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第11章 トナーク宮にて
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「お待ちください!」
聞き覚えのある凛とした声が響く。
同時に表の扉が乱暴に開かれると、控えの間にどっと十人余りの兵士がなだれ込んで来た。全員が甲冑を身に着けている。
サンタと羽衣が、反射的に立ち上がる。
が、立ち上がったところで、兵士たちの構えた何本もの電磁槍が二人に、ぴたり、と突きつけられた。
見ると侍女たちは部屋の隅に押しやられ、ラフィンだけが兵士のひとりに乱暴に捕らえられている。
乗馬用の鞭を采配代わりに手にしたラスバルトと、かれの親衛隊であった。
「ラスバルト? いったい、どうしたのです?」
イザベラ妃がうろたえた声で、若い自分の従弟を見つめた。
「お騒がせして申し訳ございません、大公殿下、大公妃殿下」
ラスバルトは皮肉っぽく云いながら礼をした。
「しかしながら悠長なことは云っていられません。実はこの者たちは犯罪者なのです」
「犯罪者?」
モロク大公がオウム返しに云うと、サンタと羽衣に目をやった。
「はい。こともあろうに、セルリア姫をマグダラの《十三番目の使徒教会》修道院から拉致した疑いがかけられております。姫を言葉巧みに騙して連れ出したのです」
「え? しかし、ここにこうしてセルリアがいるではありませんか」
イザベラ妃が怪訝そうな顔をする。
それにラスバルトは手を振って答えた。
「それは両殿下をも欺こうとしているからです」
かれは冷たい口調でそう云い放った。
「さらに卑劣なことに、ここ数ヶ月、巷を騒がせている亜人児童の誘拐事件。それにもその者たちが関わっているのです」
(よく云うぜ、あの野郎……)
さて、どうしたもんか、動くのはいつだ? と、サンタが考えていると……。
「嘘です!」
セロリである。
彼女はものすごい形相でラスバルトを睨みつけると、イザベラ妃を離れ、つかつかとラスバルトに歩み寄った。
「それは……、それは、あなたがやったことではありませんか!」
ラスバルトはそんなセロリを皮肉っぽい笑顔で見つめると、自分を指差している彼女の腕をとった。
「な、何をするんですか?」
そのまま横にいた兵士のひとりにセロリを預ける。
「お連れしろ。セルリア姫にはリステリアス宮にいていただかなくてはならない。きっちりとした治療をして、洗脳を解いて差し上げなければ」
「洗脳? 何を云っているのですか?」
兵士に捕らえられたままセロリは叫ぶと、その手から逃れようと必死に暴れる。
サンタが羽衣にそっと頷いた。
羽衣がかすかに笑みを浮かべる。
(動くのは今だ)
瞬間――。
「ぎゃああ」
羽衣の悲鳴が控えの間に響いた。
電磁槍が深々と羽衣の腹に突き立てられ、同時に彼女の全身が青白いスパークに包まれた。
「羽衣!」
「きゃあ!」
サンタとセロリが同時に声を上げた。
羽衣の体が不自然にがくがくと揺れている。
やがて彼女はそのまま目を閉じると、ぐったりとして床に倒れこんだ。
「この電磁槍は特注品でしてね。レクスの巨獣さえ落とせるんですよ。先にお会いした時にはお嬢さんのことをてっきり人間だと思ってつい油断してしまいましたが、今回はそうは行きませんよ」
ラスバルトは酷薄そうな笑みを見せた。
そして、セロリを早く連れ出すように、と、もう一度命令する。
「羽衣、羽衣! いやあああ」
泣き叫ぶセロリが無理やり連れ出されようとする。
「セロリ!」
サンタがそれを阻止しようと身を乗り出したところへ、鳩尾に兵士の槍の柄が突き立った。
苦しげに体を折るサンタ。息が出来ない。
ラスバルトは口許に冷酷な笑みを浮かべたまま、兵士にサンタの革ジャンパーを脱がせるように命じる。
兵士がそれに従うと、手にした乗馬用の鞭をサンタの背中に振り下ろした。
イザベラ大公妃が目を背ける。
モロク大公も不愉快そうに眉をひそめる。
「下衆め。聖なるリスタル大公家を何と思っているのだ?」
ラスバルトは吐き捨てると、続けざまにサンタへ鞭を振り下ろした。
薄いシャツはすぐにボロボロに破け、サンタの背中に血が滲む。
しばらくの間、控えの間はしんと静まり返り、ラスバルトの鞭がサンタの背中を痛めつける音だけが続いた。
やがて気が済んだのか、ラスバルトはサンタと羽衣を運び出すように兵士に命じる。
ぐったりとしたふたりが、引きずられるように謁見の間からつれられて行くのを満足そうに眺めると、かれは両殿下に向き直った。
「お見苦しいところをお見せしました。しかし私は決してサディストではありませんので、誤解なさらないように。先ほども申し上げたとおりあの者たちはセルリア公女の拉致、及び、亜人児童の大量誘拐事件の重要な容疑者です。それをお知りおきください。それにかれらの協力者として、リステリアス宮の馬車守の喜助、御用馬車の馬車守の弥平次、さらには、これは個人的にも残念で仕方がないのですが、我が姉、侍女のラフィンも加担していたと、捜査の結果判明しているのです」
