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幼少期 旅立ち編(前)
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「はい、そこまでです」
私の首がサーベルによって斬られる寸前に聞こえた突然の声に、ラインハルトのサーベルの動きが止まる。
「…早いねぇ、流石Sランクだ」
「少し急ぎました」
「クラークさん…」
「アーシェンリファーさん、遅くなってしまって申し訳ありません。アルクさんは怪我はしましたが無事です。」
私はクラークさんの存在とアルクの無事を聞いて力が抜けていくのが分かる。
「そうですか…良かった」
「ですから、次は貴方を助ける番です。良く耐えてくれましたね」
「私ではラインハルトを捕える事が出来ませんでした、後は頼んでもいいですか?」
「勿論です、任せてください」
「おいおい、俺を前によくも堂々とそんな話できたな?」
ラインハルトがクラークさんへ魔法を放つが、クラークさんはその魔法を炎魔法で難なく相殺した。
(凄いな、炎魔法をあんなふうに操れるのは…)
私はクラークさんの魔法に魅入っていた。
「先輩とは、後輩の前では格好つけたい生き物なのです。ですので、大人しく捕まって下さいね?」
クラークさんはラインハルトに向かって歩きだした。
一見いつも通りのマイペースなクラークさんに見えるが、何故かこれ以上は近づいてはいけないような、そんな雰囲気を感じる。
ラインハルトもクラークさんからの雰囲気を感じ取っているのか、先程まで私と対峙していた時とは違い、動きが鈍くなっていた。
ラインハルトの額から汗が流れている。
すると、
歩いていたクラークさんの動きが速くなり目にも止まらぬ速さで一瞬でラインハルトの前に現れた。
「がはっっ」
クラークさんの蹴りがラインハルトの腹に当たり、ラインハルトが一瞬にして吹き飛んだ。
壁にぶち当たったラインハルトに対して炎魔法を放つ。
先程の蹴り技が相当なダメージだったのか、ラインハルトは動けずにおり、クラークさんが放った魔法をモロに受けていた。
「あぁ…魔物じゃないので、殺したら駄目でしたね?程々にしないと…」
クラークさんは顔色1つ変えずにそう呟くと、ラインハルトの側により更に蹴り上げている。
「クソっ…」
クラークさんは汗ひとつかいていないが、ラインハルトは先程の攻撃で大分ダメージが入っているようで息が上がっているのが分かる。
(これが、Sランク冒険者…私も前世では周りからこんな風に見えていたのかな)
私は痛む身体を労わりながらクラークさんとラインハルトの動きを見ていた。
先程まで苦戦していたラインハルトが、クラークさんの前では全然手も足も出ていなかった。
クラークさんの打撃と魔法を受けて、もうほぼ動けない状態にまで追い詰めれたラインハルトは、身体をフラフラさせていた。
「流石Sランク…化け物だな…」
「失礼な…。僕はまだまだ人間ですよ。本当の化け物を見た事が無いようですね?」
「フッ…SSランクの奴らの事を言っているのか?そんなの世界に100人もいないのだから俺が出会う訳ないだろう。Sランクですら珍しいのに」
「それはそうかもしれませんね…SSランクは何かしらの無限を称する事多いですからね。努力だけではどうにもならない壁と言うものがあるのでしょうね。つまり何が言いたいかというと、僕は全然優しい存在であると言う事です。」
「どの口が言うか…」
「さて、そろそろ捕まって下さいね?」
クラークさんがそういう時一瞬にしてラインハルトの背後に回り込み捕獲用の手錠をかけた。
「なっ⁈」
「散々遊んであげたんですから、もうそろそろいいですよね?僕、これからアーシェンリファーさんとアルクさんをお医者様に診てもらわなければいけないので…」
「クソっ…お前にとって俺なんか取るに足らないってか…」
「…」
ラインハルトの言葉に対してクラークさんは特になにも言葉を返さなかった。
「あ、そうだ…」
クラークさんが呟くと捕獲したラインハルトを蹴り上げた。
