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私を押し倒す直前になって、蘭はソファに置いてあったひざ掛けを私の下に敷いた。
厚みのあるそれは硬い床から背中を守ってくれる。
蘭の低い声が、もう止まれないからね、と静かに告げた。
同時に服の裾から手が差し込まれて、ひんやりとした感触にごくりと喉が鳴った。
「っ……」
じわじわと羞恥がこみ上げ、蘭から視線をそらす。
そうしている間にも、彼は私の首筋にちゅっと軽く口づけをしながら服を脱がし、下着のホックを外した。
窮屈だった胸が開放感に包まれてほっとしたのもつかの間、蘭の指先が胸の谷間を滑り、感触を楽しむように動いて、心拍数が速まる。
「胸、柔らかいね」
「そういうものでしょ?」
鼓動をなだめる為に愛想のない返事をすると、蘭は小さく笑い「そうかも」と唇を笑ませた。
淡く色づいた唇が首筋を辿り、生温い舌が肌の上を這う。
くすぐったい……と悶えていたのは一瞬で、舌の動き方が甘美なそれに変化した時、鼻から甘い吐息がこぼれた。
「んっ……」
口元に手の甲を当て、声を堪えようとする。
すると蘭は私の手を取り、唇を奪った。
「杏子の可愛い声、もっと聞かせて」
指先同士を絡めたまま、彼は私の肌に次々とキスをしていく。
長い髪が肌の上を通っていく度にドキドキが加速して、苦しくなった。
「あっ、待って……」
私の腹部に口づけていた蘭が、不意に両膝を掴んで開こうとした。
その先の展開を予測して、足を開かれないように力を入れる。
「なぜ?」
「電気消してくれない?」
今の時点で上半身は素っ裸なんだけど、まだ衣服に包まれている下半身を公開するのは抵抗感があった。
「もうほとんど裸だし、あんまり意味ないよ」
「それでも嫌」
男の人からしたら理解できない乙女心かもしれない。
嫌な顔をされるかな、とちらり蘭の表情をうかがう。
「分かった。でも全部消したら何も見えないから、こっちだけはつけてもいい?」
蘭の視線がソファの隣にある間接照明に向かう。
私は頷き、照明のリモコンに手を伸ばした。
一番暗い明るさに調整すると同時に、蘭は今度こそ私の両膝を割り開いた。
太ももの内側に唇で触れ、小さなリップ音を残して移動していく。
唇の感触が押しつけられるとぴくんっと足が反応してしまって、それがどうしようもなく恥ずかしかった。
「くすぐったい?」
「う、うん……」
くすくすと笑う声と共に、蘭が見上げてくる。
足の間から見える彼の表情は楽しげで、どこか意地悪さも感じた。
「からかってる?」
唇を尖らせて言うと、蘭は私の太ももを抱えた。
「反応が可愛くて、つい」
「もう……、っ……!」
反抗しようとしたけれど、パンツを脱がされ、さらに露わになった箇所を指先でなぞられ、言葉が出なくなる。
割れ目を指が辿っていき、確かめるように動く。
「少し濡れてるね。でももっと濡らさなきゃ」
私、そんなに濡れやすい体質だったかな? と考えている間に、蘭の舌が秘部へ伸ばされる。
ねっとりと動くそれが入り口の部分を這い、腰の奥が熱を帯びた。
「はあ……あっ……!」
自然と呼吸が荒くなり胸を上下させていると、彼は舌を奥へ進める。
生温くて柔らかなものが内側に入り込み、なんともいえない感覚に思わず首を振った。
「や、やだ……っ」
「どうして?」
蘭は両足の間に顔を埋めたまま尋ねてくる。
「ちゃんと解さないと辛いだろうし、杏子にはいっぱい気持ちよくなってもらいたいのに」
喋ると吐息が肌にぶつかり、身じろぎを抑えられない。
「だって、恥ずかし……あっ」
話の途中にも関わらず舌先が粒の部分をねっとりと舐め上げ、より呼吸が乱れてしまう。
「んっ……!」
「ここ、膨れてきたね」
じんじんと甘い痺れを感じ始めた局部を集中的に攻められ、びくびくと腰が震える。
どうしようもなくなって足を閉じようとしても、太ももを押し開かれて恥ずかしい体勢から逃れられない。
「わ、わざわざ言わないで……」
