恋が芽生えて

かんな

文字の大きさ
上 下
14 / 15

十四話 『上原悠馬の恋愛事情⑤』

しおりを挟む
――次の日。謝るために、俺はまた隣のクラスへと向かった。謝罪したい気持ちを胸に抱えて、俺は教室のドアを開けた。


いてほしい気持ちと、いてほしくない気持ち。その両方を抱えながら、俺は彼の姿を探すと、


「(い、いた……!)」


氷室稔がいた。俺は胸を高鳴らせながら、


「……なぁ、氷室稔ってやついる?話があるんだけど」


近くにいた男子生徒に声をかけた。みんなが驚いていた。……何故こんなに注目されるのかよく分からなかったが……そんなことは今はどうでもいい。今、重要なのは氷室稔がいるということだ。


「……氷室ならあそこ」


男子生徒が指差した先に、氷室稔がいた。氷室稔は驚いたように俺を見ていた。目を見開かせ、信じられないものを見たような表情で、氷室稔は俺を見ていた。


「話があるんだけど。ちょっといいかな?」


俺は氷室稔に近づく。――今は、氷室稔がどんな表情をしているのか全く分からなかった。


△▼△▼


やってきたのは空き教室。特にここに来た意味はなく、ただの思い付きだ。
誰もいない空き教室に入り、俺は氷室稔と向き合った。氷室稔は俺の目をじっと見据えていた。


ビクビク、と体を竦ませているようにも見える氷室稔。……怯えている。……それは俺のせいだ。……怯えさせたいわけじゃない。ただ、謝りたかっただけなのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。


とゆうか……俺はここで何を話すつもりだったのだろう。
謝るつもりだったのはそうなのだが……いざここに来ると何も言葉が出てこない。……いや、何を言えばいいのか、分からない。


とゆうか、ここまでノープランだ。ここに連れ出して何を言うのか全く考えていなかった。自分の計画の無さに呆れつつも、


「悪かった」


俺はとりあえず、謝った。…だって…俺が悪いから。あんな急な告白をしてしまったのだから……


「あ、あの……上原さん……?」


氷室稔は困惑したような声を出す。だけども、俺は頭を下げたまま、


「だって告白……あんなに急にしたらそりゃ、逃げられるわ……って姉ちゃんに突っ込まれて……そりゃそうだよな……と思って……だから……本当に……悪かった」


素直に謝罪の言葉を言った。……悪いのは全部俺なんだから。頭を上げることが、できない。
少し沈黙の間が空き、


「そ、そう…ですか……」


氷室稔は拍子抜けしたような声で言ったのと同時に俺は反射的に何故か氷室稔の顔を直視した。……氷室稔は、顔を真っ赤にしていた。それを見た瞬間。


「……だから、俺は改めて言うわ。俺、氷室稔のことが……好きだ」


無意識に溢れた言葉。その言葉に、氷室稔は目を見開いていたし、俺も自分の言葉に驚いた。なにを言ってんだ俺。
……だけど、やっぱり嘘はつけない。何を言われても、俺はやっぱり、氷室稔のことが好きなんだ。


そう思っていると、

「俺ら話したことないじゃないですか」


戸惑い気味に、氷室稔はそう言葉を返した。
……確かに。俺は氷室稔と話したことがない。……いや、違うな。喋ったことが無いわけじゃないけど、ちゃんとした会話はしたことがない。


――そして俺は、不意にを思い出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...