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第13章 リステリアス宮の攻防
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「よく喋るなあ、ラスバルト」
突然、背後から声を掛けられ、ラスバルトは、はっとして振り返る。
「よお、いろいろと世話になったな」
そこに立っていたのはサンタと羽衣であった。
ふたりは執務室の入り口の壁に寄りかかり、面白そうにラスバルトを眺めていた。
「サンタ! 羽衣!」
セロリが嬉しそうに叫ぶ。
「大丈夫か、セロリ?」
「ええ、もちろんです。サンタたちは……かなりボロボロですね?」
「その色男のせいで、な。まあ、これからきっちりとお礼はしてやるさ」
ラスバルトを顎で示す。
ラスバルトはそれに、凶悪な笑顔で応えた。
「そう、うまく行くと思うのか、『運び屋』?」
「う~ん、さて、どうだかわからないけど、たいていおれたちは、ハッピーエンド、で終わるようになってるんだよ。日頃の行いがいいからね」
親指を立てて見せる。
羽衣もピース・サイン。
「に、しても、だ」と、サンタは感心したように頷いた。
「なるほど『金貨の魔法』ね。そう云うことか。あんたの大胆な悪事の裏づけは、それだったのか」
「ほう。『金貨の魔法』の意味がわかったのか?」
「ああ。ようやく思い出したところさ」
意味ありげに云うと、窓の外で暴れているユズナたちに目をやった。
「ただ、あいつらにはそんなこと関係ないけどな。そこはおまえの見込み違いだよ」
サンタがラスバルトに向かって楽しげに云う。
「見込み違い、だと?」
「違法捜査? 笑っちゃうね。ありゃ、ただの考えなしの無茶苦茶さ。あんなのが連邦警察の訳ないだろ? だが、いずれにしてもあの無茶苦茶ぶりがおまえの誤算だったって訳だ。奴らには『金貨の魔法』は発動しない。そもそもあいつらには『金貨』なんてのは無価値だからね」
「連邦ではない?」
ラスバルトはその意味を判じかねていた。
「連邦警察ではないだと? ではあの巨大ロボのさっきの台詞はでまかせか?」
「信じていたのかい? 人がいいねえ」
サンタは肩を震わせて笑った。
「つまり、いかに悪党とは云え、あんたも所詮はリスタルで平和ボケした単純野郎ってことだよ」
「くっ……、で、では、奴らは何者だ?」
「ただのおれの頼りになるダチさ。一般人だよ」
それを聞いたラスバルトは強張った表情でサンタを見つめた。
一般人だと? あれが? と、かれは自問する。
そんなバカなことがある訳がない。普通に考えれば――。
ラスバルトはしばらくの間、ぎりぎりと歯噛みした後、ふっとため息をつく。
それから、唐突に笑い出した。高らかに哄笑した。
「そうか。一般人か。それはそれは、なかなか貴様らは驚かせてくれるね。なるほど、一般人なら『リスタル金貨』などほとんど無価値に違いない。その恩恵については知る由もないのだからな」
ラスバルトはそこでサンタを睨みつけた。
「まあ、どちらでも良い。ある意味、連邦警察でなければ、ただのテロリストでしかないのだからね。奴らを駆逐しようとする間に、不幸な大公家の方々が巻き添えを食って亡くなることがあっても不思議ではない。いい云い訳になるよ、運び屋。だが、その前に……」
ラスバルトが剣を構え直した。
「まずは、貴様から、かな?」
油断なく身構える羽衣。
それをサンタが手で制した。
「おれがやる」
「でも、あいつ剣を持っているよ」
「これでも元軍人なんだぜ。それにおれとしてはこいつは自分で一発殴ってやらないと気が済まないんだ」
「出来るかな?」
酷薄そうな笑いを浮かべ、ラスバルトはサンタを凝視する。
刹那。
サンタが動いた。
素早くラスバルトの利き腕とは逆の左側に回り込む。
それを目で追うラスバルト。
サンタが床を蹴ってラスバルトとの距離を縮めようとするところへ、剣が唸りを上げる。
それを間一髪で避けると、サンタは身を低くしてタックルの姿勢をとる。