赤くなった顔を隠していると、蘭はふふ、と笑って嬉しそうに呟いた。
「ごめんね?」
「……本気で悪いとは思ってないでしょ」
「そりゃあ、うん」
申し訳なさそうなのは言葉だけで、表情はとても楽しげだ。
一方的にしてやられているようで悔しい……けれど、状況が状況だし、やり返せるような技は持っていない。
せめてもの抵抗で腰を引こうとする。
だけど、蘭は私の腰を掴んで再び恥部へ顔を埋めた。
「こら、どこいくの」
じゅるりと小さな音を立てて突起を吸われて、漏れ出る喘ぎが大きくなる。
「はあ、んっ……! ら、蘭……っは、ああ……っ!」
唾液と愛液が混ざっているのか、響く水音がやけに耳に残った。
胸を反らしながらも声を抑えようとしていると、体の中に何かが入ってくる気配がした。
「んっ……!」
「すっごい濡れてるね」
蘭の長い指が体内に埋められている。
内側を探るように指先がゆっくりと動き、壁をなぞっていく。
手を動かす度にぴちゃぴちゃと恥ずかしい音が鳴って、耳まで熱くて仕方ない。
「も、もういいんじゃない……?」
行為を先に進めたくて尋ねると、彼は首を横に振った。
「まだダメ」
なんで、という問いは声にならずに消えていく。
蘭が指を中に入れたまま、舌を使って体の中心の部分を愛撫したからだ。
「ん、んぅ……っあっ、はあ……っ」
喘ぎを噛み殺しきれず、流れるまま発してしまう。
荒い呼吸を繰り返していると、満足そうな声が聞こえた。
「杏子、気持ちよさそー……」
「う、んっ……」
蘭の舌と指の動きに合わせて体温が上がり、下腹に甘やかな疼痛が集まる。
こくこくと頷いて伝えると、蘭が顔を上げた。
「一回イッておこうか」
彼は嬉しげに眼尻を下げ、指の動きを少し強くした。
敏感になった豆粒をじゅるじゅると盛大に吸いながら、膣壁を軽く圧迫していく。
そして指の腹がとある一点をかすめた時、体がびくんっと跳ねた。
「あっ、ああっ……!」
上擦った声が喉を通り過ぎていき、足が震える。
膣口が蘭の指を締めつけ、細長い指の形がより鮮明に分かった。
絶頂の余韻に浸っていると、彼は私の顔をじっと見つめてくる。
今、変な顔してたかな……。
不安になっていると、蘭は私の顎を持ち上げた。
「キスしてもいい?」
「別に、わざわざ聞かなくても……さっきもしたんだし」
「そう?」
蘭は微笑み、唇を重ねようとする。
彼の顔が迫ったので反射的にぎゅうと目を閉じると、くすっと笑う気配がした。
「杏子って、キスする時目を閉じるタイプ?」
「……わ、わからない。意識したことないし」
返答しようとまぶたを上げた瞬間、唇を奪われた。
数秒間、唇同士がくっついたまま離れなくなる。
「可愛いね」
温かい舌が唇をなぞり、口の中に入り込む。
私が思わず舌を引くと、彼はそれを追いかけるように絡めた。
「んっ……ふ、あ……っ」
呼吸をするタイミングが掴めなくなってしまい蘭の服を握りしめると、ようやく唇が解放された。
無理やりでも自分よがりでもない口づけは、とても気持ちが良かった。
キスを味わうようにぼうっとしていると、蘭が服を脱いだ。
すらりとした裸が現れる。
入念に手入れしているのか、ひと目見ただけでも肌がすべすべで羨ましくなった。
「肌、綺麗だね」
なんとなしに言ってみると、蘭は照れたようにはにかむ。
「あんまり見ないで」
私の裸はじっくりと見ていたくせに――と文句を言おうとしたけれど、蘭の手で目元を覆われて、再びキスをされて、何も言えなくなった。
「こうしていれば見られないね」
得意そうに話す彼が私の両膝を開く。
ところが、しまった、とでも言いたげに動きを止めた。
「……あ、ゴム」
蘭もこういう展開になるとは予想していなかったらしく、今日買い物してきた袋の中にコンドームは入っていなかった、と思う。
買いに行ってくる? でも、ここで中断するのも雰囲気が壊れちゃうかな。
悩んだ末、私は軽く身を起こして近くにあったテーブルに手を伸ばした。
引き出しの中から少し軽くなった箱を取り出す。
「使いさしだけど……いい?」
