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第5章
タイト危機一髪(1)
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町に着いた頃には陽はすでに落ちていた。
町外れのモーテルの駐車場でオトマタさんは行儀良く『座り込む』。
相変わらず無言のままタイトとツグミのふたりはオトマタさんから下車するが、目を合わせようとはしなかった。
『あのなあ』と、オトマタさん。
『仲良うやってや? これからまだまだ旅も一緒にするんやろし……。ああ、そやった。ええこと思いついた。わて、天才かも知れへん。あのな、この町はワインの町なんやて。どや? 仲直りに乾杯でもしてきたらええんちゃうか? な? グーなアイデアやろ?』
「あたしら、未成年だよ」
ツグミが冷たく云い放つ。
『あ……、そ、そやった。こ、こらアカンわな。は、ははは』
人間臭すぎる。
これもタイトの云うサンプリングの結果だとすれば、滑稽なほど悲惨な結末だと、ツグミは思った。
ツグミは、ちらり、とタイトを見る。
「あんた、どうせ、食事と云ってもドライ・スイーツなんでしょ?」
「完全栄養食品だからな」
「じゃ、あたし、そこらで勝手に食べて来るよ。いいでしょ?」
「構わない。好きにするといい」
「好きにするわよ。……オトマタさん、近くに食事出来るところはない?」
ツグミの問いにオトマタさんは、ひとりで行くんでっか? まあ、ええけども、と呟きながらも、歩いて数分のところにレストラン・バーがあることを彼女に告げた。
それを聞くと彼女は、わかった、とだけ答え、ひとりでさっさと歩き出した。
タイトもそんなツグミを気にしている風も見せずに、モーテルのフロントに向かう。
「オトマタさん。明日、出発するまで休憩モードだ。そこを動くんじゃないぞ」
『了解や。……でも、ええんかい? 姐さん、ひとりで行かせてもーて。あれでも美少女やし、オッパイでかいし、ナンパとかされてまうかも知れんで?』
「余計なことは云わなくていい。あの娘はただの護衛として雇っているのだ。……まあ、護衛がおれを離れてしまうのも、どうかとは思うがな」
***
レストラン・バーの奥のボックス席に座ると、ツグミは難しい顔でテーブルをじっと見つめた。
そして先ほどまでの会話を反芻する。
サンプリング、と、タイトは云った。
それが〈賢者の石〉を使った技術である、と。
その技術を使ってオトマタさんに研究者の記憶を移植したのだ、と。
つまりそれは、かれに研究者時代の〈錬金術師〉としての記憶が戻っている、と云うことに他ならない。
ベルトにぶら下げていた〈鍵〉を無意識に触っていた。
かれの記憶を再度抹消するための〈忘却の鍵〉。それを使わなければならない局面は迫っているのだ、と彼女はそう確信した。
だが、タイトの意思に反してその記憶を奪うことと、自分が否定した死者の意志を考えずに記憶を移植すると云うタイトの行動と、どこに差異があるのだろうか。
あるいは自分がやろうとしていること――それは絶対の指令ではあったが――は、果たして正しいことなのだろうか。
そもそも正義とは何なのだろうか。
何人もの人を手にかけたのだろう、と云うタイトの言葉がなぜか心に突き刺さっていた。
ツグミの意識は深く、深く沈んで行く。
本当ならこれらの事実をすぐに少佐に報告しなければならないはずだったが、彼女はためらいがちにフォン端末を掌で弄ぶだけであった。
「ったく、もう、むしゃくしゃする」
彼女は吐き捨てる。
何か釈然としない思いで胸の中がどろどろしているような気分だった。
ちょうど運ばれて来た好物のレクス肉の煮込み定食を見ても美味しそうに見えない。
それでも空腹だったのでそれを無理やり口に詰め込む。
まるで砂粒を食べているような気がしたがどうにかすべて平らげる。
空腹になるとロクでもないことをしでかす自分であることを山の中で学習したツグミだった。
(そういえば、さっき、オトマタさんがワインの名産地とか云ってたっけ――)
食後の合成コーヒーを飲みながらそんなことを考える。
大人が酒を飲みたいと思う気持ちって、きっとこんななんだろうな、と、勝手に解釈する。
(ワイン、か――。飲んでみようかな)
だが、以前好奇心からバーに入って酒を注文した時、お子様には出せないよ、と、アイスミルクを出された黒歴史を思い出した。
今、そんなことを云われたら、ためらいもなく相手を撃ち殺してしまいそうな気分である。
どうやら余計な好奇心を発揮すべきではなさそうだ、と考え直した。
「まいったな」
自分をごまかすように窓の外に目をやった。
***
目の前の駐車場に傷だらけの軍用車両が停車するのが見えた。
(軍用車両? こんなところに?)