聞き覚えのある凛とした声が響く。
同時に表の扉が乱暴に開かれると、控えの間にどっと十人余りの兵士がなだれ込んで来た。全員が甲冑を身に着けている。
サンタと羽衣が、反射的に立ち上がる。
が、立ち上がったところで、兵士たちの構えた何本もの電磁槍が二人に、ぴたり、と突きつけられた。
見ると侍女たちは部屋の隅に押しやられ、ラフィンだけが兵士のひとりに乱暴に捕らえられている。
乗馬用の鞭を采配代わりに手にしたラスバルトと、かれの親衛隊であった。
「ラスバルト? いったい、どうしたのです?」
イザベラ妃がうろたえた声で、若い自分の従弟を見つめた。
「お騒がせして申し訳ございません、大公殿下、大公妃殿下」
ラスバルトは皮肉っぽく云いながら礼をした。
「しかしながら悠長なことは云っていられません。実はこの者たちは犯罪者なのです」
「犯罪者?」
モロク大公がオウム返しに云うと、サンタと羽衣に目をやった。
「はい。こともあろうに、セルリア姫をマグダラの《十三番目の使徒教会》修道院から拉致した疑いがかけられております。姫を言葉巧みに騙して連れ出したのです」
「え? しかし、ここにこうしてセルリアがいるではありませんか」
イザベラ妃が怪訝そうな顔をする。
それにラスバルトは手を振って答えた。
「それは両殿下をも欺こうとしているからです」
かれは冷たい口調でそう云い放った。
「さらに卑劣なことに、ここ数ヶ月、巷を騒がせている亜人児童の誘拐事件。それにもその者たちが関わっているのです」
(よく云うぜ、あの野郎……)
さて、どうしたもんか、動くのはいつだ? と、サンタが考えていると……。
「嘘です!」
セロリである。
彼女はものすごい形相でラスバルトを睨みつけると、イザベラ妃を離れ、つかつかとラスバルトに歩み寄った。
「それは……、それは、あなたがやったことではありませんか!」
ラスバルトはそんなセロリを皮肉っぽい笑顔で見つめると、自分を指差している彼女の腕をとった。
「な、何をするんですか?」
そのまま横にいた兵士のひとりにセロリを預ける。
「お連れしろ。セルリア姫にはリステリアス宮にいていただかなくてはならない。きっちりとした治療をして、洗脳を解いて差し上げなければ」
「洗脳? 何を云っているのですか?」
兵士に捕らえられたままセロリは叫ぶと、その手から逃れようと必死に暴れる。
サンタが羽衣にそっと頷いた。
羽衣がかすかに笑みを浮かべる。
(動くのは今だ)
瞬間――。
「ぎゃああ」
羽衣の悲鳴が控えの間に響いた。
電磁槍が深々と羽衣の腹に突き立てられ、同時に彼女の全身が青白いスパークに包まれた。
「羽衣!」
「きゃあ!」
サンタとセロリが同時に声を上げた。
羽衣の体が不自然にがくがくと揺れている。
やがて彼女はそのまま目を閉じると、ぐったりとして床に倒れこんだ。
「この電磁槍は特注品でしてね。レクスの巨獣さえ落とせるんですよ。先にお会いした時にはお嬢さんのことをてっきり人間だと思ってつい油断してしまいましたが、今回はそうは行きませんよ」
ラスバルトは酷薄そうな笑みを見せた。
そして、セロリを早く連れ出すように、と、もう一度命令する。
「羽衣、羽衣! いやあああ」
泣き叫ぶセロリが無理やり連れ出されようとする。
「セロリ!」
サンタがそれを阻止しようと身を乗り出したところへ、鳩尾に兵士の槍の柄が突き立った。
苦しげに体を折るサンタ。息が出来ない。
ラスバルトは口許に冷酷な笑みを浮かべたまま、兵士にサンタの革ジャンパーを脱がせるように命じる。
兵士がそれに従うと、手にした乗馬用の鞭をサンタの背中に振り下ろした。
イザベラ大公妃が目を背ける。
モロク大公も不愉快そうに眉をひそめる。
「下衆め。聖なるリスタル大公家を何と思っているのだ?」
ラスバルトは吐き捨てると、続けざまにサンタへ鞭を振り下ろした。
薄いシャツはすぐにボロボロに破け、サンタの背中に血が滲む。
しばらくの間、控えの間はしんと静まり返り、ラスバルトの鞭がサンタの背中を痛めつける音だけが続いた。
やがて気が済んだのか、ラスバルトはサンタと羽衣を運び出すように兵士に命じる。
ぐったりとしたふたりが、引きずられるように謁見の間からつれられて行くのを満足そうに眺めると、かれは両殿下に向き直った。
「お見苦しいところをお見せしました。しかし私は決してサディストではありませんので、誤解なさらないように。先ほども申し上げたとおりあの者たちはセルリア公女の拉致、及び、亜人児童の大量誘拐事件の重要な容疑者です。それをお知りおきください。それにかれらの協力者として、リステリアス宮の馬車守の喜助、御用馬車の馬車守の弥平次、さらには、これは個人的にも残念で仕方がないのですが、我が姉、侍女のラフィンも加担していたと、捜査の結果判明しているのです」
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