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第3章 事件の匂いがプンプンしてきた

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 セロリはごそごそとポケットを探ると旧式の携帯端末ガラケーを取り出し、一枚の写真を見せた。

「実は教会で変なものを見つけて、写メホロを撮りました」
「おまえ携帯なんか持ってたのか?」
「失礼ですね。いまどきの女子なら当然です。おまけに折りたたみ式の最新機種です」
「そもそも、ガラケーか?」
「あ、何てことを。ガラケーをバカにしてはいけません。……と、云うか、この会話、現代劇風になってますが、メタ的に大丈夫なんでしょうか? 一応、スペオペ的なSFだったのでは?」
「そこはスルーしとけ。読者にわかりやすくしているだけだ」
「はあ、そんなものですか。確かに宇宙はちっとも出て来ないですしね」
「だから、そう云うメタ発言はいいから、続きを話せ。……何の写真だ?」
「これです」

 セロリが携帯の写真を見せた。そこに映っていたのは書類の一部のようだった。

「何かのリストか?」
「ええ、そうです。がっかりしましたか? もしかして年頃のシスターのエロい写真でも期待していましたか?」
「してね~よ。で、こいつがどう変なんだ?」
「ええ、それなんですが……、ここを拡大してみると、名前と里親、って書いてありますよね? つまり修道院で預かっている孤児の里親探しリストらしいのですが」
「ああ、アズナガ神父がやってると云う慈善事業か? それがどうしておかしいんだ?」
「どう、と云われると……」

 そこでセロリは、う~ん、と腕を組んで難しい顔をする。

「何だよ。それじゃ、わからないだろ」
「そうなんです。よくわからないんですが、記憶にある名前が少ないなあ、と」
「どう云う意味だ?」
「はい。確かに教会では里親探しは半ば義務のようなものですし、私が修道院に来てからも何人も孤児がつれて来られて里親にもらわれて行きました。私はそんな子供たちの遊び相手をしているのがご奉仕みたいなものだったので、たいていの子の名前はわかるのですが……。あ、遊び相手、と云っても普通に遊んでいただけで変なことはしていませんよ」
「誰もそんなこと、云ってね~よ」
「だけども、ここには憶えのない名前がずいぶん書かれているのです。それ以外にも名前欄に、AとかBとか番号しか書いていないものとか。……つまり名無しさんですね」
「ふーむ、孤児だから名前がはっきりしない子供もいるだろうし、知らない名前ってのは……。このあたりに他に修道院はあるのか? 他の修道院の子供ってことは?」
「ありません。レンブラントの丘にあるだけです。そもそも数が多過ぎます」

 きっぱり、と、セロリは答えた。

「じゃ、おまえが修道院に入る前にいた子供たちじゃないのか?」
「それもありませんね。ここに日付が記載されているのですが、すべて最近の日付です」
「なるほど、そうだな」
「だから不思議なのです」

 セロリは難しい顔をして見せる。

「あと、ここに記載されている地名が……と、それはそれとして……ともかくこれは単純な里親探しリストではないのではないか、と思っています」
「ふん。それがこの事件の謎か」
「え? 事件なのですか?」
「いや、そう云った方が恰好いいかな、と思っただけだ」
「真面目な顔でボケをぶっこまないでください。まったくおじさんと来たら――」
 
 やれやれ、と肩をすくめるセロリ。
 サンタは「それはおいといて」とジェスチャをして続けた。

「ところでその話が肝心の家出の理由にどう繋がるんだ?」

「はい。そこが重要です」と、セロリ。

「教会にトッテンワイヤーさん、と云うおば……ベテランのシスターがいまして」

「何だよ、突然! 誰だ、それ? アルプスの方にいそうな名前だぞ」
「メガネをかけた厳格な性格のシスターです。なかなかの堅物で、行き遅れ、と云うか、行きそびれの典型で、意地悪で嫌味で私は苦手なのですが」
「えらい云われようだな。引用元の人に申し訳ない」
「で、そのとき私が写メを撮っていた場所と云うのが、実は教会の執務室で、ぶっちゃけ立ち入り禁止の場所だったのです」
 要するに入ってはいけないところに入っていた、と云うことですね、とセロリは説明した。

