【完結】陰キャな俺が美少女に告られた件

かんな

文字の大きさ
上 下
10 / 14

十話 『三嶋香澄の話 〜前編〜』

しおりを挟む
私――三嶋香澄は完璧だった。勉強も運動も完璧だった。だって、テストで100点以外とったことはないし、体育の授業だって、私はいつも一番だった。


容姿も完璧だった。
顔立ちは整っているし、脚はすらっと長くて、胸もそこそこ大きく、腰回りの肉付きもいい……と自負している。スタイルだっていい。街を歩けば、すれ違う男性は必ずと言っていいほど振り返るし、学校でも男子から告白されたことは多かった。
そんな私の人生は、まさに順風満帆だった。


ただ一つ……家族関係を除いては。
私には父親がいなかった。いや、正確に言えば、物心ついた時からいなかった。
母は女手一つで私を育ててくれた。
育ててくれた、と言っても…母親はほとんど家にいなかった。
朝早くから夜遅くまで働き詰めで、私のことなど気にも留めていなかった。


でも、それはしょうがないこと。仕事なんだから、仕方がない。
私は文句も言わずに、一人で家事をこなしていたが――。


『ああ!もう腹が立つ!あんな娘、産まなきゃよかった!』
ある日。母が仕事から帰ってくるなり、大声で怒りだした。怖かった。ただ、それ以上に悲しかった。
どんなに母が私に冷たくても……どんなに私の相手をしてくれなくても……母に愛されたかった。


水商売で生計を立てていた母にとって、私は邪魔者だったのかもしれない。新しい男を見つけて、さっさと消えてもらいたかったのかもしれない。
それでも……それでも私は母に愛してほしかった。


そんなある日のこと母が海に誘ってきた。『お母さんと海に行かない?』
と、そう言われた。母は笑顔を浮かべていた。母の笑顔なんて初めてみた。
私はうれしくて。ウキウキで服を着替えた。


その時が一番幸せだった。
母と手を繋いで、家を出た時……本当に幸せでたまらなかった。
でも……それは一瞬の出来事だった。しかし、その幸せは……あっという間に崩れていってしまった。


海にある橋の上で母は私を突き飛ばしたのだ。
私は突き飛ばされた勢いで海に落ちてしまった。その時の母の笑顔は、今でも脳裏に焼き付いて離れない。
私は必死に水面を目指したが……途中で力尽きた。


ああ、もう全てがどうでもいい。
このままここで溺れ死んでしまおう……そう思ったときだった。


「……え?」


人の身体がコツン、と当たった。
思わず、顔を上げると……そこには見知らぬ男がいた。息はしていないらしく、目は瞑っていた。お世辞にも、顔はイケメンとは言えないし、服装だってお世辞にもかっこいいとは言えない。
でも、その時の私は……何故かこの見知らぬ男に見覚えがあった。


「(意味が分からない)」


なぜ、この見知らぬ男を私が見覚えがあると思ったのか。
それは分からないが……しかし、この男は私にとって何か特別な人物のような気がしたのだ。そんなことを思っていると波に飲まれて、そのまま気を失った。


溺れていく。苦しくて、辛くて……そして意識が遠のいていく。そんな状況の中、目に飛び込んできたのは……あの男の顔だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スマホゲーム王

ルンルン太郎
ライト文芸
主人公葉山裕二はスマホゲームで1番になる為には販売員の給料では足りず、課金したくてウェブ小説を書き始めた。彼は果たして目的の課金生活をエンジョイできるのだろうか。無謀な夢は叶うのだろうか。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

行くゼ! 音弧野高校声優部

涼紀龍太朗
ライト文芸
 流介と太一の通う私立音弧野高校は勝利と男気を志向するという、時代を三周程遅れたマッチョな男子校。  そんな音弧野高で声優部を作ろうとする流介だったが、基本的にはスポーツ以外の部活は認められていない。しかし流介は、校長に声優部発足を直談判した!  同じ一年生にしてフィギュアスケートの国民的スター・氷堂を巻き込みつつ、果たして太一と流介は声優部を作ることができるのか否か?!

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...