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第1章 シスター少女を拾いました

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『……!』

 瞬間、キン、と耳が鳴るのをサンタとシスターは感じた。
 小型ビークルの車体がかすかに振動する。
 レクスに目をやると、口を開いた姿勢のまま固まっている。

命中ヒット!」

 羽衣の声。

 彼女がレクスの眼前数メートルのあたりに着地するのと同時に巨獣の体がゆっくりと傾き、やがて地響きを立ててその場に倒れ込んだ。
 レクスは全身をわずかに痙攣させて失神していた。
 羽衣はそれを確認して満足そうに頷くと、数回の跳躍で小型ビークルまで戻ってきた。

「一発必中。凄いでしょ?」

 開口一番、ドヤ顔であった。

「大したもんだな。レクスの脳を狙ったのか?」
「もちろん」

 レクスの脳は握りこぶしをひと回り大きくした程度の大きさのはずである。
 長径1.5メートルの頭蓋の中から正確に位置を把握し、一発で射抜いた訳だ。

「恐ろしいもんだな、音波砲フォノン・メーザー。けど、いったい何でそんなものがおまえに装備されてるんだろう?」
「さあ、わからないけど、もしかしてあたしってば声を操るボーカロイドなのかも?」
「いや、そんな危ないボーカロイドはいないだろ……」

 たった今まで危険と対峙していた割には、呑気なボケ、ツッコミである。
 この切替の早さから想像するにふたりにとってどうやらこの程度の危険は日常茶飯事なのかも知れない。

 そこにシスターがおずおずと口を挟んだ。

「あのぉ……」

 その声に羽衣はビークルの中にちんまりと納まっているシスターに目をやった。

「ん? あなた、シスターだったの?」
「はあ、はい。そうです。……ところで、あの、フォノン・メーザーって?」
「ああ、音波を使った武器だよ。声をぎゅっと絞ってピンポイントに圧縮して送り出すのよ。今はレクスの脳を音波で高速振動させて脳震盪の状態を作ったって訳」
「声、なんですか?」
「うん。まあ、超音波だけどもね」

 声? と、理解したようなしないような顔でシスターは呟いた。

「……いずれしても」と、サンタ。
「助かったよ、羽衣」

「惚れ直したでしょ? じゃ、今夜あたり、ついに《愛玩人形ペットドール》デビュー……」
「ダメだ。そもそもベッドの中で興奮してフォノン・メーザーでも使われた日には頭がふっ飛ばされちまう」
「ええ? そこは大丈夫だよ。元栓を切っておけるから」
「おまえのそれは家庭用ガスかよ?」

 時代考証が怪しい。

「あの、すみません。もうひとつ訊いてもいいですか?」と、シスター。
「ん? 何だ?」
「《愛玩人形》って何ですか?」

 シスターのその質問に羽衣が嬉しそうに答えようと口を開いたが、それを制してサンタが答える。

「子供に話すことじゃない。おまけにおまえはシスターだろ?」
「ははあ、なるほど。十八禁R18、と云う奴ですね。つまり、えっちな♪」

 目を輝かす。そう云う話に興味がある年頃であった。

「う……、ま、まあ、そういうことだ。それよりも――」
 サンタ、そこで真顔になる。
「いろいろ聞かせてもらおうかな。おまえが誰で、何で森の中から出てきたのか、何であんな暴れん坊のお友達をつれてきたのか、って奴を……」

 シスターは黙り込む。
 そして目の前のサンタを値踏みするように上から下まで観察する。
 続いて羽衣を同じように観察する。
 それは明らかに不審者を見るような目つきであった。

 確かに『運び屋』なんて云うのはこの時代ではあまり良く思われていない職業であり、見た目は相当に胡散臭い『無法者アウトロー』でしかない。
 関わり合いになりたくない奴ら、と見られても仕方ないだろうが。

「とりあえず……」
 シスターはしばらくふたりを観察したところで口を開いた。
「遅ればせながら、助けていただきありがとうございました」

 タイミングを外した感謝の言葉。

 それはつまり、これ以上、私には関わらないでください、と云う彼女の意思表示でもあった。感謝の気持ちは表しましたので、これで終わりです、と、そんな感じである。
 それを証明するかのようにそのままシスターはビークルのドアに手をかけると、颯爽とその場を後にした。

 ……と、云いたいところだったが、彼女はビークルのドアの開け方がわからなかった。
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