【完結】君に伝えたいこと

かんな

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〜青春編〜

二十二話 『借り物競走のテンプレ』

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今日は体育祭当日だ。待ちに待った体育祭。だけど、俺はあのことで頭がいっぱいだった。


「洋介くーん?大丈夫?」


そんなことを考えているうちにいつの間にか開会式が終わったようだ。今は入場行進をしているところらしい。羽沢に声をかけられて我に帰り、


「ああ……だ、大丈夫だよ」


と答えたものの、全然大丈夫ではない。結局昨日はほとんど眠れなかったのだ。おかげで寝不足気味だし、朝起きた時から頭がぼーっとしている気がする。今もまだ考え続けているし。


「へぇー。そう。ならいいけどさ~。好きな人が元気じゃないと私が心配になるんだよねぇ~」


…相変わらず羽沢は揶揄ってくるし。もうお前が俺のことを揶揄って楽しんでいることを知っているんだからな。今更動揺したりなんかしないからな。


「おー!おはようー!」 


突然後ろの方で大声を出したのは裕介だった。俺が振り返るとそこには満面の笑みを浮かべた裕介がいた。


「裕介……俺まだ許してないぞ……」


「え~~?まだ?謝ったじゃんよぉ~」


こいつ本当に反省していないのか……!俺はジロリと睨むように見つめるが、全く効いていないように――。


「ごめんって。でもさぁ~」


そこで言葉を区切るとニヤッとした表情を見て反省なんてしてない、という笑みだ。……ったく……本当にしょうがねーやつ……と思っていると、


「おはよう。中村くん」


ニッコリと微笑み、挨拶をしたのは石崎さんだった。石崎さんも罰ゲームで俺に告白をした一人だ。まぁ、後日めちゃくちゃ謝っていたからこっちが申し訳なくなるくらいだったが……。


そして松岡も俺に謝ってくれたし、寧ろ謝りすぎてこっちが申し訳なくなったのだが……


そして――。


『お、おはようございます。みなさん』


スマホの機械のアプリを通して聞こえてきたその声に俺は思わず身体がビクついてしまった。ここずっと頭から離れなくて悩ませていた原因の人物で極力、接触をしないようにしていた人物なのだから。



「あ、おはようー。みのりちゃーん。今日の髪型かわいいね~」


『そ、そうですか?』


「うん!めっちゃ似合ってると思うよ!」


そんな羽沢と笹川さんの声を聞きながら俺はすぐ目を逸らし


「あー……あいつらが呼んでるから俺はこれで……」


と言ってその場を離れた。別に逃げたわけじゃ無い――というのは嘘だが、とにかくこの場から離れたかったのだ。



『勘違いしてもいいよ』って笹川さんに言われたあの日からどうにも意識してしまうようになっていた。だってあれは――。


「(俺のこと……好きってことでいいんだ……よな?多分)」


『勘違いしてもいいよ?』なんて言われたら誰だって戸惑うだろう。それにあんな風に言われて期待しない方がおかしいし。だけど笹川さんは今まで通りに接してくるし、特に変わった様子もない。だから余計にわからないのだ。


意識しているのは俺だけで、実はあれも揶揄って言っただけなのかと思ってしまうほどだ。
でももし本気だとしたら……
考える度に顔が熱くなるような感覚に襲われる。心臓がバクバク鳴っているのがわかる。こんなこと初めてだった。


「(俺……もしかして……)」


「洋介!そろそろ借り物競走始まるぞ!!」


考え事をしていてすっかり忘れていたが今は体育祭の最中だったのだ。とりあえずこのことは後回しにしてまずはこの競技に集中しよう。


でないと最下位になってしまうかもしれないしな。
俺は自分の頬を叩き気持ちを入れ直した。



△▼△▼


――借り物競走というのは運ゲーである。物とかならともかく、人を連れてくるのは難しいものばかりだ。例えば、好きな人とか恋人同士とか。
まぁ、恋愛漫画とかならお題が『好きな人』というのはテンプレだが、ここは現実なので普通に物を持ってこいというお題が定番だろう……と思っていたのだけど――。


『告白してきた人♡』お題が書かれた紙にはこう書かれていた。あまりの衝撃的な内容に俺は言葉を失った。


罰ゲームとはいえ、告白された俺にとっては複雑な気分だった。あの四人の誰かを連れてくるのか?羽沢だったら事情を話せば走ってくれるかも……と思ったが、


『中村くん?どうしたの?』


笹川さんの声が聞こえてくる。そうだ。今は悩んでいる暇なんてないんだ。何か周りに笹川さんしかいないみたいだし……!しょうがない!


「笹川さん来て!」

「え……!?」


『勘違い、してもいいよ』


そんな言葉が脳裏に響く。勘違いしてもいい、と言うのなら。俺は都合よく使う。俺は笹川さんの手を掴んで走り出した。


「な、なかむ……」



事情を知らないであろう笹川さんは困惑しているようだが、説明している時間はない。俺はそのままゴールまで走った。そして一着でゴールテープを切ることに成功した。


余談だが、お題は空気の読めない司会者に暴露されてしまい、俺達は盛大に揶揄われた。
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