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エピローグ Epilogo

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 居酒屋「スペランツァ」。
 テルミニ駅に程近い路地裏にある小さなバル。
 珍しく店を訪れたふたりの観光客の娘たちが帰った後、いつものように客はひとりもいない。

 冬の日。
 クリスマスも終わり、後は新年を迎えるだけである。

 初老のマスターはグラスを磨きながら、ぼんやりと木枠の窓の向こうに見えるテルミニ駅の尖塔を眺める。

「もう、今年も終わりか」

 呟く。
 それから、口許にかすかに笑みを浮かべる。

「今年もたくさんの『お客さん』が来てくれていたようだ」

 自分には見えなかったけれども。
 そしてまた、きっと天使様が彼らを天まで送り届けてくれたのだろう。
 毎年、そうしているように。

 彼は酒瓶が並んだ奥まった棚の上に目をやる。
 埃を被った人形。
 古ぼけた天使の陶器人形。
 彼は磨いていたグラスをカウンターに置き、その人形を手に取る。
 それから、その人形をじっと見つめた後に、やさしくそれを撫でてやる。

「今年もご苦労様、天使様」

 窓の外にこの町では珍しく、粉雪が舞い始めていた。
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