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〜青春編〜
二十六話 『恋心』
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どれぐらい走っただろうか。息切れを起こしながらも足を止めずに走り続ける。後ろから笹川さんが何かを言っているけど、何も聞こえない。周りの音すら耳に入らないほど必死になっていたのだ。
「な、なかむらく……」
もう限界だと言うように苦しそうな声を出す彼女を見てハッとする。俺は慌てて走るのをやめて、
「ご、ごめん。笹川さん」
と謝った。すると彼女は荒い呼吸を繰り返しながら首を横に振る。
「ご、ご……ごめ…ん」
「笹川さんは何も悪くないよ!俺が悪いんだ!」
そう、俺が全面的に悪い。俺が勝手に嫉妬して暴走しただけだ。
『でも、私が何かしたから怒っているんじゃ……?』
「怒ってないよ」
自分の気持ちなのに自分でもよく分かっていない。ただ、彼女に他の男がいると考えただけで胸の奥底にモヤモヤとした感情が生まれたことは確かだった。そしてその感情はどんどん大きくなっていく。こんな醜くて汚らしい感情なんて知りたくなかった。
『そうなんですか?じゃあどうして……』
怪訝そうな表情を浮かべる彼女の顔を見ていられなくて思わず目を逸らしそうになる。だけどここで逃げたらダメだと自分を奮起させ、真っ直ぐ見つめた。
この気持ちを伝えるには今しかないと思ったからだ。
「嫉妬、だと思う……さっきの奴……萩原に。付き合ってるのに俺以外の男が隣にいることが嫌で仕方がなかったんだよ。だからあんな行動に出たと思う」
正直に話せば少しだけスッキリするかもしれないと思って話し始めたものの、やっぱり恥ずかしかった。それに何より笹川さんの反応を見るのが怖い。
しばらく沈黙が続いた後、彼女が口を開く気配を感じ取った俺は咄嵯に俯いた。何を言われるのか分からず怖くなったという理由もあるけれど、一番は自分の顔を見られたくなかったという方が大きいだろう。きっと今の自分は情けないくらい真っ赤になっているはずだから。
そんなことを考えているうちに笹川さんは、
『目を閉じて下さい!』
と言ってきた。意味も分からないまま言われた通りに目を閉じる。正直、何をされるのか不安しかなかったのだが、しばらくして頬に柔らかい感触を感じた。
それがキスされたものだと理解するのに時間は掛らなかった。
恐る恐る瞼を開けるとそこには耳まで赤く染め上げた彼女の姿があった。
『好きな人にしかしませんよ……こんなこと』
そう言って笹川さんは目を逸らしている。その姿を見た瞬間、今まで感じていたモヤモヤとしていたものが一気に消え去った気がした。それと同時に愛おしいという思いが溢れ出す。
気付けば無意識のうちに彼女を抱きしめていて、
「好き……」
無意識にそんな言葉が溢れ出していた。
分からなかった感情が溢れ出て止まらない。自分が自分じゃないみたいだ。それでも今はこうしてずっと触れ合っていたいと思えた。
「……キス、してもいい?」
思わずこぼれ落ちた言葉に我ながら驚いた。いくらなんでもいきなり過ぎるだろうと心の中でツッコミを入れる。だが口にしてしまったものは取り消せないため、覚悟を決めて返事を待つことにした。
すると彼女は小さくコクリとうなずく。
……自分で言っておいてなんだがいいのだろうか?ここは外だし人目につく場所なのに……でも、そんなの今更だよな……だって頬とはいえ、キスをしたわけだし……。
頭の中では色々考えているのに身体は全く動いてくれない。まるで金縛りにあったかのように固まったままだ。心臓の音だけがうるさいほど鳴り響きながらも、俺は笹川さんに……キスをした。
軽く触れるだけの短い時間だったが、俺にとっては十分すぎるほどの幸せなひと時だったし、そして自覚してしまったのだ。
「(………俺、笹川さんのこと好きだ……)」