不思議そうに見ていると、どやどやと数人の男が降りて来た。
古びた軍服を身に着けているが階級章も所属章もない。
その姿に見憶えがあった。
「ん? あれ? あの風体は……。アンクローデに入る前、ロスの森林地帯で輸送隊を襲って来た奴らの生き残りじゃないかな?」
男たち――数えてみると五名であったが、かれらは手に手に物騒な銃を持っており、ひとりを残して店を囲むように散開した。
残ったひとりが車の上部にあったハッチを開くと、何やら長物を取り出す。
「重機銃?」
事ここに至って、ツグミはこの男たちが何か物騒なことを考えているようだ、と悟った。
「これはさっさと出た方がいいかな」
呟いた時、玄関のドアがけたたましく開かれた。
そこには連射ブラスターを腰ダメに構えた男。
店内が騒然となる。
「いるのはわかってるぞ! 出て来い、〈銀髪の狂戦士〉!」
云うなり、天井に向かっていきなり発砲した。
轟音とともに天井の飾り板がボロボロになり、客や従業員の悲鳴が上がった。
「え? あたし?」
咄嗟にテーブルの下に身を伏せながらツグミは目を丸くした。
「って、もしかしてあいつら、あたしにやられたから仕返しに来たっての?」
迷惑な連中である。
「どんだけよ。とんだストーカーじゃない。どうしてあたしがここにいるってわかったのよ、ったくぅ」
しかし考えてみれば、オトマタさんのような目立つ乗り物での移動である。
〈月見草〉のオヤジあたりから情報を得たとすれば、追跡は素人でも簡単なことだろう。
そう言えば口の軽そうなオヤジだった……。
(エネ・スタのオヤジも一枚、噛んでるんだろうなぁ)
溜息をつきながらもツグミはその時には両手に銃を構えて、安全装置を解除していた。
すでに店内はパニックである。
従業員は奥に逃げ込み、客たちは悪態をつきながらも床に伏せたり、あるいは、手近な窓をぶち破って表に逃げ出した。
だが、表に待ち構えていた連中の銃弾が逃げ出した者たちを次々と倒して行く。
「マ、マジか? 何よ、こいつら。問答無用の虐殺?」
頭おかしいでしょ? と、悪態をつく。
窓の外で重機銃の連続した発射音が聞こえた。
次の瞬間には駐車場側の窓ガラスが左から右へ順に消し飛ぶ。
店内にいた何人かが血しぶきを上げて倒れた。
「考えている暇はなさそうよね。どうやら狙いはあたしらしいし……迷惑だなぁ」
たまたま店内にいた人間たちは巻き込まれた形である。
迷惑だと云いたいのは彼らの方ではあった。
さすがに胸が痛むが、傭兵稼業にしてもエージェント稼業にしても、そんなものだ、と、割り切る――普段ならそうであったろうが、またぞろタイトの言葉が胸を横切った。
「仕方ないじゃない。奴らから仕掛けて来たんだから」
我知らず云い訳が口をついて出た。
「ああ、まったく、もう!」
半ばやけっぱちの思いでツグミはテーブルの下から這い出ると、左手の軽機銃を入り口の男に向けた。
男がそれに気づいた。
「あ、ああ! い、いやがった! 銀髪の……」
最後まで云う前にツグミの軽機銃が男の両足を粉砕した。
絶叫してその場に倒れこむ男。
「いつもなら命がないんだからね。感謝しなさいよ!」
彼女は男に云い捨てると、そのまま振り返って右手の魔銃〈炎月〉を窓に向けた。
その先には軍用車両と重機銃。
ツグミの動きに気づいて重機銃の照準が彼女に向けられる。
しかし重機銃が火を噴く前に〈炎月〉の熱銃弾が重機銃を構えた男もろとも軍用車両を吹き飛ばしていた。
男は血まみれで十メートルもすっ飛んだ挙句、悲鳴を上げながらその場で転げまわった。
「あと三人か。このフォーメーションだとすれば――」
ツグミは左手の厨房に飛び込む。
従業員と何名かの客が悲鳴を上げるが、それを無視して従業員口の扉に向かって軽機銃をぶちかます。
そのまま従業員口を蹴破るとそこに男がひとり倒れていた。
