後輩の××を治療することになりまして!?

なぎさ伊都

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3話

お泊り

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週末の夕方、私はお泊りセットを持って朝木くんの家へ向かった。
地図アプリを何度も確認しながら、前もって教えてもらった住所へ歩いて行く。
……異性の部屋への訪問なんてかなり久しぶりで、実は少し緊張している。

道の途中でスーパーを見つけ、私は夕飯の買い出しを済ませた。
今夜ももちろん朝木くんのEDの治療をするので、その前に精のつく、もとい元気の出る料理でも作れたら、と考えたのだ。

「わあ……」
ビニール袋を片手にぶら下げつつ、私は目的地である建物を見上げてそんな声を漏らしてしまう。
朝木くんが住んでいるというマンションは小綺麗なところだった。
玄関はオートロックで、宅配ボックスまで完備されているようだ。
いいところに住んでるな~などと思いながらエントランスに入ると、涼しい空調が身を包み、緊張で火照っていた頬を冷ました。
「こんばんは~」
インターホンを鳴らして名乗ると、朝木くんの声が返ってくる。
『今そちらに行きますので、待っていてください』
「? 鍵開けてくれれば大丈夫だよ」
と話したけれど、私の言葉を待たず通話が切られてしまう。
何事だろうとその場で待機していると、彼はすぐに降りてきた。
「お待たせしました」
「オートロック解除してくれれば、勝手に上がっていったのに」
そう言うと、彼は私が抱えていた荷物をしれっと持ちながら、
「先輩を迎えに来たかったので……」
と答えた。
その表情は嬉しそうなもので、まるで飼い主と遊んでいる時の大型犬を彷彿とさせる。
「可愛いこと言うじゃん」
背中をつつくと、朝木くんは照れたようにはにかんだ。

「お邪魔しま~す」
「どうぞくつろいでってください。あ、洗面所はあちらで、トイレはその扉です」
案内を聞きながら、室内を軽く見回す。
朝木くんの部屋は想像通りとても綺麗に片付けられていて、窓際には観葉植物が飾られていた。
荷物を置きがてら見てみると、葉の上に埃ひとつ乗っていない。
きっと丁寧に扱って可愛がっているのだろうとすぐに想像できた。
「夕飯どうしますか? 出前でも取りますか」
洗面所で手を洗ってから戻ってくると、スマホを手にした朝木くんが尋ねてくる。
「あ、キッチン借りてもいい? 色々買ってきたんだ」
「先輩が作るんですか?」
買ってきたものを袋から取り出していると、疑うような眼差しを向けられてしまった。
「ちょっと、料理くらいできるって。一人暮らし歴も長いし……」
私は髪を結びながら唇を尖らせた。
どんなことも器用にこなす朝木くんのことだから、きっと料理も私より上手なのだろう。
本当は出前を取った方が楽だし、私より彼にご飯を作ってもらった方が美味しいのかもしれないけれど、それでは意味がないように思えた。
ほら、こういうのは気持ちが大事だし……多分。
「前、普段は外食が多いって言ってませんでしたっけ……」
「……とにかく、今から作るから待ってて」
それ以上有無を言わせずキッチンに立つと、彼は黙ったまま近づいてきた。
何の用かと目線で訴えると、畳まれた布が差し出される。
「服汚れちゃいますよ。エプロン使ってください」
「……ありがとう」
別に汚れて困るような外出着ではなかったけれど、その気遣いはありがたかった。
私はエプロンを身に着け、この部屋に来るまでに調べたレシピを思い出しながら夕飯作りに取り掛かる。
朝木くんが普段使っているエプロンは少し大きめで、彼との体格差を自然と意識してしまった。

「もう少しで出来るからね」
鍋の火を止め、リビングで洗濯物を畳んでいた朝木くんに声を掛ける。
あとは余熱を利用して料理を完成させるだけだ。
無事に一仕事終えた気分になり思い切り伸びをしていると、朝木くんが興味津々といった顔をしてキッチンに入ってくる。
「何を作ったんですか?」
「精のつく料理、色々? この後頑張ってもらうことになるから」
「……」
彼は私の返答を聞き、きょとんと目を丸くして、やがて頬を赤らめた。
「どうしたの?」
「いや、なんというか……」
言い淀み、私から顔を逸らしている朝木くん。
一体何を考えているんだろう……。
じっと見つめていると、朝木くんは赤くなった顔を隠すように口元に手を当てた。
「……エッチする為に料理するのって、エロいなと思いまして」
……言われてみればそうかもしれない。
私まで急に恥ずかしくなってきてうつむくと、朝木くんが背後に回り込んできた。
長い腕が体の前に回される。
「ちょっと」
「……いい匂いがしますね」
密着する体勢を責めるように言うと、話を逸らされた。
「それは料理の話?」
「どっちだと思います?」
彼は誤魔化すように笑って首を傾げた。
なんだか、手のひらの上で転がされてるようで悔しい。
どうにかして逆転できないだろうか……。
思考を働かせていると、不意に首筋がくすぐったくなった。
朝木くんが私の首に唇を押しつけたのだ。
「んっ……」
髪を結んでいたおかげで無防備になっていた首元を、ちゅっと吸われる。
生肌に軽く触れられただけなのに、甘い痺れに近い何かがこみ上げた。
「髪型もいつもと違うから新鮮な気分ですね」
「そ、そのまま喋らないで……」
彼は私の結んだ髪束を撫でながら口を閉ざした。
唇がたどった部分が徐々に熱くなっていく。
肌が赤らんでいるの、多分丸見えだろうな……と思うと、余計に恥ずかしい。
「……」
朝木くんは無言のまま首筋に口づけを残していく。
ある種の気まずさ、というか恥ずかしさを感じ、つい身動ぎをする。
「……何か言ってよ」
「喋らないでって言ったのは先輩ですよ」
「それは、そうだけど……黙ってとは言ってない」
そんなやり取りをする中、朝木くんは私のエプロンの紐に手を掛けた。
後ろで結んでいたリボンが解かれ、するりとエプロンを外されてしまう。
服はきちんと着ているはずなのに、身にまとっていたものが一つ少なくなっただけで、緊張感がどっと増した。
「俺のエプロンをつけた先輩が、俺の為だけに料理をしてくれるって、たまらなくそそりますね」
朝木くんは嬉しそうに囁いている。
服の裾から節くれだった指が入ってきて、脇腹を撫でながらゆっくりと這い上がっていく。
「……待って、だめ……」
「料理が冷めると困るので、少しだけ……許してください。ね?」
早くも呼吸が乱れ始めた私の耳元に、ねだるような唇が寄せられる。
朝木くんがやる気になっているなら、止める訳にはいかない。
うまく事が進めばEDの回復に繋がるかもしれないし……。
……電気ついてるし、キッチンだし、気になることは色々たくさんあるけれど。
私は小さく頷いて、朝木くんと視線を重ねた。
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