付き合っておいてこんなことを言うのは今更すぎるとは思うけど。でも、それでも――。
「(本当、俺ってバカだよな)」
そう思いながら俺はため息を吐いた
「な、なかむらく……」
もう限界だと言うように苦しそうな声を出す彼女を見てハッとする。俺は慌てて走るのをやめて、
「ご、ごめん。笹川さん」
と謝った。すると彼女は荒い呼吸を繰り返しながら首を横に振る。
「ご、ご……ごめ…ん」
「笹川さんは何も悪くないよ!俺が悪いんだ!」
そう、俺が全面的に悪い。俺が勝手に嫉妬して暴走しただけだ。
『でも、私が何かしたから怒っているんじゃ……?』
「怒ってないよ」
自分の気持ちなのに自分でもよく分かっていない。ただ、彼女に他の男がいると考えただけで胸の奥底にモヤモヤとした感情が生まれたことは確かだった。そしてその感情はどんどん大きくなっていく。こんな醜くて汚らしい感情なんて知りたくなかった。
『そうなんですか?じゃあどうして……』
怪訝そうな表情を浮かべる彼女の顔を見ていられなくて思わず目を逸らしそうになる。だけどここで逃げたらダメだと自分を奮起させ、真っ直ぐ見つめた。
この気持ちを伝えるには今しかないと思ったからだ。
「嫉妬、だと思う……さっきの奴……萩原に。付き合ってるのに俺以外の男が隣にいることが嫌で仕方がなかったんだよ。だからあんな行動に出たと思う」
正直に話せば少しだけスッキリするかもしれないと思って話し始めたものの、やっぱり恥ずかしかった。それに何より笹川さんの反応を見るのが怖い。
しばらく沈黙が続いた後、彼女が口を開く気配を感じ取った俺は咄嵯に俯いた。何を言われるのか分からず怖くなったという理由もあるけれど、一番は自分の顔を見られたくなかったという方が大きいだろう。きっと今の自分は情けないくらい真っ赤になっているはずだから。
そんなことを考えているうちに笹川さんは、
『目を閉じて下さい!』
と言ってきた。意味も分からないまま言われた通りに目を閉じる。正直、何をされるのか不安しかなかったのだが、しばらくして頬に柔らかい感触を感じた。
それがキスされたものだと理解するのに時間は掛らなかった。
恐る恐る瞼を開けるとそこには耳まで赤く染め上げた彼女の姿があった。
『好きな人にしかしませんよ……こんなこと』
そう言って笹川さんは目を逸らしている。その姿を見た瞬間、今まで感じていたモヤモヤとしていたものが一気に消え去った気がした。それと同時に愛おしいという思いが溢れ出す。
気付けば無意識のうちに彼女を抱きしめていて、
「好き……」
無意識にそんな言葉が溢れ出していた。
分からなかった感情が溢れ出て止まらない。自分が自分じゃないみたいだ。それでも今はこうしてずっと触れ合っていたいと思えた。
「……キス、してもいい?」
思わずこぼれ落ちた言葉に我ながら驚いた。いくらなんでもいきなり過ぎるだろうと心の中でツッコミを入れる。だが口にしてしまったものは取り消せないため、覚悟を決めて返事を待つことにした。
すると彼女は小さくコクリとうなずく。
……自分で言っておいてなんだがいいのだろうか?ここは外だし人目につく場所なのに……でも、そんなの今更だよな……だって頬とはいえ、キスをしたわけだし……。
頭の中では色々考えているのに身体は全く動いてくれない。まるで金縛りにあったかのように固まったままだ。心臓の音だけがうるさいほど鳴り響きながらも、俺は笹川さんに……キスをした。
軽く触れるだけの短い時間だったが、俺にとっては十分すぎるほどの幸せなひと時だったし、そして自覚してしまったのだ。
「(………俺、笹川さんのこと好きだ……)」
付き合っておいてこんなことを言うのは今更すぎるとは思うけど。でも、それでも――。
「(本当、俺ってバカだよな)」
そう思いながら俺はため息を吐いた
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