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3話

彼の寝室で

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寝室の明かりをわずかに暗くして、私はベッドに寝転んだ。
さっきは一方的に好きなようにされたので早くやり返したい気持ちもあったけど、まずは雰囲気作りも大切かなという判断だ。
「提案なんだけど」
「はい」
朝木くんの隣に寄り添い、口を開く。
「今だけは私を恋人だと思ってみない?」
今更な感じもするけれど、そもそも先輩と後輩という立場が緊張に繋がっているのかもしれない。
できるだけリラックスすれば、勃起が持続して挿入まで繋げられるのでは……と思ってのことだった。
そんな内容を説明すると、朝木くんは「なるほど」と相づちを打った。
「先輩が俺の彼女ですか……」
なんだその微妙な返事は。
私は拗ねた振りをして、彼の腕に抱きつきながら頬を寄せた。
「うん、思うところはたくさんありそうだけど……今この場では、私達は先輩後輩じゃなくて普通の恋人同士、って思い込めば、少しは緊張も和らぐかな~と」
朝木くんは何かを言いたそうに視線を彷徨わせたけれど、最終的には頷いてくれた。
乱れひとつないシーツの上で、朝木くんの体に寄り添う。
彼は私が行動するのを見守っているようだった。

さて、何から始めようか。
前回はマッサージをしたり胸を押し当てて興奮してもらったけど、今回はどうしようかな。
毎回同じことをするよりは、違う内容の方が朝木くんの下半身に効果があるかも。
私は彼の手に触れ、欲情を揺り起こすみたいに手の甲をしっとりとした動作でなぞる。
「朝木くんの手って、大きいよね。指も細くて長いし、綺麗な手……」
ハンドマッサージをしつつ、大きな手を顔の前に移動させる。
爪の先まで整えられた指を眺めて素直な感想を伝えると、彼は恥ずかしそうに睫毛を伏せた。
「どうかした?」
綺麗な指先を揉みほぐしながら問いかける。
「先輩の目つきがやらしくて……」
「ええ、そう?」
そんなに変な目で見ていただろうか。
まるで私の方がムラムラしてるみたい……って、それもそうか。
夕食の前に私だけ気持ちよくさせてもらったから、二人で一緒に気持ちよくなりたいのだ。
「……ううん、やっぱりそうかも」
私は彼の指を口の中に招き、軽く噛んだ。
朝木くんは驚いたように手を引こうとしたけれど、無理やり掴み、指に舌を這わせる。
「さっき私だけがイかされたから、朝木くんにも早く感じて欲しくて。挿れられなくても、気持ち良くなれる方法はいっぱいあるでしょ?」
普段なら言わないようなセリフも、甘い恋人の雰囲気を作る為ならすらすらと唇から流れ出た。
私が手や彼の頬にキスをしていると、朝木くんが息を呑む。
「いろはさん……」
その声を聞いた時、体に電流が走ったかのように思えた。
やばい。
いつもは先輩って呼ばれてるから、改めて名前を呼ばれると顔が熱くなってしまう。
手のひらに汗が滲む。……ちょっと、破壊力が大きかったかも。
「なあに、優くん」
照れを悟られないように余裕のある振りをして呼び返すと、朝木くんは目を細めた。
私の後頭部に手を添えて、髪の間に指を滑り込ませている。
「いろはさんの髪って、柔らかいですね」
髪の感触を楽しむように頭を撫でられ、くすぐったい気持ちになった。
上半身を起こして、朝木くんの体に覆いかぶさる。
「今日は同じシャンプーを使ったから、お揃いの香りになってるはずだよ」
私は彼を組み敷くような体勢になりながら、顔を近づけた。
色素の薄い茶色の眼差しが接近し、引き寄せられるように唇を重ねる。
「本当だ、いろはさんから俺とおんなじ匂いがする……」
「そうでしょ?」
小さく笑って開いた唇の隙間から舌を差し込み、深めのキスをする。
「んっ……」
キスを止めた時に出た吐息がどちらのものかは分からない。
ただ私も朝木くんも、雰囲気に酔わされている感覚があった。
「さっき好き放題されたから、今度は私が好きなようにするね。君は動いちゃダメだよ」
その気になれば私を押し戻すなんて簡単に出来るのだろうけど、彼は私が言う通りに四肢を投げ出した。
私は朝木くんが可愛いと言ってくれた下着を自ら取り外しつつ、彼の服を掴む。
上半身のスウェットを捲り、腹部に手を添えると、手のひらに穏やかな体温が伝わってくる。
そっと手を上の方へ伸ばすと、指先に小さな乳首がぶつかった。
「っ……脱がすなら、全部脱がせればいいのに」
小粒の突起を撫でると、朝木くんは一瞬言葉を詰まらせた。
私は乳首を撫でる手つきは止めないまま、彼の顔を覗く。
「うーん……さっきの仕返し? 中途半端に脱がせるのって、確かに興奮材料になるね」
遠回しにキッチンでの出来事を言うと、彼は困ったように笑う。
「もう……」
仕方がない、と言いたげに息を漏らす朝木くんがかわいくて、ついいっぱいキスをしてしまう。