それに向けてラスバルトの剣が振り下ろされる。
再び、サンタは際どいタイミングで体を捻ってその攻撃をよけると、そこにあった椅子をラスバルトに向けて蹴り飛ばす。
ラスバルトが一瞬椅子に気をとられた隙に一気に間合いを詰める。
その脇腹に向かってサンタの廻し蹴り。
一歩、二歩と素早く下がるラスバルト。
サンタの廻し蹴りは空を切るがそれでも食い下がるサンタ。
ラスバルトが壁を背にする。
同時にちょうど手近の棚に飾ってあったクリスタルの置物を空いている左手で大きく払いのける。
飛んで来るその置物をサンタは頭を振って避けた。
「ちっ」と、サンタ。
「剣で勝負しろよ、剣士だろ?」
云いながらもサンタは少しだけバランスを崩した。
「もちろん剣で勝負しますよ」
ラスバルトはサンタに向かって詰め寄ると、剣を一閃する。
それも空振り。
と、思った瞬間、くるりと回転したラスバルトがそのままサンタに廻し蹴りを見舞った。
意表をついたその攻撃は効果的であった。体重の乗ったラスバルトの蹴りで、サンタはそのまま壁に背中から叩きつけられ苦悶の表情を浮かべる。
「終わりだ、ウイード!」
ラスバルトが手にした剣を腰だめにしてサンタに走り寄る。
「危ない、サンタ!」
羽衣の声。同時に彼女のルビー色の瞳が輝いた。
照準レーザーの光がラスバルトの目を射た。
だがラスバルトの剣はそのままサンタの腹を貫いていた。
鮮血が迸り、床に敷き詰められた絨毯が見る間に赤く染まる。
「う、ぐ……」
サンタの口から呻き声が洩れた。
まだレーザーで目がくらんではいたもののラスバルトは、その呻き声を聞き、また、その手応えで自らの勝利を確信した。
「終わったな、ウイード」
が――。
「捕まえたぜ、ラスバルト。おれはこっちのが得意なんだよ」
サンタの左手が剣を持つラスバルトの手首をつかんでいた。
「な、何?」
まだ視界の戻っていないラスバルトの表情から笑みが消えた。
闘いの間、ずっと絶やさなかった不愉快な笑みが消え、真顔になる。
「おまえが終わりだよ、ラスバルト。歯を食いしばって神にでも祈りな。もっともおれは……」
サンタの握り締めた右拳が、渾身の力でラスバルトの左頬を打ち砕いた。
「……無神論者だけどな!」
ラスバルトの口から折れた奥歯が飛び、かれはそのまま床を転がって壁際に置かれていた青銅の像に頭をしたたか打ちつけた。
ラスバルトは……サンタのその一発で、苦痛の呻き声ひとつ上げることもなく意識を失った。
「約束どおり、一発、お見舞いしたぜ、ラスバルト」
サンタは、にやり、と笑うと、しかしそのままずるずると床に崩れ落ちた。
かれの腹からはどくどくと鮮血が流れ出ていた。
そこにいた全員が、大公が、大公妃が、ラフィンが、セロリが、そして、羽衣が――。
サンタがラスバルトを倒した歓喜ではなく、そのサンタの様子に声を失った。
大公が最初に我に返り、大声で侍女に命じる。
「医者を! ラフィン、医者を呼べ!」
茫然としていた侍女ラフィンはその声にうろたえながらも、わかりました、と、慌てて執務室から飛び出した。
さらに大公はやはり茫然としていたラスバルト付の兵士を睨みつける。
「貴様たち、ラスバルトを拘束しろ! よもや大公であるわしに、これ以上、歯向かう気はなかろうな?」
「は、はは」
かれらは電気を喰らったように直立し大公に騎士の礼をすると、意識を失っているラスバルトに駆け寄り手早く拘束具を装着した。
そして。
「あ、あ、ああ……、サ、サンタ!」
口許を押さえてそこに倒れたサンタを見つめていた羽衣が弾かれたようにサンタに駆け寄った。
「サ、サンタ、サンタァァァ!」
倒れたサンタの前に跪いてかれを抱き起こす。羽衣の目からは涙がとめどなく溢れていた。彼女のAIはパニック状態だった。
「サンタ、サンタ?」
必死になって名前を呼ぶことしかできない。
「羽衣……」
サンタはうっすらと目を開くと苦しげに笑みを浮かべてそんな羽衣を見つめた。