胸に銃弾を受けたらしく重傷であることはひと目でわかったが、助かるかどうかは五分五分であろうか。
「ちっ! 撃たれるような場所にいるんじゃないわよ、ドジ! 扉の前を避けるのは基本でしょ」
ツグミは舌打ちをする。
彼女はそこから表に飛び出すと裏手の藪の中に飛び込んだ。
「いたぞ!」
誰かが叫んだ。
屋根の上だ。
それへ向かって〈炎月〉をお見舞いする。
足許の屋根を吹き飛ばされて宙を舞った人影がそのまま地面に落下して動かなくなった。
打ち処が悪くなければ死ぬことはないだろう。
横から銃声がした。
ツグミは咄嗟に身を屈める。
素早く藪の中を移動した。
その身のこなしは傭兵らしく無駄がない。
発砲した最後のひとりは完全に彼女を見失っていた。
「ち、畜生、どこだ?」
叫びながら周囲を見回す。
だがその時にはすでに彼女はかれのすぐ背後にいた。
「動かないで!」
背中に突きつけられた銃の感触に男は体を硬直させた。
「き、きさま……」
手にした連射ブラスターをその場に落とす。
それをツグミは手の届かない距離まで蹴飛ばした。
「あんたたち、バンディトでしょ? 街中での銃撃戦なんてこいつはルール違反じゃないの?」
「〈銀髪の狂戦士〉……」
「とりあえず他の四人はみんな生きてる……と、思う。今日のあたしは殺したくないんだよ。あいつにこれ以上嫌われたくないしね。……運が良かったと思って早いところ仲間を連れてこっからずらかることね。もうポリス・ビークルのサイレンが聞こえてきたよ」
そう云うと、彼女は踵を返す。
バンディトの男が振り返ったが、すでにそこにはツグミの姿はなかった。
町外れのモーテルの駐車場でオトマタさんは行儀良く『座り込む』。
相変わらず無言のままタイトとツグミのふたりはオトマタさんから下車するが、目を合わせようとはしなかった。
『あのなあ』と、オトマタさん。
『仲良うやってや? これからまだまだ旅も一緒にするんやろし……。ああ、そやった。ええこと思いついた。わて、天才かも知れへん。あのな、この町はワインの町なんやて。どや? 仲直りに乾杯でもしてきたらええんちゃうか? な? グーなアイデアやろ?』
「あたしら、未成年だよ」
ツグミが冷たく云い放つ。
『あ……、そ、そやった。こ、こらアカンわな。は、ははは』
人間臭すぎる。
これもタイトの云うサンプリングの結果だとすれば、滑稽なほど悲惨な結末だと、ツグミは思った。
ツグミは、ちらり、とタイトを見る。
「あんた、どうせ、食事と云ってもドライ・スイーツなんでしょ?」
「完全栄養食品だからな」
「じゃ、あたし、そこらで勝手に食べて来るよ。いいでしょ?」
「構わない。好きにするといい」
「好きにするわよ。……オトマタさん、近くに食事出来るところはない?」
ツグミの問いにオトマタさんは、ひとりで行くんでっか? まあ、ええけども、と呟きながらも、歩いて数分のところにレストラン・バーがあることを彼女に告げた。
それを聞くと彼女は、わかった、とだけ答え、ひとりでさっさと歩き出した。
タイトもそんなツグミを気にしている風も見せずに、モーテルのフロントに向かう。
「オトマタさん。明日、出発するまで休憩モードだ。そこを動くんじゃないぞ」
『了解や。……でも、ええんかい? 姐さん、ひとりで行かせてもーて。あれでも美少女やし、オッパイでかいし、ナンパとかされてまうかも知れんで?』
「余計なことは云わなくていい。あの娘はただの護衛として雇っているのだ。……まあ、護衛がおれを離れてしまうのも、どうかとは思うがな」
***
レストラン・バーの奥のボックス席に座ると、ツグミは難しい顔でテーブルをじっと見つめた。
そして先ほどまでの会話を反芻する。
サンプリング、と、タイトは云った。
それが〈賢者の石〉を使った技術である、と。
その技術を使ってオトマタさんに研究者の記憶を移植したのだ、と。
つまりそれは、かれに研究者時代の〈錬金術師〉としての記憶が戻っている、と云うことに他ならない。