唇、首筋、服を捲りあげて現れた腹部。
それから――綺麗な桃色の乳首。
「朝木くんって、女の子みたいな乳首の色してるよね」
そっと唇に含んで、歯で粒を軽く噛む。
彼はわずかに身を震わせながら、首を振った。
「恥ずかしいのでやめてください……」
「どうして? 悪いことじゃないのに」
だめだ、楽しい気分になってきた。
私は唇で乳首を、手では朝木くんのものを扱きながら笑みを漏らした。
「……ほら、乳首を触りながらこっちを軽く撫でただけなのに、もう大きくなったよ」
朝木くんがぐっと唇を噛み締める。
欲望の塊は、私の言葉の通り、普通に触るよりも大きく膨らみ始めていた。
「胸で気持ちよくなっちゃうなんて、本当に女の子みたいだね」
からかうように言うと、彼は顔を赤くして視線をそらした。
どうしようかな。
このまま手で扱くか、口でするか……うーん。
悩んでいると、静かに肩を押された。
思わぬ抵抗に驚くと、朝木くんは「勘弁してください……」と懇願するように呟いた。
「先輩に全部任せてると、このまま新たな世界が開いちゃいそうです」
「いいんじゃない? 最近そういうの流行ってるらしいし。女攻め? 女性優位……? っていうの?」
「どこからそんな情報を仕入れたんですか」
そんなの、朝木くんのためにネットで色々調べているうちに、としか言いようがない。
彼とこういう関係になるまで、私も至って普通のエッチしかしたことがなかった。
男の人の乳首を触る日がくるなんて想像もしていなかったし。
まあ、結構楽しい気分になっているので構わないけど。
私は体勢を立て直し、もう一度彼に顔を近づけた。
「いろはさん無しで生きられない体になったらどうするんですか」
なんとも返事がしづらい言葉だった。
私は曖昧な笑顔で誤魔化し、近づけかけた顔をそのままにして、朝木くんの下半身に手を伸ばす。
高ぶった熱に手を重ねて滑らせるように往復させると、その熱杭は私の動きに合わせてぴくぴくと動いた。
……よし、今日もちゃんと反応はしているな。
「ちゃんと勃ってるね。偉い偉い」
さて、問題はここからだ。
どれだけ今硬く張り詰めていても、いざ繋がろうとすると萎えてしまう。
今回は精力のつく食材を使った料理を食べてもらったけど、持続の効果はいかがだろうか……。
ほんの少し不安な気持ちを抱きながら、朝木くんに問いかける。
「どうする、一回イッておく?」
中途半端になってしまったら苦しいかなと持ちかけると、彼は左右に首を動かした。
「いや……このまま続けてください」
そして覚悟を決めたように一呼吸置き、力強い眼差しを向けてくる。
「お願いします」
「うん、わかった」
頷いて、彼のものにゴムを被せる。
私の方は朝木くんの反応を見てとっくに濡れていたので、事前準備は不要だった。
それにさっきイかせてもらったから、余計に濡れている気がする。
改めて考えると、ちょっと恥ずかしいかも……。
「それじゃあ今から挿れるけど……ゆっくりしようね」
そういうわけで、早速彼にまたがった。
少しでも甘い雰囲気を醸し出そうと、寝転んでいる彼の額にキスをしたり、乳首を指で転がしたりして。
朝木くんの可愛い声を楽しみながら、入り口の部分に塊を押し付ける。
自分から溢れ出た愛液を頼りに、性器同士を擦り合わせた。
「ふふ、えっちな音が聞こえるね」
「……い、いろはさん……っ」
「ほら、もう少しで入っちゃいそうだよ~」
濡れた音が大きくなって、もう少し腰を下ろせば完璧に挿入される体勢になった。
朝木くんの唇から熱い吐息が漏れている。
耐え難そうに眉を寄せている表情すら色気に満ちていて、私も我慢できなくなってくる。
早く一緒に気持ちよくなりたい……。
濡れて広がっている入り口に、それを忍ばせようとする。
……でも、だめだった。
ぐぐ、と押し込もうとしたとき、朝木くんのものは硬さを失ってしまった。
「っ……」
朝木くんが悔しそうに唇を歪めた。
うーん。どうしてなんだろう。
前回よりも硬く勃ってたような気がするし、料理の効果は少しあったみたいだけど……。
やっぱり挿れる瞬間に萎えてしまうようだ。
慰めにはならないかもしれないけれど、私は彼の頭を撫でた。
「……すみません」
「大丈夫、大丈夫」
子どもに言い聞かせるようになるべく穏やかな声で言う。
「謝らないでいいんだよ。もっと気楽に考えて良いの」
「気楽に……?」
「そう。もし出来なかったら他のことをすればいい。さっき君が私にしてくれたみたいに、繋がらなくても気持ちよくなる方法はいっぱいあるでしょ? 最後まできちんとやり遂げなきゃだめ、なんてことはないんだから」
朝木くんは黙ったまま私の声に耳を傾けている。
その表情はどこか切なげで、彼を放っておけなくなった。
「とにかく、焦らないでいいよ。私、こうやって抱き合うだけでも十分だから」
悔しそうな顔は見られたくないかなと思って、胸元に朝木くんの頭部を寄せる。