「また、おまえに……助けられたな。レーザーのおかげで……奴の剣が、少しばかり……急所を外してくれた」
「サンタ、しゃ、喋らなくていいよぉ! ダメだよ、サンタ! 死んじゃ、ダメだよ! お願い! サンタがいなくなったら、あたし、あたし……。お願いだから! もっと、もっと、キスしてよ!」
「大丈夫だ……、かすり傷だよ。大袈裟、だぞ」
サンタが呟くように云うがその顔色は蒼白であった。
急所を外した、と、本人は云うもののその出血は尋常ではなかった。
「でも、でも……」
羽衣の顔は鼻水と涙でぐちゃぐちゃである。
こいつ、どんだけ、人間ライクなんだよ、と、サンタは思いながら、そんな羽衣を愛おしそうに見つめる。
セロリは……。
そんなふたりの様子をぼんやりと眺めていた。
羽衣がパニックになったことで彼女は逆に冷静にふたりを眺めていた。
サンタと羽衣。
そのふたりの間には、自分が入る余地はないのかも知れない、とそんな風に考えながら寂しげな表情を見せる。
(でも……)
セロリも羽衣の横に跪くとサンタの手を握った。
涙が溢れていたが、無理やり笑顔を作ってサンタを見た。
「サンタ、気を確かにもってください」
セロリは涙声で気丈にサンタを励ます。
「大丈夫です。今、お医者の先生が来てくれます。リスタル一の名医ですから何も心配ありません」
無理やり、笑う。泣き笑いである。羽衣のように泣き叫ぶことが出来ればどんなにか気が楽かしら、と、彼女はまだ幼い心を痛めながらも、そう思った。
「セロリ……」と、サンタ。
「これで、どうやら……『運び屋』の仕事も終わり、だな……」
「な、何を云ってるんですか? まだです。ちゃんとお父様とお母様と私から正式にお礼をするまでは終わりません。だから、だから……」
セロリの言葉も最後は涙に掠れた。
サンタはそんなセロリに手を伸ばす。
屈みこんだセロリの頭に手をやると、髪を、そして、ネコ耳を優しく撫でてやる。
(ああ、こんなになっても、何て優しくて、素敵に撫でてくれるんでしょうか……)
セロリはじっと目を閉じ、そんなサンタの手に身を任せてそう思ったのだった。
突然、背後から声を掛けられ、ラスバルトは、はっとして振り返る。
「よお、いろいろと世話になったな」
そこに立っていたのはサンタと羽衣であった。
ふたりは執務室の入り口の壁に寄りかかり、面白そうにラスバルトを眺めていた。
「サンタ! 羽衣!」
セロリが嬉しそうに叫ぶ。
「大丈夫か、セロリ?」
「ええ、もちろんです。サンタたちは……かなりボロボロですね?」
「その色男のせいで、な。まあ、これからきっちりとお礼はしてやるさ」
ラスバルトを顎で示す。
ラスバルトはそれに、凶悪な笑顔で応えた。
「そう、うまく行くと思うのか、『運び屋』?」
「う~ん、さて、どうだかわからないけど、たいていおれたちは、ハッピーエンド、で終わるようになってるんだよ。日頃の行いがいいからね」
親指を立てて見せる。
羽衣もピース・サイン。
「に、しても、だ」と、サンタは感心したように頷いた。
「なるほど『金貨の魔法』ね。そう云うことか。あんたの大胆な悪事の裏づけは、それだったのか」
「ほう。『金貨の魔法』の意味がわかったのか?」
「ああ。ようやく思い出したところさ」
意味ありげに云うと、窓の外で暴れているユズナたちに目をやった。
「ただ、あいつらにはそんなこと関係ないけどな。そこはおまえの見込み違いだよ」
サンタがラスバルトに向かって楽しげに云う。
「見込み違い、だと?」
「違法捜査? 笑っちゃうね。ありゃ、ただの考えなしの無茶苦茶さ。あんなのが連邦警察の訳ないだろ? だが、いずれにしてもあの無茶苦茶ぶりがおまえの誤算だったって訳だ。奴らには『金貨の魔法』は発動しない。そもそもあいつらには『金貨』なんてのは無価値だからね」
「連邦ではない?」
ラスバルトはその意味を判じかねていた。
「連邦警察ではないだと? ではあの巨大ロボのさっきの台詞はでまかせか?」
「信じていたのかい? 人がいいねえ」
