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3話

キッチンで、少しだけ

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「先輩、カウンターに手をついてもらえますか」
「う、うん……」
言われた通りに白いカウンターに手をつくと、朝木くんは私のスカートを捲り上げた。
ストッキング越しに下着をなぞられ、くすぐったさを耐え忍ぶように唇を引き結ぶ。
「可愛い下着ですね」
彼はそう言いつつ、布の上から秘所に触れてきた。
そこはまだ乾いているけれど、これから起こることを予知して体の奥がわずかに疼く。
「どこにでもある普通の柄だと思うよ」
照れ隠しに誤魔化すと、朝木くんはふっと笑う。
「でも、今日俺に見せる為に選んで履いてきたんじゃないんですか?」
それはその通りで、私は何も言い返せなくなった。
がっつりした勝負下着というわけではないけど、朝木くんはどんな下着が好きなんだろうなどと考えて身につけてきたのだ。
「この下着、朝木くんの好きな色だったら良いんだけど」
冗談めかして話している間に、ストッキングを膝の辺りまで下げられた。
窮屈だった下腹が解放されたけれど、同時に足を自由に動かせなくなったことに気づく。
緩めの拘束されているような気分になり、思わず息が詰まりそうになった。
それを悟られないように平静を保っていると、背後で朝木くんが笑う気配がした。
「中途半端に脱がすのって、いつもより興奮しませんか」
私の心は、この子に読まれているのだろうか。
そんな疑問が湧き、私はちらりと後ろを向く。
「どうしました?」
「朝木くんって、人の心が読めたりする?」
「まさか。先輩がわかりやすいだけですよ」
彼は笑いながら首を振り、私の首筋に唇を押しつけた。
次いで、潜めた声で鼓膜をくすぐってくる。
「喜怒哀楽もそうですけど……相手にどうされたがってるのも、すぐにわかります」
普段よりも低い声音に色気を感じていると、彼は温かい感触を私の首に這わせたまま指先で体の線を辿った。
下着の中に忍び込んだ指が私の肌を確かめるように動き、体内に入ろうとする。
ところが、その指は入り口の上で止まった。
「……?」
どうしたのだろうと首を傾げていると、指の腹がゆっくりとした動作で花芯を押し上げて離れる。
その動作を繰り返しながら、朝木くんは下腹に伸ばしていない方の手を上着の中に入れ、ブラジャーの隙間から乳房を掴んだ。
柔らかな刺激に気分が高まり、私は唇から震える吐息を出す。
「はあ、あ……っ」
早く内側を刺激して欲しいのに、求めているものが一向に訪れない。
誑かすように焦らされ、腰の奥がじんわりと熱くなってしまう。
「中を触って欲しいですか。それともこっちの方が好き?」
朝木くんは私の耳を柔く噛みながら尋ねてくる。
彼の指は豆粒を捏ねるように動いていて、速度を上げたり落としたりと緩急をつけて私を攻めた。
「ん、ああ……っ!」
「まあ、聞かなくてもわかるんですけど」
敏感なところを重点的に触られ、自然と腰が揺れてしまう。
一方的に与えられる感覚から逃れたくても、両足が自由に動かせなくてどうにも出来ない。
それがより興奮材料に加わっているのか、快楽のさざ波は想像よりも早く体中を巡り、私はとっさに朝木くんの腕を掴んだ。
「待っ……て……っ、イっちゃう……っ」
「もう?」
素直に打ち明けると、朝木くんは意外そうに小首を傾げた。
その声音から、顔が見えなくても、目を細めている表情が手に取るようにわかった。
「本当に待っていいんですか」
彼は一度手を止め、私のうなじにキスをする。
キスマークをつけるような深い音が響き、それだけでも達してしまいそうになった。
「……いじわるだね」
私は深く息を吐き、後ろを向く。
朝木くんは想像通りの微笑みを浮かべていた。
視線が絡んだ瞬間に唇が重なってきて、反射的に目を閉じた隙をついて体の中に指が侵入した。
濡れた隘路に入った指先はゆっくりとした速度で体内を探り、擦っていく。
「あっ……! なか、やだ……っ」
私はキスから逃げるように顔を背け、頭を振った。
彼は手のひらで敏感な粒を圧迫しつつ、中の弱い部分も的確に押している。
体の奥から濡れた液が音を立てて溢れ出し、いよいよ限界が迫ってきた。
「外と中、両方ともいじりますね。先輩、そうやって攻められるの好きでしょう?」
しらない、やだ、と繰り返し出る発言を無視して、朝木くんは行為を止めずに訊ねてくる。
器用に両手を使った愛撫を前にして、私はあっという間に膝を揺らした。
「……んっ……!」
押し殺した喘ぎと共に、朝木くんの指をぎゅっと締めつける。
ふわりと雲に乗ったような浮遊感があって、その気持ちよさにまぶたを下ろす。
彼の指が体の中から出ていったのは、腟内の収縮が収まってからだった。
興奮に濡れた眼差しで朝木くんを見つめる。
もしかしたら、このまま出来たりするんだろうか。
もし朝木くんの準備がまだ整ってないなら、私から何かをすれば……ということを一瞬考えたのだけれど。
「急にすみませんでした。そろそろ夕食にしましょうか」
返ってきたのは、期待した言葉ではなかった。
「……でも、まだ朝木くんが……」
言いつつ視線を這わせたのは、朝木くんの下半身だ。
ジーンズの向こう側のそれは、膨らんでいるようにも見える。
下着姿ではないので、気のせいかもしれないけど。
私の言いたいことを察したのか、彼はけろりとした態度で首を振る。
「俺の方は、今はそういう気分じゃないんで」
「……え? どういうこと?」
明確な理由を求めると、朝木くんは反省の色は見せずに笑顔を浮かべた。
じゃあなんでこんなことしたの!?
という言葉は、彼の「ごめんなさい」という声に流されてしまった。
「ただ先輩が可愛いなと思ったので、手を出しました」
真正面から可愛いと言われ、ついつい頬が熱くなる。
照れている場合じゃないというのはわかってるんだけど……。
「それじゃあ続きは、また後で」
朝木くんはそう言って、私から身を離した。
私は乱れた服をいそいそと直し、精神を落ち着けるべく手を洗った。
冷たい水が火照った肌を冷やしていく。

