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〜番外編〜
『石田京介という男④』
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あれから八ヶ月が経った。光輝の学校生活も安定しており、成績優秀の優等生に戻り彼女も出来たらしい。八ヶ月前は死んだ魚のような目をしていた彼が今では楽しそうにしている姿を見て、嬉しく思った。
だって八ヶ月の前の篠宮光輝は美香子を失い、自暴破棄になっていたあの頃の自分と重なったからだ。故に、助けてやりたいと思ったのだ。
それに光輝はカナの身の回りの世話やいろんなことをしてくれる。学費を払っているとはいえ、そんなに遠慮なんてしないでほしいと思うのだが、彼は「俺が好きでやっているので」と言って聞かない。本当に良い奴だ。
そして今日もまた、光輝は朝早くから起き出して朝食の準備をしてくれている。彼の作る料理はとても美味しいし。……そんなこんなんで光輝とは上手くいっていた。だが、娘とはあまり思い通りにいかないものだ。
自業自得……と言われたらそれまでだ。だってずっと放置して来た。美香子が死んだ時からずっと……だからこうなったんだろう。
今更だ。今更になって、カナと向き合う勇気がない。そんなときだ。彼から相談をかけられたのは――。
「カナの依存がマジでやばいです。このままじゃ…」
確かに最近のカナは透に昔以上に依存している気がする。それは目に見えていたし、それも目を逸らし続けていた問題だった。でもどうすればいいのかわからない。
「……京介さん、カナに何か言ってやってくださいよ」
縋るように、透はそう言った。しかし、自分が何かを言ったとして、カナが言うことを聞くとは到底思えない。寧ろ、亀裂が走り、余計悪化する可能性すらある。
「……すまない。私には無理だよ」
そう答えるしかなかった。すると透は大きなため息をつく。
「ですよねー……。まあ、わかりました。とりあえず様子見ますわ」
透はそう言い残して部屋から出て行った。その背中は疲れ切っており、なんだか可哀想になった。
(……結局何も出来ないじゃないか)
自分の無力さに嫌になる。それに、これは自分のせいだ。カナがああなった原因は間違いなく自分にある。
もっと早く、ちゃんと話を聞いてあげればよかったのだ。そうしたら、彼女はきっとあんな風になってはいなかっただろう。
全ては自分の責任なのだ。なのに自分は、また逃げるのか? 自分に問いかける。
「………」
答えは出ない。ただ、罪悪感だけが募っていくだけだった。
△▼△▼
『頼む!俺を助けてくれ!』
とある日のこと。会社に出勤していつも通り仕事をしていた京介に一つの電話がかかって来た。相手は協力会社の社長である。
協力会社といっても社長が有能ではなく、部下の方が有能という何とも言えない会社である。それでも仕事はあるようで、それなりに忙しかったりする。
そんな時にこの連絡が来たわけなので、正直迷惑以外の何でもない。
「助けるって何をですか?」
『決まってんだろ!?金だよ!金を工面してほしいんだよ』
「お金ならこの前投資したじゃないですか」
『あれだけじゃ足りねえんだよ!』
敬語も忘れて叫ぶように言ってくる。
そもそもの話だが、京介はこの男のことをあまり好きではない。というより嫌いに近い。
別に高圧的なのはいいと思う。それが会社に必要ならば仕方がないことだ。
ただ、彼はとにかく人の話を聞かない。こちらから提案しても無視されることが多く、まともに会話が成立しないことがほとんどだ。その上、すぐにキレる。
どうしてこんな奴が社長になれたのか不思議でならなかったが、親のコネらしい。つまり、実力ではないということだ。
でも、投資をしたのは事実だし、ある程度の利益が出たことは確かだった。だから、少しくらい融通するべきかもしれないと思った矢先でのこれだ。
『そ、そうだ!俺の息子とお前の娘で政略結婚させようぜ!それでお互いの利益が生まれるはずだ』
政略結婚というのはお互いの利益のためだけに行うものだ。故に、こっち側のメリットなんてない。こんな提案する時点でおかしいのだが、それを理解していないようだ。
本当に馬鹿で滑稽で哀れだと思う。だけど――。
『カナの依存がマジでやばいです。このままじゃ…』
『……京介さん、カナに何か言ってやってくださいよ』
透の声が頭の中に響く。自分のせいだと自業自得なのはわかっている。つまり、だ。
「…………分かった。その話乗ろう」
自分のケジメとして、そしてカナと向き合うために、そして透の願いに応える為に、父親としての責務を果たすことにしたのであった。
△▼△▼
案の定、カナには猛批判された。当然だ。いきなりそんなことを言われても困るだけだし、自分だってこんなことされたら文句を言うだろう。
だから、カナの気持ちはよくわかるし、責められるのは甘んじて受け入れなければならない。だが――。
『…でも、諦めたくない!お父様の言う通り、お兄ちゃんは……絶対に私のことを見てくれない。けどね、私はこの恋を諦められないんですよ……この恋だけは……!』
そんな言葉を聞いた時、思わず鼻で笑ってしまいそうになった。だって透はカナのことが好きじゃないから。
それなのに好きだなんてよく言えるものだ。カナの言う"好き"は恋愛感情じゃなくて依存心から来るものだろう。
透への依存が強すぎて、透の言動が全て正しいと思い込んでいるのだ。
だから透の言葉は全て肯定され、透の行動は絶対正義となる。
無論、透が悪い奴だとはこれぽっちも思っていない。彼は優しいし、気遣いが出来る人間だ。だからこそ、カナは透に依存してしまっているんだろう。
