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三章 〜半年が経って〜

十一話 『奇跡を信じるしか道がない』

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「な、なるほど。貴方様がナタリー様の身体に入ったお方でしたか……」


「そうよ。迷惑にも程があるわ。私だって何もナタリー・アルディの身体に入ることを望んではいないわ。だから、別に戻らなくても私は別に構わないし……」


ため息を吐きながらも、彼女……リリィは少し悲しそうな目をしながらリリィはこう言った。


「……ナタリー様……ではなく、奈緒様も大変でしょうね。いきなり違う世界に飛ばされて、その上、わがまま娘のナタリー様の身体に入ってしまったのですから……」


苦笑いをしながらそういうリリィ。この子も割と容赦なく、ズケズケという子なのね……まぁ、そういう性格だからこそ、この歳で専属メイドになれたのかもしれないけど。


「そうね、ところでこのナタリー・アルディ……めちゃくちゃローラのこと貶してる…!」


モニターに映る映像を見て、私は驚いた。そこには、ローラを貶しまくるナタリー・アルディが映し出されていたからだ。正直、殺意しか湧かないから辞めろ。私の親友を貶すな。


「……酷いものですわ。でも……これこそがナタリー様ですから。ナタリー様はとても傲慢で、自分勝手な方です。ここの精神世界に来たナタリー様は、毎日モニターを覗き見しては毎日ローラ様や奈緒様を暴言を吐いたりしてましたし……」


「うへぇ……もう戻りたくない……」

こいつの尻拭いすることだけは絶対に嫌。なんで私がこんな奴の尻拭いをしないといけないの?絶対嫌だよ、そんなの。


「……それで奈緒様は……これからどうするおつもりですか?言っておきますがここで自殺しても何もありません。痛いとも感じませんし、ただ意識がなくなるだけです」


な、何その……もう自殺は試したから知ってるよみたいな言い方……!え……?こんな淡々と言うの……こわっ……。
私がドン引きしながらリリィを見ると、彼女はにっこりと微笑んでこう言った。
それは天使のような笑みではなく、悪魔のような笑みだった。


「もう自殺は何回もしましたから……でも一回も死ねません。それは……ここが現実世界ではなく、精神世界です。だから、自殺して死んでも痛みや苦しみはないんですよ」


「そ、そう……」

 
ドン引きしながら、私はモニターに映る映像を再度見る。そこでは、ナタリー・アルディがローラに向かって暴言を吐きまくっていた。ローラは唐突に変わった変貌に怯えているのか、震えていた。


可哀想に……何も悪くないのにあんなに怯えて…!


「ローラ・クレーヴ様ですよね?平民でありながらアシュリー・ベルナール様と同様光属性魔法を持っているという……ナタリー様は……ローラ・クレーヴ様のことが気に食わず、いじめているんですよ。そんなことをしても自分の評判が下がるだけなのに……」


ため息混じりにそう言うリリィ。何かこの子も……今のリリィも案外変わらないのでは?私はそんなことを思いながらも……


「と、ところで……リリィ、私のことは奈緒様じゃなくて普通に奈緒でいいわよ。敬語もやめて。堅苦しいし」


「ええ!そ、それはなりません。だって奈緒様はナタリー様の身体に入った身ですもの!敬語は当たり前ですわ!」


そう言って首を横に振るリリィ。これは意地でも自分の意見を曲げる気はなさそうだ。今リリィに入っているあいつも頑固だし今の奴とさほど変わらないのかもしれない。


「そう……まぁ、無理強いはするつもりはないけども……」


私はリリィの態度に諦めてそう呟くとリリィはニッコリと笑った。
ナタリー・アルディは相変わらず、ローラに対して暴言を吐いていた。それを……私は……


「もう限界……私、あの馬鹿令嬢に一言言いたいわ!どうやったらあいつの身体の主導権奪えるの?」


「主導権を奪うためには……修行あるのみです!精神世界で修行をして、現実世界でその成果を活かすのです」


修行……修行でどうにか出来るものなのか………?でも、やらないよりはマシだろう。ナタリー・アルディの好き勝手させるわけにはいかない! こうして……私とリリィは修行を始めたのであった。


△▼△▼


あの日から私は修行を始めた。修行といっても、瞑想して心を落ち着かせるという簡単なものだが……これが案外難しい。
瞑想中にナタリー・アルディの声が聞こえてきたりするとイラッとするし……正直修行どころじゃない。 


そもそも、これが修行になるのか分からない。けど……やらないよりはマシだろうし。そんな感じで修行を続けて、半年が経った頃。
ついに……私は瞑想中にナタリー・アルディの声が聞こえなくなった!やったよ……私、瞑想上手くなってるよ……! その嬉しさに舞い上がっていると、


「奈緒様、おめでとうございます!瞑想上手くなりましたね!お見事です!」


そう言ってリリィはパチパチと拍手をしてきてめちゃくちゃ嬉しそうだ。……嬉しそうだけども……


「貴方は……しなくても良いの?」


「はい。私は奈緒様みたく、元の身体に戻りたいとは思いませんし…」


「どうして?だって貴方も早く戻りたいんじゃ……」


「いえ……私はもう既に死んでいる身ですから。この身体も仮初めの姿……いつまでもこの世界に居座るつもりはありませんよ。私の身体はあの人が乗っ取ってますし。でも、戻る理由はありません。もうこの世界に未練はないですから」


そう言ってニッコリと笑うリリィ。本人が未練がないというのなら……このままで良いのだろう……本当にいいのか?

それに……


「よくよく考えてみると、私もうナタリー・アルディの身体に入りたくないわ……欲を言うと……この身体のままナタリー・アルディのことを殴りたいわ……」


私は拳を握りしめながらそう言う。もうあんな傲慢で自分勝手な奴の身体になんて入りたくない。というか、あいつのせいでどれだけ私が苦労しているのか……! すると、リリィは苦笑いをしながらこう言った。


「残念ながら……ここの世界に戻る方法は……分かりません。ただ……ナタリー様が戻ったのは、瞑想して心を落ち着かせたから……だと思います。精神世界で瞑想をすれば、現実世界でも心が落ち着きますから……と、勝手ながら私は思っていました。それに半年もナタリー様は瞑想を続けられてやっと身体が入れ替わったわけですし……この精神世界を抜けるにはそれこそ…神様にでも頼まないと無理でしょうね……」


「神様に頼む……?それよ!それ!」


もう奇跡を信じるしかない!私がそう言うと、リリィはキョトンとした顔をして私を見ていたが、もうこの可能性に賭けるしかなかった。
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