【完結】君に伝えたいこと

かんな

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〜青春編〜

二十一話 『勘違い…?』

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――時が止まったような感じがした。俺も、松岡と石崎さんも笹川さんも同じで、完全に思考停止していたように目を点にして固まっていたと思う。


唯一、固まっていないのは羽沢だけでニコニコしながらこう言った。


「私、洋介くんのこと好きよ」


二回目だった。さっきよりもはっきりと聞こえたその言葉だ。


「か、揶揄ってるんだよな?」


俺がそう言うと、羽沢は首を横に振って笑いながら答える。


「揶揄うわけないじゃない!私は本当に洋介くんが好きだよー」


……これ本当に揶揄ってないのか!?羽沢って小悪魔なところがあるからよくわからないぞ……!


「ち、ちょっと!優香!急にどうしたの!?」


松岡が慌てるようにして口を開いた。すると、羽沢はまた同じように笑顔で答えた。


「瞳は好きじゃないの?洋介くんのこと……」


「いや……そ、そりゃあ……す、好きだけど……そういう意味じゃなくて!」


顔を赤くしあたふたする松岡を横目に俺は石崎さんの方を見ると、


「ち、ちょっと待ってよ!優香ちゃん!私も中村くんのこと好きよ」


石崎さん、また俺のことを揶揄ってんのか!?揶揄うのはいいとしても!今!この時じゃねーだろ!


「……で?みのりちゃんはー?」


羽沢はニヤリとして今度は笹川さんの方を向いた。笹川さんは顔を真っ赤にし石崎さんの後ろに隠れながら、


『私も好き』と言った。……えっ?嘘だよね?冗談だよね?何この流れ……?みんなで俺を驚かそうとしている?裕介が仕掛けたドッキリとか……?そんなことを考えていると


「ほーら。美少女四人が告白してるぞ~?洋介くんは早く返事をしなさい~」


唐突なハーレム状態に俺は混乱している。何だこの状況……!?いや、俺も好きだけどそれは恋愛じゃなくて友達的な意味なんだけど……。


「黙ってるわね……!この優柔不断男め!」


「優柔不断!?こんな状況で優柔不断って言われるのは流石に理不尽じゃないか!?」


俺は思わず声を上げてしまった。だってそうだろ!普通に考えておかしいじゃん!いきなり女の子達に告られて急に返事を求められても困るし……


『………ごめんなさい。中村くん』


「え……?」


笹川さんにグイッと手を引っ張られ、その場から離れるように連れ出された。


「え!?笹川さん!?」


足は遅いし、体力もない笹川さんなのに意外にも力強く引っ張られたことに驚いた。そしてそのまま――。


「な、なか……む……く……」


「さ、笹川さん!?どうしたんだ!?大丈夫か?あ、アプリは!?」


『ごめんなさい……気が動転していて忘れてました……』


顔を赤くし息を整えながら謝ってくる笹川さん。俺は慌てて背中をさすりながら、


「いや、寧ろありがとう。助かったよ」


と言うと、笹川さんは安心したような表情をして微笑んでくれた。またドキドキしてきた。心臓が痛いくらい鼓動を打っている。これは走ったせいなのか、それとも別の理由かわからないけど、とにかく落ち着かない。


何でか分からないけど、このままだとまずいと思った俺は話を変えようと口を開く前に――


『ごめんなさい。あれは……そのあれは宮沢くんの罰ゲームだったんです』


…………やっぱり、裕介が仕組んだことなんだな……!あいつ絶対に許さないからな!! でも、これで少しだけホッとした部分もある。あの告白は本気のものじゃないってことだもんな……うん、よかった……。



『だから、気にしないでください。本当にごめんなさい』


本当に申し訳なさそうに何度も頭を下げる笹川さんを見て、こっちが申し訳なくなってきた。


「いや、俺も……何かごめん」


そう言うと、笹川さんはびっくりしたように目を見開いてこちらを見た後、


『何故、中村くんが謝るのですか?中村くんは何も悪くないですよ?』


「いや、まぁそうなんだけど…」


確かに笹川さんの言う通りだけど別に笹川さんも悪くねーし。笹川さんが必死に謝るほどのことでもないと思うし。


「じゃ、あれも全部罰ゲームってことか。あーあ、良かった。変な期待持たなくて」


きっと、あの場で真面目に返事をしていたら羽沢あたりには笑われていただろうし。……ったく、俺以外の男だったら勘違いするぞ……!


『勘違い、してもいいよ』


「え?」


俺の心を見透かすようにそう言った笹川さんは、顔を赤くしながら恥ずかしそうに俯いて、


『じ、じゃあ!またね!』


そう言って笹川さんは走り去って行った。追いかけることなんて出来るはずもなく、ただ呆然と立ち尽くしていた。
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