23 / 41
幼少期 クラレンス王国編
23
しおりを挟む
あの事件から早くも2ヶ月が経過し、現在ギルドの受付に来ていた。
「あら、アーシェンリファーさん。こんにちは。」
「アカツキさんっ‼︎こんにちは!」
「…あの事件から早、2ヶ月。アーシェンリファーさんには多くの依頼とボランティア活動をしてもらい、Dランクになられるなんて…ギルドきっての快挙ですよ。」
「えへへ…ありがとうございます!」
2人で笑い合う。
「…アカツキさん…そろそろ…母の遺した物を確認しようと思います。」
「…そうですか。分かりました。では、別室に案内します。こちらへ。」
アカツキが別の部屋に案内してくれた。
部屋は応接用の机と椅子があるだけのシンプルな部屋だ。
「こちらでお待ち下さい。」
「はい。」
部屋にある椅子に座るとアカツキは一旦部屋から出て行った。
あれから、もう2ヶ月…お母さんの死はまだ受け入れなれないけど…それでも、前に進むしかない。
部屋で1人そんなことを考えていた。
暫くするとアカツキがひとつの箱を持って部屋に入ってくる。
「こちらが、シリシアンさんがアーシェンリファーに遺したものの1つです。預金口座の残高に関しても先程アーシェンリファーさんの口座に移させて頂きました。」
「は、はい…」
自分の口座の残高を確認するととんでもない桁のお金が入っていた。
「えっ…」
「びっくりされますよね…シリシアンさん。とんでもないお金を遺していらっしゃったので、移すのに少し時間が掛かってしまいました。」
アカツキは微笑む。
「まぁ…ハイランク冒険者ですからね。」
アカツキはさらに言葉を重ねる。
「そして、こちらの箱は今アーシェンリファーさんにお渡しさせて頂きます。暫くこの部屋は貸切にしておきますので、ゆっくり確認して下さい。では、私はこれにて失礼しますね。」
「はい。ありがとうございます。」
アカツキから箱を受け取ると再び部屋を出て行った。
「さて、と」
アカツキが部屋から出て行った後、1人箱と共に部屋に残される。
そしてシリシアンが遺した箱を開けるとそこにはどこかの家紋が描かれたブローチと1枚の手紙が入ってた。
手紙を開けるとシリシアンの字で『アーシェンリファーへ』と書かれていた。
「お母さんの字…久々に見るな…」
本文も読まず目に涙を浮かべそうになるがそれを堪えて手紙を読む。
『アーシェンリファーへ
貴方がこの手紙を読んでいると言うことは、お母さんは既に死んでしまっていると言うことになります。今のアイファーは何歳ですか?お母さんがこの手紙を書いたのはアイファーがまだお腹にいる時です。私はきちんとアイファーのお母さん、出来ていたでしょうか?不甲斐ない母でアイファーには沢山迷惑をかけたかもしれません。ですが、貴方のお陰で私は最後まで幸せでした。ありがとう。私は、元々中央大陸の南側にあるアルバンス帝国の出身で、スイレン国にあるスメラギ学園に通っていた時にアイファーのお父さんと出会いました。そして、アーシェンリファーというたった一つの宝物が出来たけど、それをスイレン国の王様がよく思わず、私だけ身ひとつでスイレン国を出ていく事になりました。お父さんとはそれ以降会っていません。でも、お父さんもお母さんも貴方を愛しているわ。お母さんは貴方をおいていってしまったけれど、お父さんは、アイファーをおいていっては行かない人です。アイファーにはスイレン国に行ってお父さんに会いに行って欲しいです。この手紙と一緒に入れたブローチは昔の私の実家です。今は私の実家も無くなってしまったけれど、このブローチは私の家の最後の証です。アイファーが持っていて下さい。最後に、貴方を愛してます。どうか、幸せに。
母 シリシアンより』
母からの手紙を読むなり涙が止まらなくなっていた。
「お母さん…。最後まで…ありがとう。」
暫く部屋で1人、涙を流した。
シリシアンからの手紙とブローチを自分が最近創造した荷物を異空間に保管する力、通称異空庫にしまい、泣き腫らした顔に氷魔法を使い冷やすと顔の腫れが少し落ち着いた。
この、異空庫は前世のアーシェンリファーから聞いていた新たな力で作ったものである。
なぜこの力が判明したかと言うと、先日買い物で多くの荷物を持っていた時に、"荷物が多くても簡単に持ち運びが出来る手段が欲しい"と心で願ったら、この力が使えるようになっていたからである。
