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二章 〜思惑〜
三十六話 『失恋』
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――あれから数日が経った。お祓いをしたお陰か、ナタリー・アルディの声は聞こえてこない。
私を油断させる罠か!?とも思ったが、今のところその気配はなく、至って平和な日々を過ごしていた。
そして――。
「レオン様、ローラ・クレーヴに婚約したらしいわよ」
「え、そうなの?」
教室の一角で令嬢達が噂話をしていた。その話に思わず耳をすます。あの日以来、ローラとはあまり会ってないし、レオン様ともお会いしていない。
でも……そうか。ついにレオン様がローラに婚約を申し込んだのか。
それ自体はもうどうでもいい。私の知ったことではない。
……でも、なんだろう?この胸のザワツキは……。
「平民のくせに生意気なのよね。どうせ身体使ってレオン様を誑かしたんでしょ?」
「ローラ・クレーヴっていつもニコニコしてて、愛想だけは良いものね」
シンプルな悪口だ。ローラがどれだけ努力家なのかも知らないで!お前らはローラの何を知ってるんだ!
「レオン様、ローラ・クレーヴに騙されているのよ。目を覚ましてくれればいいのだけれど」
ふざけるな!レオン様は騙されてなんかいない! ローラは誰にでも優しくて、愛想が良く、貴族にも平民にも優しい。
ローラが身体を使ってレオン様を誑かしてる?そんなわけないだろう!
「(ぼこぼこに殴りてぇーよ!)」
私は心の中で怒りを爆発させていたが、ここで私が怒るのは違う気がする。私は怒りを抑えるために深く深呼吸する。
落ち着け、私。ここで怒ったら意味が無いだろ。冷静にならなければ…!ここで私が怒っても、何も解決しないのだから。
私は拳を握りしめて怒りを鎮める。そして私は何事もなかったかのように私は廊下へと出て行った。
△▼△▼
あれから三日が経った。ナタリー・アルディの声は聞こえなくなった辺り本当にお祓いの効果があったらしい。
私はホッとした。もうあの声を聞かなくて済むと思うと、心が軽くなった気がする。
しかし、そんなことよりも……。
私は今、ものすごく悩んでいることがある。それは――。
「ナタリー様。レオン様とローラ様が婚約したのに何故何もしないのですか!好きなのでしょう!?何もしないのですか!?」
リリィが私の目の前でぎゃーぎゃー騒いでいる。そう、リリィの言う通り、私は何もしていない。しかし、それは……
「もういいのよ。リリィ……レオン様がローラと婚約したのであれば私は身を引くわ」
何もかもがどうでもいいのだ。レオン様とローラが婚約したのであれば、私の出る幕はないし。
「いいわけないでしょう!ナタリー様……!諦めていいんですか!?」
「諦めるも何も、もう終わったことだもの」
そう。終わったことなのだ。あの頃のナタリー・アルディはもう死んだのだ。今、ここにいるのはローラのことを諦めたナタリー・アルディなのだ。
だからもう……どうでもいいのだ。
私はもう疲れてしまったのだ。何もする気になれないし、何を考えても無駄な気がする。
だから、このままでいい。このままでいたい。
「ナタリー様!私は……私は絶対に諦めませんからね!」
リリィは泣きながらそう言うと、教室を出て行った。私はその背中を見送ると机に突っ伏す。
「何を諦めないのよ……」
もう終わったことなのに。今更何に期待すると言うのだろう? 私はもう……諦めたのに。何もかもを……諦めていると言うのに。
「ローラ……私は……」
ローラのことを思うと胸が苦しくなる。こんなことなら好きなんて自覚しなければよかった。
今更後悔しても遅いけれど。それでも、やっぱり考えてしまうのだ。
ローラのことが好きだということを……諦められないということを……
「(この恋は……)」
この恋が叶うことはない。だって、ローラが好きなのはレオン様だから。今更私がどうこう言ったところで何も変わらない。
「早く、諦めなきゃ……」
私は一人、そう呟いた。早くこの恋を忘れなければならない。じゃないと……私は前に進めないから。
でも、私はまだこの恋を諦めることができなかった。未練がましい自分が嫌になる。
「(ローラ……)」
私はローラの名前を心の中で呼びながら目を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーー
ここで二章は終わりです。次で三章に入っていきます
私を油断させる罠か!?とも思ったが、今のところその気配はなく、至って平和な日々を過ごしていた。
そして――。
「レオン様、ローラ・クレーヴに婚約したらしいわよ」
「え、そうなの?」
教室の一角で令嬢達が噂話をしていた。その話に思わず耳をすます。あの日以来、ローラとはあまり会ってないし、レオン様ともお会いしていない。
でも……そうか。ついにレオン様がローラに婚約を申し込んだのか。
それ自体はもうどうでもいい。私の知ったことではない。
……でも、なんだろう?この胸のザワツキは……。
「平民のくせに生意気なのよね。どうせ身体使ってレオン様を誑かしたんでしょ?」
「ローラ・クレーヴっていつもニコニコしてて、愛想だけは良いものね」
シンプルな悪口だ。ローラがどれだけ努力家なのかも知らないで!お前らはローラの何を知ってるんだ!