続きは後で、なんて言われたら、余計に意識しちゃう……。
まずい、心臓が暴れ狂っていて落ち着かない。
私はこの後の時間、平常心で過ごせるのかな……。

そんな不安を抱える私に、朝木くんは夕食をとる間、至っていつも通りの態度で接してきた。
一人でぎこちない態度を取っていても仕方がないので、私も普段の通り会話をする。
「先輩って料理できたんですね」
「まあ、食べてくれる相手がいれば作るって感じかなぁ。普段自炊はあんまり……」
お腹が減っていたのか、朝木くんは出した料理を次々と口に運んだ。そして、
「おいしいです」
なんて眩しい笑顔で言うものだから、私はついときめいてしまった。
彼のEDを治療するっていう目的がなければ、うっかり恋をしそうだ。
職場の後輩の悩みを解決する為に色々と手を尽くしているわけで、ここに私的な感情を挟んだらうまく対応できなくなる予感がしていた。
私は恋心をひた隠しにして接することができるような、そんな器用な人間ではない。
「口にあったならよかった。誰かに手料理を食べてもらうのは久しぶりだから、少し緊張してたんだ」
使い終えた食器を下げようと席を立つと、朝木くんは手で制してくる。
「片付けは俺がします。先輩は座っていてください」
「けど、何もしてないのは落ち着かないよ」
自宅にいるような感じでゆっくりすればいいんだろうけど、全力でくつろぐ勇気はまだない。
「じゃあシャワーでも浴びてきます? 風呂は沸かしてあるんで」
「いつの間に」
「先輩が夕食を作っている間に。温かい湯船に浸かってきてください」
背中を押されて入ったバスルームは隅々まで綺麗に掃除されていて、バスタブには追い焚き機能までついていた。
私の家よりも良い家に住んでいる。
背が高くてスタイルもよく、気遣いもできて言葉遣いも荒くなくて、何より優しい。
うーん、我が後輩ながら、ハイスペックだ……。
眩しい、眩しすぎるよ朝木くん……。
元カノはどうして別れてしまったんだろう。
私だったら絶対離さないのにな。
別れたくなるような決定的な何かがあったんだろうか……。
綺麗な湯に浸かりながら、そんなことを考えた。

バスルームを出ると、朝木くんが入れ違いで汗を流しに行った。
彼の帰りをどこで待っていようか、少しの間悩む。
一応寝室の場所は聞いているし、家の中で好きなように過ごしていいとも言われている。
ただ……こっそりと寝室の扉を開けた時、私はやけに彼を意識してしまった。
その扉の向こうには、朝木くんが毎日眠っているであろうベッドがあり、サイドテーブルには本が積まれていた。
近くにはフロアライトも置いてあるので、その明かりを頼りに読書をしてから寝るのだろう、と簡単に想像がつく。
どこにでもある、至って普通の寝室だ。
だけど、リビングより、寝室はどうしても朝木くんの私生活を覗いている気分になるというか。
散々お互いの裸を見せ合っているし恥じらう要素なんてないはずなのに。
ラブホテルじゃなくて自宅という、これまでと違うシチュエーションだからかな?
プライベートな空間だと思うとドキドキが止まらなくなる。
自問自答をして、落ち着かない気分のまま寝室の扉を閉めた。
やっぱり、リビングで待っていよう……。

「あれ、こっちで待ってたんですね」
髪を乾かした朝木くんが私に声を掛けてくる。
私は結局、リビングのソファに座り、気分を誤魔化すように膝を抱えてテレビを見ていた。
「寝室に勝手に居座っちゃうのもなあと」
「別に良かったのに。面白い番組でもやってましたか?」
「いや……特には」
私の言葉を聞き、朝木くんはテレビのリモコンを手に取った。
赤いボタンを押して電源を落とすと、ゆっくりとした動作で私を見る。
静かな空気が満ち、緊張感に似た何かが走った。
「……それじゃあ、今日もお願いしてもいいですか」
彼は言葉を溜め、様子を見るように私の返事を待っている。
変にドキドキする必要はない。
だってもう何度か肌を見せているし、何より目的が決まっているのだから。
普段より落ち着かないのは、朝木くんを後輩ではなく異性として意識して――というところまで考えかけて、頭の中からその感情を振り払った。
私は可愛い可愛い後輩の悩みを解決してあげたい。
ただそれだけで、この場にいる。他の気持ちは不要だ。
静かに頷くと、朝木くんはそっと私に手を差し伸べた。
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