そして、私はこの力を【創造完成】と仮称した。どんな力かと言うと、自分で新しく力を念じて創り出す力、つまり何でも魔法ってことだ。かなり化け物じみた力だ。しかし、デメリットが全くないわけではないようで、何も考えず異空庫を創造した際は、身体の備蓄魔力が痛いほど熱くなり、酷い筋肉痛のような痛みと共に血反吐を吐いた。
1週間近くダウンしたが、その後、この力を調べるためにもっと簡単な力を創造した際には特に体調に異常は出なかった。
察するに異空庫を創造した時の体調不良は今の自分の身体や魔力の強さに見合わない力を作った事による副作用であると考えている。
しかし、一度身体のダメージは受けたが、それ以降はなんの問題もなく使えているし、なんなら異空庫の使用に魔力を使っていないため、やはりメリットの方が圧倒的に多い。ただ、血反吐を吐いて1週間程寝込むのは流石にしんどいので、力の創造の乱用は控えようと思っている。
そんな事を考えてながら部屋の窓のガラスで自分の顔を確認すると顔の腫れが少し引いていたので部屋を出た。
ギルドの受付にはアカツキがいる。
「アカツキさん、ありがとうございました。」
アカツキにお礼を言う。アカツキは私の顔を見て察するところもあったようだが、何も言ってこなかった。
「いえ、大丈夫ですよ。」
「あ、そういえば、自分の預金口座って2つ以上作れたりしますか?」
「えぇ。勿論です。預金口座は何個でも作れますよ?ギルドカードがある方だと、口座からの入出金もどの口座からにするか選ぶ事が出来ます。お作りになりますか?」
「はい。母のくれたお金は別の口座に入れておきたいので。」
「わかりました。もし、よろしければ書類だけ書いていただければ私の方でシリシアンからの財産を新しい口座に入れておきますが…」
「わかりました。助かります。」
「では、こちらの用紙に記入下さい。」
「はい」
口座登録用紙に必要事項を書いた。
「ありがとうございます。お預かりします。」
「よろしくお願いします。では、とりあえず、今日はこのまま家に帰りますね。」
「分かりました。では、またお会いしましょう。」
「はい。」
アカツキに挨拶をするとギルドから出ていった。
事件以降王都中の建物はほぼ崩壊していたが、アーシェンリファーの家は王都内でも端に位置しているため、幸い被害が殆どなく、事件後も自分の家に住んでいた。しかし、その家にはシリシアンの姿はなく、部屋は1つ余っていた。
「ただいま」
家に入り声を出すが、当然返事など来るわけもなく声が響く。
慣れた様子で自室に戻りベットに横になる。
「スイレン国…か。」
母は死の間際も、手紙にも私にスイレン国の父親に会うように、と言っていた。
「私、まだ6歳なんだけどなぁ…1人で他国まで行けるのかな…」
悩んでいた。
母が亡くなり1人になってからまだ2ヶ月。スイレン国にはいつか行こうと考えていたが今から行くべきなのか、もう少しここで生活して大人になってもから行くべきか。
これから1人で生きていかなければならない。まぁ、そんな人、今のこの国にはごまんといるわけだが。
「はぁ…」
ため息をつく。
(まぁ…ある意味…で考える時間は出来ちゃった訳だし…焦ることでもないか…。てか、この家もどうしよう…。)
自分の部屋を見渡す。
シリシアンもおらず、1人になった私にはこの家は広過ぎる。
「家って…持ち運び出来ないかな…」
いや、それは物騒過ぎる…てか、頑張れば行けそうな感じが怖いからやめよう。
自身の呟きに大して自分でツッコミを入れる。
「とりあえず、眠くなってきたから…寝よ。」
現在の時刻は午前11時、昼寝だと思って目を瞑る。
「…」
目が覚めて時計を見ると13時を指していた。
「…あれから2時間も寝てたのか…」
目を擦りながら起き上がる。部屋の窓を開けると心地よい風が部屋の中に入ってくる。
「いい天気…」
眠気がまだ少し残っているが体を起こす。午前中に口座を増やしたことを思い出してギルドカードに魔力を込めて口座を確認する。
すると口座は二つに増えており、お新しい口座に母からのお金がどっさりと移されている。
今度アカツキさんにお礼を言おうと考えながら窓を開けて外を眺めていると見覚えのある姿が見える。
「アルクだ…。」
