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4.知る者への「報せ」
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♪
彼女は逃げた
怖いからじゃない
逃げざるを得なかったの
どうして? どうして?
それを知るのは
真の心を知る者だけ
♪
「では……さっそく”探し物”の特徴をお教え頂けますか?」
ヴァルはドリアン伯爵を目の前の座席に座って頂いて、ノアにはブレンドコーヒーを用意させてから、依頼内容をメモするための電子ノートを取り出した。
「それが……」
彼は突然言いにくそうに、もごもごし始めた。
関係が言いづらいのか?それとも今の姿が変わっている可能性があるからとかだろうか?それとも……。
ヴァルが聞いたことのある話の伝説の踊り子であるとすれば……。ヴァルは少しトントンと、電子ノートのペンを軽く机に叩いてから、ひとまず聞いてみることにした。
「もし、お探しの物の見た目や特徴が変わっている可能性であっても、居なくなる前の姿などで充分に情報は……」
「……情報は一切、無いのです」
「はッ?」
驚いた声を上げたのはノアだった。キッチンから、その大きな背を屈めて顔を出している。
ヴァルはただじっと、静聴していた。自分の予想が当たっているとするなら……厄介案件に入る事間違いなしだからだった。
「何も無いのです。こればっかりは誠に申し訳ないのですが……。先程申し上げました通り、名前も分からなければ、居たであろう街の名前も、その容姿も存じ上げないのです」
ふむ、やはり、全てがゼロからスタートの捜査、となる。それは途方も無い事くらい、馬鹿なノア(馬鹿は余計ダ)でも分かることだが……。
ヴァルは、この仕事を非常に興味深げに感じ取っていた……が。
「待て待て待て! あんたの恋人とかじゃないのかよ!?」
コイツ……。ノアは我慢ならない様子でキッチンのカウンターから身を乗り出して話に入ってきた。別に話に割って入ってくるのは構わない。こいつもこんなでも俺の相棒だ。寧ろ聞いてくれるのは有難い事ではあるんだが……。
ヴァルは呆れ果てた様に顔を半分右手で覆って溜め息を吐くしかできない。本来、此処に訪れる客人に対し、”探し物”の内容は聞かないのが一応、うちでのルールだったんだが……どうにもこの馬鹿は(馬鹿じゃねえ!)聞かずにはいられない性分なようで……。
「いえ……、私自身、名もなき踊り子とは会ったことどころか、見たことすらもないのです。……ただ……ある人から存在を聞いたことがあるだけで……。彼女の踊りは、世界を揺るがす程の踊りであった、とだけ……」
信じらんねぇ。ノアは小さくそう呟きながら、驚きのあまりドリップしかけのコーヒーを放置してしまっている。……ノアの野郎、勿体ないことをする。ありゃ、濃い過ぎて飲めないな。
そんな呑気なことを考えながらヴァルは、伯爵の放った言葉の中から気になる言葉をスラスラとメモをしていく。
……ふーむ。この様子だと、容姿の特徴どころか……生死の確認さえ分からないという事か……。
「念のため聞いておきます。”探し物”の生死までは、把握しきれている状態ですか?」
すると、まあ、案の定黙りこくってしまうドリアン伯爵。……ま、そりゃそうだろうな……。この伯爵、隠し事が多すぎてこれじゃ仕事になるかどうかも怪しいもんだ……。
ウンウン唸ってるのが、仕事を断りそうな雰囲気にでも感じ取ったのか、ドリアン伯爵は青年らしい焦った態度を取り始めた。
「ですが……ですが、教えてくれた方が、あの方が嘘をつく筈がないのです! 彼女は確かに存在する! それだけは信じて下さい! そしてきっと今だって……!」
ここでヴァル、引っかかる。今だって……? つまり、それは今も生きている可能性があるということか?
「今だって、というのは、今もという事ですか? 一体それは……なぜ分かるんです?」
もし、仮にもしも、万が一にだってヴァルの予想が当たっているとしても……その踊り子の話自体、もう百年以上も昔の話だ。そんな彼女が……生きているなんてあり得ない。
やはり……彼の隠し恋人の踊り子の線が濃厚なのか……? もしそうなら、つまらない調査になりそうだと、ヴァルは若干落胆する。
「……実は、私へ踊り子の存在を教えてくれた御方宛てに届く書物は全て私が閲覧し、安全かつ、必要な物のみを、その方に届けるようにしています。そして……ある日その書物の中に、コレが」
ドリアン伯爵は懐から一通の封書を取り出した。ヴァルは身を乗り出して、彼からその封書を受け取る。
「……手紙、ですか」
伯爵は頷く。
本来ならば綺麗な真っ白な用紙だったんだろうその手紙は、くすみまくってヨレヨレの古いものになっていた。軽く数十年は前の物だろう。
念のため、無いと分かっていても裏表を確認するが……ま、差出人は無し。宛先住所も書かれていないことから恐らく直接郵便受け、又は屋敷に直接届けたか…。
なんにせよ、この封書の表にただ一言、書かれていた言葉が、ヴァルの予想は、憶測から確信へと変えてしまった。
「……”皇帝の娘を知る者へ”……」
……なんてこった。やはり、俺の勘は当たっていた!
この若い青年伯爵の探し求めている踊り子は、伝説の踊り子と言われた、百年以上前に存在した、皇帝の娘の事だったのだ!
