でも、今はそんなことはどうでもいい。それよりも二人のことを考えよう――と私はベットに潜り込んだ。
△▼△▼
二日かけた。考える時間も充分にあったし、考えすぎて知恵熱が出るくらい悩んだ。
結論から言うと――決められなかった。だって、どっちかを選んだら残った方が傷ついてしまうかもしれないし、二人が悲しんでしまうかもと思ったからだ。
「はぁ……」
今日は月曜日なので部活がある。雪村先輩と深川先輩に会わなくちゃいけない。正直なところ――会いたくはない。
「どうしようかな……とりあえず、いつも通りに接しないとね。でも、もし何か言われたら……?」
そんな不安を抱えながらも私は学校へと向かうと……
「あら、おはよう、菜乃花ちゃん」
「おはよう、菜乃花」
早速、雪村先輩と深川先輩に遭遇した。
二人共、笑顔だ。でも、どこかぎこちなくて……それが私のせいだと思うと心が痛む。
だから、私も精一杯の笑顔を作って挨拶をした。
「お、おはようございます……えーっと私もういき……」
「返事。待ってるから。すぐ……とは勿論、言えないだろうから、ゆっくりでいいから」
そう言って二人は立ち去ってしまった。
返事。それはつまり……。
「告白の答えかぁ……。やっぱり、早く決めなきゃだよね」
二人を傷つけないためにも。でも、私はどうしても選べない。二人とも好きだし。どうすればやんわりと断れるだろうか。
うぅん、悩むなぁ……と考えていると、いつの間にか教室についてしまった。
私は深呼吸をして扉を開けた。
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