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〜番外編〜
『石田京介という男①』
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石田京介は常に完璧な存在だった。勉強は出来るし、運動も出来るし、女も選び放題でイケメンでおまけに家は金持ち。
正に人生の勝ち組であり、クラスメートからの信頼もされ、先生からも一目置かれているような人間だった。何でも出来る京介は誰からの信頼も勝ち取れた。
故に、嫉妬、羨望の眼差しを向けられる事も少なくなかった。だが、それは全て京介にとってどうでも良かったのだ。何故なら彼は完璧だからだ。
だから、京介は嫉妬の視線も、恨み言も鼻で笑って受け流した。そんなものは彼にとって取るに足らないものなのだ。本当に完璧だから誰に何を言われようが気にしないのだ。
そんな彼も"大人"になった。父親が社長を勤める会社に就職し、そこでバリバリ働くエリート社員となった。最初はコネ入社だとか色々言われたものの、持ち前の優秀さを発揮してからは周りからの妬み嫉みの感情は無くなっていった。
"大人"になっても何も変わらない。"子供"の時と変わらず彼は完璧なままであった。社会に出ても何も変わらない。仕事が出来て、容姿端麗で、スポーツ万能で、金もあって……全てにおいて完璧なままだった。
何もかもが思い通りの人生で充実していた。……京介の会社が倒産寸前になるまでは。あのときは流石に焦ったものだ。
「もう終わりなのか……」
そう思ったときもあった。そんなときだ。京介に"結婚"という話が出たのは……
正直、結婚なんてしたくなかった。しかし、これは"政略結婚"というやつだ。お互いがお互いの利益の為に行う結婚であるが――。
「こんな倒産寸前の会社を救ってくれるとか何を考えているんだ……?」
騙されているのだろうか。いや、それはないだろう。いくらなんでもメリットがなさすぎる。それにこの話を持ちかけてきた相手は会社の重役の一人の娘らしい。
つまり、その娘と結婚すれば自分は次期社長の座を手に入れることが出来るわけだ。……正直断りたかった。結婚とかそういう面倒なことをしたくはなかったからだ。
だが、今この会社は崖っぷちにいる状態だ。ここで断れば確実に潰れてしまうだろう。それだけは何としても避けたいところである。それに――。
「……お願いだ!お前が受けてくれないと、会社も潰れてしまうんだ!」
そう言って頭を下げてくる父の姿を見たら断れるはずもなかった。京介は何も言わずに承諾した。
相手の名前は"九条美香子"と言った。美人でスタイルが良く、性格も良い女性だった。
いい女性だった……と言っても、別に好きとかそういう気持ちはなかった。ただ、彼女と結婚したいと思う人は沢山いるだろうと思っただけだったし、向こうもきっと京介の事が好きではないと思っていた。
△▼△▼
美香子と結婚し、今まで以上に、忙しい日々を送ることになった。毎日のように残業をし、家に帰ってからは寝るまでずっと仕事をしているような生活だった。
それでも、彼女は文句一つ言うことなく夫を支えてくれた。家事だって率先してやってくれたし、夫の愚痴を聞いてくれることもあった。そして何より、自分に対して優しく接してくれた。
「………お前は、どうして俺にそんなに優しいんだ?これは政略結婚なんだぞ」
ある日、彼女に聞いたことがあった。すると彼女は少し困った顔をしてから答えた。
「貴方の事が好きだからですよ。それ以外に理由が必要ですか?」
「…この結婚に愛も優しさもないってことぐらいわかっているはずだろ?」
そう、これは政略結婚なのだ。お互いに利益があってこその結婚。そこに愛情などないのだ。
なのに彼女は自分を好いていると言う。何故なのか理解できなかった。
だから聞いてみたのだが……。
彼女はクスリと笑みを浮かべて言った。
「だって好きですもの。……私の気持ちを疑うんですの?」
「疑ってなどいない。ただ、俺は……」
美香子と結婚してから分からなくなってきたことがある。それは自分の心臓が高鳴る時があるということだ。彼女と話す度に胸の奥がきゅっと締め付けられる感覚に陥るようになった。
でも、彼女には言いたくなかった。言ったとして、揶揄われるだけのような気がしていたからだ。
△▼△▼
――子供が生まれた。女の子だった。名前はカナと名付けた。美香子が『私は母親になって貴方は父親になるのです』と言っていた。
正直、実感なんて湧かなかった。自分が"父親"になるということがどういう事か全く想像出来なかったから仕事を言い訳にしてあまり関わらないようにしてきた。
そんなある日のこと。仕事中に電話がかかってきた。それは美香子の両親からのものだった。内容は――美香子が事故に遭ったというものだった。
急いで病院に向かい、病室に入るとそこにはベッドに横になっている美香子がいた。酸素マスクを付けていて顔色は悪く、腕には点滴が刺されていた。
「……大丈夫か!?」
思わず声をかけるが、返事は来ない。当たり前だ。意識がない状態で喋ることなど出来るはずがなかった。だけど、そのときはそんなことも考えられなくて必死に声をかけ続けた。
そして気付いた……とゆうか、今まで無意識に目を逸らしていたことに気付いた。
「(……俺美香子のこと、好きだ…)」
そう思った瞬間、何かがストンと落ちた感じがした。
それと同時に涙が出てきた。初めて自覚した恋。揶揄われようが関係ない。彼女のことを本気で好きになっていたのだ。
「……」