あの事件を生き延びたアーシェンリファーの友達、アルクがこちら向かって歩いてきているのが見える。
アルクに気づくと家の外へ向かった。
外に出るとアルクは家の側まで来ていたが、まさか私に出迎えられるとは思っていなかったようで、驚いている。
「アーシャっ?なんで外に…」
「窓からアルクが見えたから。どうしたの?」
「あ、いや…アーシャに、少し話があってな。」
「そうなの?外で話すのもあれだし、家、入って!」
「ありがとう」
アルクを家に招く。
「お邪魔します」
「どうぞー」
アルクを家に入れてリビングの椅子に座らせる。
「飲み物だすねぇ。」
「…ありがとう。」
アルクと自分の分の飲み物を出す。
「そういえば、アルクも先日Dランクになったんだよね?おめでとう!」
「あぁ…俺もアーシャに負けてられないからな。あれから少し頑張ったんだ。」
「そっか…」
2人の間に少しの沈黙が生まれる。
実はあの事件以降、アルクはまともに会話をしていなかった。お互い身も心も余裕が無くなっていたのである。
アルクの姿を見ると、あの事件以降かなり鍛えているのか、腕の筋肉が発達していた。そして左手にはミズキが付けていたネックレスがブレスレットとなって付いていた。
「アーシャも、お母さんいなくなってさ…色々あると思うんだ。」
「うん。」
「俺な、あれから城の人から父さんの遺書を渡されてさ、どうやら、俺の爺ちゃんと婆ちゃんがクラレンス王国の隣にあるアーノルド国の人らしいんだ。だから、俺はこれからアーノルド国に行こうと思う。」
アルクは意志の強い瞳で言った。
「…そっか。それってすぐに行くの?」
「あぁ…3日後にこの国を出ようと思う。今、旅の準備をしててな。アーシャには、会っておきたかったんだ。」
「そっか…ねぇ…アルク、聞いてもいい?」
「うん。」
「アルクはまだ8歳でしょ?この国を出るのに、勇気はいらないの?」
「…俺自身さ、家族と好きな人を失って、もうこの国には何も無くなっちまった…でも、俺の家族はまだ生きている。だから、会いたいんだ。俺は弱いから…この国で1人でいるより、家族と一緒に居たい。その為には自分が動かないといけないって思ったんだ。だから、勇気があるんじゃない。この国いる勇気がないんだよ。」
アルクは悲しそうな顔をしていった。
「家族、か…」
「アーシャ…あとな、俺も強くなりたいって思ったんだ。今、凄く辛いけど、辛いのを引きずりたくない。アーシャ、言ったろ?生き残った人が、亡くなった人の分まで生きなくちゃいけないって…だから、俺なりに前向きに生きようと思ったんだ。その為に、俺は、もっと強くなる。この国から一旦離れて、自分を見つめ直す。それでまたこの国に戻りたくなったら戻ってくる。」
アルクは私の目を真っ直ぐに見つめて力強く言った。
アルクの目を見て驚いた。
アルクはなんて強い子なんだろう。私が言った言葉を今の私に返すなんて。私も、負けてられないな。だってお母さんと今世では幸せになるって約束したんだから。
「アルク…出発は3日後だよね?」
「え?う、うん。」
「じゃあ、3日後に、ギルドに集合でよろしく!」
笑顔で誘う。
「え?何?どうした?」
「えへへ!アルク、ありがとう!」
「いやっ!だからっ!何が⁉︎」
アルクは私の言葉の意味が理解できておらず混乱している。
「そうと決まれば私、やる事いっぱいあるからアルクっ!また3日後でね!」
アルクの玄関まで押し出す
「は?は?」
アルクは頭にハテナを浮かべながら私に押し出され訳がわからないまま帰らされた。
「よし!私もこの国を出よう!」
1人になった家の中で決意する。
「まずはお父さんに会いにスイレン国に行く!その後は世界中を旅して、色んなことを知ろう!強くなって、自分の守りたい人を今度こそ守れるように!」
家で1人言葉を発する。
「よぉーし!そうと決まれば、準備だ!準備!」
私は旅の準備を進めた
「あら、アーシェンリファーさん。こんにちは。」
「アカツキさんっ‼︎こんにちは!」
「…あの事件から早、2ヶ月。アーシェンリファーさんには多くの依頼とボランティア活動をしてもらい、Dランクになられるなんて…ギルドきっての快挙ですよ。」
「えへへ…ありがとうございます!」
2人で笑い合う。
「…アカツキさん…そろそろ…母の遺した物を確認しようと思います。」
