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二話 『復讐しない理由』
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私とレオナルド様婚約したのは十歳の時だ。レオナルド様は将来、国王になることが決まっているらしい。つまり私と結婚するとなると王妃だ。
私は別に王妃になりたいわけではなかったし、レオナルド様だって私と結婚したいと思ったわけじゃないだろう。
だから、婚約が決まった当初もお互いに特に思い入れなどなかったし、義務として月に一度はお茶会などしてはいたけれど会話なんてほとんどしたこともなかった。
そして今は婚約破棄された身だ。つまり、レオナルド様にとって私はもうどうでもいい存在だということだ。
まぁ、それに関しては私もそうなんだけど。
「……あーあ、これからどうしようかな」
王立魔法学園の中庭にあるベンチに座って、空を見上げる。青空に真っ白な雲が浮かんでいた。
学院を卒業すれば、私も貴族として社交界に出ることになる。そうなれば婚約者がいないのは格好がつかないし、嫁ぎ遅れだなんだと馬鹿にされるだろう。
「はぁ……」
レオナルド様はみんなの憧れ。その婚約者となれば誰もが欲しがる存在をマリー様に奪われたとあれば、きっと周りからは嫌な目で見られることになるだろう。
……どうしてこうなったんだろう。やっぱり婚約なんてするもんじゃないな……なんて思っていたら、
「なぁ、ちょっといい?」
突然声をかけられて振り返ると、そこには燃えるような赤い髪に琥珀色の瞳をした美青年がいた。
「誰ですか。あなた!」
私は警戒心たっぷりに問う。すると彼は苦笑しながら言った。
「俺はクラウス・フォンタナー。一応子爵家の人間だ。そしてマリー・アルメイダの婚約者だった者だ」
元婚約者ということは私と同じく婚約破棄されたということだろう。それにしても何故私に声をかけてきたのだろうか。
私が訝しげに彼を見ていると、クラウス様はこう言った。
「ねぇ。復讐しない?元婚約者同士、協力しようぜ」
囁くような声音でそう言ったクラウス様はニヤリと笑う。まるで、悪戯をする時のような子供っぽい笑顔だった。そしてまるで私が断るとは思っていないかのような表情だった。しかし――。
「お断りします」
私はきっぱりと断った。だってめんどくさいもん。するとクラウス様は驚いたように目を見開いた。まさか断られるとは思っていなかったのだろう。
「え……なんで?」
本気で信じ難いものを見るかのような目で見つめられる。そんなに驚くことなんだろうか。
「私は復讐したいとか一切思っていませんから」
これは本当。マリー様とレオナルド様とはこれ以上関わりたくない。関わりたくないから婚約破棄を受け入れて今ここにいるわけだし。
だって復讐するということはあの二人に関わるということでしょ?
そんなの嫌だ。もう私はあの二人に関わりたくないのだ。
「ど、どうして?」
「だって、面倒じゃないですか」
ハッキリとそう言えばクラウス様はポカンとした表情を浮かべた。それから、突然笑い出し、
「面白いなお前」
と、言ったのだ。……面白い要素あるのか?これ……?
「まぁいいや。気が向いたら協力してくれ」
クラウス様はそう言って去って行った。私は何が何だかわからず、ただ呆然とするしかなかったのだった。
△▼△▼
それからというもの、クラウス様は何かと私に絡んでくるようになった。マリー様とレオナルド様に復讐しようと何度も誘ってくるのだ。
私だってあの二人のことを憎んでいない、と言えば嘘になる。だってやってないことたくさん言われて傷ついたし。
しかし私は復讐するつもりはない。だってめんどくさいし、関わりたくないから。復讐するのは止めないけれど、私は絶対に関わらない。
後で聞いて心の中で笑うのが一番賢い生き方だと思うから。
しかし、クラウス様は諦めてないらしく、今日もまた誘いに来るのだ。
「本当に復讐したいと思わないの?恨んでねーの?」
「恨む……というか、もうどうでもいいです」
思ったことをそのまま口に出せば、クラウス様は不服そうな顔をした。
だって本当にどうでもいいのだ。復讐したところであの二人が改心するわけでもないし、むしろ私が悪者にされそうな気がする。
そもそも私はあの二人とは関わりたくないのだから、復讐なんてする必要はないわけで。
「ふーーん。そうなんだ。やっぱり面白いな、お前」
クラウス様は面白そうに笑う。面白いの?これって。
私はただ思ったことをそのまま言っただけなんだけどなぁ……。