サンタは肩を震わせて笑った。
「つまり、いかに悪党とは云え、あんたも所詮はリスタルで平和ボケした単純野郎ってことだよ」
「くっ……、で、では、奴らは何者だ?」
「ただのおれの頼りになるダチさ。一般人だよ」
それを聞いたラスバルトは強張った表情でサンタを見つめた。
一般人だと? あれが? と、かれは自問する。
そんなバカなことがある訳がない。普通に考えれば――。
ラスバルトはしばらくの間、ぎりぎりと歯噛みした後、ふっとため息をつく。
それから、唐突に笑い出した。高らかに哄笑した。
「そうか。一般人か。それはそれは、なかなか貴様らは驚かせてくれるね。なるほど、一般人なら『リスタル金貨』などほとんど無価値に違いない。その恩恵については知る由もないのだからな」
ラスバルトはそこでサンタを睨みつけた。
「まあ、どちらでも良い。ある意味、連邦警察でなければ、ただのテロリストでしかないのだからね。奴らを駆逐しようとする間に、不幸な大公家の方々が巻き添えを食って亡くなることがあっても不思議ではない。いい云い訳になるよ、運び屋。だが、その前に……」
ラスバルトが剣を構え直した。
「まずは、貴様から、かな?」
油断なく身構える羽衣。
それをサンタが手で制した。
「おれがやる」
「でも、あいつ剣を持っているよ」
「これでも元軍人なんだぜ。それにおれとしてはこいつは自分で一発殴ってやらないと気が済まないんだ」
「出来るかな?」
酷薄そうな笑いを浮かべ、ラスバルトはサンタを凝視する。
刹那。
サンタが動いた。
素早くラスバルトの利き腕とは逆の左側に回り込む。
それを目で追うラスバルト。
サンタが床を蹴ってラスバルトとの距離を縮めようとするところへ、剣が唸りを上げる。
それを間一髪で避けると、サンタは身を低くしてタックルの姿勢をとる。
それに向けてラスバルトの剣が振り下ろされる。
再び、サンタは際どいタイミングで体を捻ってその攻撃をよけると、そこにあった椅子をラスバルトに向けて蹴り飛ばす。
ラスバルトが一瞬椅子に気をとられた隙に一気に間合いを詰める。
その脇腹に向かってサンタの廻し蹴り。
一歩、二歩と素早く下がるラスバルト。
サンタの廻し蹴りは空を切るがそれでも食い下がるサンタ。
ラスバルトが壁を背にする。
同時にちょうど手近の棚に飾ってあったクリスタルの置物を空いている左手で大きく払いのける。
飛んで来るその置物をサンタは頭を振って避けた。
「ちっ」と、サンタ。
「剣で勝負しろよ、剣士だろ?」
云いながらもサンタは少しだけバランスを崩した。
「もちろん剣で勝負しますよ」
ラスバルトはサンタに向かって詰め寄ると、剣を一閃する。
それも空振り。
と、思った瞬間、くるりと回転したラスバルトがそのままサンタに廻し蹴りを見舞った。
意表をついたその攻撃は効果的であった。体重の乗ったラスバルトの蹴りで、サンタはそのまま壁に背中から叩きつけられ苦悶の表情を浮かべる。
「終わりだ、ウイード!」
ラスバルトが手にした剣を腰だめにしてサンタに走り寄る。
「危ない、サンタ!」
羽衣の声。同時に彼女のルビー色の瞳が輝いた。
照準レーザーの光がラスバルトの目を射た。
だがラスバルトの剣はそのままサンタの腹を貫いていた。
鮮血が迸り、床に敷き詰められた絨毯が見る間に赤く染まる。
「う、ぐ……」
サンタの口から呻き声が洩れた。
まだレーザーで目がくらんではいたもののラスバルトは、その呻き声を聞き、また、その手応えで自らの勝利を確信した。
「終わったな、ウイード」
が――。
「捕まえたぜ、ラスバルト。おれはこっちのが得意なんだよ」
サンタの左手が剣を持つラスバルトの手首をつかんでいた。
「な、何?」
まだ視界の戻っていないラスバルトの表情から笑みが消えた。
闘いの間、ずっと絶やさなかった不愉快な笑みが消え、真顔になる。
「おまえが終わりだよ、ラスバルト。歯を食いしばって神にでも祈りな。もっともおれは……」
サンタの握り締めた右拳が、渾身の力でラスバルトの左頬を打ち砕いた。