私の質問に、蘭は複雑そうに唇を引き結んだけれど、最終的には受け取ってくれた。
無言を貫いたまま箱の中からコンドームを出し、自身のそれに装着する。
その間私はすることがなかったので、視線を適当に天井付近に投げていたのだけれど、ふと蘭の顔を見つめてみた。
スッと通った鼻筋に、頬に長く影を落とす睫毛。
化粧の施された中性的な顔立ちは可愛いよりも、やはり美人、美形という言葉が似合う。
こんなに綺麗だけどしっかり男の人なんだなあ、というのは、彼の下半身で立派にそそり立つ肉の塊が視界に入ってから改めて思ったことだった。
「……元彼のこと思い出させちゃった?」
「え?」
「前の人と使ってたんでしょ、これ」
私がぼんやりとしていたのを誤解したのか、蘭は申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
確かに、今蘭が使っているゴムは元彼が置いていったものだ。
さっさと捨てておけばよかったんだけど、放置したまま忘れていただけ。
あの人を思い出して辛いというよりは、正直、今の展開への驚きの方が大きい。
「ううん、気にしてないから大丈夫」
否定すると、彼は安心したような微笑を浮かべ、短い返事をした。
入り口が充分に濡れていることを確認してから、蘭は腰を進めた。
「んっ……」
数カ月ぶりの挿入は圧迫感があり、息を止めそうになる。
それを察したのか、あやすように目元に唇を押しつけられた。
「杏子、深呼吸して」
「はあ……、っ……あっ……」
たどたどしく呼吸を繰り返すと、彼は「いい子」と頭を撫でてから柔く笑む。
蘭は子猫に触れるような丁寧な手つきで私に触れる。
こんなセックスをするのは久しぶりで、彼の優しさを感じて涙が滲んだ。
「いっぱい気持ちよくなって、嫌なこと全部忘れようね」
温かい笑みを私に向け、目尻に溜まった涙を指の背で掬い取ってくれる。
そうしてから彼は、途中まで挿入したものを引き抜き、角度を確認しながらもう一度深くまで埋め込んだ。
「痛くはない?」
「大丈夫だけど、ちょっと苦しい……」
言葉の通り痛みはない。
ただ、体内がみっちりと埋め尽くされているような感覚がある。
行為が久しくて膣が狭くなったのかとも思ったけれど、どうやら違うようだ。
「ごめん。急ぎすぎたかな」
「違くて、多分蘭のが……大きいから」
直接指摘するのは気恥ずかしく、ごにょごにょと唇を動かす。
じっくり見つめてないから気づかなかったけれど、彼のそれは、私にとっては大きかった。
「……杏子って、無自覚で相手を煽るタイプ?」
「え? ……あ、あっ」
悩ましそうに眉を寄せた蘭が覆い被さってくる。
手入れされた長い髪が肩からはらりと落ちてきて、彼の香りに身を包まれている気分になった。
爽やかで少しほろ苦い香りをもっと堪能したくなり、蘭の背中に手を伸ばす。
すると彼は、熱の塊を体奥まで挿し込みながら深い口づけをしてきた。
数回のキスを交わすと、繋がっている部分がさらに膨らんだ気がした。
「あれ……また大きくなった?」
蘭からの返事がない。
不思議に思っていると、暗い中でも頬の赤みが増すのがわかって、胸の奥が疼いた。
どう見ても照れている。……かわいい。
今まで蘭の様々な表情を見てきたつもりだった。
でも、まだまだ知らない顔があるみたいだ。
そしてその顔を見られるというのは、なんというか――嬉しい。
なんて呑気に考えていると、蘭は気遣うように首を傾げた。
「ゆっくりするから、もし痛くなったら教えて」
痛いなんてとんでもない。
内側を圧迫されて苦しかったのは最初だけで、私の体はあっという間に蘭のものに馴染んでいた。
パズルのピースがぴったりと合わさるように、蘭のそれが気持ちいい場所を的確に探り当て、撫でていく。
「はあ、っ……あっ、蘭……ッもっと、もっとして……っ」
普段なら恥ずかしくて伝えられないようなお願いが、自然と喉を通り過ぎる。
……どうしよう、本当に気持ちいい。
久しぶりにするから? それとも、相手が蘭だから?