ふっと美香子の方を見ると、目が開いていた。まだ虚な目ではあったが、確かにこちらを見つめていた。
「美香子……!」
「……きょーすけさん……」
「あぁ、そうだ!京介だ!お前の夫だ!」
抱きしめたいが、今の状態だと危ないので手を握るだけにしておくことにした。
正に人生の勝ち組であり、クラスメートからの信頼もされ、先生からも一目置かれているような人間だった。何でも出来る京介は誰からの信頼も勝ち取れた。
故に、嫉妬、羨望の眼差しを向けられる事も少なくなかった。だが、それは全て京介にとってどうでも良かったのだ。何故なら彼は完璧だからだ。
だから、京介は嫉妬の視線も、恨み言も鼻で笑って受け流した。そんなものは彼にとって取るに足らないものなのだ。本当に完璧だから誰に何を言われようが気にしないのだ。
そんな彼も"大人"になった。父親が社長を勤める会社に就職し、そこでバリバリ働くエリート社員となった。最初はコネ入社だとか色々言われたものの、持ち前の優秀さを発揮してからは周りからの妬み嫉みの感情は無くなっていった。
"大人"になっても何も変わらない。"子供"の時と変わらず彼は完璧なままであった。社会に出ても何も変わらない。仕事が出来て、容姿端麗で、スポーツ万能で、金もあって……全てにおいて完璧なままだった。
何もかもが思い通りの人生で充実していた。……京介の会社が倒産寸前になるまでは。あのときは流石に焦ったものだ。
「もう終わりなのか……」
そう思ったときもあった。そんなときだ。京介に"結婚"という話が出たのは……
正直、結婚なんてしたくなかった。しかし、これは"政略結婚"というやつだ。お互いがお互いの利益の為に行う結婚であるが――。
「こんな倒産寸前の会社を救ってくれるとか何を考えているんだ……?」
騙されているのだろうか。いや、それはないだろう。いくらなんでもメリットがなさすぎる。それにこの話を持ちかけてきた相手は会社の重役の一人の娘らしい。
つまり、その娘と結婚すれば自分は次期社長の座を手に入れることが出来るわけだ。……正直断りたかった。結婚とかそういう面倒なことをしたくはなかったからだ。
だが、今この会社は崖っぷちにいる状態だ。ここで断れば確実に潰れてしまうだろう。それだけは何としても避けたいところである。それに――。
「……お願いだ!お前が受けてくれないと、会社も潰れてしまうんだ!」
そう言って頭を下げてくる父の姿を見たら断れるはずもなかった。京介は何も言わずに承諾した。
相手の名前は"九条美香子"と言った。美人でスタイルが良く、性格も良い女性だった。
いい女性だった……と言っても、別に好きとかそういう気持ちはなかった。ただ、彼女と結婚したいと思う人は沢山いるだろうと思っただけだったし、向こうもきっと京介の事が好きではないと思っていた。
△▼△▼
美香子と結婚し、今まで以上に、忙しい日々を送ることになった。毎日のように残業をし、家に帰ってからは寝るまでずっと仕事をしているような生活だった。
それでも、彼女は文句一つ言うことなく夫を支えてくれた。家事だって率先してやってくれたし、夫の愚痴を聞いてくれることもあった。そして何より、自分に対して優しく接してくれた。
「………お前は、どうして俺にそんなに優しいんだ?これは政略結婚なんだぞ」
ある日、彼女に聞いたことがあった。すると彼女は少し困った顔をしてから答えた。
「貴方の事が好きだからですよ。それ以外に理由が必要ですか?」
「…この結婚に愛も優しさもないってことぐらいわかっているはずだろ?」
そう、これは政略結婚なのだ。お互いに利益があってこその結婚。そこに愛情などないのだ。
なのに彼女は自分を好いていると言う。何故なのか理解できなかった。
だから聞いてみたのだが……。
彼女はクスリと笑みを浮かべて言った。
「だって好きですもの。……私の気持ちを疑うんですの?」
「疑ってなどいない。ただ、俺は……」
美香子と結婚してから分からなくなってきたことがある。それは自分の心臓が高鳴る時があるということだ。彼女と話す度に胸の奥がきゅっと締め付けられる感覚に陥るようになった。
でも、彼女には言いたくなかった。言ったとして、揶揄われるだけのような気がしていたからだ。
△▼△▼
――子供が生まれた。女の子だった。名前はカナと名付けた。美香子が『私は母親になって貴方は父親になるのです』と言っていた。
正直、実感なんて湧かなかった。自分が"父親"になるということがどういう事か全く想像出来なかったから仕事を言い訳にしてあまり関わらないようにしてきた。
そんなある日のこと。仕事中に電話がかかってきた。それは美香子の両親からのものだった。内容は――美香子が事故に遭ったというものだった。
急いで病院に向かい、病室に入るとそこにはベッドに横になっている美香子がいた。酸素マスクを付けていて顔色は悪く、腕には点滴が刺されていた。
「……大丈夫か!?」
思わず声をかけるが、返事は来ない。当たり前だ。意識がない状態で喋ることなど出来るはずがなかった。だけど、そのときはそんなことも考えられなくて必死に声をかけ続けた。
そして気付いた……とゆうか、今まで無意識に目を逸らしていたことに気付いた。
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「……」
ふっと美香子の方を見ると、目が開いていた。まだ虚な目ではあったが、確かにこちらを見つめていた。
「美香子……!」
「……きょーすけさん……」
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