「とにかく、私はあの二人とは関わりたくないので、復讐も協力もしませんよ」
クラウス様は一瞬黙り込んでから、ため息を吐いた。
私は別に王妃になりたいわけではなかったし、レオナルド様だって私と結婚したいと思ったわけじゃないだろう。
だから、婚約が決まった当初もお互いに特に思い入れなどなかったし、義務として月に一度はお茶会などしてはいたけれど会話なんてほとんどしたこともなかった。
そして今は婚約破棄された身だ。つまり、レオナルド様にとって私はもうどうでもいい存在だということだ。
まぁ、それに関しては私もそうなんだけど。
「……あーあ、これからどうしようかな」
王立魔法学園の中庭にあるベンチに座って、空を見上げる。青空に真っ白な雲が浮かんでいた。
学院を卒業すれば、私も貴族として社交界に出ることになる。そうなれば婚約者がいないのは格好がつかないし、嫁ぎ遅れだなんだと馬鹿にされるだろう。
「はぁ……」
レオナルド様はみんなの憧れ。その婚約者となれば誰もが欲しがる存在をマリー様に奪われたとあれば、きっと周りからは嫌な目で見られることになるだろう。
……どうしてこうなったんだろう。やっぱり婚約なんてするもんじゃないな……なんて思っていたら、
「なぁ、ちょっといい?」
突然声をかけられて振り返ると、そこには燃えるような赤い髪に琥珀色の瞳をした美青年がいた。
「誰ですか。あなた!」
私は警戒心たっぷりに問う。すると彼は苦笑しながら言った。
「俺はクラウス・フォンタナー。一応子爵家の人間だ。そしてマリー・アルメイダの婚約者だった者だ」
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私が訝しげに彼を見ていると、クラウス様はこう言った。
「ねぇ。復讐しない?元婚約者同士、協力しようぜ」
囁くような声音でそう言ったクラウス様はニヤリと笑う。まるで、悪戯をする時のような子供っぽい笑顔だった。そしてまるで私が断るとは思っていないかのような表情だった。しかし――。
「お断りします」
私はきっぱりと断った。だってめんどくさいもん。するとクラウス様は驚いたように目を見開いた。まさか断られるとは思っていなかったのだろう。
「え……なんで?」
本気で信じ難いものを見るかのような目で見つめられる。そんなに驚くことなんだろうか。
「私は復讐したいとか一切思っていませんから」
これは本当。マリー様とレオナルド様とはこれ以上関わりたくない。関わりたくないから婚約破棄を受け入れて今ここにいるわけだし。
だって復讐するということはあの二人に関わるということでしょ?
そんなの嫌だ。もう私はあの二人に関わりたくないのだ。
「ど、どうして?」
「だって、面倒じゃないですか」
ハッキリとそう言えばクラウス様はポカンとした表情を浮かべた。それから、突然笑い出し、
「面白いなお前」
と、言ったのだ。……面白い要素あるのか?これ……?
「まぁいいや。気が向いたら協力してくれ」
クラウス様はそう言って去って行った。私は何が何だかわからず、ただ呆然とするしかなかったのだった。
△▼△▼
それからというもの、クラウス様は何かと私に絡んでくるようになった。マリー様とレオナルド様に復讐しようと何度も誘ってくるのだ。
私だってあの二人のことを憎んでいない、と言えば嘘になる。だってやってないことたくさん言われて傷ついたし。
しかし私は復讐するつもりはない。だってめんどくさいし、関わりたくないから。復讐するのは止めないけれど、私は絶対に関わらない。
後で聞いて心の中で笑うのが一番賢い生き方だと思うから。
しかし、クラウス様は諦めてないらしく、今日もまた誘いに来るのだ。
「本当に復讐したいと思わないの?恨んでねーの?」
「恨む……というか、もうどうでもいいです」
思ったことをそのまま口に出せば、クラウス様は不服そうな顔をした。
だって本当にどうでもいいのだ。復讐したところであの二人が改心するわけでもないし、むしろ私が悪者にされそうな気がする。
そもそも私はあの二人とは関わりたくないのだから、復讐なんてする必要はないわけで。
「ふーーん。そうなんだ。やっぱり面白いな、お前」
クラウス様は面白そうに笑う。面白いの?これって。
私はただ思ったことをそのまま言っただけなんだけどなぁ……。
「とにかく、私はあの二人とは関わりたくないので、復讐も協力もしませんよ」
クラウス様は一瞬黙り込んでから、ため息を吐いた。
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