ベルトにぶら下げていた〈鍵〉を無意識に触っていた。
かれの記憶を再度抹消するための〈忘却の鍵〉。それを使わなければならない局面は迫っているのだ、と彼女はそう確信した。
だが、タイトの意思に反してその記憶を奪うことと、自分が否定した死者の意志を考えずに記憶を移植すると云うタイトの行動と、どこに差異があるのだろうか。
あるいは自分がやろうとしていること――それは絶対の指令ではあったが――は、果たして正しいことなのだろうか。
そもそも正義とは何なのだろうか。
何人もの人を手にかけたのだろう、と云うタイトの言葉がなぜか心に突き刺さっていた。
ツグミの意識は深く、深く沈んで行く。
本当ならこれらの事実をすぐに少佐に報告しなければならないはずだったが、彼女はためらいがちにフォン端末を掌で弄ぶだけであった。
「ったく、もう、むしゃくしゃする」
彼女は吐き捨てる。
何か釈然としない思いで胸の中がどろどろしているような気分だった。
ちょうど運ばれて来た好物のレクス肉の煮込み定食を見ても美味しそうに見えない。
それでも空腹だったのでそれを無理やり口に詰め込む。
まるで砂粒を食べているような気がしたがどうにかすべて平らげる。
空腹になるとロクでもないことをしでかす自分であることを山の中で学習したツグミだった。
(そういえば、さっき、オトマタさんがワインの名産地とか云ってたっけ――)
食後の合成コーヒーを飲みながらそんなことを考える。
大人が酒を飲みたいと思う気持ちって、きっとこんななんだろうな、と、勝手に解釈する。
(ワイン、か――。飲んでみようかな)
だが、以前好奇心からバーに入って酒を注文した時、お子様には出せないよ、と、アイスミルクを出された黒歴史を思い出した。
今、そんなことを云われたら、ためらいもなく相手を撃ち殺してしまいそうな気分である。
どうやら余計な好奇心を発揮すべきではなさそうだ、と考え直した。
「まいったな」
自分をごまかすように窓の外に目をやった。
***
目の前の駐車場に傷だらけの軍用車両が停車するのが見えた。
(軍用車両? こんなところに?)
不思議そうに見ていると、どやどやと数人の男が降りて来た。
古びた軍服を身に着けているが階級章も所属章もない。
その姿に見憶えがあった。
「ん? あれ? あの風体は……。アンクローデに入る前、ロスの森林地帯で輸送隊を襲って来た奴らの生き残りじゃないかな?」
男たち――数えてみると五名であったが、かれらは手に手に物騒な銃を持っており、ひとりを残して店を囲むように散開した。
残ったひとりが車の上部にあったハッチを開くと、何やら長物を取り出す。
「重機銃?」
事ここに至って、ツグミはこの男たちが何か物騒なことを考えているようだ、と悟った。
「これはさっさと出た方がいいかな」
呟いた時、玄関のドアがけたたましく開かれた。
そこには連射ブラスターを腰ダメに構えた男。
店内が騒然となる。
「いるのはわかってるぞ! 出て来い、〈銀髪の狂戦士〉!」
云うなり、天井に向かっていきなり発砲した。
轟音とともに天井の飾り板がボロボロになり、客や従業員の悲鳴が上がった。
「え? あたし?」
咄嗟にテーブルの下に身を伏せながらツグミは目を丸くした。
「って、もしかしてあいつら、あたしにやられたから仕返しに来たっての?」
迷惑な連中である。
「どんだけよ。とんだストーカーじゃない。どうしてあたしがここにいるってわかったのよ、ったくぅ」
しかし考えてみれば、オトマタさんのような目立つ乗り物での移動である。
〈月見草〉のオヤジあたりから情報を得たとすれば、追跡は素人でも簡単なことだろう。
そう言えば口の軽そうなオヤジだった……。
(エネ・スタのオヤジも一枚、噛んでるんだろうなぁ)
溜息をつきながらもツグミはその時には両手に銃を構えて、安全装置を解除していた。