答えを見つけようとしたけれど、体が快楽に支配されてしまってうまく頭が回らない。
やがて二度目の絶頂が、穏やかな律動に導かれてやってくる。
「杏子、大丈夫?」
「うんっ、気持ちい……っ」
「よかった……」
舌っ足らずな声で返すと、彼は腰の動きを少し激しくした。
蘭も気持ちよくなってくれているのか、小さな喘ぎが唇から漏れている。
押し殺した声は低く色気に満ちていて、その艶っぽさにドキドキしてしまった。
彼の額に浮かぶ汗を手のひらで拭うと、蘭は私の手を取り、指先に唇を押しつける。
「んぅ、……あっ、あっ……もう……っい、いく……っ」
首を振って限界を伝えると、蘭は私の体を強く抱きしめた。
密着した状態で奥を穿たれ、私は室内に嬌声を響かせる。
蘭も直後に動きを止め、私の肩に顔をうずめて身を震わせた。
余韻に浸って寝転んでいる私とは違い、蘭はすぐに起き上がって服を身に着けた。
白い肌を衣で包み、乱れていた髪を軽く整えると、そこにはいつもの蘭の姿があった。
「お水でも飲む?」
うん、と甘えると、彼は新しい水を取りに行く。
彼が傍を通ると、香水の匂いがふわりと漂った。
私はこの香りが嫌いではない。
「どうぞ」
「ありがとう」
グラスを受け取る短いやり取りをして、口内に水分を流し込む。
……どうしよう。
今更ながら恥ずかしさがこみ上げてきて、私はじっとしたまま唇を閉ざした。
喋りたい気分もあるけれど、何を話せばいいのかわからない。
「……後悔してる?」
私の無言を気にしているのか、蘭は不安そうに顔を覗いてきた。
まさか、と首を振る。
自分で抱かれることを選んだのだ。
後悔などするはずがない。
「忘れさせてくれるなら誰でもよかったし」
照れ隠しのように伝えると、蘭は表情をしかめた。
「誰でもはよくないでしょう」
綺麗な顔が歪んでしまっている。
今の発言は失礼だったなと反省していると、彼は目線を下にやった。
「……俺じゃないと嫌、って言ってほしい」
ぽつりと呟かれた言葉は、切なく懇願するようだ。
どういう意味合いで言っているのかは、まだ判断が難しい。
私と蘭は普通の友人で、肌を重ねるような存在じゃなかったのに。
このまま関係性を進展させていいものなのかな。
きっと蘭は、私を慰めようとしてくれただけだし……。
ずるずるとセフレになっちゃうのもなあ……。
などと一人で勝手に悩んでいると、蘭は私との距離を詰めて手を握ってきた。
「というか、そう言ってもらえるように頑張る」
「う、うん……?」
曖昧な返事をした時、ふとした疑問が湧いた。
「そういえば気になってたんだけど」
「何?」
出会った時から彼は蘭と名乗っていた。
そういう名前の男性もいるのだろうけれど、本人もそうなのだろうか。
ちなみに名字はまだ知らない。
「本名って蘭、でいいの? それとも偽名?」
「……」
答えづらいのか、彼は数秒間黙り込んだ。
適当に話を逸らした方がいいかなと思い始めた頃、偽名ではないんだけど、と前置きをされた。
「本名はザ・男、って感じだから、あんまり言いたくない。杏子には今まで通り呼んでほしいし」
「そっか」
教えるのが嫌なら無理して言わせるまでもないだろう。
本名とかどうして女の子の格好をしているのとか、聞きたいことはたくさんある。
でもそれは今じゃなくても、いつか聞けたらいいなあ、と思った。
厚みのあるそれは硬い床から背中を守ってくれる。
蘭の低い声が、もう止まれないからね、と静かに告げた。
同時に服の裾から手が差し込まれて、ひんやりとした感触にごくりと喉が鳴った。
「っ……」
じわじわと羞恥がこみ上げ、蘭から視線をそらす。
そうしている間にも、彼は私の首筋にちゅっと軽く口づけをしながら服を脱がし、下着のホックを外した。
