転生先では幸せになります

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幼少期 クラレンス王国編

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あの事件から早くも2ヶ月が経過し、現在ギルドの受付に来ていた。

「あら、アーシェンリファーさん。こんにちは。」

「アカツキさんっ‼︎こんにちは!」

「…あの事件から早、2ヶ月。アーシェンリファーさんには多くの依頼とボランティア活動をしてもらい、Dランクになられるなんて…ギルドきっての快挙ですよ。」

「えへへ…ありがとうございます!」

2人で笑い合う。

「…アカツキさん…そろそろ…母の遺した物を確認しようと思います。」

「…そうですか。分かりました。では、別室に案内します。こちらへ。」

アカツキが別の部屋に案内してくれた。

部屋は応接用の机と椅子があるだけのシンプルな部屋だ。

「こちらでお待ち下さい。」

「はい。」

部屋にある椅子に座るとアカツキは一旦部屋から出て行った。

あれから、もう2ヶ月…お母さんの死はまだ受け入れなれないけど…それでも、前に進むしかない。

部屋で1人そんなことを考えていた。
暫くするとアカツキがひとつの箱を持って部屋に入ってくる。

「こちらが、シリシアンさんがアーシェンリファーに遺したものの1つです。預金口座の残高に関しても先程アーシェンリファーさんの口座に移させて頂きました。」

「は、はい…」

自分の口座の残高を確認するととんでもない桁のお金が入っていた。

「えっ…」

「びっくりされますよね…シリシアンさん。とんでもないお金を遺していらっしゃったので、移すのに少し時間が掛かってしまいました。」

アカツキは微笑む。

「まぁ…ハイランク冒険者ですからね。」

アカツキはさらに言葉を重ねる。

「そして、こちらの箱は今アーシェンリファーさんにお渡しさせて頂きます。暫くこの部屋は貸切にしておきますので、ゆっくり確認して下さい。では、私はこれにて失礼しますね。」

「はい。ありがとうございます。」

アカツキから箱を受け取ると再び部屋を出て行った。

「さて、と」

アカツキが部屋から出て行った後、1人箱と共に部屋に残される。
そしてシリシアンが遺した箱を開けるとそこにはどこかの家紋が描かれたブローチと1枚の手紙が入ってた。
手紙を開けるとシリシアンの字で『アーシェンリファーへ』と書かれていた。

「お母さんの字…久々に見るな…」

本文も読まず目に涙を浮かべそうになるがそれを堪えて手紙を読む。

『アーシェンリファーへ
貴方がこの手紙を読んでいると言うことは、お母さんは既に死んでしまっていると言うことになります。今のアイファーは何歳ですか?お母さんがこの手紙を書いたのはアイファーがまだお腹にいる時です。私はきちんとアイファーのお母さん、出来ていたでしょうか?不甲斐ない母でアイファーには沢山迷惑をかけたかもしれません。ですが、貴方のお陰で私は最後まで幸せでした。ありがとう。私は、元々中央大陸の南側にあるアルバンス帝国の出身で、スイレン国にあるスメラギ学園に通っていた時にアイファーのお父さんと出会いました。そして、アーシェンリファーというたった一つの宝物が出来たけど、それをスイレン国の王様がよく思わず、私だけ身ひとつでスイレン国を出ていく事になりました。お父さんとはそれ以降会っていません。でも、お父さんもお母さんも貴方を愛しているわ。お母さんは貴方をおいていってしまったけれど、お父さんは、アイファーをおいていっては行かない人です。アイファーにはスイレン国に行ってお父さんに会いに行って欲しいです。この手紙と一緒に入れたブローチは昔の私の実家です。今は私の実家も無くなってしまったけれど、このブローチは私の家の最後の証です。アイファーが持っていて下さい。最後に、貴方を愛してます。どうか、幸せに。
母 シリシアンより』

母からの手紙を読むなり涙が止まらなくなっていた。

「お母さん…。最後まで…ありがとう。」

暫く部屋で1人、涙を流した。

シリシアンからの手紙とブローチを自分が最近創造した荷物を異空間に保管する力、通称異空庫いくうこにしまい、泣き腫らした顔に氷魔法を使い冷やすと顔の腫れが少し落ち着いた。