ラインハルトが完全に意識を飛ばした。
「これは、アーシェンリファーさんを蹴り上げた分の仕返しです…ってこれはもう聞こえていませんね?」
クラークさんが笑顔で言った。
(このタイプの人は絶対怒らせちゃダメだな…)
私はクラークさんとラインハルトの戦闘を見ていて思ったことであった。
「アーシェンリファーさん、お待たせしました」
「クラークさん、助けて下さりありがとうございました!」
「本当、アーシェンリファーさんが無事で良かったです。外の盗賊たちの人数が想定以上に多くて捕えるのに時間が掛かってしまいました…Bランク冒険者を相手にあそこまで持ち堪えてくれて本当に凄いです」
「クラークさんがいなかったら、どうなっていたか…」
「そもそも、僕の任務ですからね…」
「それもそうですね」
クラークさんが私に近づき壁に寄りかかっていた私の身体を抱える。
「えっ⁉︎クラークさんっ⁉︎」
私は驚きクラークさんの腕の中で少しバタバタと身体を動かす。
「おやおや…怪我をしてるのですから、あまり動かないで下さい。とりあえず外で待っているアルクさんの所まで貴方を運びますから」
「は、はい…」
クラークさんが私を抱えて動き出す。
恥ずかしい気持ちもあるが、実際身体が結構しんどかったので素直に運ばれることにした。
村長の家を出ると盗賊達が全員まとまって捕獲させていた。
「本当に結構な人数居たんですね…」
「そうなんですよ、虫のように色んな家から湧き出てきて…流石に僕も驚きましたね」
「虫って…クラークさんって結構毒舌ですよね?」
「そうですか?考えた事もなかったですね」
(やっぱりこういうタイプの人間は敵に回しちゃ駄目だな)
なんて事を改めて認識させられた。
盗賊達が捕獲されている所にアルクも一緒に座り込んでおり、こちらに気づくと立ち上がって手を振ってきた。
「アーシャ!クラークさん!無事で良かったです!」
「アルクさん、僕はラインハルトをここへ持ってくるのでアーシェンリファーさんとここで待っていて下さい!」
クラークさんがアルクの側で私を降ろす。
「クラークさん、運んで下さりありがとうございます」
「いえいえ、アーシェンリファーさんは大分お疲れでしょうから、アルクさんとここで少し休んでください。僕は一旦戻りますね」
「はい」
クラークさんはラインハルトの身柄もここに移すため、もう一度村長の家に戻って行った。
アルクと2人になり、お互いを見つめあった。
「アーシャ、随分怪我してるじゃないか?痛かっただろ?」
「アルクそこ、顔に大きな痣なんて作って…これ、痛いでしょ?」
「まぁな~、途中で盗賊達に捕まって袋叩きにされてたからな…アイツら、相手が子供でも容赦ないんだぜ?まじで酷いよなぁ~」
「そっか…怪我は痛そうだけど…無事で良かったよ」
「それは俺のセリフだから!アーシャ、クラークさんに俺を先に助けてくれって言ったんだって?ラインハルト相手にその怪我で済んだから良かったけど…」
「まぁね…なんとか無事で良かったよ、流石に死ぬかもって思ったし」
「たくっ、暫く無茶は控えよーぜ?」
「それもそうだね」
2人でその場に座り込んだ。
「あ、そうだ、お互い怪我してるし、治癒魔法をかけて少しでもマシな状態にしよっか」
「【回復】」
私はアルクに【回復】をかけて怪我の治療をする。
アルクの身体にあった怪我が少しずつ治癒されていく。
「アーシャ、もう結構治ったからいいぞ?自分の怪我も治しな?」
「え、でも…」
「でも、じゃない。【回復】は魔力消費が激しいんだから、俺にばっかり使ってたら自分の怪我が治せないだろ?」
「わかったよ…」
私はアルクの言葉に負けて自分の身体に【回復】をかける。ラインハルトにやられて怪我をしていた身体が少しずつ楽になっていく。しかし、アルクの言う通り【回復】、というより、人間が使うにはあまりにも珍しい光属性と闇属性の魔法はとにかく魔力消費が激しい。今使っている【回復】は光属性の基礎魔法ではあるが、魔力消費が他の属性の数倍いにも及ぶ。今の私ではお互いの傷を全快にする程の魔力がないのが現実である。
(もっと、魔力を増やさないとな…)
