シークレット・アイ

市ヶ谷 悠

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ステージ

12.終焉の「演目」

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 終焉の「演目」


 液晶の扉は、何の音もなく開いた。
 なるほど、こんなに近くにあっても気づかなかったのは、静かにスライドで開いたから、か。

 中は真っ暗闇。 静かに、それこそ「音」を立てずに中へと入っていく。
 
 二人とも、その両手にはしっかりと握りしめた物で、彼女をするための準備をしていた。

 どこから来るのか、こんな暗闇の中で、何をしているのか。二人は皆目、見当がつかなかった。ゆっくりと一歩一歩進んでいく中、突然、ヴァルの横から息を深く吸う音が聞こえた。

「ーーっ……うぉぉおい! 皇帝の娘サイレントダンサーさんよぉ!」

「お、おい、ノア!?」

 思わず、叫んでしまう。
 どこにいるかも分からないというのに、何を考えてるんだこの馬鹿は! 少なくとも向こうは高性能な機械ロボットなんだぞ!

「あんたからユーベルトってやつに宛てた手紙が来てんだ! なのに、挨拶もなしたぁ、レディの風上にも置けねぇぜ!?」

 すると、突然! バン! スポットライトが正面に一つ付いた。
 そして右からもう一つ、左から、もう一つと……。

 その中央には、居たんだ。彼女が。

 だけど……それはあの、ノアの拳銃を蹴った例の少女ではなくて……。

 踊る姿を、クリスタルで固められた、本物の皇帝の娘サイレントダンサーだった!
 しわの一つもない、美しいままの少女の姿で、彼女は確かに、手紙の通りに「静寂の舞台」で……。

「……どっちが、ユーベルト様……?」

 思わず身構える。
 クリスタルの後ろから、ヴァルが撃った左足を修復せずに、鉄と金属が見えたまま引きずって出てきたのは、例の機械ロボットだった。

 こうして見れば見るほど、本当にそのまま生き写したかのようだ。
 それほど精巧に作られ、クリスタルで眠る娘は美しく神秘的だった。

「……悪いな、俺たちは両方、ユーベルト伯爵じゃないんだ。俺はヴァル。叫んだ銀髪がノアだ」

「……じゃあなぜ、あなた達が、その手紙を持っているの……?」

 良かった、どうやら少女は攻撃をする気はなく、話す気があるようだ。ヴァルはそう思い、ひとまず武器をしまう。だが、油断は禁物だろう。

 あのノアに飛びかかった時のスピードをヴァルはフラッシュバックのように思い出していた。

「あんたが宛てたユーベルト・イエナ・ドリアン伯爵に、この手紙に書かれた踊り子を探して連れてくるよう、された者でね。だから……決してあの銅像や目的に来たわけじゃない。」

 ヴァルは落ち着くように言い聞かせるつもりで話したが……果たして、それは機械ロボットに伝わるのだろうか?

 イチかバチかの賭けだった。

「……そう。じゃあ彼は、ユーベルト皇帝は来てくれないのね……」

 無表情のままで言うので、分からないが、悲しんでいる、んじゃないだろうか?
 
 ノアが合図でこちらを見る。ヴァルもそれに応答し、腰に手をかざしながら、真実を告げる。

「……君が言っているのが、ユーベルト・サン・フォルトーナ皇帝の事ならば、それは違う。彼は来ないんじゃない、死んだ。もう百年以上も前にね。」

 すると、驚いた。この機械ロボットが感情を表したのだ。

 さっきまでずっと無表情で固定されていたその顔にはしっかりと、驚きと悲しみが表されていた。

「……嘘、だって、だって……彼は、約束した! お前たちが嘘をついている!」
 
 しまった! どうやら彼女の爆弾に触れてしまったようで、飛びかかってきた! 
 
 左足を損傷してるとは言え、やはりその地面を蹴る音はせず、風を切る音しかせず、そのスピードはまるで劣っていない!

 ヴァルもノアも咄嗟の判断で、同時に左右へと避ける。

 チクショウ、真ん中にスポットライトが当たったおかげで少し辺りは見えると言えど、スポットライト周辺以外は闇だ! そこで攻撃を仕掛けられたりなんてすれば……!

 ヴァルはクリスタルの娘のある舞台まで一気に走り抜ける。これも、賭けだが!

 カチャ……。
 銃のハンマーが下りる音がした、と同時に……。

 ……ビンゴ。

 クリスタルの娘に銃を向けると、この機械ロボットの動きも、まるで踊りを止めたダンサーのように停止した。

 ……もしかすると、もしかするのかもしれない。

 銃を向けながら、ヴァルは一つの可能性を見出した。

 停止したはずのその踊り子に生き写しの機械ロボットの目からは、オイルなのか、それとも……涙と思しきものが流れ落ちていたから。
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