窮屈だった胸が開放感に包まれてほっとしたのもつかの間、蘭の指先が胸の谷間を滑り、感触を楽しむように動いて、心拍数が速まる。
「胸、柔らかいね」
「そういうものでしょ?」
鼓動をなだめる為に愛想のない返事をすると、蘭は小さく笑い「そうかも」と唇を笑ませた。
淡く色づいた唇が首筋を辿り、生温い舌が肌の上を這う。
くすぐったい……と悶えていたのは一瞬で、舌の動き方が甘美なそれに変化した時、鼻から甘い吐息がこぼれた。
「んっ……」
口元に手の甲を当て、声を堪えようとする。
すると蘭は私の手を取り、唇を奪った。
「杏子の可愛い声、もっと聞かせて」
指先同士を絡めたまま、彼は私の肌に次々とキスをしていく。
長い髪が肌の上を通っていく度にドキドキが加速して、苦しくなった。
「あっ、待って……」
私の腹部に口づけていた蘭が、不意に両膝を掴んで開こうとした。
その先の展開を予測して、足を開かれないように力を入れる。
「なぜ?」
「電気消してくれない?」
今の時点で上半身は素っ裸なんだけど、まだ衣服に包まれている下半身を公開するのは抵抗感があった。
「もうほとんど裸だし、あんまり意味ないよ」
「それでも嫌」
男の人からしたら理解できない乙女心かもしれない。
嫌な顔をされるかな、とちらり蘭の表情をうかがう。
「分かった。でも全部消したら何も見えないから、こっちだけはつけてもいい?」
蘭の視線がソファの隣にある間接照明に向かう。
私は頷き、照明のリモコンに手を伸ばした。
一番暗い明るさに調整すると同時に、蘭は今度こそ私の両膝を割り開いた。
太ももの内側に唇で触れ、小さなリップ音を残して移動していく。
唇の感触が押しつけられるとぴくんっと足が反応してしまって、それがどうしようもなく恥ずかしかった。
「くすぐったい?」
「う、うん……」
くすくすと笑う声と共に、蘭が見上げてくる。
足の間から見える彼の表情は楽しげで、どこか意地悪さも感じた。
「からかってる?」
唇を尖らせて言うと、蘭は私の太ももを抱えた。
「反応が可愛くて、つい」
「もう……、っ……!」
反抗しようとしたけれど、パンツを脱がされ、さらに露わになった箇所を指先でなぞられ、言葉が出なくなる。
割れ目を指が辿っていき、確かめるように動く。
「少し濡れてるね。でももっと濡らさなきゃ」
私、そんなに濡れやすい体質だったかな? と考えている間に、蘭の舌が秘部へ伸ばされる。
ねっとりと動くそれが入り口の部分を這い、腰の奥が熱を帯びた。
「はあ……あっ……!」
自然と呼吸が荒くなり胸を上下させていると、彼は舌を奥へ進める。
生温くて柔らかなものが内側に入り込み、なんともいえない感覚に思わず首を振った。
「や、やだ……っ」
「どうして?」
蘭は両足の間に顔を埋めたまま尋ねてくる。
「ちゃんと解さないと辛いだろうし、杏子にはいっぱい気持ちよくなってもらいたいのに」
喋ると吐息が肌にぶつかり、身じろぎを抑えられない。
「だって、恥ずかし……あっ」
話の途中にも関わらず舌先が粒の部分をねっとりと舐め上げ、より呼吸が乱れてしまう。
「んっ……!」
「ここ、膨れてきたね」
じんじんと甘い痺れを感じ始めた局部を集中的に攻められ、びくびくと腰が震える。
どうしようもなくなって足を閉じようとしても、太ももを押し開かれて恥ずかしい体勢から逃れられない。
「わ、わざわざ言わないで……」
赤くなった顔を隠していると、蘭はふふ、と笑って嬉しそうに呟いた。
「ごめんね?」
「……本気で悪いとは思ってないでしょ」
「そりゃあ、うん」
申し訳なさそうなのは言葉だけで、表情はとても楽しげだ。
一方的にしてやられているようで悔しい……けれど、状況が状況だし、やり返せるような技は持っていない。
せめてもの抵抗で腰を引こうとする。
だけど、蘭は私の腰を掴んで再び恥部へ顔を埋めた。
「こら、どこいくの」