「…そうですか。分かりました。では、別室に案内します。こちらへ。」
アカツキが別の部屋に案内してくれた。
部屋は応接用の机と椅子があるだけのシンプルな部屋だ。
「こちらでお待ち下さい。」
「はい。」
部屋にある椅子に座るとアカツキは一旦部屋から出て行った。
あれから、もう2ヶ月…お母さんの死はまだ受け入れなれないけど…それでも、前に進むしかない。
部屋で1人そんなことを考えていた。
暫くするとアカツキがひとつの箱を持って部屋に入ってくる。
「こちらが、シリシアンさんがアーシェンリファーに遺したものの1つです。預金口座の残高に関しても先程アーシェンリファーさんの口座に移させて頂きました。」
「は、はい…」
自分の口座の残高を確認するととんでもない桁のお金が入っていた。
「えっ…」
「びっくりされますよね…シリシアンさん。とんでもないお金を遺していらっしゃったので、移すのに少し時間が掛かってしまいました。」
アカツキは微笑む。
「まぁ…ハイランク冒険者ですからね。」
アカツキはさらに言葉を重ねる。
「そして、こちらの箱は今アーシェンリファーさんにお渡しさせて頂きます。暫くこの部屋は貸切にしておきますので、ゆっくり確認して下さい。では、私はこれにて失礼しますね。」
「はい。ありがとうございます。」
アカツキから箱を受け取ると再び部屋を出て行った。
「さて、と」
アカツキが部屋から出て行った後、1人箱と共に部屋に残される。
そしてシリシアンが遺した箱を開けるとそこにはどこかの家紋が描かれたブローチと1枚の手紙が入ってた。
手紙を開けるとシリシアンの字で『アーシェンリファーへ』と書かれていた。
「お母さんの字…久々に見るな…」
本文も読まず目に涙を浮かべそうになるがそれを堪えて手紙を読む。
『アーシェンリファーへ
貴方がこの手紙を読んでいると言うことは、お母さんは既に死んでしまっていると言うことになります。今のアイファーは何歳ですか?お母さんがこの手紙を書いたのはアイファーがまだお腹にいる時です。私はきちんとアイファーのお母さん、出来ていたでしょうか?不甲斐ない母でアイファーには沢山迷惑をかけたかもしれません。ですが、貴方のお陰で私は最後まで幸せでした。ありがとう。私は、元々中央大陸の南側にあるアルバンス帝国の出身で、スイレン国にあるスメラギ学園に通っていた時にアイファーのお父さんと出会いました。そして、アーシェンリファーというたった一つの宝物が出来たけど、それをスイレン国の王様がよく思わず、私だけ身ひとつでスイレン国を出ていく事になりました。お父さんとはそれ以降会っていません。でも、お父さんもお母さんも貴方を愛しているわ。お母さんは貴方をおいていってしまったけれど、お父さんは、アイファーをおいていっては行かない人です。アイファーにはスイレン国に行ってお父さんに会いに行って欲しいです。この手紙と一緒に入れたブローチは昔の私の実家です。今は私の実家も無くなってしまったけれど、このブローチは私の家の最後の証です。アイファーが持っていて下さい。最後に、貴方を愛してます。どうか、幸せに。
母 シリシアンより』
母からの手紙を読むなり涙が止まらなくなっていた。
「お母さん…。最後まで…ありがとう。」
暫く部屋で1人、涙を流した。
シリシアンからの手紙とブローチを自分が最近創造した荷物を異空間に保管する力、通称異空庫にしまい、泣き腫らした顔に氷魔法を使い冷やすと顔の腫れが少し落ち着いた。
この、異空庫は前世のアーシェンリファーから聞いていた新たな力で作ったものである。
なぜこの力が判明したかと言うと、先日買い物で多くの荷物を持っていた時に、"荷物が多くても簡単に持ち運びが出来る手段が欲しい"と心で願ったら、この力が使えるようになっていたからである。
そして、私はこの力を【創造完成】と仮称した。どんな力かと言うと、自分で新しく力を念じて創り出す力、つまり何でも魔法ってことだ。かなり化け物じみた力だ。しかし、デメリットが全くないわけではないようで、何も考えず異空庫を創造した際は、身体の備蓄魔力が痛いほど熱くなり、酷い筋肉痛のような痛みと共に血反吐を吐いた。
1週間近くダウンしたが、その後、この力を調べるためにもっと簡単な力を創造した際には特に体調に異常は出なかった。