私は自分の身体が少し楽になった所で【回復】を止めた。
「アーシャ、もう大丈夫なのか?」
「うん、正直全快って事はないけど、魔力の残りを考えるとこのくらいでいいかなって…」
「そっか、俺もアーシャのおかげで楽になったよ。ありがとうな」
「ううん、気にしないで、お互い無事で良かったよね」
「だな、でもさ、俺たちまだ子供なのに盗賊の捕獲に関わるって凄くないか⁈」
「それはそうだね!」
「だろ?俺、盗賊達にやられてた時は辛かったけど、いい経験になったなって思う!」
「うん、そうだね、私ももっともっと頑張らないとって思った。」
「だな」
アルクと2人でそんな会話をしているとクラークさんがラインハルトを担いでこちらに戻ってきた。
「おや、2人共元気そうですね?」
「はい!休ませてもらったのでこの通り!」
クラークさんの問いにアルクが腕を振りながら答える。
「…アーシェンリファーさんは治癒魔法も使えるんですね~。凄いです。」
「やっぱりバレちゃいましたか?」
「流石にわかります。まぁ今のアーシェンリファーさんなら力を隠して程々にやられる方が確かにいいと思いますのね、僕も周りには言わないようにしますね。」
「はい、助かります。」
クラークさんがいい人でよかった、と思いつつも、その直後にクラークさんがラインハルトを地面に放り投げる姿を見て、やっぱり怖いな、なんて考えてしまった。
「さて、お2人が治癒魔法によって想定以上に元気そうですから、このままここでルクシアからの盗賊捕獲用の馬車を待ちましょう。先日ルクシアギルドに馬車の要請をしたので、明日の朝には到着すると思います。」
「分かりました、じゃあ、今日は盗賊達とここで泊まる感じですね?」
「そうなりますね~。僕は盗賊達をここに縛り付けて確実に逃げれないようにしてから休憩を取らせて貰いますので、2人は空いている家を借りて先に休んでいて下さい」
「そんなっ!俺達も手伝いますよ!」
「アルクさん、貴方もまだ怪我が治りきっていないんですから、休んでください。今回の試験では大分無理をさせてしまいましたから。それに、僕は無傷ですから~」
「そ、そうですか…」
「アルク、ここはクラークさんに甘えよ?」
「そうだな」
「クラークさん、よろしくお願いします」
「はい~頼まれました~」
私はクラークさんに一言お礼を伝えてアルクと一緒に近くの民家に入った。
中は良くある一般的な家の間取りをしており寝室にはベットが3個並んでいた。
私もアルクはそのベットに横になった。
(他人ベットを借りるなんて…)
「なんか、他人のベットを借りるのは申し訳ないな…」
「そうだね、私もそう思った」
アルクも同じ事を考えていたようだ。
そのまま2人は特に会話をする事もなく、そのままベットで眠りについた。
ーー同時刻、クラークーー
「ふぅ~。これでひと段落かな」
クラークは自分と子供達とで捕らえた意識が飛んでいる盗賊達を一箇所にまとめた後に自身の炎魔法で円を描くように囲み、意識が戻った後でも逃げられないようにした。
「それにしても、あの2人は将来ビックな子になるだろうなぁ~。」
2人が入って行った民家の方を見つめながら言葉を漏らす。
「アルク君は純粋に努力で力を付けているタイプで、アーシェンリファーさんは…」
(彼女は、圧倒的な才能と同じくらいの努力…か。またシリシアンはとんでもない子を遺されましたね…)
クラークは生前のシリシアンが娘の自慢をしながら、「私に何かあったら娘をよろしく」なんて軽口を叩かれたのを思い出す。
「まぁ、託されてしまったからにはなるべく見届けないといけませんね。」
クラークは夜空を見ながらいつもと同じ笑顔で呟いた。
私の首がサーベルによって斬られる寸前に聞こえた突然の声に、ラインハルトのサーベルの動きが止まる。
「…早いねぇ、流石Sランクだ」
「少し急ぎました」
「クラークさん…」
「アーシェンリファーさん、遅くなってしまって申し訳ありません。アルクさんは怪我はしましたが無事です。」
私はクラークさんの存在とアルクの無事を聞いて力が抜けていくのが分かる。