(それはどう考えても、おまえが悪いだろう)

「そのシスターが私が執務室にいるときにちょうど入ってきまして、それはもう恐ろしい目で私を睨みつけてこう云ったのです。『アー●ルハイド、ここで何をしているんですか?』と」

「いや、それって、絶対、アルプスの方の話とごっちゃになってるぞ」

「私は『あの、私はアー●ルハイドではありません』と涙ながらに答えました」

「セロリ、おまえ、それ、話を作ってないか?」
「疑っているのですか? 完全なフィクションですよ」
「フィクションかよ!」
「間違えました。実話です。ノンフィクションです。ピュリッツァー賞並みです。多少、盛っているところもありますが」
「盛らないでいいから、事実だけを話せ」

「わかりました。で、それから以降、気づくとトッテンワイヤーさんが私のことを物陰から見張っているようになったのです。廊下の曲がり角、トイレのドアの陰、食堂のテーブルの下、などから、まるで家政婦のように」
「まだ、盛ってるな」
「すみません。盛り過ぎました。……ともかく、そんなこんなで、ストーカーのように私を見張っているのです。最初は気のせいかと思いましたが、そんなことが二ヶ月ほど続いて私もさすがに怖くなりまして、ついに家出をしてしまったのです」

 セロリは、ふうっ、と、ひとつため息をついた。
 本人的にはかなり勇気を振り絞って話したらしいが、結局はイタズラを見つかって監視が厳しくなったのに耐えられずに家出、と云う構図のようだ。

(ただのワガママだろう、そりゃ)

「まあ、話はわかったが……」と、サンタ。
「結局、入っちゃいけない、と云われた部屋にいるところをそのおばさんシスターに見つかって、それ以来監視されていて身の危険を感じて逃げ出した、と、こう云う話か? 少し、大袈裟なんじゃないか?」
「冷たいご意見ですね、サンタ。一度など、この話を先輩のシスターに相談したところ、翌日にはその方が原因不明の大怪我をして入院したり、とか、そんなこともあったんですよ。それからは他の人に云わないようにしていました」

「マジかよ? トッテンワイヤーさんのストーカー行為のくだりよりも、そっちのがよっぽど重要だろうが!」

「そうですかね?」
 セロリは首を傾げて見せた。

(物事の重要度が判断できないのか、こいつは?)

「おい、その写真ってのを、よく見せてみろ」

 セロリから携帯を取り上げようとすると、彼女はそれを自分の後ろに隠してサンタを睨みつけた。

「えっち。私のプライバシーを見せる訳にはいきません」
「えっち、じゃねーだろ。じゃ、おれに写真をメール送信しろ」
「サンタのようなエロロリオヤジとメアド交換するのは、淑女のたしなみとしてどうなんでしょうか?」
「いいから、早くしろ!」

 サンタは送ってもらった写真を、自分のフォン端末のモニタ上で拡大する。
 リストには確かに子供の名前と里親の名前が並んでおり、他には、子供の年齢、性別、見知らぬ地名、暗号らしき記号が記載されているようだが、画質が悪く詳しくは判読できなかった。

 サンタは、う~ん、と唸ったきり、それをどう判断していいものか、と、首を傾げただけだった。
 その様子に、セロリが真顔になってサンタに哀願するように続けた。

「それが何だかはわかりませんが、正直、身の危険を感じています。だからわざわざ両親から護身用にもらった44マグナム一丁だけ持って、着の身着のままで教会から家出してきたんですから……。どうでしょうか? 私を運んでくれる理由としては十分ではないですか? ともかく国まで戻れば安全は確保されます。そのためにはどうしても星船に乗らなければなりません。お願いですから運んでいただけないでしょうか?」
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