じゅるりと小さな音を立てて突起を吸われて、漏れ出る喘ぎが大きくなる。
「はあ、んっ……! ら、蘭……っは、ああ……っ!」
唾液と愛液が混ざっているのか、響く水音がやけに耳に残った。
胸を反らしながらも声を抑えようとしていると、体の中に何かが入ってくる気配がした。
「んっ……!」
「すっごい濡れてるね」
蘭の長い指が体内に埋められている。
内側を探るように指先がゆっくりと動き、壁をなぞっていく。
手を動かす度にぴちゃぴちゃと恥ずかしい音が鳴って、耳まで熱くて仕方ない。
「も、もういいんじゃない……?」
行為を先に進めたくて尋ねると、彼は首を横に振った。
「まだダメ」
なんで、という問いは声にならずに消えていく。
蘭が指を中に入れたまま、舌を使って体の中心の部分を愛撫したからだ。
「ん、んぅ……っあっ、はあ……っ」
喘ぎを噛み殺しきれず、流れるまま発してしまう。
荒い呼吸を繰り返していると、満足そうな声が聞こえた。
「杏子、気持ちよさそー……」
「う、んっ……」
蘭の舌と指の動きに合わせて体温が上がり、下腹に甘やかな疼痛が集まる。
こくこくと頷いて伝えると、蘭が顔を上げた。
「一回イッておこうか」
彼は嬉しげに眼尻を下げ、指の動きを少し強くした。
敏感になった豆粒をじゅるじゅると盛大に吸いながら、膣壁を軽く圧迫していく。
そして指の腹がとある一点をかすめた時、体がびくんっと跳ねた。
「あっ、ああっ……!」
上擦った声が喉を通り過ぎていき、足が震える。
膣口が蘭の指を締めつけ、細長い指の形がより鮮明に分かった。
絶頂の余韻に浸っていると、彼は私の顔をじっと見つめてくる。
今、変な顔してたかな……。
不安になっていると、蘭は私の顎を持ち上げた。
「キスしてもいい?」
「別に、わざわざ聞かなくても……さっきもしたんだし」
「そう?」
蘭は微笑み、唇を重ねようとする。
彼の顔が迫ったので反射的にぎゅうと目を閉じると、くすっと笑う気配がした。
「杏子って、キスする時目を閉じるタイプ?」
「……わ、わからない。意識したことないし」
返答しようとまぶたを上げた瞬間、唇を奪われた。
数秒間、唇同士がくっついたまま離れなくなる。
「可愛いね」
温かい舌が唇をなぞり、口の中に入り込む。
私が思わず舌を引くと、彼はそれを追いかけるように絡めた。
「んっ……ふ、あ……っ」
呼吸をするタイミングが掴めなくなってしまい蘭の服を握りしめると、ようやく唇が解放された。
無理やりでも自分よがりでもない口づけは、とても気持ちが良かった。
キスを味わうようにぼうっとしていると、蘭が服を脱いだ。
すらりとした裸が現れる。
入念に手入れしているのか、ひと目見ただけでも肌がすべすべで羨ましくなった。
「肌、綺麗だね」
なんとなしに言ってみると、蘭は照れたようにはにかむ。
「あんまり見ないで」
私の裸はじっくりと見ていたくせに――と文句を言おうとしたけれど、蘭の手で目元を覆われて、再びキスをされて、何も言えなくなった。
「こうしていれば見られないね」
得意そうに話す彼が私の両膝を開く。
ところが、しまった、とでも言いたげに動きを止めた。
「……あ、ゴム」
蘭もこういう展開になるとは予想していなかったらしく、今日買い物してきた袋の中にコンドームは入っていなかった、と思う。
買いに行ってくる? でも、ここで中断するのも雰囲気が壊れちゃうかな。
悩んだ末、私は軽く身を起こして近くにあったテーブルに手を伸ばした。
引き出しの中から少し軽くなった箱を取り出す。
「使いさしだけど……いい?」
私の質問に、蘭は複雑そうに唇を引き結んだけれど、最終的には受け取ってくれた。
無言を貫いたまま箱の中からコンドームを出し、自身のそれに装着する。
