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〜番外編〜

『松崎透は幸せ』

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松崎透は完璧な人間だった。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能で賞も沢山取っている。まさに非の打ち所がない完璧超人であった。だから小中の頃は調子に乗っていた。


自分は誰よりも天才で優れていると。誰にもこの才能は負けない………と文字通り調子に乗っていた。しかし、高校に入学してから、自分より優れた人物が現れた。名前は成宮茜という少女だ。


彼女は勉強や運動だけではなく、料理も上手い。家事全般もできるし、性格も良い。おまけに美人ときた。非の打ち所がなかった。これがまだ性格が悪い、所謂性格ブスであれば納得できた。だが、彼女に限って言えばそんなことはなかった。


誰よりも純粋で清らかで。透は思った。この子こそが本当の"天才"なのだと。そう思ったとき、今までの行動が恥ずかしくなった。調子に乗っていた頃に戻りたいとすら思ってしまうほどに。


それほどまでに、彼女は完璧で美しかった。
それからというもの、透は完全に自信を失った。彼女に勝てる部分が何一つとしてなかったからだ。


まず、勉強。透は学年トップ10に入るほどの学力を持っている。しかし、彼女の成績はそれ以上だ。テストの点数も常に満点を取っているし、学年順位はトップ3に入っている。


そして運動。中学までは常にスポーツテストで1位を取っていた。しかし、高校では二番手に転落してしまった。勿論、一番は茜だ。


更には茶道、華道、書道、剣道なども得意らしく、何でもそつなくこなすことができる。その上、性格も良く、クラスの人気者。これだけのスペックを持ち合わせ、尚且つ可愛いのだ。
もはや嫉妬することさえ馬鹿馬鹿しいレベルだ。


初めは鬱陶しいと思っていた。"成宮茜"という人物に対して、嫉妬の思いを抱いていた。


だって余りにも完璧すぎるから。自分に持っていないものを全て持っているから。"天才"だと思っていた自分が惨めになるくらい、彼女は凄かった。


だからこそ、彼女が嫌いになった。憎くて仕方が無かった。だというのに――、


『私、透くんともっと話したいわ!これから仲良くしてね!』


恨むどころか茜は透に話しかけてきた。しかも笑顔で。成宮茜は最初から松崎透なんて敵視していなかった。それが惨めさを加速させた。


もう嫌だった。こんな思いをするのは。だから、徹底的に彼女を突き放した。
だけどそれでも彼女は諦めず、何度も話し掛けてくる。その度に無視をして、時には酷い言葉を浴びせたこともあった。
でも、彼女は決して挫けることなく、透に歩み寄ってきた。どれだけ冷たくしても、罵声を浴びせても、しつこく付き纏ってくる。


どうしてそこまでするのか、分からなかった。理解できなかった。だって――こんなにも自分は――、


『私は貴方と仲良くなりたいの!この気持ちは嘘なんかじゃない!』


なのに、彼女は自分のことを友達だと認めてくれた。完璧な少女であるはずの彼女が、自分を対等な存在として見てくれている。


ずっと勘違いしていた。成宮茜は自分のことを下に見ていたんだと思い込んでいた。でも違った。彼女は自分と同じ立場にいた。同じ目線で接してくれていた。
それに気づいたとき、自分は――


△▼△▼


目が覚める。何時の間にか眠っていたらしい。時計を見ると午後8時過ぎを指していた。
随分と長い時間寝てしまったようだ。恐らく疲れが溜まっていたせいだろう。


「……変な夢」


茜の夢を見た気がする。内容は覚えていないけど、とても懐かしい感じがした。今じゃ、茜には振られてしまって話せなくなってしまったけれど、昔はとても仲の良い方だった。最初の頃は嫌悪感しかなかったというのに不思議なものだ。


そんなことを思っていると、


「透さーん、夕飯が出来ましたよ」

部屋の外からカナの声が聞こえてきた。石田カナ。透の従兄妹であり、今は透の彼女だ。カナは大切な人だった。茜と会う前からずっと気にかけてたし、今でもそれは変わらない。寧ろ前よりも強くなったかもしれない。


「今日はカレーですよ!」


ずっとカナは好意を露わにしていてくれる。最初は戸惑った。カナは大事だし好きだ。しかし、そこに恋愛感情はなかった。だが、それでもカナは自分に愛を伝えてくれる。それが怖かった。いつか自分が彼女の想いに応えられない日が来ると思うと辛くなるから。


だけど、今は違う。ちゃんと向き合って尚一緒にいたいと思っている。彼女のことが本当に好きなのだと思うようになった。最初はカナと茜で三人交際というのをしていた。


奇妙なことにカナも茜もそれを"公認"した。つまり、浮気を許してくれたのだ。そんな話に進んで行った時、意味がわからなかった。普通なら怒るはずだと思ったからだ。しかし、二人は受け入れた。


こんなの最初は良くてもいずれ破局してしまうと思っていた。しかし、意外にも関係は上手くいった。少なくとも三ヶ月以上は続いているし、喧嘩も殆どしていなかった。だけど――否、案の定と言うべきか、別れの時は訪れた。


きっかけは些細なことだった。茜と喧嘩をした。原因はやはりカナのことに関してだった。最初は納得してくれたのに、段々と口論が激しくなっていった。そして最後には大爆発を起こし、完全に関係が崩れ去った。


こうなることは正直分かっていた。だけどずっと目を逸らし続けていた。しかし、もう逃げることはできない。もう後戻りはできないところまで来てしまった所に彼女から別れを伝えられて……そして別れた。


そして今はカナと一緒だ。彼女とはもう離れたくない……とそう思った。恐らく……とゆうか間違いなく、カナは透を逃さないし、透も逃げようとしない。そして透もカナのことを逃さないし、絶対に離したりはしないだろう。


あの土壇場で婚約者として紹介されたときはどうなることか……と思っていたのだが、今ではそれも良かったのかな……と思ってしまう。
まあ、そんなこんなで、今の松崎透は幸せだ。
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