この、異空庫いくうこは前世のアーシェンリファーから聞いていた新たな力で作ったものである。
なぜこの力が判明したかと言うと、先日買い物で多くの荷物を持っていた時に、"荷物が多くても簡単に持ち運びが出来る手段が欲しい"と心で願ったら、この力が使えるようになっていたからである。
そして、私はこの力を【創造完成】と仮称した。どんな力かと言うと、自分で新しく力を念じて創り出す力、つまり何でも魔法ってことだ。かなり化け物じみた力だ。しかし、デメリットが全くないわけではないようで、何も考えず異空庫いくうこを創造した際は、身体の備蓄魔力が痛いほど熱くなり、酷い筋肉痛のような痛みと共に血反吐を吐いた。
1週間近くダウンしたが、その後、この力を調べるためにもっと簡単な力を創造した際には特に体調に異常は出なかった。
察するに異空庫いくうこを創造した時の体調不良は今の自分の身体や魔力の強さに見合わない力を作った事による副作用であると考えている。
しかし、一度身体のダメージは受けたが、それ以降はなんの問題もなく使えているし、なんなら異空庫いくうこの使用に魔力を使っていないため、やはりメリットの方が圧倒的に多い。ただ、血反吐を吐いて1週間程寝込むのは流石にしんどいので、力の創造の乱用は控えようと思っている。

そんな事を考えてながら部屋の窓のガラスで自分の顔を確認すると顔の腫れが少し引いていたので部屋を出た。
ギルドの受付にはアカツキがいる。

「アカツキさん、ありがとうございました。」

アカツキにお礼を言う。アカツキは私の顔を見て察するところもあったようだが、何も言ってこなかった。

「いえ、大丈夫ですよ。」

「あ、そういえば、自分の預金口座って2つ以上作れたりしますか?」

「えぇ。勿論です。預金口座は何個でも作れますよ?ギルドカードがある方だと、口座からの入出金もどの口座からにするか選ぶ事が出来ます。お作りになりますか?」

「はい。母のくれたお金は別の口座に入れておきたいので。」

「わかりました。もし、よろしければ書類だけ書いていただければ私の方でシリシアンからの財産を新しい口座に入れておきますが…」

「わかりました。助かります。」

「では、こちらの用紙に記入下さい。」

「はい」

口座登録用紙に必要事項を書いた。

「ありがとうございます。お預かりします。」

「よろしくお願いします。では、とりあえず、今日はこのまま家に帰りますね。」

「分かりました。では、またお会いしましょう。」

「はい。」

アカツキに挨拶をするとギルドから出ていった。
事件以降王都中の建物はほぼ崩壊していたが、アーシェンリファーの家は王都内でも端に位置しているため、幸い被害が殆どなく、事件後も自分の家に住んでいた。しかし、その家にはシリシアンの姿はなく、部屋は1つ余っていた。

「ただいま」

家に入り声を出すが、当然返事など来るわけもなく声が響く。
慣れた様子で自室に戻りベットに横になる。

「スイレン国…か。」

母は死の間際も、手紙にも私にスイレン国の父親に会うように、と言っていた。

「私、まだ6歳なんだけどなぁ…1人で他国まで行けるのかな…」

悩んでいた。
母が亡くなり1人になってからまだ2ヶ月。スイレン国にはいつか行こうと考えていたが今から行くべきなのか、もう少しここで生活して大人になってもから行くべきか。
これから1人で生きていかなければならない。まぁ、そんな人、今のこの国にはごまんといるわけだが。

「はぁ…」

ため息をつく。

(まぁ…ある意味…で考える時間は出来ちゃった訳だし…焦ることでもないか…。てか、この家もどうしよう…。)

自分の部屋を見渡す。
シリシアンもおらず、1人になった私にはこの家は広過ぎる。

「家って…持ち運び出来ないかな…」

いや、それは物騒過ぎる…てか、頑張れば行けそうな感じが怖いからやめよう。

自身の呟きに大して自分でツッコミを入れる。

「とりあえず、眠くなってきたから…寝よ。」

現在の時刻は午前11時、昼寝だと思って目を瞑る。



「…」

目が覚めて時計を見ると13時を指していた。

「…あれから2時間も寝てたのか…」

目を擦りながら起き上がる。部屋の窓を開けると心地よい風が部屋の中に入ってくる。

「いい天気…」

眠気がまだ少し残っているが体を起こす。午前中に口座を増やしたことを思い出してギルドカードに魔力を込めて口座を確認する。
すると口座は二つに増えており、お新しい口座に母からのお金がどっさりと移されている。