「そうですか…良かった」
「ですから、次は貴方を助ける番です。良く耐えてくれましたね」
「私ではラインハルトを捕える事が出来ませんでした、後は頼んでもいいですか?」
「勿論です、任せてください」
「おいおい、俺を前によくも堂々とそんな話できたな?」
ラインハルトがクラークさんへ魔法を放つが、クラークさんはその魔法を炎魔法で難なく相殺した。
(凄いな、炎魔法をあんなふうに操れるのは…)
私はクラークさんの魔法に魅入っていた。
「先輩とは、後輩の前では格好つけたい生き物なのです。ですので、大人しく捕まって下さいね?」
クラークさんはラインハルトに向かって歩きだした。
一見いつも通りのマイペースなクラークさんに見えるが、何故かこれ以上は近づいてはいけないような、そんな雰囲気を感じる。
ラインハルトもクラークさんからの雰囲気を感じ取っているのか、先程まで私と対峙していた時とは違い、動きが鈍くなっていた。
ラインハルトの額から汗が流れている。
すると、
歩いていたクラークさんの動きが速くなり目にも止まらぬ速さで一瞬でラインハルトの前に現れた。
「がはっっ」
クラークさんの蹴りがラインハルトの腹に当たり、ラインハルトが一瞬にして吹き飛んだ。
壁にぶち当たったラインハルトに対して炎魔法を放つ。
先程の蹴り技が相当なダメージだったのか、ラインハルトは動けずにおり、クラークさんが放った魔法をモロに受けていた。
「あぁ…魔物じゃないので、殺したら駄目でしたね?程々にしないと…」
クラークさんは顔色1つ変えずにそう呟くと、ラインハルトの側により更に蹴り上げている。
「クソっ…」
クラークさんは汗ひとつかいていないが、ラインハルトは先程の攻撃で大分ダメージが入っているようで息が上がっているのが分かる。
(これが、Sランク冒険者…私も前世では周りからこんな風に見えていたのかな)
私は痛む身体を労わりながらクラークさんとラインハルトの動きを見ていた。
先程まで苦戦していたラインハルトが、クラークさんの前では全然手も足も出ていなかった。
クラークさんの打撃と魔法を受けて、もうほぼ動けない状態にまで追い詰めれたラインハルトは、身体をフラフラさせていた。
「流石Sランク…化け物だな…」
「失礼な…。僕はまだまだ人間ですよ。本当の化け物を見た事が無いようですね?」
「フッ…SSランクの奴らの事を言っているのか?そんなの世界に100人もいないのだから俺が出会う訳ないだろう。Sランクですら珍しいのに」
「それはそうかもしれませんね…SSランクは何かしらの無限を称する事多いですからね。努力だけではどうにもならない壁と言うものがあるのでしょうね。つまり何が言いたいかというと、僕は全然優しい存在であると言う事です。」
「どの口が言うか…」
「さて、そろそろ捕まって下さいね?」
クラークさんがそういう時一瞬にしてラインハルトの背後に回り込み捕獲用の手錠をかけた。
「なっ⁈」
「散々遊んであげたんですから、もうそろそろいいですよね?僕、これからアーシェンリファーさんとアルクさんをお医者様に診てもらわなければいけないので…」
「クソっ…お前にとって俺なんか取るに足らないってか…」
「…」
ラインハルトの言葉に対してクラークさんは特になにも言葉を返さなかった。
「あ、そうだ…」
クラークさんが呟くと捕獲したラインハルトを蹴り上げた。
ラインハルトが完全に意識を飛ばした。
「これは、アーシェンリファーさんを蹴り上げた分の仕返しです…ってこれはもう聞こえていませんね?」
クラークさんが笑顔で言った。
(このタイプの人は絶対怒らせちゃダメだな…)
私はクラークさんとラインハルトの戦闘を見ていて思ったことであった。
「アーシェンリファーさん、お待たせしました」
「クラークさん、助けて下さりありがとうございました!」
「本当、アーシェンリファーさんが無事で良かったです。外の盗賊たちの人数が想定以上に多くて捕えるのに時間が掛かってしまいました…Bランク冒険者を相手にあそこまで持ち堪えてくれて本当に凄いです」
「クラークさんがいなかったら、どうなっていたか…」