「レオン様、ローラ・クレーヴに騙されているのよ。目を覚ましてくれればいいのだけれど」
ふざけるな!レオン様は騙されてなんかいない! ローラは誰にでも優しくて、愛想が良く、貴族にも平民にも優しい。
ローラが身体を使ってレオン様を誑かしてる?そんなわけないだろう!
「(ぼこぼこに殴りてぇーよ!)」
私は心の中で怒りを爆発させていたが、ここで私が怒るのは違う気がする。私は怒りを抑えるために深く深呼吸する。
落ち着け、私。ここで怒ったら意味が無いだろ。冷静にならなければ…!ここで私が怒っても、何も解決しないのだから。
私は拳を握りしめて怒りを鎮める。そして私は何事もなかったかのように私は廊下へと出て行った。
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あれから三日が経った。ナタリー・アルディの声は聞こえなくなった辺り本当にお祓いの効果があったらしい。
私はホッとした。もうあの声を聞かなくて済むと思うと、心が軽くなった気がする。
しかし、そんなことよりも……。
私は今、ものすごく悩んでいることがある。それは――。
「ナタリー様。レオン様とローラ様が婚約したのに何故何もしないのですか!好きなのでしょう!?何もしないのですか!?」
リリィが私の目の前でぎゃーぎゃー騒いでいる。そう、リリィの言う通り、私は何もしていない。しかし、それは……
「もういいのよ。リリィ……レオン様がローラと婚約したのであれば私は身を引くわ」
何もかもがどうでもいいのだ。レオン様とローラが婚約したのであれば、私の出る幕はないし。
「いいわけないでしょう!ナタリー様……!諦めていいんですか!?」
「諦めるも何も、もう終わったことだもの」
そう。終わったことなのだ。あの頃のナタリー・アルディはもう死んだのだ。今、ここにいるのはローラのことを諦めたナタリー・アルディなのだ。
だからもう……どうでもいいのだ。
私はもう疲れてしまったのだ。何もする気になれないし、何を考えても無駄な気がする。
だから、このままでいい。このままでいたい。
「ナタリー様!私は……私は絶対に諦めませんからね!」
リリィは泣きながらそう言うと、教室を出て行った。私はその背中を見送ると机に突っ伏す。
「何を諦めないのよ……」
もう終わったことなのに。今更何に期待すると言うのだろう? 私はもう……諦めたのに。何もかもを……諦めていると言うのに。
「ローラ……私は……」
ローラのことを思うと胸が苦しくなる。こんなことなら好きなんて自覚しなければよかった。
今更後悔しても遅いけれど。それでも、やっぱり考えてしまうのだ。
ローラのことが好きだということを……諦められないということを……
「(この恋は……)」
この恋が叶うことはない。だって、ローラが好きなのはレオン様だから。今更私がどうこう言ったところで何も変わらない。
「早く、諦めなきゃ……」
私は一人、そう呟いた。早くこの恋を忘れなければならない。じゃないと……私は前に進めないから。
でも、私はまだこの恋を諦めることができなかった。未練がましい自分が嫌になる。
「(ローラ……)」
私はローラの名前を心の中で呼びながら目を閉じた。
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ここで二章は終わりです。次で三章に入っていきます
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