その間私はすることがなかったので、視線を適当に天井付近に投げていたのだけれど、ふと蘭の顔を見つめてみた。
スッと通った鼻筋に、頬に長く影を落とす睫毛。
化粧の施された中性的な顔立ちは可愛いよりも、やはり美人、美形という言葉が似合う。
こんなに綺麗だけどしっかり男の人なんだなあ、というのは、彼の下半身で立派にそそり立つ肉の塊が視界に入ってから改めて思ったことだった。
「……元彼のこと思い出させちゃった?」
「え?」
「前の人と使ってたんでしょ、これ」
私がぼんやりとしていたのを誤解したのか、蘭は申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
確かに、今蘭が使っているゴムは元彼が置いていったものだ。
さっさと捨てておけばよかったんだけど、放置したまま忘れていただけ。
あの人を思い出して辛いというよりは、正直、今の展開への驚きの方が大きい。
「ううん、気にしてないから大丈夫」
否定すると、彼は安心したような微笑を浮かべ、短い返事をした。
入り口が充分に濡れていることを確認してから、蘭は腰を進めた。
「んっ……」
数カ月ぶりの挿入は圧迫感があり、息を止めそうになる。
それを察したのか、あやすように目元に唇を押しつけられた。
「杏子、深呼吸して」
「はあ……、っ……あっ……」
たどたどしく呼吸を繰り返すと、彼は「いい子」と頭を撫でてから柔く笑む。
蘭は子猫に触れるような丁寧な手つきで私に触れる。
こんなセックスをするのは久しぶりで、彼の優しさを感じて涙が滲んだ。
「いっぱい気持ちよくなって、嫌なこと全部忘れようね」
温かい笑みを私に向け、目尻に溜まった涙を指の背で掬い取ってくれる。
そうしてから彼は、途中まで挿入したものを引き抜き、角度を確認しながらもう一度深くまで埋め込んだ。
「痛くはない?」
「大丈夫だけど、ちょっと苦しい……」
言葉の通り痛みはない。
ただ、体内がみっちりと埋め尽くされているような感覚がある。
行為が久しくて膣が狭くなったのかとも思ったけれど、どうやら違うようだ。
「ごめん。急ぎすぎたかな」
「違くて、多分蘭のが……大きいから」
直接指摘するのは気恥ずかしく、ごにょごにょと唇を動かす。
じっくり見つめてないから気づかなかったけれど、彼のそれは、私にとっては大きかった。
「……杏子って、無自覚で相手を煽るタイプ?」
「え? ……あ、あっ」
悩ましそうに眉を寄せた蘭が覆い被さってくる。
手入れされた長い髪が肩からはらりと落ちてきて、彼の香りに身を包まれている気分になった。
爽やかで少しほろ苦い香りをもっと堪能したくなり、蘭の背中に手を伸ばす。
すると彼は、熱の塊を体奥まで挿し込みながら深い口づけをしてきた。
数回のキスを交わすと、繋がっている部分がさらに膨らんだ気がした。
「あれ……また大きくなった?」
蘭からの返事がない。
不思議に思っていると、暗い中でも頬の赤みが増すのがわかって、胸の奥が疼いた。
どう見ても照れている。……かわいい。
今まで蘭の様々な表情を見てきたつもりだった。
でも、まだまだ知らない顔があるみたいだ。
そしてその顔を見られるというのは、なんというか――嬉しい。
なんて呑気に考えていると、蘭は気遣うように首を傾げた。
「ゆっくりするから、もし痛くなったら教えて」
痛いなんてとんでもない。
内側を圧迫されて苦しかったのは最初だけで、私の体はあっという間に蘭のものに馴染んでいた。
パズルのピースがぴったりと合わさるように、蘭のそれが気持ちいい場所を的確に探り当て、撫でていく。
「はあ、っ……あっ、蘭……ッもっと、もっとして……っ」
普段なら恥ずかしくて伝えられないようなお願いが、自然と喉を通り過ぎる。
……どうしよう、本当に気持ちいい。
久しぶりにするから? それとも、相手が蘭だから?