仕事中の朝木くんは、年下だけどしっかりしていて、頼れるし気遣いもできて、信頼できる後輩だ。
でも――今目の前にいる彼は少し不安げで涙もろくて、でもとても優しい。
……やっぱり、こんなに可愛い後輩を放っておけない。
今日はだめだったけど、次回こそは――って、焦るのも良くないか。
ゆっくりのペースでいいから、少しずつでも悩みが解消されたらいい。

色々と考え込んでいると、腕の中にいる彼が身じろぎをした。
「……いろはさん、ありがとうございます」
朝木くんは縋り付くような声音で言い、私を抱きしめた。
体温が重なって、それだけで気分が高揚する。
「俺、あなたに相談してよかったです。誰かに悩みを打ち明けられただけでも、心が少し軽くなりましたし……」
後頭部に手を添えられ、私は彼から視線をそらせなくなった。
これまでだって散々恥ずかしいことはしてきたのに、真正面から見つめ合うのは、まだ少し緊張してしまう。
「まだ症状は治ってないけど、いろはさんの言う通り、焦らなくてもいいんだって思えました」
朝木くんは安心したような声で喋っている。
私はそっか、と相槌を返して、彼の胸板に顔を埋めた。
行為の最中みたいに彼の名前を呼びたいのに、なぜだか唇がうまく動かない。
優くん、と甘い声で呼べば、今以上に彼に深く入れ込んでしまうような、そんな気がしていた。

今だけ恋人だと思って、と言い出したのは私なのに、つい本気になってしまいそうだった。
でもそれは良くないことだとわかっているから、心の奥に生まれた感情に蓋をして、私は微笑みを浮かべて彼の顔を見上げた。
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