察するに異空庫を創造した時の体調不良は今の自分の身体や魔力の強さに見合わない力を作った事による副作用であると考えている。
しかし、一度身体のダメージは受けたが、それ以降はなんの問題もなく使えているし、なんなら異空庫の使用に魔力を使っていないため、やはりメリットの方が圧倒的に多い。ただ、血反吐を吐いて1週間程寝込むのは流石にしんどいので、力の創造の乱用は控えようと思っている。
そんな事を考えてながら部屋の窓のガラスで自分の顔を確認すると顔の腫れが少し引いていたので部屋を出た。
ギルドの受付にはアカツキがいる。
「アカツキさん、ありがとうございました。」
アカツキにお礼を言う。アカツキは私の顔を見て察するところもあったようだが、何も言ってこなかった。
「いえ、大丈夫ですよ。」
「あ、そういえば、自分の預金口座って2つ以上作れたりしますか?」
「えぇ。勿論です。預金口座は何個でも作れますよ?ギルドカードがある方だと、口座からの入出金もどの口座からにするか選ぶ事が出来ます。お作りになりますか?」
「はい。母のくれたお金は別の口座に入れておきたいので。」
「わかりました。もし、よろしければ書類だけ書いていただければ私の方でシリシアンからの財産を新しい口座に入れておきますが…」
「わかりました。助かります。」
「では、こちらの用紙に記入下さい。」
「はい」
口座登録用紙に必要事項を書いた。
「ありがとうございます。お預かりします。」
「よろしくお願いします。では、とりあえず、今日はこのまま家に帰りますね。」
「分かりました。では、またお会いしましょう。」
「はい。」
アカツキに挨拶をするとギルドから出ていった。
事件以降王都中の建物はほぼ崩壊していたが、アーシェンリファーの家は王都内でも端に位置しているため、幸い被害が殆どなく、事件後も自分の家に住んでいた。しかし、その家にはシリシアンの姿はなく、部屋は1つ余っていた。
「ただいま」
家に入り声を出すが、当然返事など来るわけもなく声が響く。
慣れた様子で自室に戻りベットに横になる。
「スイレン国…か。」
母は死の間際も、手紙にも私にスイレン国の父親に会うように、と言っていた。
「私、まだ6歳なんだけどなぁ…1人で他国まで行けるのかな…」
悩んでいた。
母が亡くなり1人になってからまだ2ヶ月。スイレン国にはいつか行こうと考えていたが今から行くべきなのか、もう少しここで生活して大人になってもから行くべきか。
これから1人で生きていかなければならない。まぁ、そんな人、今のこの国にはごまんといるわけだが。
「はぁ…」
ため息をつく。
(まぁ…ある意味…で考える時間は出来ちゃった訳だし…焦ることでもないか…。てか、この家もどうしよう…。)
自分の部屋を見渡す。
シリシアンもおらず、1人になった私にはこの家は広過ぎる。
「家って…持ち運び出来ないかな…」
いや、それは物騒過ぎる…てか、頑張れば行けそうな感じが怖いからやめよう。
自身の呟きに大して自分でツッコミを入れる。
「とりあえず、眠くなってきたから…寝よ。」
現在の時刻は午前11時、昼寝だと思って目を瞑る。
「…」
目が覚めて時計を見ると13時を指していた。
「…あれから2時間も寝てたのか…」
目を擦りながら起き上がる。部屋の窓を開けると心地よい風が部屋の中に入ってくる。
「いい天気…」
眠気がまだ少し残っているが体を起こす。午前中に口座を増やしたことを思い出してギルドカードに魔力を込めて口座を確認する。
すると口座は二つに増えており、お新しい口座に母からのお金がどっさりと移されている。
今度アカツキさんにお礼を言おうと考えながら窓を開けて外を眺めていると見覚えのある姿が見える。
「アルクだ…。」
あの事件を生き延びたアーシェンリファーの友達、アルクがこちら向かって歩いてきているのが見える。
アルクに気づくと家の外へ向かった。
外に出るとアルクは家の側まで来ていたが、まさか私に出迎えられるとは思っていなかったようで、驚いている。
「アーシャっ?なんで外に…」
「窓からアルクが見えたから。どうしたの?」
「あ、いや…アーシャに、少し話があってな。」
「そうなの?外で話すのもあれだし、家、入って!」
「ありがとう」
アルクを家に招く。
「お邪魔します」
「どうぞー」
アルクを家に入れてリビングの椅子に座らせる。
「飲み物だすねぇ。」