「そもそも、僕の任務ですからね…」
「それもそうですね」
クラークさんが私に近づき壁に寄りかかっていた私の身体を抱える。
「えっ⁉︎クラークさんっ⁉︎」
私は驚きクラークさんの腕の中で少しバタバタと身体を動かす。
「おやおや…怪我をしてるのですから、あまり動かないで下さい。とりあえず外で待っているアルクさんの所まで貴方を運びますから」
「は、はい…」
クラークさんが私を抱えて動き出す。
恥ずかしい気持ちもあるが、実際身体が結構しんどかったので素直に運ばれることにした。
村長の家を出ると盗賊達が全員まとまって捕獲させていた。
「本当に結構な人数居たんですね…」
「そうなんですよ、虫のように色んな家から湧き出てきて…流石に僕も驚きましたね」
「虫って…クラークさんって結構毒舌ですよね?」
「そうですか?考えた事もなかったですね」
(やっぱりこういうタイプの人間は敵に回しちゃ駄目だな)
なんて事を改めて認識させられた。
盗賊達が捕獲されている所にアルクも一緒に座り込んでおり、こちらに気づくと立ち上がって手を振ってきた。
「アーシャ!クラークさん!無事で良かったです!」
「アルクさん、僕はラインハルトをここへ持ってくるのでアーシェンリファーさんとここで待っていて下さい!」
クラークさんがアルクの側で私を降ろす。
「クラークさん、運んで下さりありがとうございます」
「いえいえ、アーシェンリファーさんは大分お疲れでしょうから、アルクさんとここで少し休んでください。僕は一旦戻りますね」
「はい」
クラークさんはラインハルトの身柄もここに移すため、もう一度村長の家に戻って行った。
アルクと2人になり、お互いを見つめあった。
「アーシャ、随分怪我してるじゃないか?痛かっただろ?」
「アルクそこ、顔に大きな痣なんて作って…これ、痛いでしょ?」
「まぁな~、途中で盗賊達に捕まって袋叩きにされてたからな…アイツら、相手が子供でも容赦ないんだぜ?まじで酷いよなぁ~」
「そっか…怪我は痛そうだけど…無事で良かったよ」
「それは俺のセリフだから!アーシャ、クラークさんに俺を先に助けてくれって言ったんだって?ラインハルト相手にその怪我で済んだから良かったけど…」
「まぁね…なんとか無事で良かったよ、流石に死ぬかもって思ったし」
「たくっ、暫く無茶は控えよーぜ?」
「それもそうだね」
2人でその場に座り込んだ。
「あ、そうだ、お互い怪我してるし、治癒魔法をかけて少しでもマシな状態にしよっか」
「【回復】」
私はアルクに【回復】をかけて怪我の治療をする。
アルクの身体にあった怪我が少しずつ治癒されていく。
「アーシャ、もう結構治ったからいいぞ?自分の怪我も治しな?」
「え、でも…」
「でも、じゃない。【回復】は魔力消費が激しいんだから、俺にばっかり使ってたら自分の怪我が治せないだろ?」
「わかったよ…」
私はアルクの言葉に負けて自分の身体に【回復】をかける。ラインハルトにやられて怪我をしていた身体が少しずつ楽になっていく。しかし、アルクの言う通り【回復】、というより、人間が使うにはあまりにも珍しい光属性と闇属性の魔法はとにかく魔力消費が激しい。今使っている【回復】は光属性の基礎魔法ではあるが、魔力消費が他の属性の数倍いにも及ぶ。今の私ではお互いの傷を全快にする程の魔力がないのが現実である。
(もっと、魔力を増やさないとな…)
私は自分の身体が少し楽になった所で【回復】を止めた。
「アーシャ、もう大丈夫なのか?」
「うん、正直全快って事はないけど、魔力の残りを考えるとこのくらいでいいかなって…」
「そっか、俺もアーシャのおかげで楽になったよ。ありがとうな」
「ううん、気にしないで、お互い無事で良かったよね」
「だな、でもさ、俺たちまだ子供なのに盗賊の捕獲に関わるって凄くないか⁈」
「それはそうだね!」
「だろ?俺、盗賊達にやられてた時は辛かったけど、いい経験になったなって思う!」
「うん、そうだね、私ももっともっと頑張らないとって思った。」
「だな」
アルクと2人でそんな会話をしているとクラークさんがラインハルトを担いでこちらに戻ってきた。
「おや、2人共元気そうですね?」
「はい!休ませてもらったのでこの通り!」
クラークさんの問いにアルクが腕を振りながら答える。
「…アーシェンリファーさんは治癒魔法も使えるんですね~。凄いです。」
「やっぱりバレちゃいましたか?」
「流石にわかります。まぁ今のアーシェンリファーさんなら力を隠して程々にやられる方が確かにいいと思いますのね、僕も周りには言わないようにしますね。」
「はい、助かります。」
クラークさんがいい人でよかった、と思いつつも、その直後にクラークさんがラインハルトを地面に放り投げる姿を見て、やっぱり怖いな、なんて考えてしまった。
「さて、お2人が治癒魔法によって想定以上に元気そうですから、このままここでルクシアからの盗賊捕獲用の馬車を待ちましょう。先日ルクシアギルドに馬車の要請をしたので、明日の朝には到着すると思います。」
「分かりました、じゃあ、今日は盗賊達とここで泊まる感じですね?」
「そうなりますね~。僕は盗賊達をここに縛り付けて確実に逃げれないようにしてから休憩を取らせて貰いますので、2人は空いている家を借りて先に休んでいて下さい」
「そんなっ!俺達も手伝いますよ!」
「アルクさん、貴方もまだ怪我が治りきっていないんですから、休んでください。今回の試験では大分無理をさせてしまいましたから。それに、僕は無傷ですから~」
「そ、そうですか…」
「アルク、ここはクラークさんに甘えよ?」
「そうだな」
「クラークさん、よろしくお願いします」
「はい~頼まれました~」
私はクラークさんに一言お礼を伝えてアルクと一緒に近くの民家に入った。
中は良くある一般的な家の間取りをしており寝室にはベットが3個並んでいた。
私もアルクはそのベットに横になった。
(他人ベットを借りるなんて…)
「なんか、他人のベットを借りるのは申し訳ないな…」
「そうだね、私もそう思った」
アルクも同じ事を考えていたようだ。
そのまま2人は特に会話をする事もなく、そのままベットで眠りについた。
ーー同時刻、クラークーー
「ふぅ~。これでひと段落かな」
クラークは自分と子供達とで捕らえた意識が飛んでいる盗賊達を一箇所にまとめた後に自身の炎魔法で円を描くように囲み、意識が戻った後でも逃げられないようにした。
「それにしても、あの2人は将来ビックな子になるだろうなぁ~。」
2人が入って行った民家の方を見つめながら言葉を漏らす。
「アルク君は純粋に努力で力を付けているタイプで、アーシェンリファーさんは…」
(彼女は、圧倒的な才能と同じくらいの努力…か。またシリシアンはとんでもない子を遺されましたね…)
クラークは生前のシリシアンが娘の自慢をしながら、「私に何かあったら娘をよろしく」なんて軽口を叩かれたのを思い出す。
「まぁ、託されてしまったからにはなるべく見届けないといけませんね。」
クラークは夜空を見ながらいつもと同じ笑顔で呟いた。
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エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
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異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
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10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
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旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
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