「……無神論者だけどな!」
ラスバルトの口から折れた奥歯が飛び、かれはそのまま床を転がって壁際に置かれていた青銅の像に頭をしたたか打ちつけた。
ラスバルトは……サンタのその一発で、苦痛の呻き声ひとつ上げることもなく意識を失った。
「約束どおり、一発、お見舞いしたぜ、ラスバルト」
サンタは、にやり、と笑うと、しかしそのままずるずると床に崩れ落ちた。
かれの腹からはどくどくと鮮血が流れ出ていた。
そこにいた全員が、大公が、大公妃が、ラフィンが、セロリが、そして、羽衣が――。
サンタがラスバルトを倒した歓喜ではなく、そのサンタの様子に声を失った。
大公が最初に我に返り、大声で侍女に命じる。
「医者を! ラフィン、医者を呼べ!」
茫然としていた侍女ラフィンはその声にうろたえながらも、わかりました、と、慌てて執務室から飛び出した。
さらに大公はやはり茫然としていたラスバルト付の兵士を睨みつける。
「貴様たち、ラスバルトを拘束しろ! よもや大公であるわしに、これ以上、歯向かう気はなかろうな?」
「は、はは」
かれらは電気を喰らったように直立し大公に騎士の礼をすると、意識を失っているラスバルトに駆け寄り手早く拘束具を装着した。
そして。
「あ、あ、ああ……、サ、サンタ!」
口許を押さえてそこに倒れたサンタを見つめていた羽衣が弾かれたようにサンタに駆け寄った。
「サ、サンタ、サンタァァァ!」
倒れたサンタの前に跪いてかれを抱き起こす。羽衣の目からは涙がとめどなく溢れていた。彼女のAIはパニック状態だった。
「サンタ、サンタ?」
必死になって名前を呼ぶことしかできない。
「羽衣……」
サンタはうっすらと目を開くと苦しげに笑みを浮かべてそんな羽衣を見つめた。
「また、おまえに……助けられたな。レーザーのおかげで……奴の剣が、少しばかり……急所を外してくれた」
「サンタ、しゃ、喋らなくていいよぉ! ダメだよ、サンタ! 死んじゃ、ダメだよ! お願い! サンタがいなくなったら、あたし、あたし……。お願いだから! もっと、もっと、キスしてよ!」
「大丈夫だ……、かすり傷だよ。大袈裟、だぞ」
サンタが呟くように云うがその顔色は蒼白であった。
急所を外した、と、本人は云うもののその出血は尋常ではなかった。
「でも、でも……」
羽衣の顔は鼻水と涙でぐちゃぐちゃである。
こいつ、どんだけ、人間ライクなんだよ、と、サンタは思いながら、そんな羽衣を愛おしそうに見つめる。
セロリは……。
そんなふたりの様子をぼんやりと眺めていた。
羽衣がパニックになったことで彼女は逆に冷静にふたりを眺めていた。
サンタと羽衣。
そのふたりの間には、自分が入る余地はないのかも知れない、とそんな風に考えながら寂しげな表情を見せる。
(でも……)
セロリも羽衣の横に跪くとサンタの手を握った。
涙が溢れていたが、無理やり笑顔を作ってサンタを見た。
「サンタ、気を確かにもってください」
セロリは涙声で気丈にサンタを励ます。
「大丈夫です。今、お医者の先生が来てくれます。リスタル一の名医ですから何も心配ありません」
無理やり、笑う。泣き笑いである。羽衣のように泣き叫ぶことが出来ればどんなにか気が楽かしら、と、彼女はまだ幼い心を痛めながらも、そう思った。
「セロリ……」と、サンタ。
「これで、どうやら……『運び屋』の仕事も終わり、だな……」
「な、何を云ってるんですか? まだです。ちゃんとお父様とお母様と私から正式にお礼をするまでは終わりません。だから、だから……」
セロリの言葉も最後は涙に掠れた。
サンタはそんなセロリに手を伸ばす。
屈みこんだセロリの頭に手をやると、髪を、そして、ネコ耳を優しく撫でてやる。
(ああ、こんなになっても、何て優しくて、素敵に撫でてくれるんでしょうか……)
セロリはじっと目を閉じ、そんなサンタの手に身を任せてそう思ったのだった。
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