答えを見つけようとしたけれど、体が快楽に支配されてしまってうまく頭が回らない。
やがて二度目の絶頂が、穏やかな律動に導かれてやってくる。
「杏子、大丈夫?」
「うんっ、気持ちい……っ」
「よかった……」
舌っ足らずな声で返すと、彼は腰の動きを少し激しくした。
蘭も気持ちよくなってくれているのか、小さな喘ぎが唇から漏れている。
押し殺した声は低く色気に満ちていて、その艶っぽさにドキドキしてしまった。
彼の額に浮かぶ汗を手のひらで拭うと、蘭は私の手を取り、指先に唇を押しつける。
「んぅ、……あっ、あっ……もう……っい、いく……っ」
首を振って限界を伝えると、蘭は私の体を強く抱きしめた。
密着した状態で奥を穿たれ、私は室内に嬌声を響かせる。
蘭も直後に動きを止め、私の肩に顔をうずめて身を震わせた。
余韻に浸って寝転んでいる私とは違い、蘭はすぐに起き上がって服を身に着けた。
白い肌を衣で包み、乱れていた髪を軽く整えると、そこにはいつもの蘭の姿があった。
「お水でも飲む?」
うん、と甘えると、彼は新しい水を取りに行く。
彼が傍を通ると、香水の匂いがふわりと漂った。
私はこの香りが嫌いではない。
「どうぞ」
「ありがとう」
グラスを受け取る短いやり取りをして、口内に水分を流し込む。
……どうしよう。
今更ながら恥ずかしさがこみ上げてきて、私はじっとしたまま唇を閉ざした。
喋りたい気分もあるけれど、何を話せばいいのかわからない。
「……後悔してる?」
私の無言を気にしているのか、蘭は不安そうに顔を覗いてきた。
まさか、と首を振る。
自分で抱かれることを選んだのだ。
後悔などするはずがない。
「忘れさせてくれるなら誰でもよかったし」
照れ隠しのように伝えると、蘭は表情をしかめた。
「誰でもはよくないでしょう」
綺麗な顔が歪んでしまっている。
今の発言は失礼だったなと反省していると、彼は目線を下にやった。
「……俺じゃないと嫌、って言ってほしい」
ぽつりと呟かれた言葉は、切なく懇願するようだ。
どういう意味合いで言っているのかは、まだ判断が難しい。
私と蘭は普通の友人で、肌を重ねるような存在じゃなかったのに。
このまま関係性を進展させていいものなのかな。
きっと蘭は、私を慰めようとしてくれただけだし……。
ずるずるとセフレになっちゃうのもなあ……。
などと一人で勝手に悩んでいると、蘭は私との距離を詰めて手を握ってきた。
「というか、そう言ってもらえるように頑張る」
「う、うん……?」
曖昧な返事をした時、ふとした疑問が湧いた。
「そういえば気になってたんだけど」
「何?」
出会った時から彼は蘭と名乗っていた。
そういう名前の男性もいるのだろうけれど、本人もそうなのだろうか。
ちなみに名字はまだ知らない。
「本名って蘭、でいいの? それとも偽名?」
「……」
答えづらいのか、彼は数秒間黙り込んだ。
適当に話を逸らした方がいいかなと思い始めた頃、偽名ではないんだけど、と前置きをされた。
「本名はザ・男、って感じだから、あんまり言いたくない。杏子には今まで通り呼んでほしいし」
「そっか」
教えるのが嫌なら無理して言わせるまでもないだろう。
本名とかどうして女の子の格好をしているのとか、聞きたいことはたくさんある。
でもそれは今じゃなくても、いつか聞けたらいいなあ、と思った。
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