すでに店内はパニックである。
従業員は奥に逃げ込み、客たちは悪態をつきながらも床に伏せたり、あるいは、手近な窓をぶち破って表に逃げ出した。
だが、表に待ち構えていた連中の銃弾が逃げ出した者たちを次々と倒して行く。
「マ、マジか? 何よ、こいつら。問答無用の虐殺?」
頭おかしいでしょ? と、悪態をつく。
窓の外で重機銃の連続した発射音が聞こえた。
次の瞬間には駐車場側の窓ガラスが左から右へ順に消し飛ぶ。
店内にいた何人かが血しぶきを上げて倒れた。
「考えている暇はなさそうよね。どうやら狙いはあたしらしいし……迷惑だなぁ」
たまたま店内にいた人間たちは巻き込まれた形である。
迷惑だと云いたいのは彼らの方ではあった。
さすがに胸が痛むが、傭兵稼業にしてもエージェント稼業にしても、そんなものだ、と、割り切る――普段ならそうであったろうが、またぞろタイトの言葉が胸を横切った。
「仕方ないじゃない。奴らから仕掛けて来たんだから」
我知らず云い訳が口をついて出た。
「ああ、まったく、もう!」
半ばやけっぱちの思いでツグミはテーブルの下から這い出ると、左手の軽機銃を入り口の男に向けた。
男がそれに気づいた。
「あ、ああ! い、いやがった! 銀髪の……」
最後まで云う前にツグミの軽機銃が男の両足を粉砕した。
絶叫してその場に倒れこむ男。
「いつもなら命がないんだからね。感謝しなさいよ!」
彼女は男に云い捨てると、そのまま振り返って右手の魔銃〈炎月〉を窓に向けた。
その先には軍用車両と重機銃。
ツグミの動きに気づいて重機銃の照準が彼女に向けられる。
しかし重機銃が火を噴く前に〈炎月〉の熱銃弾が重機銃を構えた男もろとも軍用車両を吹き飛ばしていた。
男は血まみれで十メートルもすっ飛んだ挙句、悲鳴を上げながらその場で転げまわった。
「あと三人か。このフォーメーションだとすれば――」
ツグミは左手の厨房に飛び込む。
従業員と何名かの客が悲鳴を上げるが、それを無視して従業員口の扉に向かって軽機銃をぶちかます。
そのまま従業員口を蹴破るとそこに男がひとり倒れていた。
胸に銃弾を受けたらしく重傷であることはひと目でわかったが、助かるかどうかは五分五分であろうか。
「ちっ! 撃たれるような場所にいるんじゃないわよ、ドジ! 扉の前を避けるのは基本でしょ」
ツグミは舌打ちをする。
彼女はそこから表に飛び出すと裏手の藪の中に飛び込んだ。
「いたぞ!」
誰かが叫んだ。
屋根の上だ。
それへ向かって〈炎月〉をお見舞いする。
足許の屋根を吹き飛ばされて宙を舞った人影がそのまま地面に落下して動かなくなった。
打ち処が悪くなければ死ぬことはないだろう。
横から銃声がした。
ツグミは咄嗟に身を屈める。
素早く藪の中を移動した。
その身のこなしは傭兵らしく無駄がない。
発砲した最後のひとりは完全に彼女を見失っていた。
「ち、畜生、どこだ?」
叫びながら周囲を見回す。
だがその時にはすでに彼女はかれのすぐ背後にいた。
「動かないで!」
背中に突きつけられた銃の感触に男は体を硬直させた。
「き、きさま……」
手にした連射ブラスターをその場に落とす。
それをツグミは手の届かない距離まで蹴飛ばした。
「あんたたち、バンディトでしょ? 街中での銃撃戦なんてこいつはルール違反じゃないの?」
「〈銀髪の狂戦士〉……」
「とりあえず他の四人はみんな生きてる……と、思う。今日のあたしは殺したくないんだよ。あいつにこれ以上嫌われたくないしね。……運が良かったと思って早いところ仲間を連れてこっからずらかることね。もうポリス・ビークルのサイレンが聞こえてきたよ」
そう云うと、彼女は踵を返す。
バンディトの男が振り返ったが、すでにそこにはツグミの姿はなかった。
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