「………バカな娘」
そんなことを思いながら京介はコーヒーを飲んだ。
だって八ヶ月の前の篠宮光輝は美香子を失い、自暴破棄になっていたあの頃の自分と重なったからだ。故に、助けてやりたいと思ったのだ。
それに光輝はカナの身の回りの世話やいろんなことをしてくれる。学費を払っているとはいえ、そんなに遠慮なんてしないでほしいと思うのだが、彼は「俺が好きでやっているので」と言って聞かない。本当に良い奴だ。
そして今日もまた、光輝は朝早くから起き出して朝食の準備をしてくれている。彼の作る料理はとても美味しいし。……そんなこんなんで光輝とは上手くいっていた。だが、娘とはあまり思い通りにいかないものだ。
自業自得……と言われたらそれまでだ。だってずっと放置して来た。美香子が死んだ時からずっと……だからこうなったんだろう。
今更だ。今更になって、カナと向き合う勇気がない。そんなときだ。彼から相談をかけられたのは――。
「カナの依存がマジでやばいです。このままじゃ…」
確かに最近のカナは透に昔以上に依存している気がする。それは目に見えていたし、それも目を逸らし続けていた問題だった。でもどうすればいいのかわからない。
「……京介さん、カナに何か言ってやってくださいよ」
縋るように、透はそう言った。しかし、自分が何かを言ったとして、カナが言うことを聞くとは到底思えない。寧ろ、亀裂が走り、余計悪化する可能性すらある。
「……すまない。私には無理だよ」
そう答えるしかなかった。すると透は大きなため息をつく。
「ですよねー……。まあ、わかりました。とりあえず様子見ますわ」
透はそう言い残して部屋から出て行った。その背中は疲れ切っており、なんだか可哀想になった。
(……結局何も出来ないじゃないか)
自分の無力さに嫌になる。それに、これは自分のせいだ。カナがああなった原因は間違いなく自分にある。
もっと早く、ちゃんと話を聞いてあげればよかったのだ。そうしたら、彼女はきっとあんな風になってはいなかっただろう。
全ては自分の責任なのだ。なのに自分は、また逃げるのか? 自分に問いかける。
「………」
答えは出ない。ただ、罪悪感だけが募っていくだけだった。
△▼△▼
『頼む!俺を助けてくれ!』
とある日のこと。会社に出勤していつも通り仕事をしていた京介に一つの電話がかかって来た。相手は協力会社の社長である。
協力会社といっても社長が有能ではなく、部下の方が有能という何とも言えない会社である。それでも仕事はあるようで、それなりに忙しかったりする。
そんな時にこの連絡が来たわけなので、正直迷惑以外の何でもない。
「助けるって何をですか?」
『決まってんだろ!?金だよ!金を工面してほしいんだよ』
「お金ならこの前投資したじゃないですか」
『あれだけじゃ足りねえんだよ!』
敬語も忘れて叫ぶように言ってくる。
そもそもの話だが、京介はこの男のことをあまり好きではない。というより嫌いに近い。
別に高圧的なのはいいと思う。それが会社に必要ならば仕方がないことだ。
ただ、彼はとにかく人の話を聞かない。こちらから提案しても無視されることが多く、まともに会話が成立しないことがほとんどだ。その上、すぐにキレる。
どうしてこんな奴が社長になれたのか不思議でならなかったが、親のコネらしい。つまり、実力ではないということだ。
でも、投資をしたのは事実だし、ある程度の利益が出たことは確かだった。だから、少しくらい融通するべきかもしれないと思った矢先でのこれだ。
『そ、そうだ!俺の息子とお前の娘で政略結婚させようぜ!それでお互いの利益が生まれるはずだ』
政略結婚というのはお互いの利益のためだけに行うものだ。故に、こっち側のメリットなんてない。こんな提案する時点でおかしいのだが、それを理解していないようだ。
本当に馬鹿で滑稽で哀れだと思う。だけど――。
『カナの依存がマジでやばいです。このままじゃ…』
『……京介さん、カナに何か言ってやってくださいよ』
透の声が頭の中に響く。自分のせいだと自業自得なのはわかっている。つまり、だ。
「…………分かった。その話乗ろう」
自分のケジメとして、そしてカナと向き合うために、そして透の願いに応える為に、父親としての責務を果たすことにしたのであった。
△▼△▼
案の定、カナには猛批判された。当然だ。いきなりそんなことを言われても困るだけだし、自分だってこんなことされたら文句を言うだろう。
だから、カナの気持ちはよくわかるし、責められるのは甘んじて受け入れなければならない。だが――。
『…でも、諦めたくない!お父様の言う通り、お兄ちゃんは……絶対に私のことを見てくれない。けどね、私はこの恋を諦められないんですよ……この恋だけは……!』
そんな言葉を聞いた時、思わず鼻で笑ってしまいそうになった。だって透はカナのことが好きじゃないから。
それなのに好きだなんてよく言えるものだ。カナの言う"好き"は恋愛感情じゃなくて依存心から来るものだろう。
透への依存が強すぎて、透の言動が全て正しいと思い込んでいるのだ。
だから透の言葉は全て肯定され、透の行動は絶対正義となる。
無論、透が悪い奴だとはこれぽっちも思っていない。彼は優しいし、気遣いが出来る人間だ。だからこそ、カナは透に依存してしまっているんだろう。
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そんなことを思いながら京介はコーヒーを飲んだ。
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