上 下
35 / 65
二章 〜思惑〜

二十六話 『実技テスト』

しおりを挟む
今日は実技テストだ。私は気合を入れながら深呼吸を繰り返し、


「……ナタリー様、緊張なさってますの?」


とリリィに声をかけられた。相変わらずの自信満々な態度だ。魔力の量はリリィの方が少ないのに、どうしてそんなに自信満々でいられるのだろうか。不思議でならないよ……。


「緊張するに決まってるでしょ?だって初めての実技テストだよ?」


「実技テスト、と言ってもそんな難しい内容ではありませんわよ?魔力操作と魔力放出の2つだけですもの」


淡々とリリィがそう言う。それは間違いないし、私だって理解している。でもさ……怖いものは怖いじゃん? 魔力操作は自分の魔力を思うがままに動かすだけだけど、魔力放出はただ放出するだけじゃなくてそれをしっかりコントロールして操らないといけないから大変だし、失敗すると周りに迷惑をかけてしまうかもしれないから気が抜けない。


「ナタリー様なら何も問題はありません。それに、魔力なんてものは想像力が大事なのですわ。ナタリー様なら、絶対に出来ます」


リリィはそう言って励ましてくれたけど……やっぱり不安になるのは私が心配性だからなのか?んー……でも、頑張るしかないよね。
私は覚悟を決めて前を向いた。そして先生が話し始めたので私達もそちらに意識を向ける。


「これから実技テストを行います。先生に呼ばれたら前に出てきてください。みんなの前で魔力操作と魔力放出をやってもらいます。名前を呼ばれた人は前に出てきてください」


先生がそう言った後、次々と生徒の名前が呼ばれていく。名前を呼ばれる順番は先生曰く、完全ランダムらしい。だからいつ私の順番が回ってくるかは分からない。


つまり、ドキドキしながら待つしかないってことだ。


「ドキドキ、しますわね」


ローラが小声でそう言ってきた。私は小さく頷く。ローラの顔が近すぎなのに。それすらドキドキしない。好きな人とこんなに近い距離にいるっていうのに、ドキドキしない。


それほど緊張しているってことなのかな……。


「では、ナタリー・アルディさん」


「は、はい!」


先生に名前を呼ばれたので私は慌てて返事をすると立ち上がって前に出た。やべぇ。緊張する。先生だけじゃなく、他の生徒も見てるし。


「では。魔法であそこの的に水の矢を作って当ててみてください」


そう言って先生が指を差した先には的があった。私は小さく深呼吸をして、その的に狙いを定める。そして水の矢をイメージしながら魔力を込めた。すると私の手から水が現れてそれが矢の形になっていく。


不思議なことに、水の矢は私がイメージした通りに動くのだ。
そのまま水の矢を的に向かって放つと、見事に命中して的に穴があいた。


「はい。合格」


そう言われて私はホッとしながら自分の席へと戻った。上手くいってよかった~!てゆうか、緊張している時間の方が長かった気がする。


でも、これでテストは終わりだ!意外とあっさり終わったし緊張して損したかも……しかも合格したし。


「次、リリィさん」


それからどんどん名前が呼ばれてテストは進んでいった。


△▼△▼


そして実技テストも終わり、私達は教室に戻ってきた。
みんな疲れたのか、ぐったりとしている。全員合格出来た……というわけではない。中には不合格になってしまった人もいた。
まあ、テストはそんなに甘くないってことだな。


「ふぅ……疲れましたわ」


そんなことを言いながら私は椅子に座った。疲れた……。もう帰りたい。テストは合格したけど、疲れたわー。私は机に突っ伏しながらそんなことを思った。
すると、リリィが私の横に座って話しかけてくる。
彼女はいつも通りの澄ました顔をして、


「ね?言ったでしょう?緊張する必要なんてなかったでしょう?」


ドヤ顔しながらそう言ってきた。
その通りだったかもしれない……まじで緊張して損したし。
次実技テストがあるときは緊張しなくても大丈夫だなー。


「そうね。リリィの言う通りだったわ」


私がそう言うと、リリィは嬉しそうに笑いながら、


「そうでしょう?」


ドヤ顔しながらリリィはそう言った。
うーん……こういう考えの方が人生気楽なんだろうな。
私はそう思いながら窓の外を見た。既に空はオレンジ色に染まっていて、綺麗な夕日が見える。 


「そろそろ帰りましょうか」


「そうね。帰りましょう」


私とリリィはそう言って帰る準備を始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

隻眼の覇者・伊達政宗転生~殺された歴史教師は伊達政宗に転生し、天下統一を志す~

髙橋朔也
ファンタジー
 高校で歴史の教師をしていた俺は、同じ職場の教師によって殺されて死後に女神と出会う。転生の権利を与えられ、伊達政宗に逆行転生。伊達政宗による天下統一を実現させるため、父・輝宗からの信頼度を上げてまずは伊達家の家督を継ぐ!  戦国時代の医療にも目を向けて、身につけた薬学知識で生存率向上も目指し、果ては独眼竜と渾名される。  持ち前の歴史知識を使い、人を救い、信頼度を上げ、時には戦を勝利に導く。  推理と歴史が混ざっています。基本的な内容は史実に忠実です。一話が2000文字程度なので片手間に読めて、読みやすいと思います。これさえ読めば伊達政宗については大体理解出来ると思います。  ※毎日投稿。  ※歴史上に存在しない人物も登場しています。  小説家になろう、カクヨムでも本作を投稿しております。

宮廷画家は悪役令嬢

鉛野謐木
ファンタジー
みなさまごきげんうるわしゅう。わたくし、ローゼンシュヴァリエ王国、インヴィディア公爵家次女、エルヴェラール=フィオン=インヴィディア7歳ですわ。 さっそうよくある話で恐縮ではございますが、わたくし、前世の記憶を少しだけ思い出しましたの。わたくしはどうやら前世でいう「乙女ゲーム」というものに転生してしまったようですの。 乙女ゲームに転生してしまった主人公の悪役令嬢が前世の記憶を少しだけ思い出し、悪役令嬢としての役目を放棄して自由気ままに絵を描きながら時々彫刻をしてみたり前世のアイテムを作ってみたりする話。 カクヨム様、エブリスタ様、にも掲載しています。 悪役転生を望んだが男にしろとは言っていない!もよろしくお願いします。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

処理中です...