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第7話 聖夜 Notte Sacra

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 キャンバスの上には裸でベッドに横たわるマギカがいる。
 それは決して優れた構図と云う訳でもなく、類稀な色彩感覚と云う訳でもなく、ごくありふれた画である。

 それでも絵描きは満足している。

 彼が今描くことの出来る最高の画に仕上がった、と、そう思う。
 それはきっとモデルであるマギカへの気持ちなのだろう、と、そう思う。
 だから彼は満足している。
 そして、久しく描いていなかった油彩画に取り組ませてくれたマギカに感謝してもいる。

 そのマギカは彼と一緒に、さながらキャンバスから抜け出して来たかのように裸でベッドに寝転がり、彼の横で同じようにその画を眺めている。
 彼女の表情もその画の出来栄えに至極満足しているようだ。
 それが絵描きをさらに満足させる。

「出来たね」

 マギカが絵描きの肩に頭を預ける。
 絵描きは彼女の髪を優しく撫でる。

「ああ。出来た」
「絵描きさんとしては、画の出来栄えはどうなのかな?」
「満足しているよ。もちろん。君は?」
「もちろん満足だよ。でも――」
「でも?」
「半分はモデルが良かったんだと思うけどね」

 絵描きは苦笑して、マギカの額にキスをする。

「なるほど。きっと、そうだな。君に感謝しないといけない」
「そう? 本当にそう思っている?」

 マギカは絵描きの内心を覗き込むような視線を彼に送る。
 彼の心を探っているようだ。

「本当にそう思っているさ。君がモデルになると云わなければ、ぼくは決してもう一度本格的に画を描こうなんて思わなかったはずだから」
「ありがとう。そう云ってもらえて嬉しい。けど、本当に喜んでいるのは、あたしの方だからね。本当に、本当に、ありがとう」
「そんなに感謝されるほどでもないよ、マギカ。――それにこんなにモデルをしてもらって、その間、君のバイトを免除してくれたマスターにも、後でお礼を云っておかないといけないな」

「ああ、マスターね」と、マギカ。
「心配いらないよ。マスターはそんなことは気にしないから」

 そのとき、かすかに鐘の音が聞こえて来る。

 夕刻の鐘の音。
 教会の鐘の音だ。

「そう云えば」と、絵描き。
「今日はクリスマスイブか」

 マギカは、うん、と、頷いてから絵描きにぎゅっと抱きつく。

「最高のクリスマス・プレゼントだよ、絵描きさん」

 そして絵描きに口づけると、そのまま彼に体を預ける。

「ねえ、絵描きさん」
「ん?」
「もう一回……」

 彼女はそう云って、絵描きの裸の胸に口づける。
 ランプの光が揺らめく。
 恋人たちの時間はそうして過ぎて行く。

 そのはずであったのだが――。
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