紫苑の誠

卯月さくら

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第三章 仲間

幕府と新選組

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 元治元年一月(一八六四年)、新選組は十四代将軍、徳川家茂の道中警護の拝命を受けた。

「今日、皆に集まってもらったのは、徳川家茂公から道中警護の拝命を承ったからである。我々の頑張りを御上おかみは漸く認めてくださったのだ」

「おおー」

パチパチパチパチ

 喜んでいる隊士の中に、浮かない顔をしているものが数人いた。紫苑はそれを見逃さなかった。紅蓮も同様、周囲の様子をうかがっている。近藤は浮かない顔をしている隊士には気づいていない様子だ。

「誰がどこを警護するかは、決まり次第、追って連絡する」

近藤の声は高ぶっていて、拝命を受けたことにうれしく思っているらしいことが分かった。

「紅蓮も気づいてみたいだけど、あんまり嬉しいそうじゃない人も中にはいるみたいだね」

「そうだね、やっぱり紫苑も気づいていたんだ。ここはちょっと調べてみようか」

紫苑と紅蓮はそれぞれ分かれて動き出した。

「あ、沖田さん」

紫苑が廊下を歩いていると前から沖田がやってきた。

「どうしたの、紫苑ちゃん。そろそろ名前で呼んでくれる気になったのかな」

「いや、違います。「ちゃん」付けをやめてくれたら考えますけど」

「えー。まあ、考えておくよ」

沖田は呼び方を改めるつもりはないらしい。

「あ、そうそう。用事があったから声をかけたんだった」

紫苑は危うく本来の目的を忘れるところだったと伝えた。

「用事というか聞きたいことなんだけど……」

「ん?何?」

二人は縁側に座って話し始めた。

「将軍の警護のことだけど、全員がうれしいわけじゃないの?新選組ってどういう立場なの?」

「あぁ、僕も確かに幕府のことは正直言って好きじゃない。そりゃ近藤さんは新選組が頼りにされてると思って喜んでいるけどね。新選組はもともと農民とかの集まりだから、幕府も自分たちのことは眼中にもなかったんじゃないかな。僕は近藤さんについていくと決めているから文句はないよ。ゴホッゴホッ……」

「大丈夫?沖田さん」

「大丈夫、大丈夫。ゴホッゴホッ。少し風邪気味なだけだから」

そう言って沖田は笑顔を見せた。

「剣は強いのに、風邪には勝てないんだね」

「ははは……。紫苑ちゃんほど強くないよ」

 次に紫苑は、原田、永倉、藤堂の三人に話を聞くことにした。

「幕府はあまり好きではないな」

永倉は幕府に良い印象はないらしい。ほかの二人も同じようであった。

「俺ら二人(原田と永倉)は脱藩者だから。いわば幕府の裏切り者だからな」

三人にとって新選組はなくてはならない存在だが、幕府のことにはあまり首を突っ込みたくないらしい。

「新選組の中でも、いろいろあるんですね」

 紫苑は彼らと少し話をした後、部屋に戻ることにした。その途中、巡察の終わった三番隊と七番隊に出会った。

「今日の巡察はもう終わったんですね、斎藤さん」

斎藤は紫苑のほうを見て答えた。

「あぁ、紫苑は今日、非番だったな」

「そうです、紅蓮も帰ってきていますよね。どこに行ったか分かりますか?」

紫苑の目的は紅蓮と合流することだった。

「紅蓮なら、部屋に戻ったぞ」

「わかりました。ありがとうございます」

紫苑はそう言って紅蓮もいるであろう沖田の部屋へ向かった。
部屋の中からは、何やら楽しそうな声が聞こえてくる。

「沖田さん、紅蓮は帰ってきていますか?」

「いるよ、どうぞ」

沖田とは、ついさっき縁側で話していたところなのに、もう部屋で団子を食べている。

「紫苑ちゃんも食べる?紅蓮が買ってきてくれたんだ」

「団子!食べます。好きです、大好きです‼」

甘いものが好きな紫苑は、団子と聞いて目を輝かせた。それを見た紅蓮は微笑みながら手招きをした。

「紫苑は昔から甘いものには目がないね、おいで、一緒に食べよう」

 結果的に沖田も一緒になってしまったが、団子を頬張りながら今日集めてきた情報を共有することにした。

「沖田さんとも話していたのだけれど、新選組って幕府に対して心から従っている人もいれば、そうでない人も多いのだよね」

紫苑は沖田と話していた内容を紅蓮にも伝えた。

「七番隊の谷さん(新選組七番隊組長 谷三十郎)もそう言っていたよ。何の得があるのかって」

紅蓮も巡察中に情報を仕入れていたようだった。

 元治元年(一八六三年)一月八日、新選組は14代将軍、徳川家茂の道中警護を行った。
 警護にあたったのは、一番組、八番組以外だった。沖田は咳が良くならず、土方に止められた。藤堂も何かと理由とつけて行かなかった。
 幸い、道中警護の間は大きな事件が起こらず、何事もなく一日を終えることが出来た。
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