【完結】君の隣で息を吸う

かんな

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四話

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ポカリとゼリーを買って沙織の家に行く。学校はやはりつまんなかった。否、鈴木さんとペアを組めたのは、予想外だったし、楽しかったが……それ以外だといつも通りのつまらない学校生活だったし。


家に上がるのは無理だろうけども、せめてポカリとゼリーを家の人に預けてから帰ろうと思っていたら――。


「……ん?」


沙織の家から男が出ていくのが見えた。…桜ヶ丘高校の制服……私たちが通っている学校の生徒ということだろう。……今のが沙織の彼氏か……


「(……よかった。鉢合わせなくて)」


鉢合わせたら気まずい雰囲気が流れるだけだろうし。……それにしても、イケメンだな……遠目からでもわかるくらいに整っている顔立ちで背も高い。モデルと言われても信じてしまいそうだ。


……沙織と隣を歩いていたらきっと絵になるだろう――と思いながら頭をフルフルと振りながら、インタホーンを押すが……


「(……返事がないな)」


親が出てくる気配すらしない。変だな……沙織の母親は、専業主婦なのに……お買い物かな?……なんて思っていると。
ガチャリ――という音と共に玄関扉が開かれて、中から出てきたのは――。


「あれ?杏奈?」


ゴホゴホと咳き込みながらも出てきたのは沙織だ。……何だか、申し訳なくなってくる。ささっと退散しよう……


「心配だから、来たんだけど……ごめん。具合悪そうだね……あ、その……これ」


そう言いつつ、ポカリとゼリーが入った袋を渡すと、沙織の顔が少し明るくなる。……喜んでくれているようだ。それを見てホッとしながら、


「じゃあ、これで……」


そう言って帰ろうとすると、服を引っ張られる感覚がある。……振り返るとそこには――。


「ありがとうね。杏奈。助かったよ」


笑顔を浮かべる沙織がいた。……その笑みに、ドキッとした私は顔を赤くしながらも、


「大袈裟。気にしないでいいって!早くベットに戻って寝た方がいいと思うよ?」


「うん。ありがとうねー。明日は治ると思うよ。きっと」


そう言って沙織は扉を閉める。……私は大きく息を吐いてからその場から離れることにした。……心臓がバクバクして落ち着かないからだ。


「(何でこんな気持ちになるの?)」


意味不明だった。……ただ、胸の奥底から湧き上がってくるこの感情が何なのか、私にはわからなかったのだ。
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