彼女は逃げた
怖いからじゃない
逃げざるを得なかったの
どうして? どうして?
それを知るのは
真の心を知る者だけ
♪
「では……さっそく”探し物”の特徴をお教え頂けますか?」
ヴァルはドリアン伯爵を目の前の座席に座って頂いて、ノアにはブレンドコーヒーを用意させてから、依頼内容をメモするための電子ノートを取り出した。
「それが……」
彼は突然言いにくそうに、もごもごし始めた。
関係が言いづらいのか?それとも今の姿が変わっている可能性があるからとかだろうか?それとも……。
ヴァルが聞いたことのある話の伝説の踊り子であるとすれば……。ヴァルは少しトントンと、電子ノートのペンを軽く机に叩いてから、ひとまず聞いてみることにした。
「もし、お探しの物の見た目や特徴が変わっている可能性であっても、居なくなる前の姿などで充分に情報は……」
「……情報は一切、無いのです」
「はッ?」
驚いた声を上げたのはノアだった。キッチンから、その大きな背を屈めて顔を出している。
ヴァルはただじっと、静聴していた。自分の予想が当たっているとするなら……厄介案件に入る事間違いなしだからだった。
「何も無いのです。こればっかりは誠に申し訳ないのですが……。先程申し上げました通り、名前も分からなければ、居たであろう街の名前も、その容姿も存じ上げないのです」
ふむ、やはり、全てがゼロからスタートの捜査、となる。それは途方も無い事くらい、馬鹿なノア(馬鹿は余計ダ)でも分かることだが……。
ヴァルは、この仕事を非常に興味深げに感じ取っていた……が。
「待て待て待て! あんたの恋人とかじゃないのかよ!?」
コイツ……。ノアは我慢ならない様子でキッチンのカウンターから身を乗り出して話に入ってきた。別に話に割って入ってくるのは構わない。こいつもこんなでも俺の相棒だ。寧ろ聞いてくれるのは有難い事ではあるんだが……。
ヴァルは呆れ果てた様に顔を半分右手で覆って溜め息を吐くしかできない。本来、此処に訪れる客人に対し、”探し物”の内容は聞かないのが一応、うちでのルールだったんだが……どうにもこの馬鹿は(馬鹿じゃねえ!)聞かずにはいられない性分なようで……。
「いえ……、私自身、名もなき踊り子とは会ったことどころか、見たことすらもないのです。……ただ……ある人から存在を聞いたことがあるだけで……。彼女の踊りは、世界を揺るがす程の踊りであった、とだけ……」
信じらんねぇ。ノアは小さくそう呟きながら、驚きのあまりドリップしかけのコーヒーを放置してしまっている。……ノアの野郎、勿体ないことをする。ありゃ、濃い過ぎて飲めないな。
そんな呑気なことを考えながらヴァルは、伯爵の放った言葉の中から気になる言葉をスラスラとメモをしていく。
……ふーむ。この様子だと、容姿の特徴どころか……生死の確認さえ分からないという事か……。
「念のため聞いておきます。”探し物”の生死までは、把握しきれている状態ですか?」
すると、まあ、案の定黙りこくってしまうドリアン伯爵。……ま、そりゃそうだろうな……。この伯爵、隠し事が多すぎてこれじゃ仕事になるかどうかも怪しいもんだ……。
ウンウン唸ってるのが、仕事を断りそうな雰囲気にでも感じ取ったのか、ドリアン伯爵は青年らしい焦った態度を取り始めた。
「ですが……ですが、教えてくれた方が、あの方が嘘をつく筈がないのです! 彼女は確かに存在する! それだけは信じて下さい! そしてきっと今だって……!」
ここでヴァル、引っかかる。今だって……? つまり、それは今も生きている可能性があるということか?
「今だって、というのは、今もという事ですか? 一体それは……なぜ分かるんです?」
もし、仮にもしも、万が一にだってヴァルの予想が当たっているとしても……その踊り子の話自体、もう百年以上も昔の話だ。そんな彼女が……生きているなんてあり得ない。
やはり……彼の隠し恋人の踊り子の線が濃厚なのか……? もしそうなら、つまらない調査になりそうだと、ヴァルは若干落胆する。
「……実は、私へ踊り子の存在を教えてくれた御方宛てに届く書物は全て私が閲覧し、安全かつ、必要な物のみを、その方に届けるようにしています。そして……ある日その書物の中に、コレが」
ドリアン伯爵は懐から一通の封書を取り出した。ヴァルは身を乗り出して、彼からその封書を受け取る。
「……手紙、ですか」
伯爵は頷く。
本来ならば綺麗な真っ白な用紙だったんだろうその手紙は、くすみまくってヨレヨレの古いものになっていた。軽く数十年は前の物だろう。
念のため、無いと分かっていても裏表を確認するが……ま、差出人は無し。宛先住所も書かれていないことから恐らく直接郵便受け、又は屋敷に直接届けたか…。
なんにせよ、この封書の表にただ一言、書かれていた言葉が、ヴァルの予想は、憶測から確信へと変えてしまった。
「……”皇帝の娘を知る者へ”……」
……なんてこった。やはり、俺の勘は当たっていた!
この若い青年伯爵の探し求めている踊り子は、伝説の踊り子と言われた、百年以上前に存在した、皇帝の娘の事だったのだ!
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