今度アカツキさんにお礼を言おうと考えながら窓を開けて外を眺めていると見覚えのある姿が見える。

「アルクだ…。」

あの事件を生き延びたアーシェンリファーの友達、アルクがこちら向かって歩いてきているのが見える。
アルクに気づくと家の外へ向かった。
外に出るとアルクは家の側まで来ていたが、まさか私に出迎えられるとは思っていなかったようで、驚いている。

「アーシャっ?なんで外に…」

「窓からアルクが見えたから。どうしたの?」

「あ、いや…アーシャに、少し話があってな。」

「そうなの?外で話すのもあれだし、家、入って!」

「ありがとう」

アルクを家に招く。

「お邪魔します」

「どうぞー」

アルクを家に入れてリビングの椅子に座らせる。

「飲み物だすねぇ。」

「…ありがとう。」

アルクと自分の分の飲み物を出す。

「そういえば、アルクも先日Dランクになったんだよね?おめでとう!」

「あぁ…俺もアーシャに負けてられないからな。あれから少し頑張ったんだ。」

「そっか…」

2人の間に少しの沈黙が生まれる。
実はあの事件以降、アルクはまともに会話をしていなかった。お互い身も心も余裕が無くなっていたのである。
アルクの姿を見ると、あの事件以降かなり鍛えているのか、腕の筋肉が発達していた。そして左手にはミズキが付けていたネックレスがブレスレットとなって付いていた。

「アーシャも、お母さんいなくなってさ…色々あると思うんだ。」

「うん。」

「俺な、あれから城の人から父さんの遺書を渡されてさ、どうやら、俺の爺ちゃんと婆ちゃんがクラレンス王国の隣にあるアーノルド国の人らしいんだ。だから、俺はこれからアーノルド国に行こうと思う。」

アルクは意志の強い瞳で言った。

「…そっか。それってすぐに行くの?」

「あぁ…3日後にこの国を出ようと思う。今、旅の準備をしててな。アーシャには、会っておきたかったんだ。」

「そっか…ねぇ…アルク、聞いてもいい?」

「うん。」

「アルクはまだ8歳でしょ?この国を出るのに、勇気はいらないの?」

「…俺自身さ、家族と好きな人を失って、もうこの国には何も無くなっちまった…でも、俺の家族はまだ生きている。だから、会いたいんだ。俺は弱いから…この国で1人でいるより、家族と一緒に居たい。その為には自分が動かないといけないって思ったんだ。だから、勇気があるんじゃない。この国いる勇気がないんだよ。」

アルクは悲しそうな顔をしていった。

「家族、か…」

「アーシャ…あとな、俺も強くなりたいって思ったんだ。今、凄く辛いけど、辛いのを引きずりたくない。アーシャ、言ったろ?生き残った人が、亡くなった人の分まで生きなくちゃいけないって…だから、俺なりに前向きに生きようと思ったんだ。その為に、俺は、もっと強くなる。この国から一旦離れて、自分を見つめ直す。それでまたこの国に戻りたくなったら戻ってくる。」

アルクは私の目を真っ直ぐに見つめて力強く言った。
アルクの目を見て驚いた。

アルクはなんて強い子なんだろう。私が言った言葉を今の私に返すなんて。私も、負けてられないな。だってお母さんと今世では幸せになるって約束したんだから。

「アルク…出発は3日後だよね?」

「え?う、うん。」

「じゃあ、3日後に、ギルドに集合でよろしく!」

笑顔で誘う。

「え?何?どうした?」

「えへへ!アルク、ありがとう!」

「いやっ!だからっ!何が⁉︎」

アルクは私の言葉の意味が理解できておらず混乱している。

「そうと決まれば私、やる事いっぱいあるからアルクっ!また3日後でね!」

アルクの玄関まで押し出す

「は?は?」

アルクは頭にハテナを浮かべながら私に押し出され訳がわからないまま帰らされた。

「よし!私もこの国を出よう!」

1人になった家の中で決意する。

「まずはお父さんに会いにスイレン国に行く!その後は世界中を旅して、色んなことを知ろう!強くなって、自分の守りたい人を今度こそ守れるように!」

家で1人言葉を発する。

「よぉーし!そうと決まれば、準備だ!準備!」

私は旅の準備を進めた




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