「…ありがとう。」
アルクと自分の分の飲み物を出す。
「そういえば、アルクも先日Dランクになったんだよね?おめでとう!」
「あぁ…俺もアーシャに負けてられないからな。あれから少し頑張ったんだ。」
「そっか…」
2人の間に少しの沈黙が生まれる。
実はあの事件以降、アルクはまともに会話をしていなかった。お互い身も心も余裕が無くなっていたのである。
アルクの姿を見ると、あの事件以降かなり鍛えているのか、腕の筋肉が発達していた。そして左手にはミズキが付けていたネックレスがブレスレットとなって付いていた。
「アーシャも、お母さんいなくなってさ…色々あると思うんだ。」
「うん。」
「俺な、あれから城の人から父さんの遺書を渡されてさ、どうやら、俺の爺ちゃんと婆ちゃんがクラレンス王国の隣にあるアーノルド国の人らしいんだ。だから、俺はこれからアーノルド国に行こうと思う。」
アルクは意志の強い瞳で言った。
「…そっか。それってすぐに行くの?」
「あぁ…3日後にこの国を出ようと思う。今、旅の準備をしててな。アーシャには、会っておきたかったんだ。」
「そっか…ねぇ…アルク、聞いてもいい?」
「うん。」
「アルクはまだ8歳でしょ?この国を出るのに、勇気はいらないの?」
「…俺自身さ、家族と好きな人を失って、もうこの国には何も無くなっちまった…でも、俺の家族はまだ生きている。だから、会いたいんだ。俺は弱いから…この国で1人でいるより、家族と一緒に居たい。その為には自分が動かないといけないって思ったんだ。だから、勇気があるんじゃない。この国いる勇気がないんだよ。」
アルクは悲しそうな顔をしていった。
「家族、か…」
「アーシャ…あとな、俺も強くなりたいって思ったんだ。今、凄く辛いけど、辛いのを引きずりたくない。アーシャ、言ったろ?生き残った人が、亡くなった人の分まで生きなくちゃいけないって…だから、俺なりに前向きに生きようと思ったんだ。その為に、俺は、もっと強くなる。この国から一旦離れて、自分を見つめ直す。それでまたこの国に戻りたくなったら戻ってくる。」
アルクは私の目を真っ直ぐに見つめて力強く言った。
アルクの目を見て驚いた。
アルクはなんて強い子なんだろう。私が言った言葉を今の私に返すなんて。私も、負けてられないな。だってお母さんと今世では幸せになるって約束したんだから。
「アルク…出発は3日後だよね?」
「え?う、うん。」
「じゃあ、3日後に、ギルドに集合でよろしく!」
笑顔で誘う。
「え?何?どうした?」
「えへへ!アルク、ありがとう!」
「いやっ!だからっ!何が⁉︎」
アルクは私の言葉の意味が理解できておらず混乱している。
「そうと決まれば私、やる事いっぱいあるからアルクっ!また3日後でね!」
アルクの玄関まで押し出す
「は?は?」
アルクは頭にハテナを浮かべながら私に押し出され訳がわからないまま帰らされた。
「よし!私もこの国を出よう!」
1人になった家の中で決意する。
「まずはお父さんに会いにスイレン国に行く!その後は世界中を旅して、色んなことを知ろう!強くなって、自分の守りたい人を今度こそ守れるように!」
家で1人言葉を発する。
「よぉーし!そうと決まれば、準備だ!準備!」
私は旅の準備を進めた
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
神を助けて異世界へ〜自重知らずの転生ライフ〜
MINAMI
ファンタジー
主人公は通り魔に刺されそうな女の子を助けた
「はじめまして、海神の息子様。私は地球神ティエラです。残念ながら貴方はなくなりました。」
「……や、知ってますけど…」
これは無駄死にした主人公が異世界転生してチートで無双するというテンプレな話です。
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜
MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった
お詫びということで沢山の
チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。
自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる