紫苑の誠

序章

記憶

　これは、心を閉ざし復讐に生きる一人の少女と誠の旗印のもと、自分の信念を最後まで貫いて散っていった幕末の志士の物語。

※史実と異なる場合があります

　ザーザー。夜の郷に激しい雨が降り注ぐ。

「いや、お願いだからやめて！里のみんなを助けてあげて！こんなの絶対おかしいよ！」

「ふふふふっ」

「どうしてこんなことするの？私たちは何もしていないじゃない。私たちをどうして裏切ったの？」

「お前のその顔が見たかった。恐怖と憎しみに歪むお前のその顔が見たかった。ずっとお前が嫌いだった、友だちなんて思ったこと一度もない。忌み子のくせに。お前は絶望と憎しみに苦しむがいい。一生私を恨んで、闇の中で生き続ければいい」

母は大量の血を流しながら、最後の力を振り絞って彼女に言った。

「あなたは生きるのよ。前を向いて生きなさい。辛くても、苦しくても母さんは見守っているから。生まれてきたことを後悔しないで、生きてちょうだい」

ザシュッ

「いやぁァァァァァ。母さん！みんなァァ。恨んでやる。絶対に許さない。許さない」

彼女の記憶はそこで途切れた。この時から、彼女は色を失った。その翡翠色ひすいいろの瞳には何も映していない。どこまでも、どこまでも深い森のように。